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和睦と今後の展望

「あ、やっとドウズ来た。遅いー」

「ああ、遅かったですね。ふふ、この体制で待ちくたびれてしまいました」

「何、くつろいでんだよ……お前ら……はぁ、クソ……ふぅ……」

『お疲れー。とりあえずハック完了してるよ? 会話も傍受されないし、オーガも兵装も使えないね』


 ひたすら走り続けてたどり着いたと言うのに、そこでユーシャとオーガは二人でのんびりとしていた。

 とはいえ、動けないように拘束して地面に寝かせたオーガの上にユーシャが座っているというなんともいいづらい光景だったが。

 と、そこでオーガは俺に声をかける。寝転ばされた状態で。


「初めまして、便利屋さん。私はオーガといいます。この度は負けてしまいました」

「ああ、色々とサムライから事情は聞いてるが……それで、あんたはどういうスタンスだ?」


 まずはその話だ。ユーシャの下敷きになっているオーガに目線を合わせる。

 リナが兵装を無力化しているか安全だが……事情はどうあれ、これだけの派手な攻撃を仕掛けてきたのだ。もしかしたら俺たちをどうあっても殺したいと思っている可能性は0ではない。

 だからこその質問だが、話が早いとばかりに笑みを浮かべる。


「良かったです。ハンター側の事情は聞いたわけですね? でしたら思っている通り、私達3人は……いえ、サイレントについては分からないですね。ハンター仲間ですらあの人についてよく分かっていませんから。少なくとも、私とサムライはテンドウ社の依頼に対して不満を持っていますよ。だから、これで義理は果たしたと思っています」

「……あっさりしてるんだな」

「ええ。貴方に恨みはありませんし、プロに対して十把一絡の競走馬扱いされたら流石に不本意ですよね? ……それでも断ることは出来ないんですよね。ふふ、天下のテンドウ社の指名依頼となれば、どれだけ条件が悪くても覚えが悪ければ死活問題ですもの。テンドウ社がなにかしなくても、テンドウ社の依頼を断った義体者なんて、怖くて取引したくないというお店はいくつでもあります。この義体にどれだけテンドウ社製のパーツを使っているかを考えると、やるしかないわけです」

「ああ、なるほどな」


 ……中央の依頼と同じだな。そう考えると親近感が増してくる。

 テンドウ社は中央と違い一企業だし、他に選択肢もあるが……テンドウ社が一番シェアを握っているのは確かだ。つまりは、各所がテンドウ社に依存している。義体の技師もテンドウ社と契約をしている技師が多い。それなら断れないし、手を抜いても問題になるだろう。

 俺みたいなロクヨウという技師と懇意にしていてオリジナル義体。そして兵装もソニック社好きという点でテンドウ社に対する依存度は低い。だから他の奴らに比べれば俺たちはテンドウ社と敵対している事実に対する絶望感は少ないか。他者の観点から見ると納得ができる。


「サムライさんは、義体率もそこまでではなくてテンドウ社製品を使っていませんから私よりは気楽でしょうが……私は、半分以上テンドウ社製品を使っていますもの。せめてポーズでも本気で一度は採算度外視で挑まなければ格好が付かないでしょう?」

「なるほどな……しかし、ここら一体に避難勧告を出してたが、そこまでハンターってのは力があるのか?」

「ええ。テンドウ社の口利きもありましたからそちらに対応させないほどの速度で準備は出来ましたけども……私個人でも、この程度なら通りますよ。でなければ、ハンターの狩りに支障が出ますもの」


 そう聞いてハンターのラインセンスの力を思い知る。

 特権があると聞いたが、オーガクラスになれば中央に対しても無理を言えるレベルなのか。これならばハンターになろうと考える奴も多いだろうし、そのハンターとしての権利を捨てたくないとしがみつくだろう。


「ですが、まあこれだけの弾薬を消費して無理ならテンドウ社に断りを入れてもいいでしょうね。サムライもあなたに手酷くやられたみたいですから向こうも強く言えないでしょう」

「……なんていうか、落ち着いてるな。もうちょい慌てるか焦るかするかと思ったが」

「ふふ、今更慌てても仕方ないですし……便利屋さんが止めたでしょう? その女の子を」


 そう言ってリナを見る。

 リナは特に反応せずにオーガの上で空を見ている。


「まあ、殺す必要まではないと思ってな。殺すと後が面倒だ」

「ふふ、甘い人。だから慌てる必要もないと思っていますの。でも死にたくはありませんから……ありがとうございます、優しい便利屋さん」

「……なんだ、お前苦手だな」


 こういう余裕を持った大人の女というのは、俺の人生であまりいなかった。だからちょっと苦手だ。

 同じ女でも、もうちょっと生き汚い婆さんやら、元気すぎる奴は良く相手にしてたんだがなぁ。


「……ねえ、ドウズ。どうする? この人、殺しちゃう?」

「ユーシャ、なんでそんな殺気に溢れてんだよ。殺すなよ? そういうのは間に合ってんだ」

『殺れ殺れ~! そのなんかむかつく女を解体しちゃえー!』

「リナも煽るんじゃねえ! てか、何にムカついてんだよ!」

「ふふふ、あはは」


 と、そこでオーガが我慢しきれず笑い出す。クソ、格好がつかねえな。


「もう、面白い人達。こんなときだって言うのに、笑ってしまってごめんなさいね?」

『ぐぬぬ、余裕ぶってなんかムカつくー! ねえ、なんか隠してる感じもしないしさー! 適当に契約して開放させちゃおうよ! このまま拘束して相手するのも面倒だしさー!』

「そうだな、その方向で……ああ、いや待て。なあ、オーガよ」

「あら、なんでしょうか?」

「アンタの戦闘ログはどの程度送られてるか言えるか?」

「ええ、その程度なら。そちらの電子妖精さんにハックされるまでは全部テンドウ社に送信されていますよ? ふふ、私の右目も義眼でテンドウ社製ですから」

「……やっぱりか」


 その情報を聞いて、思わず顔をしかめてしまう。


「ユーシャのデータが流れちまったか……」

「私?」

「ああ。お前が戦ったデータがテンドウ社に送られたんだよ。まあ、想定はしてたが……」


 これがあるから、ユーシャをあまり戦わせなかった。出来るならテンドウ社側に魔法を使っている場面を目撃されたくないからだ。

 前までなら良かったが……現状だと、異世界からやってきたものがユーシャと知られた場合には少々厄介なことになる。


「……なにかダメなの?」

『ダメダメ。最初は、物資目的だから使い物になるかわからない人的資材は無視するだろうなーって感じだったんだけど……テンドウ社の急進派って追い詰められてるわけでしょ? そうなるとね、ユーシャちゃん。なりふり構わないの。そっちの世界ではどうだった?』

「……人間は追い詰められたら、とんでもない事をするけど……自殺みたいな作戦とか」

『そうそう。急進派も同じで後がないってわけ。目に見える成果がないし、わざわざ高いお金を払ってまで依頼をしてサムライに続いてオーガまで失敗報告。社内での権威は失墜して内紛が起きるでしょ? そしたら、穏健派からしたらもう今は嬉々として地盤硬めだよね。何もしなくても重要ポストは穏健派が持てるわけだし。ここで急進派の中心人物達はここで何をすると思う?』


 その質問にユーシャは考えて答える。


「……特攻?」

「蛮族かよお前は」

『あはは、そりゃある意味では間違ってないけどねぇ……』


 なんでこう、戦闘に関連することはこれだけ出来るのにそういう方面になるとダメダメなんだよ。


『目に見える結果を欲するだろうねー。つまり、私達が確保しているであろう異世界の物資。それで、相手からしたらユーシャがおそらく異世界から来たものだってオーガとの戦闘データでバレちゃうよね。向こうの解析機器なんて一大企業の所有物なんだからとんでもなく優秀だし』

「だな。そしてユーシャを確保して……まあ、そこから考えるんだろうな」

「……行き当りばったりだと思うけど、本当にそんな事するの? 私でも、それは変だと思うけど」

『するよー? 中央に変にチクられて調査されたらテンドウ社が潰される可能性があるけど、もう急進派からしたらどっちでも変わらないの。むしろ、自分たちが社内の地位を失うことが決定している現状よりは、私達との交渉次第では中央にバレない可能性のある異世界物資の奪取の方がマシな選択肢になっちゃってるんだよね』


 状況が変わったことで目的と手段の条件が変わってきたということだ。

 しかし、本当にやけっぱちだな……


『人的資材なら……あー、例えば異世界の魔法で存在しない物資を作れる可能性。魔法で異世界から物資輸送出来る可能性。なんなら、魔法を使える可能性。ここ辺りを掘り下げてくるんじゃない? そこを皮切りにして急進派は現状の地位を維持するのが目的になるかな』

「まあ、その当たりか。採算取れるかすら怪しいが」

『まあ、取れないだろうけどそれに頼るしかないわけ。だから最後にやってくるサイレントはユーシャ狙いになるだろうね』


 と、そこでユーシャは首をかしげる。


「……私狙いならなんとでもなると思うけど」

「いや、甘く見んなよ? ユーシャ。お前が思ってる以上に生体ってのは不利なんだよ。まず、ユーシャ。お前は毒は効かないか?」

「……あっちの世界だと、アラクネの毒で死にかけたり、マンドラゴラの声を聞いて動けなくなったことはあるけど」

「そりゃあ……判断しづらいな。比較できねえよ。あー、まあいい。つまり、この世界の汚染された大気に耐性があっても毒やら音で行動不能になる。生物としての限界は超えれてないってことだ。そういう生体に対しての無力化する技術なんて死ぬほどあるんだよ」


 勘違いしそうになるが、今この世界で普及している義体や武装というのは「対義体持ち」を想定して作られている。ユーシャの場合は義体でないのに義体を超えるレベルでの出力を出せるからオーガのようなタイプに対するジョーカーになりえている。

 だが、生体を無力化する兵装は現在でも安価に量産されている。つまり、人間を確保するという前提で動けばユーシャを捉えることは実は簡単なのだ。


「例えば義体じゃ気にすることなんてないが、安価な飽和酸素ガスやら二酸化炭素ガスを使えば一瞬で人間は昏倒する。リナ、ユーシャの身体は構造やらは普通の人間なんだよな」

『うん。フルチェックしたらそりゃ差異とか見つかるかもしれないけど、基本的に人間だよ。魔法っていう謎の力がノイズになってるだけで』

「なら、今後は気をつけたほうがいい……今回は本当に助かった。だが、次に喧嘩を売ってきた奴に対してはユーシャは最悪逃げてくれ」

「……むう」


 不満そうな表情だな……だが、こればっかりは体験しないとなんとも言えない。

 ロクヨウの所で相談してみるか。


「まあ、ロクヨウのところで実際どこまで大丈夫なのかを確認するか。それならユーシャもどこまで行けるか判断できるだろ?」

「……うん、分かった」


 納得してくれたようだ。

 そこでオーガの視界を向け……怖いな。視線が飛んでいる。と、そこで目の焦点が戻りこちらに視線を向ける。


「あら話は終わりました?」

『うん、こっちは終わり。視界と聴覚塞いでごめんね~』


 なるほど。リナが気を利かせて視界と聴覚を塞いでいたようだ。

 すでに制圧した際に電子妖精の協力者がいると違法だと思えるレベルで優位だな。なにせ、ネットワークに繋がっている義体持ちにとって電子妖精は抗いようもない災害に近いレベルだからな。全身をハックされて最悪、勝手に義体を動かされることすらもあるのだから。


「いえ、捕虜なのですから温情に感謝したいくらいです。ああ、それでどうします? 私を殺しますか?」

「殺さねえよ。んじゃま、リナ。契約書頼む。サムライと同じでいいだろ」


 そう言ってリナに頼む。少し待つとオーガがユーシャを乗せたまま立ち上がり、ユーシャはひらりと着地。

 リナに確認を取る。どうやら手打ちは済んだようだ。これでこちらからも、あちらからも戦闘はできない。

 そして、オーガは俺たちに向かって笑顔を向ける。


「ああ、負けましたが……今日の出会いはいいものでした」

「……そうか?」

「ええ、素敵な男性に可愛らしく強い少女。そして電子妖精の面白いチームを見れたのですから満足です。ですので、一つ忠告を……」

「忠告?」

「耳を貸してもらえます?」


 そう言われて、俺は顔を寄せる。

 ……そうして、何かを囁いているが声が小さい。もう少し顔を近づけて――


「――貴方は甘すぎますよ?」

「んなっ!?」


 そして、オーガは俺に最悪の攻撃をした。

 ――俺の頬にキスだ。

 そして、リナは当然ながらユーシャまでも表情を変える。


『はぁ!? ちょっと!?』

「……ドウズ、不潔」

「なっ!? いや俺は被害者だろ!?」


 だが、思いっきり冷たい視線を向けるユーシャに怒り心頭のリナ。ああくそ! そうか! 俺が自分から顔を寄せたからキスを受け入れたみたいに見えるのか!

 そんな俺達を見て笑いながらゆらゆらと退避していくオーガ。


「ふふ、女の子に囲まれていてそういう油断は良くないということで……やられっぱなしもイヤですから。ではまた、機会があれば会いましょうね?」

「おい待て! 責任を取れや!」


 だが、もうすでに姿が見えない。

 そして、俺はこの二人の視線に対してなんとか俺が被害者だと理解してもらうべく、脳みそを必死に回転させるのだった。

実はやっているツイッターの方で告知したらPV数が偉いことになって「あわわ」ってなりました

いっぱい見てもらえたので、それに答えれるようにがんばります

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