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特訓というのは男のロマン

「ユーシャ、バイトやるか? ロクヨウのところなんだが」

「バイト? バイトって?」


 ふとした瞬間に、とりあえずロクヨウとの会話を思い出してそう聞いてみる。すると、まずバイトをよく理解してなかった。

 一撃。くそ、外れた。そのまま返しに一撃を喰らう。

 まあ、異世界の就業形態がどうなってるか分からねえしなぁ。お手伝いとかのほうがわかりやすかったか?

 と、代わりにリナが説明をしてくれる。


『えっとねー、まず資材の運搬。あと、ロクヨウの指示で手伝うってのがメインかな。技術関係はロクヨウ本人がやりたいだろうし。後はお客さんと会話? まあお手伝いだよね』

「んー、それをするとなにかあるの?」

『お給料が出るよ? まあ、ユーシャの自由になるお小遣いだね』

「ならやる。ロクヨウさんのお店だよね?」

「おお、そうだが……以外とすんなりと決めたな」


 回避。反撃。くそ、当たらねえな。

 しかし、ユーシャはもうちょっと悩むか、もっと即断即決だと思ったが……まあちゃんと話を聞いた上で考えて決めたのならいいとは思う。


「自分の食い扶持は自分で稼がないとダメ。他に欲しい物が出来た時に、ねだっていればいいのは子供だけ」

「俺から見りゃ、お前はまだ子供だが……」

「むう、私は立派な大人。あ、隙あり」

「ぐごっ!? ぐっ……くそ……」


 頭部への一撃。明らかにこれが真剣なら俺は行動不能だ。悔しい思いで敗北を認めて座り込む。

 さて、俺たちが何をしているのか……それは特訓だ。

 サムライとの戦いと、事務所にやってきたサムライへの対応。あれを見て俺はユーシャの方が実践的な戦闘は強いという認識に至った。

 随分と雑魚狩りだの、ギリギリの勝負をしてなかったし、一番直近のいい勝負がガラクの変態野郎で、最近では忙しいからといって義体術の訓練もサボっていたからな。

 だから鍛え直すために市街地区で広場を借りたのだが……


「ん、動きは良かった。ちゃんと会話をしながらなのに集中は切れてないのは良いと思う」

「……おう、ありがとよ」


 ユーシャとしているのは実戦形式の組み手。俺は生体へのダメージを軽減するグローブをつけ、ユーシャは適当な廃材を使って作った模擬刀を使った模擬戦だ。

 ルールは無用。実戦形式に近い形で、感覚で戦闘不能にできたと判断したら一本。自己申告制だが、ここでズルをする必要はない。特訓だからこそ、お互いに手加減などもなく厳しくいってたのだが……


「でも、やっぱり見切りが甘い。知らない攻撃を目で追ってる。相手の身体の動きを見て予兆を判断しないと間に合わない」

(想像以上だな……こりゃ……あと、ユーシャは化け物かよ)


 まさか、組み手をして十回俺が転がされるとは思ってもいなかった。ユーシャのバカ強さもあるが、俺自身が思った以上に手玉に取られているのが悔しい。

 最初の方は、ちゃんと対等になるように条件をつけていたのだが……5回目には俺がユーシャに一発当てれたら勝利になり、それでもまだいまだに捕らえられない。普通なら逆なんだがなぁ……


「……弱いな、俺」

『んー、私は詳しくないからよく知らないんだけど……ドウズってそこまで弱いの?』

「基準はわからないけど……そこそこには強いと思う。隠し玉を持っていたり、身体の強さを利用した戦い方をすればある程度は圧倒できると思う。ただ、ある程度強い相手からすると対応しやすいの。それでドウズ、もっと条件は緩める?」

「緩めねえ! これ以上緩めたら俺のプライドに関わる!」

『心配しなくても、あれだけ転がされて手玉に取られてたらプライドも何もないと思うよ?』


 いつも優しいはずのリナですら、気遣いをする余地がなさ過ぎてストレートに言ってくる。

 傍目から見たら、小さい廃棄地区育ちのガキに言いようにボコボコにされてる義体の男だからな。手加減してるならまだしも、俺のほうが今は全力でやっているからなぁ……

 現実として突きつけられると、辛いものがある。


「私の感想としては、ドウズは細かい動きが雑だと思う。普段から全身鎧で戦ってるような人の動き方に近いかも」

「……っていうと?」

「ちょっとくらいならダメージを食らってもいいと思ってるんじゃない? ドウズは一撃を当てたら勝ちだと思って動いてて、相手が油断する前提での組み立て方をしてるの。分かる相手からしたら、癖を読ませやすい動きをしてる」

「ぐっ……それは」

『まあ、確かに。結構格下でも食らってるよね。ドウズ。雑なのも納得ー』

「いや、そりゃあ食らって良い攻撃なら食らってもいいだろ。効いてないなら相手も戸惑ったりするだろうし――」

「そういう意識が他の動きにも影響が出てるんだけどなー」


 ……あまりにも正論過ぎて、俺が目に見えて凹んでいるのがバレてリナが爆笑している。

 くそう……いやでも俺が悪いんだが。


「……しかし、ユーシャは良くわかるな。俺も言われて納得ができる」

「義体術はなんだろ……私の世界の※※※に似てる。だから色々とアドバイスが出来るの」

「ああ、似たようなのあんのか。なんて言ってるかはわかんねえけど」

「基本的には、技術を持って素手で戦う技。鎧を着た状態で使う格闘技でもあるの。私も何回も戦ったことがあるけど、本当に強い人は受け流し方も上手だからドウズはまだまあひよっこ」

「ひよっこ扱いかよ……てか、受け流し?」

「うん。攻撃をあえて受けて、そのダメージを上手く流す技術。体に負担がかからないから、ドウズみたいな機械の体でも覚えておくと良いと思うよ。強い人ほど、相手に限界を見せないし、動きの癖を読ませないの。多分、ドウズと体術勝負をしたら武器なしでも今なら私が強いかも」


 そういって胸を張るユーシャ。そういえば、コイツは実践経験は俺を超えるくらいに豊富なんだよな……

 しかし、なるほど。俺の義体術はそこまでレベルが高くないか……ううむ。


「なあ、ユーシャよ。俺がやるべきことのアドバイスってあるか?」

「……まず、基本的に相手の攻撃を食らうべきじゃない。ドウズはそこの意識が低いの。自分が丈夫だから、それを信頼して突っ込んでいるけど、それ自体がまず良くないかな」

「……むう、まあ確かにな……」

「相性が悪い事は別にいいの。それを利用した闘い方も出来るから。でも、ドウズは雑なの。見てから相手の動きを見て何とかなると考えてる。相手からすると分かりやすいし、最後の手段があるのだとしても、それは本当に最後の手段で考えないとダメ。使わずに終わると考えるべきだよ。でもドウズは最後の手段を使う前提で考えている意識が出てるから大雑把になるの」

「ああ……そうかもしれねえ……」

「動き自体は悪くないんだけどね。基礎が凄いしっかりしてる。だから、対応とかの応用もしっかり出来てるの。ただ、それだけ。そこからの発展が出来てない。体の大きさとか、本人の性格で徐々に適応させていくのに、ドウズは教科書通りの動きのまま自分の身体能力で誤魔化してる。言うなら自分なりの動きになってないのが良くないかな。ドウズは折角身体が普通と違うのに、それを利用し切れてない」

「はい……」


 徐々に俺も素直に大人しくなってしまう。あまりにもごもっともな指摘に小さくなって話を聞いている。

 いや、なんだろうな……真っ当な指摘なんだよな……言われて俺もなるほどと納得できる。これが俺よりも随分年下の可愛らしい少女じゃなかったら、もうちょっと複雑な気分にならなかったんだが

 リナはさっきからずっと後ろで大爆笑している。くそ、覚えてろよ……しかし、ユーシャは自分のわかる分野だと博識だな……


「ドウズは、どこで覚えたの? もうちょっと身体に合わせた動き方とかあると思うし、ちゃんとした先生に教わったらもうちょっと矯正されると思うんだけど」

「ん? あー、俺は……」

『ドウズのは真っ当じゃない亜流だよ。どっかでお手本の動きをインストールして摺り合わせはしてたけど、肌に合わないって戻してたし。基本的には独自の物なんだよね』

「亜流?」

「んー、そうなんだよ。俺のコレは実を言うとリハビリ用でな」

「……リハビリ?」

「身体の動かないやつが、身体を動かせるようにするトレーニングみたいなやつだな。だから実を言うと真っ当な義体術とはちょっとズレるんだよ」

「……?」


 良くわかってないな、ユーシャ。

 ちゃんと説明をすればユーシャに俺の動き方の指導をしてもらえるかもしれない。異世界とは言え、そこで真っ当な戦闘訓練を受けているユーシャは俺より学がある。


「まず、俺はこの体になったのはお前さんよりも小さい時だ。いきなり、手術をしてこの体になった」

「うん」

「んで、そんないきなり体の大きさが変わると動けなくなるんだよ。ユーシャもいきなり俺みたいな大きさになったら動けると思うか?」

「……難しいと思う。いきなり大きさが変わったら、動かし方も違うし、歩く感覚も変になるだろうから」

「出来ないことはねえのか……まあ、そういうわけで手術が終わってから、俺は動けるように色々と体を動かすトレーニングをしてたんだが、その一環で体の動きを慣れさせるためにカスタマイズした義体術を教えられて、それをひたすらやってたんだよ」


 たしか……義体で格闘技を使うってかっこよくない? とロクヨウの親父に言われて俺は「かっけぇ!」と思ってひたすらやったんだよな。

 乗せるのが上手いおっさんだったよな……


「なるほど。だから基礎がしっかりしてるんだ」

「まあ、そういうことだ。戦う技術ってよりも、俺の場合は自分の体を動かすために義体術を使ってたんだ。だから、最適化をさせるんじゃなくてむしろ俺自身がお手本の動きに合わせてたんだ」

「確かに、それなら基礎も応用もできて発展してない理由は納得できるよ。うん、なら大丈夫」


 心強いユーシャの大丈夫。多分強くなれるってことか。

 ガラクの奴に勝てて勘違いしていたが……アレはわざわざ俺の陣地に乗り込んできて同じ土俵で戦った上での勝利だ。つまり、イーブンの状態なら分からなかった。

 そして自分の意識も変えていく。そうだよな……俺はロマン兵器が好きだ。かっこよさを求めているといっても良い。だが、ロマン好きを自称して基礎を疎かにするというのは本末転倒だ。泥の上に建つ建物はない。ロマンを実現するためにこそ、地力を上げなければならないのに忘れていた。

 ソニック社も言ってるじゃねえか。一定以上の技量を持った方にオススメしますと。


「うし! なら、俺のことを強くしてくれユーシャ……いや、先生!」

「――先生?」


 キョトンとした表情のユーシャだが、間違いなく先生だ。


「ああ。俺は学がねえからな。こうしてちゃんと動きを習うこともなかった。だから、教えてくれるってならユーシャは間違いなく先生だ……良いよな?」

「……先生。私が先生。ふふ、ふふふ……」


 すごい勢いでニコニコし始めた……そんなに嬉しいのか。

 リナが呆れたような……ん? 呆れてるのか、なんだろうか。なんとも言えない表情をしている。


『ドウズってそういうところ素直だよねぇ。プライドがーとかいいそうなのに』

「教わるのに年齢は関係ねえだろ。俺は学がねえし自己流でここまでやってきたんだ。なら、学ぶ機会があって教わる相手があるなら頭くらい下げる」

「ふふ、先生なんだ、私。……ちゃんと先生のいうことを聞くんだよ、ドウズくん?」


 ニヤニヤと笑みを浮かべながら、そうやって俺の頭をなで……

 と、そこで頭を軽く叩く。


「……痛い」

「あんまり調子に乗んな。あくまでも戦闘についてはだ。それ以外はいつもどおりだからな。それはそれ、これはこれだ。いいな?」

「……はーい」


 ちょっと不満そうだが納得したようだ。流石にいきなりでそんなに馴れ馴れしくするとは思わなくてちょっと反応が遅れたぞ。

 ……まあ、とはいえ先生とか言われると嬉しいだろうな。ちょっと俺も憧れる。


「……ん、ちょっとまって」

「ん?」


 視線を背後に向けるユーシャ。何事かと思えば……ユーシャが飛び退く。俺も、一瞬で理解して回避。

 そこに着弾するミサイル。爆発と共に、次なる襲撃が来たと理解した。


「クソ! いきなりか。まだ兵装は仮の……」

「ドウズは見てて」


 ユーシャがそんなふうに言う。

 そうして模擬刀を軽く振り、何者かが攻撃してきた方向を睨む。


「――先生になったんだから、先生らしいところを見せてあげるね」


 そう言って獰猛に微笑んだ。

設定的な強さですが、意外と現状のドウズは低いです

基本的に学がない(真っ当な教育を受けておらず半分以上は自己流)ので、ちゃんと戦闘訓練をした相手にはリナがいないとあっさり負けます

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