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いつもの場所で今後の話

「……なるほど、だからドウズがずっとユーシャちゃんにあんな反応をされてる」

「いや、本当にどうすりゃいいんだよ……」


 さて、オーガにしてやられた一件から数日後。俺はロクヨウの工房で頼んでいた装備が届き、義体にセッティングしていた。この情けない貧相な義体姿ともおさらばだ。

 だが、そんな嬉しい状況だと言うのにそれどころではない状態に俺はかなり参っている。というのも……


「俺と一緒にいると、目に見えて気まずそうにするしよぉ……」

「まあ、お世話になってる人が知らない美人にキスされて喜んでるのを見たら複雑。私も現場を見ていたら……んー、ドウズなら笑う」

「笑ってんじゃねえか。くそ、ありゃオーガの仕業だって言ってんのによ……くそう……」

「そういわれても、理解は出来ても納得とは別物。それで、どう?」

「ん? ああ、違和感はなしだ。はぁ……食い物で釣るにしてもそこまでの余裕はねえんだよな。どうすりゃいいんだ」

「……食べ物で釣れば何とかなると考えているドウズはどうかと思う」


 ロクヨウに愚痴を言いながら、体の動きを確認する。さっきの発言でロクヨウが俺に対してジト目になった。……わからねぇ。ダメなのか。

 何があったのかといえば、オーがのキスからユーシャが俺に対してなんとも言いがたい距離感を感じるようになったことだ。

 特訓にも付き合ってくれるし、会話もしてくれんだが……なんか壁を感じるんだよな……


「ユーシャに何をしたらいいのかわかんねえんだよ」

「……なんだか、思春期の妹を持った兄みたい」

「あー、兄妹はいねえけどそんな気分だな。全身義体になってから妹を持つ気分を味わえるだなんて思ってもなかったけどな」

「確かに、誰もそんな想像は出来ない。それで、兵装の調子はどう?」

「ん? ああ、悪くない。さすがのロクヨウだ。なんだ、今までよりも動きやすい気もするな」

「折角だからドウズに向けて全兵装を調整した。前に全身をフルチェックして細かいデータも取れてるから、仕立て上げた服みたいにピッタリなはず」

「なるほど。言われてみりゃ確かにそんな感じだな。でもいいのか? 中々そんな調整をするのは骨が折れるだろ?」

「ふふふ、ユーシャちゃんのアルバイトで活力を貰って力を入れた。とても充実しているから大丈夫」


 そう言ってうっとりとするロクヨウ。……大丈夫だよな? コイツにユーシャのことを任せても。いきなり不安になってきた。

 と、そこで奥の倉庫から荷物の山が歩いてきた。誰かと思えば、山のような荷物を抱えたユーシャだ。


「ロクヨウさん、これはどうすればいいの?」

「ん、それは工房の前の廃棄所に出して。分類してパーツを捨てるのを忘れずに」

「うん、それじゃあ持っていくね……あ、ドウズ……」

「おう、ユーシャ。頑張ってるな」

「う、うん……」

「すげえなその荷物の量。頼りにされてるだろ?」

「お、お仕事だから……頑張らないと。じゃ、じゃあね!」


 そういって走っていく。いや、お前の抱えてる荷物は義体で持つようなレベルの重量なんだが……

 廃棄パーツや、使い古しの兵装の山を抱えて部屋を出ていったユーシャを見送ってから口を開く。


「……って感じでな。なんか距離を感じるんだよ」

「……さっきのはドウズが悪い。というか、仕事をしてる時にああいう声をかけられると照れるもの」

「そういうもんか?」

「私もパ……父さんにされたから分かる。ああいうのを親しい家族に見られるのは地獄」

「なら、嫌われてるってわけじゃねえのか」

「それはないと思う。だってドウズの話を……」

「ロクヨウさん、それは言っちゃだめ!」


 そう言って何かを投げられ……ってアブねぇ!? 慌ててロクヨウにぶつかる前にキャッチする。

 投げたのは……まあ比較的軽いが、普通に重量のある兵装だ。アイツ、ノリで投げたな。当たったら生体のロクヨウはただじゃ済まないぞ。


「危ねえだろ! あたったら怪我じゃすまねえぞ!」

「ご、ごめんなさい!」

「……べ、別に……いい……大丈夫。仕事に戻って」

「は、はい!」


 そう言ってユーシャは慌てて仕事に戻る。

 ロクヨウは大丈夫だと言ったが、明らかに手が震えて顔が真っ青だ。まあ、いきなり大怪我するかという瞬間だったもんな。


「ロクヨウ、大丈夫じゃねえだろ。ほら、震えてねえで落ち着け。なんか飲むか?」

「……こ、コーヒーを」


 その言葉に俺は工房の台所へ行く。昔と変わらないな、この場所も。虫スナックの山から視線をそらして、設置しているケトルを沸かしてコーヒーを淹れる。懐かしいな。この家では何度も淹れたものだ。

 俺が義体になってから、しばらくはここで世話になった。最初はコーヒーが不味いと言われたのだが、出ていく頃には手慣れたもんになってたなぁ……こうして、昔と変わらないことをしていると、なんともいえない気分になる。


「ロクヨウ、ほれ淹れたぞ。熱いから、落ち着いて飲めよ」

「ん、分かった……ふぅ、ふぅ……ずず……はぁ、落ち着いた。懐かしい味。流石にいきなりで心臓が止まりそうだった」

「まあ、ユーシャも力加減ミスったから許してやってくれ。コーヒーが不味くなくてよかったよ」

「うん。ありがとう、ドウズ」


 そう言って、優しく微笑む。……ああ、ロクヨウの笑顔を見たのも久々だな。最近は怒らせることも多かったからなぁ。


「それで……えっと……何の話をしてた?」

「記憶飛んだのか……ほら、ユーシャの話だよ」


 意外とビビリだよなコイツ。最初のリナの手術のときも死ぬほど緊張してたし。

 基本無表情な割に分かりやすいのは面白い。


「ユーシャちゃんの……あ、そういえば思い出した。この前に言ってた検査をした」

「……検査?」

「……忘れたの? ユーシャちゃんの非殺傷兵器の耐用実験」

「あー、そうだ。頼んでたな」


 最近ユーシャから距離を感じることにショックで抜けていた。そうだそうだ。ユーシャがどの程度耐えれるのか。それを調べる話を頼んでいたんだ。


「最初聞いた時に、一度本気で病院を紹介しようと思った」

「いやまあ、気持ちはわかるんだが……こっちにも事情があるんだよ」

「ユーシャちゃんが自分で望んでいたから、私も許可をしたけど……本来ならこういうことをすることはない。パパの使っていた実験場だって、本当に数年ぶりに開けた」

「あったなぁ……あの処刑部屋。悪いな、嫌なことをやらせて」

「本当にそう。あと、実験場だから」

「あ、イヤ悪かった。実験場だよな……」


 強く訂正されて、謝罪する。とはいえ、第三者視点から見ればアレは処刑場だろう。俺の義体のベースになったナノマシンの実験と研究ために作った部屋らしいが、相当な数の義体者に不幸な事故が起きたと聞いている。

 ロクヨウに工房の主が変わってから、どうしているか聞いていなかったが……悪いことをしたな。


「すまん。わざわざ使ってない部屋を開けさせて」

「別にいい。それで実験の結果だけど……あの子は何?」


 そう言って送ってきたリストを確認をしてみると……うお、すごい量だな。大抵の一般的な非殺傷兵器は試しているようだ。

 その半分以上に効果なしと書いてある。


「ユーシャは……まあ、ユーシャだ。事情持ちだな。しかし、こんなに効果なかったのか?」

「うん。薬物系の兵器に対しての異常なまでの抵抗力があったから、それ系統の流通してる兵器はほとんど効いてない。フラッシュバンのスタングレネードも本人の反射で対応してた。化け物」

「……そりゃすげえな。やっぱりこの大気で生きられるのもあるし、俺に勝てるからな。ユーシャ。ただ、この二重丸はなんだ?」

「それは効果が通常以上だったもの。過剰酸素ガス、二酸化炭素ガスは通常以上の速度で昏倒した。電流系も流石に受けると気絶していたのと……予想外だったのは精神刺激ガス」

「……精神刺激ガス? ありゃむしろ味方に使うためのガスだろ。結構クリーンなガスじゃなかったか?」

「アレルギーとかあるからチェックをしたけど……一瞬で酔いが回って昏倒した。多分、体内の処理能力が飛び抜けている。だから本来想定されてない速度で吸収されて、毒物ならば処理されるけど毒と認識されない物質が過剰に反応してしまうのだと思う。高揚ガスは血圧が上がるから多分、それ」

「なるほどな……本人はなんて言ってた?」

「気絶から覚めて、何がなんだか分からなかったと言ってた」


 そりゃそうだ。進化した非殺傷兵器のガスは効果が高い。義体にはガスへの対策してるやつも多いから、そういう奴らにもある程度は効くように調整されているからな。

 しかし、こうなるとユーシャを狙われるのは不味いな。二酸化炭素ガスのような、人間の身体の仕様を突いた兵器は厄介だ。吸えば昏倒してしまうし、義体でも呼吸系をいじっていなければどうしようもないほどに効果が高い。多少値は張るが、テンドウ社にユーシャが義体持ちじゃないとバレているなら、間違いなく使ってくるだろうな。


「それで、どうしてこんなチェックを?」

「ユーシャがテンドウ社に狙われそうでな。その対策を考えてるんだが……ガスマスク、効果あると思うか?」

「無理。二酸化炭素ガスも過剰酸素ガスも濾過装置が効かないから使われている」

「だよなぁ。なら、やっぱり警戒するしかねえか」


 ユーシャも納得してもらうしかねえか。と、そこで戻ってくる。

 とても申し訳無さそうな顔をしているユーシャ。


「……えっと、ちゃんと置いたけど……その、ごめんね。ロクヨウさん……私……」

「別にいい。ドウズにお礼を。ちゃんとキャッチしてくれた」


 ロクヨウはパスをするようにそういう。……気を回したのか? ユーシャはその言葉に俺を見る。あが、しかし、なんというか……恥ずかしがってるな。

 照れて視線をそらしながら、顔を赤くして言葉に詰まっている。


「うぅ……そ、その……」

「……」

「え、えっと、あの……」

「頑張れー」


 うるせえぞロクヨウ。


「あ……あ、あり……がとう……ど、ドウズ……」

「……長かったなぁ。まあいいさ。ちょっとした失敗くらい誰にでもあるもんだ。まあ怪我もなくてよかった」


 そう言って立ち上がり、ユーシャの頭を撫でる。恥ずかしそうにしているが抵抗はせずに受け入れた。

 ……逃げられなくてちょっとばかし嬉しいな。そのまま撫でられるユーシャ。


「……えっとね、その……今まで避けててごめんなさい……怒ってないし、もうキスされてたのは良かったんだけど……なんだか、タイミングがわからなくて」

「そうなのか……いいさ。嫌われてないならそれで問題ないからよ」


 内心、とてつもなくホッとしている。なんだろうな、本当に妹みたいな感じだ。


『へー、いいなぁ。なでてもらってさぁ~。ねえ、ドウズー? 私はなにかないの~?』

「うおっ!? いきなりだなリナ」

『それで何かないの? ねえねえ~』

「何かないって……お前は俺の半身みたいなもんだからな。いつだって感謝してるぞ」

『……へ、へぇ! そうなんだ! へー、へー! お世辞でも嬉しいなーーーー!』

「いや、本心だが……喜びすぎだろ」


 やってきて開口一番そんな事を言うリナに向けて返事をしたら、ものすごい笑顔を浮かべている。

 喜んでいるならいいんだが……そういや、リナのやつ……ユーシャに冷たくされてショックを受けてる俺を見て楽しんでたのを思い出す……どっかで仕返しがしたいところだ。


「リナ、いらっしゃい。遅かったね」

『あ、ロクヨウ。こんにちわー! いやねー、ちょっと別件で準備をしてたからねー。忙しかったの』

「別件?」


 と、そこで俺が代わりに答える。


「俺が以前、廃棄地区で救われたって話をしてたろ?」

「……確か、原理教の?」

「ああ、そうだ」


 遠慮のないガキ共と、トッシュという胡散臭い野郎がいる教会だ。

 マクアが見つけて、あいつらが拾ってくれなければ、俺はパーツになって叩き売りをされていた可能性もある。


「まあ、拾ってもらった恩があるし約束もしちまったからな。だから礼に行こうと思ってんだ」

「いいことだと思うけど……このタイミングで?」

「義体の兵装も装備できたからな。最悪、逃げるくらいは出来る。だからリナに準備をして貰って行こうってわけだ」

『そうそう。廃棄地区の奥に行くまでに襲撃がないように手回ししてるの。まあ、奥まで入って襲われても相手も同条件だから最悪逃げれるよなーってことでね?』

「なるほど」


 まあ、長時間滞在するわけじゃない。色々と差し入れをして、感謝を改めて述べるという話だ。

 このタイミングを逃すと、いつ行けるかわからないからな。


「ドウズはそういう、お礼をするところとか律儀」

「ああ? 普通だろ。恩を受けて返さねえってのはありえねえからな。んで、すまねえが俺がこっちにいない間なんだが、ユーシャをロクヨウが……」

「言われなくても3日でも4日でも一週間でも預かる!」

「……迎えに来るからそれまで預かっといてくれ」

「え、えっと……私も行きたい」


 ユーシャが小さく主張する……怯えてる表情から、ロクヨウをちょっと怖がってるっぽいな。さっきの勢いは俺もちょっと怖かった。とはいえだ。


「悪いが留守番だ。ちゃんとロクヨウから聞いたぞ。ガスで気絶してお前を攫われたらアウトなんだ。ここならシェルターになる」

「……むむ、分かった……」


 不満そうだが、実際に気絶したから反論できないのだろう。

 だが、そういう本当に私大丈夫なのかな? みたいな顔はやめてくれ。可愛そうになってくる。


「……あー、んじゃ、任せた。行ってくる」

「ああ、ドウズ。こっちに来て」

「ん? 分かった」


 そう言ってロクヨウの近くに……なんかオーガを思い出して警戒するな。

 しかし、ロクヨウはそのまま普通に俺に聞こえる声量で話す。


「ドウズの脳や神経系の保護皮膜について」

「……それがどうした?」

「次にナノマシンを起動したら耐えられない」


 ……おっと、いきなりだな。

 それは実質的にもう俺はナノマシンを使えないという宣告だ。


「本当なのか?」

「データを取って検証をした。本来ならここまで劣化をすることがないから調べるのも苦労をしたけども、もう次はないってデータで出ている」

「そうか。そこまでいうなら本当なんだな」

「うん。もしも襲撃されても、命を優先して。絶対に死ぬ最後の手段よりも、0.1%でも生きる方を選んで。不安だけど、廃棄地区に行くのを止めはしない。だから……」

「ああ、分かってるさ。俺も死にたくねえからな。死ぬってわかってるのにやるバカはいねえよ」

「……不安」

『同じく』

「ああ? なんでだ?」

「だって、ドウズは……」

『そりゃあ、ドウズは……』


「バカだから」

『バカだもん』


「うるせえな!」


 綺麗にハモりやがって。あまりにも酷い言い草に怒りながら廃棄地区へと足をすすめるのだった。

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