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帰還してからお話し合い

いつも誤字報告や感想などありがとうございます

 事務所に戻ってきて、茶を飲んでいるサムライ。


「お前、なんで事務所に――」

『ドウズーーーーーーーーーーーー!!!!』


 ぐおっ! リナが一気に俺に情報を送り込む。感情が高ぶりすぎてあいつ、コントロールできてねえな! くそ、頭が割れそうだ。ギリギリで情報をシャットダウン。

 シャットダウンする前に涙目で本当に心から安堵しているリナの姿が見えて、心が痛んだ。

 電子妖精は肉体がない。だからこそ、情報に頼り情報とともに生きる。感情の高ぶりが起きると何が起きるかと言えば、過剰な情報の送信だ。まあ、なんだ。簡単に言うと物理的にハードをぶっ壊すレベルの大容量ファイルが無理矢理送られてくるに近い。

 まあ、心配させた俺の自業自得か……しかも俺に向けてだからサムライの野郎には影響はなく涼しい顔だ。イラッとするな……

 と、シャットダウンが解除されたとのウインドウが表示されてリナが見える。


『――ドウズ! ドウズ! 良かった! 良かったよおおお!』

「やっと冷静になったか……いやまあ、冷静になってもシャットダウン解除してくるのは怖いが」

『だって、ドウズが大丈夫だったもん! 死んだんじゃんないかと思ってたもん……』


 そういいながら、グスグスと泣いている。相当に心配させたようだ。

 ……そういえば、こんなに長時間連絡を取れないのも久々か。当時も心配させて……なんかひどい目にあったような記憶があるが思い出せない。止めておこう。


「すまんなリナ、心配をかけた。色々あったが大丈夫だ」

『グスッ……よかった……本当に良かった……』

「私も心配した。ドウズが元気そうで良かった……なんだか、少し痩せた?」

「おう、ユーシャも心配かけたな。痩せたのは痩せたぞ」

『あっ! リジェネシステム使ったの!? 大丈夫!? そっちのドウズをいじめたクソ野郎をぶっ殺そうか!? 今ならハッキングで……』

「まあ待て待て……んで、サムライよ。お前は俺の事務所で何してんだ?」

「ふむ、茶を飲ましてもらっている。ところでこの完璧な拘束は勘弁してもらいたい。立ち上がりも出来ないのだが」

「うるさい」


 そういいながらユーシャは茶を飲んでいた腕を拘束する。……やったのはユーシャか。こういう戦闘に関連することは得意なんだよなユーシャ。

 お茶を途中で取り上げられて、情けない顔になりながらサムライはそのままの格好で椅子に縛り付けられる。……なんというか、危険な犯罪者に対する拘束だな。


「お茶が途中だったのだが……ううむ、というか便利屋よ。出来るならこの少女をなんとかしてもらいたいのだがな。拙者としても争うのは本望ではないのだ」

「そう言ってるけど、武器を持ってきたのなら敵。そうだよね、ドウズ?」

「いや、まあ……意思次第じゃねえか? んで、サムライ。お前は何しに来たんだ」

「うむ? それはもちろん、手打ちに」


 ……手打ちだ? つまり、俺と和解をしようといいたいのか?


「テンドウ社から仕事を受けて命を狙ってたお前が手打ち? そんなのあり得るのか?」

「うむ、あり得るとも。理由がほしければ、ちゃんと説明をしてもいいが?」

「なら言ってくれ。じゃねえと、ユーシャもリナも納得しないからな」


 そういうと、首をかしげるユーシャとどっちでも良さそうなリナ。

 ……そうでもないのか。俺は気になるんだが。


「……乗り気ではなさそうだが?」

『私は別にどっちでもいいかなーって。ドウズに被害がなければ』

「ドウズ、殺すなら言ってくれたらするよ? 多分、今なら簡単ににトドメを刺せる」

「……まあ、いざとなったらな? そこまでしなくてもいいぞ」

「うん、分かった」

「……この少女の殺気が先程から辛いのだが……ここまで圧力を出せるのは相当修羅場をくぐっているだろう。正直、この少女がいたから来たことを拙者も後悔したぞ。久々に胃が痛い」


 空元気で笑みを浮かべているが、動揺を隠しきれずに冷や汗をかいているサムライ。

 ……異世界育ちのユーシャ、怖いな。まあ敵と見なしたらぶっ殺すが日常茶飯事だったのだろう。

 さて、サムライだが……わざわざこうして俺の事務所に乗り込んでくるというのであれば、意図は本物だろう。サイボーグにとって鬼門である電子妖精がいる相手の本拠地にわざわざ乗り込んでくるというのは相当の覚悟を持ってのが伺い知れる。


「まあ、とりあえずは説明をしてくれ。少なくとも俺はそれで納得をしたい」

「ふむ……まあ、主な原因はお主のせいだぞ?」

「俺?」

「うむ、必殺を躱されてあのお主の隠し玉で手痛い反撃を受けたからな。アレを見せられれば文句の一つでも言いたくなるぞ」


 サムライからそう言うが、俺としては死なないだけの必死な立ち回りの末に最後の手段まで切らされた。おまけに兵装も失って死ぬ寸前だったんだがな。

 まあ、見る立場が変われば印象も変わるか。


「ほれ、見ろ。拙者も生体再生治療に、義体の調整。溶鉱炉で戦ったのかと技師から苦言を申されたくらいだ。溶けた義体が生体に混じって後遺症ができるのではないかと不安になったくらいだ」


 そういって着物をめくり……うお、ひどい状態だな。治療中のようだが、それでも痛々しい。肉も焼けているし義体も解けている。我ながら酷い攻撃だな。

 ドン引きしている反応を見て笑みを浮かべるサムライ。


「うむうむ。いい反応をしてくれるのう。……どうにも、ここの少女たちはどうにも反応がつまらなくてな。この傷を見ても動揺一つしないのだ。こうせめて、恥ずかしがるくらいはあってもいいだろうに」

「このくらいなら、別に」

『敵の傷なんかどうでもいいよ』

「……あー、まあ相手が悪い」


 リナは興味なし。ユーシャは見慣れてると。とはいえ、そういう楽しみ方をしようとしてたのかよ、サムライ。

 ……戦っているときは武人然とした奴かと思ったが……まあ、普段と仕事のときはスイッチを切り替えるか。


「それはさておき、手打ちの理由はこの傷も原因の一つだ」

「……怪我をしたくらいで諦めるっていうのか? いや、まあ相当痛手を負わせたとは思ってるが……それでも諦めるにはちと弱いだろ?」

「まあ、再生治療に、義体の調整。拙者のカタナも新調して一張羅の着物も作り直しで相当損をしたぞ? まあそれでも前金のみでギリギリ赤字ではないのだが……」

「それで赤字じゃねえのかよ……」


 ちょっと羨ましい。そんな報酬を貰える仕事なら受けるだろうな。

 それが俺を狙った依頼じゃなけりゃなぁ……


「だがな、その段階ですでに続ける意思がなくなったのだよ。故に手打ちにしたいと思ってな」

「ん? いやいや、信用とかあるんじゃねえか? そんな簡単に辞めるなんていうなら誰も依頼しなくなるだろ」


 ハンターとはいえ、これだけ名前の売れた奴が簡単に仕事を諦めるなどをしたら色々と信用問題になるだろう。

 だが、その言葉に「普通ならそうだが……」というサムライ。


「我らにもプライドはある。テンドウ社の依頼に関して、拙者を含めて三人共内心では相当に不満を抱えているのだ」

「……ん? サムライ、オーガ、サイレントの三人に頼んだ依頼だよな? 何が不満なんだ?」

「三人に頼んだことだ。拙者たちが、まだ名前の売れてない場末のハンターであればそんな事は気にすることはないだろう。だが、指名された依頼を受ける程度に名前を売り、己の腕に拙者達は誇りを持っている。破格の報酬だとしても、成果を競わせる競走馬のように扱われていい気はせんよ」

「……ああ、何となく分かるな」


 ハンターとしての名声がある。それならば、安売りをする必要はない。破格の報酬だとしても、それを一人に頼むならまだしも、三人に頼むことはそれぞれのプライドを蔑視しているということか。

 俺だって下水道の掃除を他の便利屋と一緒に競わされるようにされたら、良い気はしないな。


「一人に頼むのであれば信頼に答えるべく、多少の赤字だとしてもプライドに賭けて限界まで挑んで倒しただろう。拙者も死なぬなら己のハンターとしての誇りに賭けてお主を倒していた」

「だが、三人に頼んだなら依頼主に対する義理なんてないってことか」

「うむ。テンドウ社の交渉人にも言ったのだが聞き入れられなかったな。子飼いの犬が失敗したからか知らんが、大企業気分で犬に肉をやる気分で仕事を投げられてもこちらとしては不快なだけだ。信用して、信頼が生まれるのだ」

「理屈はわかる」


 低く見られれば、それだけの仕事しか来ない。舐められたら終わりであり、信頼と信用の仕事だ。

 サムライの理屈はわかった。確かに、それなら手打ちにしておいたほうが良いとは考えるだろう。


「テンドウ社にもすでに手を引くと伝える準備はしている。なにか言ってきても、「そのために3人に依頼をしたのだろう?」と返せばいい。テンドウ社から圧力をかけられようが、己の誇りに比べればそよ風のようなものよ」

「……ふむ、俺も別にアンタに恨みはないからな」

『えー? いいの? コイツぶっ殺すして情報抜く準備はしてるよ』

「やるなら、私もやる」


 ムンと気合を入れるユーシャとリナ。止めてやれ、涼しい顔をしているようで冷や汗を流しているぞ、サムライのやつ。


「いいんだ。サムライも仕事だからな。何が悪いっていえばテンドウ社だろ。それに、この後にもまだオーガとサイレントが構えてる。揉めて、後ろから刺されたくないからな」

「うむ、少なくとも拙者からは何も干渉しないことを誓おう」

「ああ。ついでにオーガとサイレントについて……」

「それに関して拙者は何も言わんよ」


 ついでに情報を教えてくれないか聞いてみるが、流石にそれは教えてくれなかった。

 まあそりゃそうか。商売敵かもしれないが同業者の情報を売るようなやつは信頼できないしな。


「まあ、そうだよな。無手で乗り込んできたのは誠意の証だろ? だからアンタのことは信用する」

「うむ。それならばよかった。流石に肝が冷えたが、それだけの価値はあったな」


 そういって立ち上がるサムライ。

 いつの間にか脚の拘束を解いていた。ユーシャも驚いている。まだなにか隠している手があるのだろう。

 ……ただ、上半身の拘束は解けてないが。


「……すまぬ。手の拘束がどうしても解けぬから開放してくれんか? 拙者もこれだと扉も開けれぬから、帰れないのだが」

「……ドウズ、どうするの? ちょっと面白いからこのままでもいいかなーって思うけど」

「それは……そうだな……流石に可愛そうだから解いてやってくれ」


 流石に武士の情けと言うか、面白そうだと思ったがちょっと泣きそうな顔になったので仏心が湧いた。そのままユーシャに開放されて、身体を伸ばすサムライ。


「さて、ではそちらの妖精と手打ちの同意に関しては決めておく。それでよいか?」

『……まー、ドウズが許すならいいよ。後で連絡先送って。事務所のアドレス送るから』

「うむ。ではな」


 そう言って去っていくサムライ。……なんか別件で会えたら、面白い関係になれそうな奴だったな。

 さて……


「それで、ドウズ。何があったの? 教えて?」

『あいつ何も言わなかったんだよ! もう一から十まで全部説明させるからね! あと、兵装無くなってるじゃん! 終わったらロクヨウに連絡してるし工房送りだから! 分かってるよね!?』

「……ああ、分かったからちょっと休憩させてくれ」


 騒がしい二人に声をかけられながら、ようやく戻ってきた実感を得るのだった。

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