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先生の力、異世界の勇者

『ユーシャちゃん!? いや、相手は相当に名の売れてるハンターだし、それにユーシャちゃんは一応は人間……人間? 多分人間なんだからそんな無茶は』

「大丈夫、行ってくるね」


 そういって、一直線に恐ろしい速度で走っていく。ユーシャの身体能力が高いことは知っているが……ネズミ狩りの時ですら本気の片鱗すらも見せていなかったのか。

 ユーシャの先生らしいところ……と、そこまで考えてから慌てて意識を切り替える。


「いやいや、先生だの、そういうこと関係なく俺の事情だろ! 止めねえと! 追っかけるぞ!」

『でも、まだ修理終わってないし普通の義体の速度しか出ないよ! ドウズ忘れたの!?』

「ああそうだったなぁ! クソ! 走るしかねえ! てか、疲労切れねえのか!?」

『むーりー! よしんば出来たとしても許可するわけ無いでしょ!』


 そりゃそうだ! 俺も必死に走りながら納得する。疲労や痛みは義体だとしても、負荷や限界を図る重要なバロメーターだ。だからこそ、これをオフにするのは緊急事態のみ。それでも怒られるくらいだからな!

 走っている俺にリナが視界を共有する。どこかの監視カメラをジャックしたらしい。

 そこで見えたのは、敵の姿。


「ああ、ああ……なんて、なんて健気な子なんでしょう」


 涙を流している、線の細く幸の薄そうな女。

 ぱっと見て、綺麗な大人の女性だと思っただろう……その義体の腕に装備している、巨大なミサイルランチャーがなければだが。

 コイツがオーガか。名前と見た目があまりにも不釣り合いだが、間違いなくデータと照合すれば本人だと分かる。

 距離の概算は……遠いな。車でも30分はかかる超遠距離。だからこそ相手の攻撃に対応出来たわけだが……


「ターゲットにない少女が、ターゲットよりも先んじて私に挑みかかってくる……ああ、とても健気です……信頼、愛……素敵。だから、悲しい。そんな子が死んでしまうなんて」


 ジャックしている収音装置から、声が聞こえてくる。……というか、誰に向かって喋ってるんだこいつは?

 リナを見るが、どうやら誰かと連絡をしているわけではないらしい。つまり……独り言か。


『えーっとね、オーガで調べた感じで分かったのは、まるで鬼でも暴れたみたいな破壊後が残るからって言う理由でついた異名なんだって! あのミサイルとか見たらまあ納得だよね!』

「義体率については、調べた感じで分かるか!」

『義体率は8割くらい! 首から下のほとんどが義体って感じ! ただ、あの義体にはかなりジャマーとか入れてる。拡張兵装タイプだね! だから、どんだけ兵装乗るかわかんない!』

「まあ、一般的な戦闘スタイルのハンターだな!」


 義体率はイコールで戦闘能力に直結する。人間の生体を超えるパワーを出せる部位が多いのなら、それだけ優秀な動きが出来るわけであり、更に拡張する兵装などを装備できる余地が増える。そういう観点で見れば身体の8割の義体というのは、相当に拡張性が高い。

 そして戦闘スタイルは基本的には兵装を利用した兵器戦が主だ。俺みたいな近接メインもいないことはないが、メインで戦っているサイボーグは少ない。銃器を使うか、電磁ロッドやら義体などに武装を積んで戦うのが主流だ。……クソ、ガラクの変態野郎と一緒な事に気づいて嫌な気持ちになる。


「ユーシャ! そいつは銃器を使うはずだ! だから――」

「大丈夫。魔法よりは楽」

「魔法こええな! オイ!」


 ジャックしたスピーカーを通じて伝えると、そういって更に加速。義体を使わず、魔法とやらの力で恐ろしい速度を出しているユーシャ。

 いや、本当に早いな!? しかも、疲労が見えない。


「ユーシャは後どのくらいでたどり着くんだ!?」

『あの速度なら……10分かな』

「俺の義体の全力よりも早いじゃねえかよ!」

『まあ、拡張して無理をしたら出るかなーってくらいだよね……異世界人こわい』


 追いつけない。それでも必死に走る。

 先程からオーガは手に装備した誘導ミサイルを撃ってはいるのだが、ユーシャはあっさりと回避し続けている。と、そこでオーガの独り言がまた聞こえてきた。


「ああ、とても悲しいです」


 グリンと、俺たちの見ている方のカメラに視線を向ける。

 涙を流し、本気で悲しむ表情で。


「吹き飛ばされて気絶したなら……追撃なんてしないのに。これから、あの健気な少女を本気で撃たなければならないのですから。ああ、死体も残らずに消し飛んでしまうなんて……とても、とても悲しい」


 そう言ってさらに兵装が増え……嘘だろ!? 背後からも兵装がドンドンと追加……準備してたのか! どこかの軍隊でも相手にするのかといいたいレベルの数。あの小さな体の中に、どれだけの兵装を詰め込んでんだ!?

 背中に速射ブラスターを2丁、身体のサイズもあるミサイルを腕に装備。それに機関銃に弾薬ポットまで……数え切れない兵装を一気に展開。カメラに映る奴の姿は、本来の3倍以上の大きさに膨れ上がっている。

 知らないやつから見れば、ああ確かに……アレは、(オーガ)に見えるだろう。


「くそ! 何だあのバカみたいな兵装の量は!?」

『てか、あれだけの火力だと中央が……嘘!? ここら一体の破壊許可も避難も終わってるって何!? あのランクのハンターってそこまで許可とれるの!?』

「私はオーガ。目の前を全て破壊する女。それしか出来ない女。ああ、ごめんなさい……」


 兵装はすでに準備できている。

 引き金を引くだけで、この一角を灰燼にするほどの銃器が――


「貴方達を、この世界から消してしまうから」


 引き金を引く

 轟音、閃光、爆音。そして衝撃。


「うおおおおおおおおおおおお!?!?」

『ドウズ! こっち! 回避スポット! あー、もう! 演算が間に合わない!!』


 必死にリナの表示する安全域から安全域にへと逃げ込んでいく。

 俺との相性は最悪だ。近寄る前に全てを消し飛ばせばいい。そのシンプルであり解決策の少ない暴力は対抗するにはあまりにも難しい。

 フル装備なら、まだ色々と考えれたかもしれない。だが、現状の俺には対抗手段など……まてよ、ユーシャだ!


「ユーシャは大丈夫か!?」

『ユーシャは……えっと……え!? 嘘!? 生きてる!? なんで!? どうやって!?』


 そこで、轟音に紛れてオーガの音声が聞こえる。

 ……その声は、なんとも楽しそうな声だった。


「ふふふ、義体のデータが見えない……どういう仕組みなんでしょう? ああ、壊れないんですね。壊れないんですね。素敵な子」

「クソ! なんでそういう反応になるんだよ! イカれてる奴しかいねえのかよ!」

『二つ名のつくレベルの奴なんて、そんな奴らばっかりでしょ!』

「ははっ、そりゃそうだ!」


 必死に走り続けていて、笑いが溢れる。未だに止まらない射撃。必死にリナの提示するルートで逃げ回る。一歩間違えれば俺が吹き飛ばされそうだ。

 まだ止まらない。弾幕は分厚く、一瞬途切れたかと思えば直ぐに再開される。俺はもうこれ以上は動けない。だがユーシャは


「ああ、なんて凄いんでしょう。その剣と、身体の動きだけで捌き切るなんて――」

「――そこ」


 すでにユーシャは辿り着いていた。俺たちの予想を遥かに超える速度で。

 剣を振るうと、オーガはひらりと回避。だが、弾幕は途切れた。

 そこで俺も必死に走る。休憩ができたので、先程よりも速度を上げて。会話が聞こえてくる。


「貴方が敵だよね? なら、このまま倒すね」

「ああ、怖い人」

「そっちのほうが怖い」


 そういって、跳躍し模擬刀を首に――

 瞬間、オーガは足元を爆破。義体者にとっては、計算した爆発はダメージなどない。

 だが、生体のユーシャは別だ。それに巻き込まれて吹き飛ぶ。ユーシャの身の安全を心配するが、ひらりと飛び上がって瓦礫を飛び回り適当な足場に着地。曲芸を息を吸うように実践するなよ。


「だから貴方達は怖い。変な攻撃ばっかりしてくるもん」

「私も、お嬢ちゃんが怖いわ。だって、そんな動きをできる義体も知らないもの」

「じゃあ、おあいこ」


 そういうと、距離詰めて剣戟。だが、ひらひらと回避に専念するオーガ。近接は弱いかと思えば、そんなことはない。

 何かが落下。ユーシャも気づく。それは小型の爆弾で、爆発を回避するためにバランスが崩れる。


「ふふふ、バイバイ? どーん」


 可愛らしくそう言って、手をユーシャに向け……腕が分解。そして展開されて、そこから出てくる超大口径ブラスター。

 人間どころか、義体すらも消し炭にするようなレベルの口径。


「ユーシャ!」

「※※※」


 だが、そこでユーシャが手を構え何かをつぶやいた瞬間……オーガの足元が、比にならない規模での爆発を起こした。


「あらら?」

「ん、威力はダメでも場所くらいならイケるみたい」


 魔法を使ったのか。威力はコントロールはできていないようだが、それでもいいのだろう。というか、いきなりの実戦投入かよ。

 その爆発の威力は、オーガの足場まで崩して――


「あら?」

「獲った」


 照準は当然ながら明後日の方向に。虚空に向かって放たれるブラスター。体幹から崩れれば、自動補正だって意味はない。

 そしてユーシャはすでにオーガの目の前に。そして首に向かって模擬刀を……


「おい、ユーシャ! 辞めろ!」

「えっ?」


 必死に叫んで止める。

 間に合わないかと思ったが、ピタリと止まった。すでに勝負はついた。隠し兵装だの、色々とあるだろう。だが、殺すことはない。

 ユーシャはスピーカーへ向かって不満そうな顔をしている。


「……ドウズ、なんで止めたの? 危ないんだけど、この人」

「ふふふ、お嬢ちゃんに言われると不思議な気分ね。よほどそっちが怖いのだけど」


 余裕を浮かべているオーガ……止めたが、この余裕は怖いな。とはいえ、大丈夫だ。


「お前、殺そうとしてたろ」

「うん。だって敵だもん」


 ……こういう思い切りの良さは俺とは真逆だ。

 だが、言いたいことは一つだけ。


「まあ、話をさせてくれ。リナに無力化してもらえば問題はない」

「リナさんが……うん。分かった」


 リナのことは信頼するのか……ちょっと寂しいな。

 とはいえ、サムライの話を信じるなら……まあ、テンドウ社絡みのこの依頼。狂っているこんな女相手でも交渉の余地はあるだろうからな。

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