表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/44

子供と神父と廃棄地区と

「はぁ……クソ、本当にガキは元気だな……!」

「ははは、お疲れさまです」


 教会にある椅子に座って休憩していると、目の前にトッシュも座る。

 労っているが、俺のことを後ろでニヤニヤ笑って眺めていたのを知っているからな俺は。


「いやあ、助かりますよ。おかげで子供達を遊ばせることが出来ました。普段なら廃棄パーツ探しに行っていましたので」

「そりゃあ良かったなぁ。その分余裕があるならガキの相手をお前がすりゃいいと思うんだが?」

「いやあ、僕はそこまで遊んで上げれるほど体力はありませんから」

「廃棄地区住まいで何いってんだ。それに、ガキの面倒見てると神経すり減らすんだよ。俺の場合はよ」


 変に力を入れると怪我をさせるし、泣かれたらどうすればいいか分からんからな……

 ちなみに今は子供だけで遊んでいる。出来るなら最初からそうしてほしいのだが、中々開放してくれなかったからな。


「ドウズさんが帰ってからも、子供達は待ち望んでいましたからね。正直、来るとしても随分後になると思っていたので思った以上に早くて意外でしたよ」

「恩を受けっぱなしなのもな。あと、忙しくなりそうだから先に来たのもある」

「なるほど。しかし妬けますねぇ。人気者で」

「ガキなんてこういう全身義体は物珍しからな。だからだろ」

「多分、割と子供っぽいからだと思いますよ?」


 睨みつけると素知らぬ顔で何かを飲んで余裕そうな笑みを浮かべているトッシュ。クソ、そういう態度もムカつくんだよな。

 ……しかし、こういう時に俺は全身義体だから飲食ができない。こういう他人が飲食をしているときには手持ち無沙汰になるんだよな。

 話題も止まってしまったので、とりあえず思いついたことを聞いてみる。


「最近はどうだ? ここらの治安は悪くないか?」

「おや、心配してくださっているんですか?」

「あ? ……あー、そうことになるのか」

「ははは、本当に貴方はいい人ですねぇ」

「うるせえ、大して考えてなかった発言だから流せ」


 そこまで深い考えもないことを言ったのに、そう解釈されると気恥ずかしさがある。

 しかも、ここから何を言ってもやぶ蛇だ。目の前の胡散臭い神父の子供を見るような笑みは消えないから俺は黙るしかない。


「……治安ですか。まあ、最近は平和なものですよ。ああ、でも見覚えのない人が出入りはしてますね」

「見覚えのないやつ?」

「ええ。どうも仕事だということで廃棄地区へと足を運んでいるようです。来ている手段は正規ルートらしいんですが、ここらで見たこともない物も持ち込んでいましたね」

「……そりゃあ怪しいな」

「まあ、ドウズさんも冷静に見ると同じくらい怪しいんですが」

「やめろ。ちょっと傷つくだろ」


 ……しかし、廃棄地区に見慣れないやつか。

 そういえば、廃棄地区に魔王が居るんじゃないかという予想だったが……テンドウ社がそれに向けて動いているのか?

 ……いや、考えすぎだな。未確定の未来の話よりは、とりあえずは自分のことだ。最後の一人。そいつさえなんとか返り討ちにすればテンドウ社とのこの騒動も終わりになる。


「それで、どんな奴なんだ?」

「説明が難しいんですが……恐らく市街地区の住人ですが、独特な雰囲気がしていましたね。なんというんでしょうか、陰鬱というか、雰囲気の暗い方でしたね」

「……ほう?」


 市街地区から廃棄地区へやってきて陰鬱な雰囲気を漂わせている……


「普通に自殺志願者じゃねえか?」

「あはは、まあそう思いますよね。実は教会にも顔を出してまして。私が話をしたんですが、どうも人を探していたようです」

「……人探し?」

「ええ。聞かれた人の特徴を聞いたら最近やってきた新参者でしたね。見覚えはあったので教えましたよ。まあ、余計なトラブルは抱え込みたくありませんしあまり良き隣人ではなかったので」

「まあ、そりゃいいんだが……そりゃ怪しいな」


 廃棄地区へそんな風に出入りするのはハンターか、それか借金取りくらいだろう。

 しかし、ハンターというのは良くも悪くも陰鬱な奴は少ない。まあ変人は多いが、わざわざハンターになろうと思う奴らはどこかネジの外れたアッパーな奴らばかりだ。実際に出会ってみてその経験則は確信に変わった。


「んで、どんな奴なんだ? 見た目とか」

「ガスマスクをして黒いコートを着込んでいましたね」

「……ん?」


 聞き覚えがあるな。というか、それに該当する陰鬱な奴と言われると……


「ああ、彼ですね」


 そう言って教会の扉が開かれ、そこに見覚えのある顔が現れた。


「ム、便利屋カ?」

「回収屋か……」


 教会の扉を開いたのは、以前に俺のことを煽って去っていった回収屋の野郎だった。

 背後には、人間を引きずっている。白目を向いて泡を吹いているが、どうやら生きているらしい。呼吸をしているのが分かる。それが探し人か。


「久々ダナ」

「ああ、手前のせいであの変態殺し屋に絡まれてるから面倒なことになったぞ」

「コチラモ、オ前ノ相棒カラ迷惑メールガ止マラズ迷惑シタゾ」


 ……リナ、ちゃんとクレームメール送ってたのか。

 ちょっとだけ申し訳なく思いながら、教会に踏み込まずに扉の前で話をしている回収屋にとりあえず言う。


「おい、そこにいると邪魔だろ。中に入るかしとけ」

「生憎、俺ハ神ノ身元トハ相性ガ悪クテナ。礼ヲ言イニ来タダケダ」

「礼?」

「神父ヨ。情報提供感謝スル。オ陰デ俺ノ仕事ハスムーズニ終ワッタ。コレハ礼ダ」


 そういって、何かを投げてトッシュがそれを受け取る。

 見れば小さい袋。トッシュが中を開けると、幾らかのクレジット。とはいえ、決して安い金額ではない。


「お布施感謝します」

「端金ダ」


 思ったよりも律儀なやつだ。廃棄地区の人間は協力して当然だという奴もいれば、人間じゃないのだから害獣と同じ扱いでいいだろうというやつまで居る。

 それも襲撃事件で多少は軟化……というよりも、面倒になるから表向きの差別は収まったとはいえ未だに根強い差別意識は残っているのだが回収屋は違うようだ。


「意外だな。回収屋がそういう律儀なことをしてるなんて」

「フッ、オ前ニハ言ワレタクナイナ」

「……ちげえねえな」


 そう言われれば否定はできず、思わず苦笑してしまう。それに釣られてか、回収屋も低い声で笑う。

 場の空気が和らいで、気になったことを聞いてみる。


「しかし、そいつは何だ? 廃棄地区に逃げるなんてどんなヘマをしたんだよ」

「説明義務ハナイ……ガ、別ニイイダロウ。タチノ悪イ詐欺師ダ。騙サレタ奴ラニ頼マレテ連レテ行ク所ダ」

「……なんだ、思ったよりもしょぼい仕事だな」

「仕事ニ立派モ何モナイ。全テ等価デ、俺ハタダ回収スルマデダ」

「そうか、しょっぱいとか言って悪かった」

「別ニ構ワナイ」


 回収屋の仕事哲学というやつか……回収屋というのは、名前も不明。広義では便利屋なのだが、回収することだけを専門にしていることからそう呼ばれるようになった。かなり昔から居たらしく、襲名性なのではないかとも言われている。

 依頼料は回収物次第。相場の基準が不明で、異様に安いときもあれば目が飛び出るような価格なときもある。だが、ただ一つだけ変わらないことがある。一度受けた依頼は必ず達成し回収する。それだけは絶対の事実だ。

 そんな奴と、こうして気安く会話をしているのは……不思議な気分だな。一応はこの仕事では俺の先輩でもあるからな。


「仕事ガ立テ込ンデイテナ。次ノ仕事ノ準備モアル」

「そうか。呼び止めて悪かったな」

「構ワナイ。デハ、マタ会ウ時ニ」

「ああ、その時はお前のガスマスク叩き割って顔を拝んでやるよ」


 その言葉に鼻で笑って引きずり去っていく。

 ……クソ、やっぱりマジでムカつくなあの野郎。


「……ドウズさん、なんか面白いですねぇ。彼を相手にしてるとなんか子供になってますよ?」

「子供ぉ? ……俺がか?」

「ええ。なんか、出来の良い兄に反抗する不良な弟みたいな感じで」

「誰が出来が悪い弟だ」

「おや、そこまで僕は言ってないんですけどね?」

「そういう文脈だったろうが!」

「いい反応しますねぇ。ドウズさん」


 くそ、トッシュみたいな性根の腐った嫌味タイプと相性が悪い。言葉の端々に、ちょっとした毒を仕込んでくる奴についつい反応してしまう。ニヤニヤとした笑みに一発殴ってやろうかと思う。


「ははは。あ、失礼。ちょっとお茶のおかわりに」


 と、不自然に立ち上がり奥に行く。俺からなにか言われないように逃げたのか……


「ドウズー! 見てみてー!」

「ボクの武器ー!」

「勝負しろー!」

「だぁ! なんだガキ共! その汚え廃パーツ捨てろ! てか泥だらけじゃねえか! それで俺の身体に傷をつけんなよ!?」


 いきなり、手頃なサイズの廃パーツ……と言う名の廃材を振り回すガキ共に強襲される。

 クソ、コレを予期して逃げやがったなあの野郎!

 そうして、必死に俺は体を守りながら……


「……ん? マクアはどこだ?」


 俺を見つけた小さな少女の姿がないことに気づいた。


「あれ? ホントだ」

「一緒に来てたのに」


 ガキ共も一緒に首を傾げる。

 ……なんか嫌な予感がするな。そう思って、ガキ共にちょっと待ってろといい、俺は外に飛び出した。



「よう、爺さん。教会の子供を知らねえか? このくらいの女の子なんだが」

「……」


 外に出てから、俺は聞き込みを繰り返していた。

 まあ、聞いても俺を警戒して中々情報を出してくれない。まあ、仲間意識が強いと好意的に解釈すればいいことなんだが。

 何かのパーツを作っている爺さんに聞いてみるが、ガン無視される。


「なんでもいいんだが……」

「……」

「ちょっとくらいなら礼も出来るぞ?」

「……」

「……あー、悪かったな。邪魔した」


 そうして、去ろうとしたらいきなり喋り始める。


「アンタ、最近教会で見たな」

「ん? ああ、ちと助けられてな」

「見つけてどうするつもりだ?」

「……いや、どうもこうも見当たらねえから心配して探してんだが」

「……ふむ」


 そういって、手を止めてこっちを見る。皺の深い顔は、義体持ちには見れない歴史の深さを感じさせる。


「……あの子なら、廃材捨て場だろう」

「本当か?」

「ああ。ワシにたまに聞きに来るからな。こういうものを作れないかと」


 そういうと、孫を見るような目になる。


「偏屈な寂しい爺に声をかける女の子だ。困っていたら力になってくれ」

「いや、爺さんがしろよ」

「ふ、ここで生き恥をさらして死にかけている爺に何が出来るかね?」


 ……あー、クソ。そう言われたら否定できねえし弱いんだよ。俺は。


「……分かった分かった。助けるよ」

「ああ」

「助かった。じゃあな」

「……待て」


 そして呼び止められ、他にもなにかあるのかと思い視線を向け……


「礼をするのだろう?」

「……ほらよ」

「毎度」


 小銭を投げると、受け取り一言そう言って作業に戻る。……まあ、こんな場所に生きてる爺さんなんてそういう感じだよな。



 爺さんから聞いた廃パーツの廃棄場。そこにやってくると、山のようになった廃パーツの中で、何かを探しているマクアがいた。


「マクア、何してんだ」


 俺の声に振り向いて……ちょっとだけ怯えたような顔をする。


「……」

「パーツ探してたのか?」

「……うん」

「そりゃいい。俺も昔はよく探してたからな。だが、ちゃんと誰かに言えよ? じゃないと死ぬぞ」

「……」


 死ぬ。という言葉にちょっと怯んだような気配がする。

 懐かしい話をする。マクアという少女には経緯はどうあれ、俺は救われたらしい。ならば、その程度には気にかけてやりたい。


「まだお前みたいなガキだった頃も、ここみたいな企業が出したゴミを捨てる廃棄場があってな。そこで俺も売れる廃材集めをしてたんだよ。まあ、でも崩れて死にかけて、ああもうダメだって思ったら幼馴染が助けてくれてな。あれ以来頭が下がらねえ」

「……幼馴染?」

「ああ。すげえぞ? 身体が弱くて義体化できねえからいつも家に居たのに、俺が帰ってこねえからでわざわざ探しに来てな。まあ、その後思いっきり体調を崩して死にかけて俺も必死に看病を……」


 そうやって、マクアに話をする。俺の懐かしい話を。

 ここに住むガキは、明日も知れぬ命だ。市街地区と違って危険が多く、義体化手術も正式なものではないからエラーの起きる可能性を常に持っている。

 だから、俺は怒らない。必死に生きるガキのしたいことを否定するつもりはない。だが、それでも経験からこうして笑い話混じりで忠告くらいは出来る。


「――んで、最終的にその幼馴染は俺に思いっきりビンタをしてな。まさか義体パーツがデカい偽装胸だとは思わなくて完全な嫌味に……」

「……ふふっ」


 と、マクアが笑った。俺が来てから、死にそうなくらいに沈んだ顔をしてたから笑えるならいい。


「ま、誰かにこういう所に来るときにはちゃんと言えよ? トッシュでもいい。誰も見てない所で死ぬのは悲しいからな」

「……なら、ドウズ」

「……俺?」

「ドウズに言う」


 そう言われて、本気で困った顔になる。

 ……俺、廃棄地区にいねえんだけど。


「いや、俺はここに住んでねえからな……? 内緒なら、あの爺さんにしとけ」

「…………」

「まあ、理由は聞かねえ。誰だって内緒なことや秘密はあるからな。だから、俺が居る時に言えば手伝ってやる。それでいいか?」

「……うん」


 どうやら良かったようだ。

 そこでトッシュと他の子供がやってくる。どうやら俺を追いかけてきたらしい。


「はぁ、探しましたよ。マクアを探してくれたんですね?」

「気になって探してただけだ。迷子になってたみたいでな。……あんまり怒ってやるなよ?」

「まあ、育ててる身としてはお説教はしますよ? まあ、ドウズさんに免じて程々にしておきますが」

「ああ、じゃあ俺はそろそろ帰る」


 そういうトッシュに伝えると、前と同じように他のガキからえー! という不満の声が上がる。

 また来るという口約束をしながら、予想外に俺のコートをしっかりと掴んで離さないマクアを必死になだめて開放される。


「本当に来るからな! 今は忙しいんだ! な?」

「…………」

「はは、ここまで慕われてると妬けますねぇ」


 他人事だから笑ってみているトッシュを睨む。

 マクアとしては最初に拾ったから、自分の成果だとかそういう意識もあったんだろう。それで俺が気にかけまくったから懐かれたのだろう。


「俺はたまに顔を出していい面しか見せてねえからな。常に一緒に居て慕われてるお前のほうがすげえと思うぞ」

「……おお、すごい。褒められましたね」

「そうだ。だからそういう反応せずに素直に喜べこの野郎」

「はは。ありがとうございます。それではドウズさん、また来てください」


 予想外に素直な、また来てほしいという言葉。

 意外に思いながらも、悪い気はしていなかった。


「……おう、待たな」


 そういって、トッシュ達と別れて廃棄地区を後にする。

 ロクヨウの所で待っているユーシャを迎えに行く事を考えながら、また廃棄地区に来れそうなタイミングを考えている自分に気づいて思わず苦笑するのだった。

誤字報告ありがとうございます。

とても助かっていて、それと同時に本当に一段落したら見返ししたいな……と思いつつ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ