そしてまた、廃棄地区へ
朝8時更新に固定しました
年末が近いせいで思ったより生活バランスが……バランスが崩れている……
廃棄地区と市街地区の中間地点であるバザーに踏み込んでさらに奥へ行く。
進もうとすると、中央関係のアンドロイドに呼び止められてIDを提示する。
「ん? 確認が居るのか?」
「はい。特に許可などがない場合にはチェックでお時間をいただきます」
どうやら俺が前にサムライにハメられて廃棄地区に踏み込んだ時に止められなかったのは、ハンター特権でサムライから俺を通すように言われていたからのようだ。やはりハンター特権っていうのは便利だな。
出る時だけでなく、入る時にもログを取られるらしい。やけに長いチェックの間、受付をしているアンドロイドと雑談をする。
「随分と厳重なんだな。逆のときは思ったよりも時間はかからなかったんだが。」
「ええ。過去に何度か違法物の持ち込みや取引などがありましたので。廃棄地区に持ち込む物品は限定しております。とはいえ、中に入る場合が一番厳重です」
「そうなのか?」
「ええ。逆に廃棄地区から市街地区へ持ち込まれる場合にはチェックは簡素なものとなります。過去にも、市街地区や中央で入手出来るもの以上に危険なことはないというデータがありますので」
「ああ、原理教襲撃事件もそういや持ち込まれた兵装が使われたんだったな」
昔の記憶を思い出すが、確か当時廃棄地区からやってきた暴徒の装備はメーカー製の兵装の型落ち品を使っていたな。
やはりああいうのは物量が一番怖い。特に、義体持ちが少ないからネットワーク遮断などの手段で義体持ち程上手く動けずに相当に苦労した記憶が蘇る。
「はい。あの後も廃棄地区からのゲートを越えようとした暴走などは確認されていますが……彼らの作った武具ではゲートに傷すら付けられませんでした」
「なるほどな……それで俺は通れるのか? 食料とか、ちょっとした工具とか資材くらいだが、思ったより時間がかかってると思ってな」
その言葉に、緑色の目が揺らいでいる。確認をとっているらしい。
「――はい。確認をしましたが、問題はありませんでした。貴方も全身義体の専用パーツを組み込んでいるタイプですので持ち込みは許可されます。汎用性が高く、廃棄地区に持ち込まれて悪用されるビジョンがなければ持ち込みは許されています。どうやら、過去のデータの照合で時間がかかっていたようです。もしも特別に持ち込みたいものがあれば、中央窓口までご依頼をどうぞ」
「おう……ん? 中央の窓口に頼めば持ち込めるのか?」
「はい。許可さえ降りれば持ち込めます。審査には時間はかかりますが」
「なるほど、ありがとうな」
「いえ、それではお気をつけて。」
なるほど、大体は理解した。礼を言ってからバザーを抜けて廃棄地区にへと踏み込んでいく。
……この廃棄地区への持ち込みも中央によって管理されているのか。相当に利権だのが関わってるな。まあ、中央の誰かに理があるなら持ち込みは見逃されると言ったところか。
例の磁場異常地帯でゴロツキ共がテンドウ社と繋がっていたのも、中央の口利きか……あー、それを考えると俺に来たあの依頼も生臭い話になってきそうだな。中央の利権争いの一環かもしれねえ。子飼いにできれば最上だが、どこの所属でもないフリーで実績のある便利屋だったからこそ依頼が来たのか。
「……リナ、どう思う? 俺たちに来たユーシャを保護したときの依頼」
『んー? ああ、さっきの持ち込みの話? まあ中央の利権争いで間違いないと思うよー。そりゃ何も言わないよねぇ。変に関わって色々掴まれたくないもん』
通信しても問題ないかとリナに声をかければ反応してくれる。
とはいえ、ネットワークの弱い廃棄地区だから声だけだ。これでも相当無理をしているらしい。
「まあ、そうだよなぁ。しかし……テンドウ社は中央に口利きしてたのか。バレたら不味いことをしてたのになぁ」
『まあ、だって異世界の物資の保護だなんて思ってもないでしょ? というか想像なんて出来ないよ。多分口利きをしてたのも、テンドウ社が廃棄地区の廃パーツを集めて混ぜものをしてるとか、金属含有量を誤魔化してるとかそういうのだと判断してたと思うよ?』
「確かに。俺だって自分が当事者じゃなけりゃ信じねえわな」
『中央がこの件を知ったら……んー、どうなるかなぁ。AIセラフの性格はどうだっけ?』
「前期AIのケルビムが相当に緩かったからなぁ。セラフはそこそこに厳格だったはずだ」
まあ、そこまで関わることはないのだが中央のAIは性格がある。これは確かAIが変わる際に性格を設定してデータを取り、さらにより良い統治に向けての統計を取っていくとかなんとか。まあ俺たちみたいな人間には想像もつかない理由があるようだ。
ちなみに、セラフになる前はかなり緩い統治だった。確かその反動で、今回は相当に厳格にしているはずだ。中央に呼び出されると、殆ど帰ってこれず、拒否をするために払う違法金も莫大になっている。
『ああ、ならダメだねー。えーっと……罪状的には中央が管理すべき資材の隠匿に、企業開示法の違反。諸々を含めると相当な重罪だね。だからテンドウ社は一旦解体されて現状のトップは全員資材を没収された上で市民権を奪われて追放刑とかじゃない? それで、AI再編の上でテンドウ社は中央直轄管理になると』
「そこまでか。かなりエゲツないな」
『まあ、テンドウ社は前のAI管理の間に中央で何人かとズブズブになってるみたいだし、それを含めて裁かれると思うからそうなっちゃうかなーって感じ。物資は有限だし、AI管理は相当にバランスで気を使ってるから緩いAIでも相当に罰則キツイもん』
「なるほど。そう考えると必死にもなるか」
『ちなみに厳格なAIだったら、私達も猶予期間過ぎて隠匿の罪に問われるからねー?』
「うげっ……そうか。そうなるのか……」
時間稼ぎは根回しを含めてそれか……時間を稼いだことで、俺たちが中央に密告できないとなった。だからこそ、派閥で対応を考えれる程度に落ち着いたのか。
その中で、それでも俺たちを潰して異世界の物資を奪えばいいという急進派。俺たちがバカなことをしないなら放置すればいいという穏健派に分かれて争っているわけだ。
(まあ、俺たちが罪に問われても生活の制限だの、中央管理地で労働刑だろうからな。面倒だが死ぬわけじゃねえし、テンドウ社の被害を考えるなら急進派みたいに消したいというのも分かるか。)
『あ、そろそろ範囲外。一応データログだけは追ってるから、いざという時は緊急連絡してね?』
「おう。じゃあリナ、助かった。ありがとうな」
『あはは、いいよ~。じゃあいってらっしゃーい』
そう言って通信が切れる。さて、教会に行くが……手に持った荷物に視線を落とす。
……手土産はこれで満足してもらえるかね?
「すごーい! かっけーー!」
「ロボだロボ! ビーム出せる!?」
「ドウズー! ここいたい!」
「だーーーー! 乗るんじゃねえガキ共! 危ねえからやめろ! 大人しくしねえと土産は無しだぞ!」
そういうと、全員が慌てて整列して期待をした目で俺を見てくる。
と、見守っていたトッシュが相変わらず胡散臭い顔で笑みを浮かべている。
「いやはや、まさか本当に来てくれるとは。お土産まで」
「相変わらずうさんくせえ面してるな、トッシュ」
「そんなことはないですよ? ねえ、皆」
そういうと、胡散臭くはないよーだの、トッシュはかっこいいと思うだの口々に言う。……いい教育してんな、コイツ。
「しかし立派な装備ですねぇ。それが本来の姿ですか?」
「ああ。まあこれでもそこそこ名の売れた便利屋だからな。ほれ、それは食ってもいいぞ。他にも、調理器具だの保存容器だのを持ってきた」
そう言って渡す。中を見て、トッシュは驚きの表情を浮かべた。
「……これは、何の肉でしょうか?」
「ネズミ肉だが、イヤか? 冷凍はしてるから保存は効くが」
「いえ、むしろ驚いています。ここまで高級な食材を貰えるとは……ネズミって取り合いになりますし、たまに食い殺されるから本当に命がけで取るような物ですので」
……あー、そうか。ネズミって意外と凶暴なおまけに慣れていないと群れに襲われて餌になるんだよな。
そう考えれば、安全に食えて味もいいらしいネズミ肉はご馳走というわけか。
「てか、普段は廃棄地区だと何を食ってるんだ?」
「まあ、購入した合成食料が一般的ですかねぇ……あと、たまに虫が発生した場合には、それを捕獲して調理をしたり」
「虫か……合成食料は、もしかして流動食タイプか?」
「そうですよ? 固形食タイプは割高ですからね。だから流動食タイプを固めて食べてます」
「あれ固めて食べれるのか……」
「むしろあのまま食べてる人はいませんよ?」
食料メーカーの主な販売先は生体の多い廃棄地区の人間だ。意外と金になるおまけに、中央からも色々と補助をされるのだとか。ちなみに、販売している中でも流動食タイプは本当に安い。見た目は最悪だが。
……固めるのは生活の知恵か。まあそのままだと汚物にしか見えねえからな、流動食タイプ。
「ですから本当に助かります。皆、ネズミ肉ですから、しばらくは一週間に一度食べれますよ」
「うそぉ!?」
「ヤッターーーー!」
「ドウズ大好きー!」
「おおう、現金だな……いやまあ、喜んでくれて何よりだが」
思った以上に狂喜乱舞して抱きついてくるガキ共……マクアまで嬉しそうに俺に抱きついてる。そんなに嬉しいのか。
ユーシャに無理を言って分けてもらったかいがあった。ちなみに頼んだ時に、本気で泣きそうになっていた。
「廃棄パーツを集めて金属を売ったりだと、食事の準備も大変ですからね。こうして調理器具や保存機器もあると随分違います。本当にありがとうございます、ドウズさん」
「そこまで感謝されると、この程度でそこまで感謝されていいのか不安になるな……」
「それだけの価値はありますよ。それで、この後の予定は?」
「渡したから帰ろうかと思ったが……」
周囲に視線を向ける。
遊んでくれるよね? とでもいいたげな子供達に、マクアも俺のコートの裾を掴んで見ている。
「……まあ、時間はある。暗くなる前に帰るからな」
その言葉に、まあそうですよねといいたげな笑みを浮かべたトッシュ。
……胡散臭いやつに見通されたような表情をされるとムカつくなと思うのだった




