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回収屋と便利屋

「クソっ!」

「ホウ、避スカ」


 二体の回収屋の攻撃を必死に回避する。途中で回収屋に向かって瓦礫を蹴り上げるが、回避することなく直接義体で受ける。その衝撃で回収屋の義体が破壊されるが、動きは止まらない。

 ――ああ、どれだけ時間が経過したのだろうか。丸一日経過したような疲労感。脳みそはパンク寸前で、視界はグラグラと揺れている。

 機械の破片が義体の外装を打つ。オイルの匂いが充満している。炎上しているロクヨウの工房が崩れていき、音がしていく。

 目の前にいる、まるでパニック映画のゾンビのような義体たち。全員が回収屋で、悪夢のような状況だ。


(クソ、実際はまだ十分も経過してねえぞ!)


 極限状態だからこそ、引き伸ばされているように感じているだけだ。それは分かっている。一瞬でも気を抜けば俺は倒れる。

 絶望的な状況だ。一人相手でも手こずる回収屋が十人以上。それも破壊してもなおせめて来る。

 だが――そんな状況でも十分も俺はまだなんとか戦える。命を保っている。それだけが希望だ。


「銃器ヲ使エナイノハ面倒デハアルナ」

「そうかい! なら捨てちまえばいいんじゃねえか!」


 ユーシャはすでに最初の方で回収した。ここで、俺が必死こいて回避している間に回収されてしまっては本末転倒だ。

 そして、ユーシャのを抱えているせいか、回収屋は銃器の使用を躊躇っている。生きたまま連れて来るのが条件なのだろう。

  ……だが、俺としてはユーシャを盾にしているような気がして非常に不快ではある。だが、この極限状態では無視する。敗北して誘拐されては元も子もない。


「はぁ……がぁ! どうしたぁ! まだ俺は生きてるぞ! ユーシャも残ってるぜ!」

「予想外ニ粘ッテイルナ。素晴ラシイゾ、便利屋」


 その声が、耳元で聞こえ、横っ飛びに回避。そこに、電磁ロッドが振り下ろされる。集中が切れかけていた。

 見た目以上に、この回収屋と存在と戦うのは厄介だ。


「ム、失敗シタカ。喋ル時ハドウニモ出ス位置ヲ失敗シテシマウナ。反省ダ」


 感情のこもっていない声。全てが統一された意識の元で動いている回収屋は、完璧な位置取りと意志の元に俺を追い詰めていく。

 本当に、厄介すぎる。全ての回収屋が本体で、全ての回収屋が同じ精度で動いてくる。

 真面目に対応をしたとしても、四肢を潰して物理的に行動不能にならなければ停止しない義体の集団を相手にするなどキリがない。だから、ユーシャを浚われないように抱えて必死に逃げ続けるしかない。


「逃ゲルノガ上手ダナ、便利屋」

「うるせえ! ゾンビ野郎なんざ真っ当に相手してられるかよ!」

「確カニソウダナ。哲学的ゾンビト掛ケテイルノカ?」

「そんな凝ったこと考えさせてえなら、見逃せよクソ!」


 軽口の応酬。だが、決して追撃は緩めない回収屋。

 恐らくユーシャを傷をつけないように立ち回りに気をつけているから俺も必死に逃げ回れる。本当に反則だな、コイツは。


「どうしたぁ!? その数で捕まえられねえなら、もっと義体を増やした方がいいんじゃねえか!?」

「生憎、今回ノ依頼ニ使ッテイル義体ハココニイル義体デ全テデナ。増ヤス事ハ出来ヌヨ。伝説デアルタメニハ、手段ハ選バナケレバナラナイ」

「はっ! ならもっと最初から増やすべきだったなぁ!」

「確カニ、ソノ通リダ」


 くそっ、余裕を見せやがって……!

 そんな回収屋に対する苛立ちにも似た感情。とはいえ、ここで増援がこないというのであれば信じたい。今でも手一杯だ。アイツの義体が破壊されていない完全な状態で襲い掛かられていれば俺は負けていた。


「もっと必死になったらどうだ! おい!」

「時間ノ問題ダカラナ。逃ゲ道ハナイダロウ?」


 その言葉通り出入り口に目を向ければ三体程の義体を待機させている。クソ、用意周到だ。リスクを取らずに確実に詰めてくる。

 まったくもって絶望的だ。油断もなにもない。これが回収屋。対象物は確実に回収してくるというサイボーグ。

 せめて時間を伸ばす。解決策を見つけるために。思いついたことを叫んでいく。


「嬲るような真似をしやがって……なんだ、それなら最初から全力でいけばいいだろ!」

「アア、手段ヲ選バナケレバ確カニ、ドウニデモナルダロウ。ダガ、ソレヲ続ケタ所デ回収屋ノ名前ハ残ルノカ? 俺ノ目指ス伝説足リエルノカ? 否、否ダ」


 無機質なはずの緑色の目から、熱を感じた。

 それは、義体を持つ人間の目だ。アンドロイドではない、サイボーグとしての目だ。

 話からして、すでに生体は寿命を迎え死に絶えているはずだ。いつからずっとあの状態なのかはわからない。だが、そこに宿る感情はアンドロイドにない怨念にも似た何かが宿っていた。


「全テヲ等価ニ。回収屋ハ、完璧デナケレバナラナイ。回収屋ハ、手本デナクテハナラナイ。回収屋ハ、無様デアッテハナラナイ。ソレガ俺ノ知ル回収屋ダ」

「ならっ! この状況は! 無様じゃねえってのか!?」

「アア、オ前ハソレニ足リエルダケノ力ヲ持ツ便利屋ニナッタ。故ニ、俺ノ間違イヲ認メ、秘密ヲ見セテオ前ノ相手ヲシテイル。強者ヲ相手ニ出シ惜シミヲスル方ガ、無様ダロウ?」


 ああ、クソ! 認められて誇らしい気持ちはないとは言わない。便利屋家業でも、その名が知れ渡っている回収屋から認められたのだ。それは誇りに思えることだ。

 だが、今じゃねえだろ。くそ、もっと素直に喜べるタイミングで言ってくれ!


「秘密なら隠してろ! 俺の前で出してんじゃねえよ!」

「ソウイウナ。コレヲ見タ奴ラハ相応ノ実力者ダケダ。オ前モ、ソノ一人ニナッタトイウコトダ」

「ああそうだなぁ! 相応の実力者全員が、お前を相手にどうしようもなかったんだろうなぁ!」

「ソウダナ。俺ニ敗北スル一人ガ増エルコトニナル」

「なってたまるかよ!」


 軽口も、この状況に必死になるからまるで文句を言うように激しい言葉になる。なにせ、そろそろ疲労が蓄積してきて限界が近いからだ。

 義体で動けば疲れ知らずかと言われればそうではない。人間の体よりは丈夫なのは当然だが、その分動きも負荷も激しくなっている。だからこそ、義体の限界を伝える疲労というバロメーターは生体から残され備え付けられている。

 負荷を完全に無視すれば最悪義体が金属疲労で破損したり、内部不順により機能停止する。唐突に行動不能になれば死ぬしかないと考えれば、安全のために疲労を感じる機能を残すのも当然だろう。

 その疲労が、もう限界が近いと言っているのだ。

 なら、失敗を視野に入れてでも行動をするしかない。


「――仕方ねえ」

「サテ、覚悟ハ決マッタカ?」

「ああ、この場を切り抜ける覚悟がなぁ!」


 そう答えてから、背を向けて俺は出入り口へと走る。

 当然ながら突破口はそこしかないと予想はしていたのだろう。出入り口を塞ぐように構えていた三人は俺に向かって電磁ロッドを振り下ろす。躱せないように死角を防ぐように放たれたそれを俺は。


「――ぎ、ぐぅおおおおおお!」

「ム」


 二つを回避。だが、正面からの一撃は回避できない。だから無理矢理、額で受ける。

 衝撃。まるで、体の中が爆発をしているかのようだ。目の前に火花が散っているかのような感覚。ああ、今にも意識を手放して楽になりたい

 だが、一発くらいなら耐えられる。脊髄や神経系に直接当たると話は別だが、頭部だけなら――


「うおおおおおおおおおおおおおおお!」

「ナニッ!?」


 俺の頭部は、ナノマシンの関係で特殊な保護素材で脳をガードしている。電流も、ダメージはあれど本来の効果を低減させる。違法な出力の電磁ロッドだろうと、動ける。これは予想外だろう。

 そして、俺は右足で殴っきた回収屋に膝蹴りを入れる。だが、ガチンという音がするだけで、胴体に刺さった膝のダメージはない。


「――驚イタガ、コレデ終ワリカ? 最後ノ足掻キハ――」

「んなわけねぇだろ!」


 起動。膝から発射されるのは――


「――マサカ!?」

「ぶっとべやぁあああああ!!!」


 リナに散々に言われて、ついに装備した小型の内蔵ミサイル。照準が苦手だろうが、銃器が不向きだろうが、このゼロ距離なら回避しようがない。

 下調べは十分にしているだろうし……俺のことは知っているだろう。だから、脳裏にあったはずだ。俺が銃器を使うわけはないと。

 その予想を裏切った一撃。それに、爆破地点からユーシャにダメージは行くことはない。まあ俺の足にはダメージはあろうだろうが――


「デカい花火になりやがれぇ!!」


 轟音。とてつもない爆発。想定されていない距離の爆発で、俺の右足の骨子パーツにヒビが入り、兵装も壊れ甚大なダメージが入る。終わった後にロクヨウに死ぬほど怒られるな。

 だが、動く。それに、完全な指向性をもった爆発と威力を食らった回収屋は完全に胴体から真っ二つになっていて、その破片と爆発の煽りを食らって残りの二人も態勢が崩されている。

 だから、そのままの勢いで走り抜ける。最悪、抜ければ壊れてもいいという覚悟で。


「――じゃあな! 回収屋! しばらくは顔もみたくねえぜ!」


 すべてつながっているなら衝撃も、甚大なダメージも共有するのだろう。一瞬全ての回収屋が行動停止している。

 そんなあいつらに捨て台詞を吐く。ここから逃げるならば、ロクヨウの工房に隠しているバイクがあったはずだ。

 そして、背後を振り向いていた俺はなにかに激突する。工房内に障害はない、一本道だったはずだ。落下した瓦礫か? と思い目線を前に戻し――



「――生憎ダッタナ。スグニ見ルコトニナッテ」



 そこに、無傷の回収屋が俺の前に立ち塞がっていた。

 一瞬、脳が空白になる。ああ、嘘だろうと神にいいたい気分になり、絞り出すように回収屋に言う。


「……おい、アレで全部じゃねえのか?」

「イッタロウ? ()()()()()()()()()()()ト。出入リ口ノ先ニイル義体モ、コノ工房ニ居タノデナ」

「詭弁じゃねえかよ……」

「追加ハシテイナイゾ? 最初カラコノ数ダ。ダガ、予想外ダゾ。完全ニ破壊サレルトハ思ッテモ居ナカッタ」


 ああ、クソ。そうだよな。アレだけの慎重さを持つ回収屋が全ての戦力を投入するか? そんなわけがない。絶対などこの世にないのだから。

 だから、最後に保険くらいはかけるに決まっている。


「ドウズ、オ前ハ一流ダト認メヨウ」

「……」


 名前を呼ばれる。ああ、それはつまり俺を心から認めていて……そして、終わりだと宣告しているのだ。

 何かないか? 手は? この状況を抜けるための手段は?

 ユーシャを守るためにどんな手がある? 考えろ。考えろ。


「気ニ病ム事ハナイ。オ前ガ相手ニシテイルノハ」


 回収屋が振りかぶる。電磁ロッド。もうこのダメージで受ければ気絶は間違いない。

 考えろ、考えろ――


「回収屋トイウ、伝説ナノダカラ」


 思考を回す。全てを探す。だが、俺はすべてを出し切った。

 だから、もう何もない――

 その電磁ロッドを振り下ろされ、俺は――


「――ホウ」


 回収屋の小さな声と共に、ピタリと目の前で停止する。

 慈悲か? トラブルか? 何事だと思い回収屋を見る。そこには――


『――間に、あったぁあああああ!』

「リナ……?」

『ごめんね! でも、ありがとう! おかげで間に合った!』


 リナが俺と回収屋の前に自分の体を投影していた。

 そういえば、リナはこの戦いでは存在を感じられなかったが……リナが、どうして回収屋を止められたんだ? 戦いのダメージで回らない頭で困惑する。


『回収屋さん、これでどう?』

「……ナルホド。ソノ為ノ時間稼ギダッタカ」


 低く笑う回収屋。

 小さく、してやられたなと呟く。


「報酬ガ払エナイナラ、確カニソレハ依頼デハナイナ」

『急進派の口座凍結。ロクヨウを医療ポッドに放り込んでから必死にさっきまで全力対応してたの。死ぬほど忙しかったし、ドウズのサポート出来なかったけど……でも、成功。もう急進派には払うお金なんて残ってないよ』


 笑みを見せるリナ。

 ――ああ、そうか。そうだ。回収屋は依頼を必ず達成する。それは変わることはない。受けた以来は達成するだろう。だが――


「報酬ノナイ、タダ働キナド仕事デハナク……回収屋ノ名前ヲ軽クスル行為デシカナイ」


 そうだ。報酬のない依頼は仕事ではない。ボランティアを受ける意義も何もない。だから名前に拘る回収屋は手を止めたのか。


「イイ相棒ダナ、便利屋」

「……ああ、自慢の相棒だよ」


 つまり……ああ、良かった。俺は……


「守りきれたのか……」


 崩れ落ちる。ユーシャを乱暴に落としてしまったが、許して欲しい。俺も限界寸前だ。


『お疲れ様ドウズ!! 早く休もう!? それ以上無理をしたらダメだからね!?』

「分かってるさ……」

「デハ、次ノ依頼ダ」


 ふと、そんな一言が聞こえてきて……

 俺の首筋に電磁ロッドが突き刺さる。


「があああっ!?」

『ドウズっ!? ドウズ!!』


 神経に電流が走り、身体が動かなくなる。

 倒れ、リナが叫びながら何かを操作する。だが、回収屋は意に介さない。まさか、ユーシャを狙ってるのはテンドウ社以外にも――


「ドウズ、オ前ハ忘レテイルヨ」

「な……に……?」


 抱え上げられ運ばれる。

 ……俺を、回収している? なぜ? どうして?


「「約束を果たそうじゃないか」。依頼主カラノ伝言ダ」


 そういって、俺は外に隠されてあった車の荷台に積まれて運ばれていく。

 待ち受けるのが何なのか、知る由もなく。

テンドウ社騒動編がもうちょっとで一段落して、魔王編に入ります

その時にちょっと投下ペースに余裕をもたせる予定です。アクセル全開なので付いてくるのは大変でしょうがもう少々お付き合いください

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