遭遇とか騒動の話
とりあえず、毎朝8時更新です。通勤などのお供にでも
『――それで、なんで連れて帰ってきたの?』
「……助けてって言われたような気がしたんだよ」
『へえ~、言葉にしてないのに分かるんだ。エスパー? すごいね~』
「いや、その、なんだ」
あれから俺は事務所に戻り、正座をしていた。
目の前にはリナ。事務所の椅子には女の子を寝させている。そして、リナから俺は説教をされていた。
「私を心配させて、それで平然とした顔で廃棄地区の子を持って帰ってきた? ふーん、良いご身分だよねぇ。相棒の心配よりも、廃棄地区の若い子のほうが良いんだよね?」
「いや、リナ。待て。お前思い違いを……」
『ちゃんと事実は広めないとね~。全身義体の便利屋がスラムの孤児を誘拐って。専用スレッド作らないとなぁ~~~』
……まいったな。本気で怒っている。
実際にやるつもりはないだろうが、相当に心配させておいて俺がリナに対してフォローをしていないのも確かだ。やらないよな? 不安になってきた。
「リナ」
『なあに? 異常性癖者なドウズ……』
「心配させたな。すまない。助かった」
だから、俺は言うべきことを言わなければならない。
心配をさせた相棒に対する、謝罪と感謝を。
『……はぁ、もういいけどさ。それで、その子はなに?』
そう言いながらスレッドの文面を削除……おい、本気でやるつもりだったのか。ヒヤッとしたぞ。
「ああ、俺もわからないんだが……さっき言ったろ? 雷が落ちたって」
『うん。現場写真も見たけど……あれだけでも売れるような衝撃写真だったねー。雷で焼け焦げた地面ってああなるんだ。というか、雷が落ちてドウズの体に何もないのが怖いんだけど……後で精密検査をしに工房に行った方が良いよ?』
「ああ、そうする。まあそれはいい。それで、その雷の落ちた場所に居たんだよ。その子供が」
そう言って視線を向ける。
こっちの気持ち知らないでこっちの気持ち知らないで気持ちよさそうにすやすやと眠っている。
『……ええっと、やっぱり先に工房に行ってフルチェックしてもらう?』
「エラーじゃねえ。本当だ。なんならデータを確認して……」
『え? ないよ? アレだけの落雷だからそりゃデータ吹っ飛んでるよ。あの一帯、もともと異常磁場で機器が正常に作動しないし。今回のアレで計測機器が壊れてなかったのが不幸中の幸いだったよね』
……つまり、俺しか見ていないわけか。疑われても仕方ないな。
「まあ、あの場所に居たことだけは事実だ。それで頼む」
『まあ、詳しくその子に聞けばいいよね。それで、中央への報告はどうする?』
「すまん、頼んだ。突っつかれなければその子は黙っといてくれ。……しかし、いきなり異常磁場が治ったことに対して向こうも納得するか?」
『するんじゃない? というか、外的要因からの異常磁場解消なんて結構聞く話だし。じゃあ送るね~』
そう言って、リナが調査結果を中央に報告してくれている間に拾ってきた少女を見る。
個性的な顔立ちだな。いや、不美人というわけではない。可愛らしい顔立ちだ。では何が違和感かと言えば、ある程度管理された社会だと人間の顔のパターンは減っていく。廃棄地区出身の人間ですらある程度は似たような顔になるのに、この子は見たことのない顔立ちをしている。
「……まあ、俺の知らない地区出身なのかもしれねえけど」
『はい、報告終わり~……何を見てるの? やっぱりそういう趣味……』
「リナ、この子の顔立ちを見てみろ」
『んー? ……あれ? おかしいね。この顔立ちのパターン見たことないよ。中央のデータベース引っ張ってみるけど……』
「お前、またハッキングしたのか? そろそろバレたら洒落にならねえぞ。俺も目をつけられてんのに」
『随分前だから無罪だよ無罪! それに、足がつくような真似をすると思う?』
「……そりゃそうか。まあいい。俺も見たことがないと思ったんだが……データに該当なしか?」
『……んー、うん。中央のデータベースで、古いデータまで趣味で攫ってるけど同一系統無しで……えー? ないってことは……この子、どこから来たんだろ。中央の管轄には一切居ないね』
そういいながら、レーダーでその少女の身体をスキャンする。
生体用のメディカルチェックか。まあ、それなら詳しいことも分かりやす……
『はああああぁ!?』
「うおっ!?」
リナが大声を出した。
俺が生きてきて、数回しかここまでリナが動揺した大声を出したことがないぞ。驚いて振り向くと、リナの映像が乱れている。出力する映像すら乱れるほど動揺しているのか?
「どうした。その子が……」
『何なのドウズ!? 本当になんなのこの子!』
「だから、どうした!」
『義体率0%って何!!』
「……何?」
急な発言に、俺も一瞬思考が停止する。
義体率0%? つまり、完全に身体に義体化をしてないということになる。
「……生身の人間だと? アホか! 無理に決まってるんだろ! このレベルの大気汚染で生身で生きてられるなら義体化義務なんてとっくに無くなってるわ! それとも何だ!? 中央発表は嘘だったってことか!?」
『いやいやいや! そんなわけないっていうか、この前だって義体率10%くらいの人が死んでたじゃん! てか廃棄地区の死者なんて居なくなるでしょ! 大気汚染による健康被害どころか、ガスマスク装備ですら処理しきれないのにさぁ! 廃棄地区でも闇医者で義体手術をしないと死ぬだけなんだよ!?』
……じゃあなんでこの子供は生きてるんだ?
疑問が頭の中でグルグルと回っていく。
「その子の健康被害は? 義体率0%でも今まで無菌室育ちとかでも言えば……」
『バイタルチェックかけたけど一切問題なし。健康体。かなりの量吸ってるけどね』
「……おいおい。するとなんだ? こいつは……大気汚染にも耐えれるような肉体をしてんのか?」
もはや毒というのも生ぬるい汚染に耐えれる生体。それは、現代社会ですら遺伝子改造をしてもたどり着けない領域だ。
『それは分かんない。そっちの知識は専門職には及ばないし……ただ、素人目で見ても普通の人間とあんまり変わらないよ。電子妖精仲間の人類学者当たりに聞かないと詳しくわからないだろうけど……多分、そういうデザインヒューマンじゃないかな』
「おいおい……本当に聞いてみるか? つっても、その電子妖精は口外しねえよな? こんな厄ネタ」
『どうだろ……もっとニッチジャンルなら信用できるけど人類学者当たりはほとんど遺伝的改造分野と手を組んでるし多分企業にサクッと伝えて協力させるだろうから。私のツテで頼める奴はいないかなぁ……』
「そうか。ならその線はなしだな」
『はいはい』
ここらへんも面倒なところだ。電子妖精は享楽的であり、自分の好きなことしかしないし周囲のことも気にしない。逆に言えば、選ばないと守秘義務も何もあったもんじゃない。気づいたら頼んだ依頼物について誰も彼もが知っていることすらありえる。
と、それはいい。
「……考えてみると、俺が見た時にこの子は落雷の中心点にいたんだが」
『えっと、何? 改造人間? いつの時代のフィクション? そういえば、古典コンテンツにあったよね。改造人間が雷とともにやってきてみたいなの』
「ああ、あったな。それと同じかどうかは分からねえが……なんだろうな。拾ってきてよかったのか?」
『知らないよ!? 責任はドウズが取ってよね!?』
そうだよな。拾ってきたのは俺だもんな。余計なことを色々と考えてしまう。陰謀論から改造人間、はては宇宙人まで何から何まで。
しかし当然ながら結論は出るはずもない。そんな中、ふと思い出すフレーズ。
「……なあ、リナ。『楽園』の噂って覚えているか?」
『……あの都市伝説?』
『楽園』。
簡単に言えば、義体化していない人間だけが住むと噂されている場所だ。もはや自然なものは残っておらず、AIに人口は管理されて、試験管から生まれる子供。そして義体化しなければ生きていけない人間。そんな閉塞感のある現状に対して噂として流れた「実は中央はどこかに選ばれた人間だけが住める場所を確保している」という噂。
まあ、どこにでもある与太話だが、つい信じてしまいそうになる。
「俺もあんな都市伝説は信じちゃいねえが、それに近い人間を生み出すための何らかの施設から脱走してきた……って可能性は?」
『んんー……ありえないが八割』
「二割程度か。思ったよりも高いな」
『だって本当に謎だもん。謎すぎてそうとしか言えないもん』
頬を膨らませてそういうリナ。
たまに子供っぽくなるな、こいつも。
「まあ、そりゃそうか。さて、なら起きてから事情を聞くしかねえよな……」
『中央からも返信が来たけど、内容が社交辞令というか普通に依頼完了に対する返答しかなかったよー。なんかあるなら口止めするだろうけどそれもなし。一応ウイルスとかまで警戒してフルチェックしたけどなんにもないし、少なくとも中央側は関与してないんじゃないかな』
「そりゃ朗報だ。中央絡みになるとクソ面倒だからな」
中央絡みで巻き込まれると小さい話ですら大事になる。中央の議員共はプライドが高く、思い通りにならない人間に対して圧力を行使することを厭わない。
罪を侵さずとも中央関係の事情に巻き込まれると犯罪者になってしまうことだって多い。権力というのは、弱いものの味方じゃなく持つ者の味方だからな。
『んー、この件とは関係ないかもしれないけどさ』
「なんだ?」
『あの廃棄地区のゴロツキを使ってた奴らは関係あると思う?』
「この子がなんか関係があるかってことか?」
『そうそう』
「あー……可能性はゼロじゃねえか」
『まあ、別件かもしれないけど。邪魔されたくないから適当なゴロツキを雇って異常磁場地帯から遠ざけてた可能性はあるんじゃないかな?』
「確かにあるかもしれねえ……が、何の設備もなかったからなぁ。だだっ広い荒野で何を守るんだって話でもある」
『それもそうなんだよねー』
二人で首を傾げる。
一体何を目的にして、何があったのか。そしてこの少女は何なのか。考えても答えは出てこない。。
「んんぅ……」
と、そこで声がしてもぞもぞと動く音が聞こえる。
「お、眠り姫のお目覚めか。んで、翻訳の準備は出来てるか?」
『うん。全部の言語対応してる奴準備したよー』
「そうか。んじゃ、何者か説明されるのが楽しみだな」
そして、目を覚ます少女。
「よう、あー、あー。言葉わかるか?」
「……?」
『んー? 反応ないね? おーい』
「※※※※※……※※、※※※※!?」(ここはどこ……って、ゴーレム!?)
いきなり飛び跳ねて下がり、警戒の表情を見せる。
……いや、というか言葉がわからないんだが。
「おい、リナ? 言葉はどうなってる?」
『え? なんで? ちょっと待ってて!』
姿を消して、何やらインストールやらを繰り返す。それを見ながら少女の方を向いてじっと待つ。
「……※※※※※※※※※?」(……ゴレームが喋ってる?)
「……」
「※※※※※、※※※※※※※※……」(私はたしか、あの時飛ばされて……)
「…………おい、リナ。聞こえないんだが」
『ごめん! 本当に翻訳できないの! エラーじゃなくて対応出来ないってことで……』
そこまで言われれば、頭の回りがそこまで早くない俺でもわかる。
「……完全に未知の言語を使ってるってことか? 対応してないマイナー言語の可能性は」
『ないはずだよ! だって、この翻訳ソフトは言語学者の電子妖精に頼み込んで作ってもらった特注品だし、実際に試して問題なかったことは確認済みだから……』
「となると、この子が……」
手を差し伸べ――
ガキンと、俺の手が跳ね飛ばされる。
「うおっ!?」
「※※※※※※! ※※※※!」(私に触れるな! ゴーレム!)
そういいながら、ソファを蹴り飛ばして擬似的なバリケードにして隅へと陣取る。というか、手に小手みたいなのをつけていた……なんかの資料で見たことがあるな。あれは軽鎧か? パワードスーツかと思ったが、リナにただの鉄の防具だと言われた奴だ。
少女は俺を睨んで敵意を剥き出しにしている。まるで野生の獣だな……それよりも、だ。俺の手を弾き飛ばした。その事実に対して未だに思考が纏まっていない。
「おい、リナ。ありゃ義体化を本当にしてないのか?」
『してないって! 強化骨格でもないし、あれはパワードスーツでもないよ! 義体率0%を見てそのくらいは調べたもん!』
強化骨格とは、一見すると義体に見えないように偽装された骨や筋肉の義体だ。まあ、暗殺だのろくでもない手段に使われる義体だが。パワードスーツは義体化出来ない人間がつける強化スーツ。まあこれも暗器使いがメインだが。
だが、それですらないとなると……
「俺の手を跳ね飛ばす? 義体化すらしてない生身の人間が? ……何の冗談だ?」
「※※、※※※※※※※※※※……※※※……?」(くぅ、ここはどこなんだろう……魔王は……?)
そんな馬鹿な話があるか。
一見すれば俺の体はちょっとガタイのいい人間サイズでしかない。百八十センチは義体で言えば標準程度だ。普通の義体で同じサイズなら、義体化をしていない人間の倍くらいの身体能力といったところか。だが、全身義体の俺の身体能力などは大型車や重機に匹敵する程度の馬力は出るし、重量も二百キロを優に超えている。ただ手を差し伸べただけだが、俺が意識して引っ込めることはあれど跳ね飛ばすなど、俺と同じ完全義体者でもなければ不可能だ。
つまり、あの子供はあの体格で完全義体と同じだけのパワーを秘めているということになる。
「……新兵器か? 生物型の」
『そんなの物理的に無理だし、人間型の新兵器の意味がないもん。なら適当なドブに住んでる進化したラット使うほうが百倍マシじゃない?。あと、その方向で強化しても筋肉量とかの問題で食べ続けないと一瞬で餓死するよ。そのレベル』
「だよな。なら何だこのガキは?」
のほほんとしていたが、流石にここまでくると警戒心が芽生える。本当にこれは拾ってきてよかったのか? だが、あの時に助けを求めてきた。それだけは真実だと思っている。
とはいえ、俺が警戒し始めたのを感じ取ったのが、少女も警戒から臨戦態勢になる。……何度見ても、なんの変哲もない人間の肉体でしかない。やはり不気味だ。情報がないというのは、何よりも怖い。
「クソ、というかどうしたら怪我なくいけるんだ……?」
『全然分かんない』
「※※※※※※※※※※※、※※※※※※※……!」(なんだかわからないけど、やるつもりなら……!)
「……なんだ?」
少女が片手を宙にかかげる。不意に空間の空気が動き……
「※※※!? ※※※!?」(うそっ!? なんで!?)
あっけにとられ困惑した表情。何だと思うと、突然のゴウンという、とてつもない爆発音がする。
その場にいる全員がその音の元に視線を持っていかれる。なにもないはずの少女の真上が爆弾でも打ち込まれたかのように爆発し、天井を破壊した。
「うおおおっ!?」
『きゃああ!? なになになに!? なんで爆発したの!?』
「※※!? ※※※――!」(うそ!? 魔力が――)
当然の原理で、爆発で破壊され天上が崩れる。その瓦礫は少女に降り注ぎ。
もしかしたら、大丈夫かもしれないが――
「――ヤダぁっ!」
「くそっ!」
ああ、ダメだ。あんなのを見捨てれるわけがあるか。義体の仕込んでいる武装を起動。事前の準備もなしにマニュピレーターを稼働させる。警告文が出た。多大な負荷がかかる。身体に異常の可能性。炎上の危険。
だが、全てを無視。そのまま俺は義体をフル稼働させロケットのようなスタートダッシュを切る。
必死に動く視界を追いかける。ジェットコースターにでも乗ってる気分だ。そのまま、瓦礫の下で目をつぶって頭を抱えている少女を見つける。
「……っ!」
(……なんだよ)
その姿は、必死に身を守ろうとする幼い子供そのもので。俺を見る目は怯えていて。
もう俺に警戒する気持ちなんて無くなっていた。
「おい、ガキ。大人しくしてろよ」
言葉は伝わらないだろう。困惑の表情で俺を見る。
そのまま、その少女に覆いかぶさるように守る。
ガラガラと崩れてくる。少女は理解したのか、必死に身体を小さくして震えている。
「……っ!!」
「うごっ……! いでっ! あだっ!」
ガンガンと、俺のボディに落ちてくる鉄骨。後、なんかの機械。頼むからネズミだけは落ちてくるなよ。
……というか、落ちてきてる物体に覚えがない。天井裏には何も作ってないはずなんだが……どっかのバカが違法建築してねえか?
そのまま、数分が経過してようやく落下も収まる。
「……※※※……」(……なんで……)
「……おう、大丈夫か?」
そう言ってガキの頭を撫でる。多少ゴツゴツとして痛いだろうが、昔から子供を慰めるときはこれが一番だ。
ガシガシと乱暴になでてから、瓦礫を押し上げて立ち上がる。
ガラガラと崩れて、見るも無残な姿になった我が事務所。
「あー……散らかったなぁ……片付けがクソ面倒だぞ」
『大丈夫ドウズ!? なんかフレームとか歪んでない!? やっぱり工房で見てもらお!? 精密検査の予約なら入れるから!』
「そうだな。とはいえ、このガキが……」
と、視線を向けるとチョコンと俺の後ろについている。
……敵意は感じない。なんというか、わからないが悪くはされないから付いているという感じだ。
「……どうやら落ち着いたみたいだな」
『そうみたいだね。てか、色々と気になるしちょっと見えるように投影を……』
「※※※、※※※……?」(なんで、妖精が……?)
「……ん?」
子供が目を動かしている。明らかに意図を持った視線の動きだ。
それは……明らかにリナがいる位置を見ている。
「なあ、リナ」
『なーに? ちょっとまってて。今演算して……』
「多分お前のこと見えてるぞ、このガキ」
『……何いってんの?』
と、目の前に姿を表すリナ。俺にしか見えないように視界ジャックをして表示をしている。
が、子供は明らかに俺と同じ方向を見ている。
「ほら、視線見てみろ」
『……いやいや、多分ドウズの視線を向いてるだけで……』
そういいながら飛び回るが、子供は目線で明らかにリナの存在を認知して追いかけている。
……本当に謎だな。
『なんで!? 光学センサーでもつけてんの!? 本当に改造人間!? どっかの秘密組織の新兵器なの!?』
「落ち着けリナ」
「※※※※※※※※※※※※※※……※※※……」(ゴーレムと妖精が仲良くしてる……変なの……)
ちょっと不思議そうな顔を浮かべる少女。
……本当に、俺達は何を拾ったんだが。とりあえず、混乱するリナと大人しくなった子供を置いてとりあえずは、座る場所を用意するために簡単に片付けることにするのだった。




