束の間の平和と未来世界観光
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――さて、ガラクの警告から数日。俺は襲撃者に襲われる……なんていうことはなかった。実に平穏な日々を過ごしている。
別にガラクが嘘をついていたわけではない。実際に三人のハンターが動いている情報も裏付けが取れた。少なくとも大口の仕事を受けて準備をしているというのは判明している。それを聞いたときには、そのまま俺を狙ってくるかと思ったが……
数日はひたすらに警戒していたのだが、そんな俺を見てリナが呆れたように言ったのだ。
『異名が伝わるような歴戦のハンターが考えなしに突撃してくるわけ無いよー? ちゃんとドウズを倒せるって踏めるまでは動いてこないと思う。私も情報操作してるからまだ猶予はあるんじゃない? ただ、どれだけ私が情報を抑えようとしても相手側が本気出して探られたら厳しいかなー。情報系専門の電子妖精当たりに探られたら、私の隠蔽程度じゃ無理だろうし』
「なるほど、そうか……すまんな、リナ。俺も浮足立ってたみたいだ。苦労をかけるな」
『あはは、今更でしょ? 私が好きでやってるんだもん』
「そうか。でもな、ありがたいって気持ちは変わらないからぞ」
『えへへー、ありがと! ……まあ、救いはあの変態殺し屋と違ってハンターはちゃんとお金で動いてるから採算が取れないなら撤退もあるってことかなぁ。そりゃ信用とか色々あるから簡単には撤退はしないだろうけど』
「あくまでもビジネスってわけだからな」
『そうそう。仕事に対するプライドはあるんだろうけど、それでも義体と命あっての物種だからね。だから三人に声をかけたんだと思う。誰か失敗しても問題がないように』
「高く見積もられたもんだ」
まあ、ガラクの野郎を撃退したせいなんだろうが。
ハンターという仕事にプロ意識を持って、報酬を貰ったからには仕事を完遂するという奴も稀にはいるが……基本的に、ハンターの資本は己の身体が一番。さらに、ハンターのライセンスは更新があり、その際に義体の換装や新たな身体の義体化をしている場合には再審査され、場合によってはランクの格下げやライセンスの無効化をされることもあるのだ。
だからこそ、一流と呼ばれるハンターは無理をしない。失敗した場合の条件を予めちゃんと決めて、無理だと判断すれば損をしてでも撤退をする。
だからこそ、ハンターに対して俺がすることはシンプルな力比べで返り討ちにすることだ。相手が採算を取れないと判断させれば俺の勝ちだろう。
「まあ、ぶっ倒せばいいってのは分かりやすい。それよりもリナ、金の方は大丈夫か?」
『うん、大丈夫~。最低限の食事代で済んでるし予想よりは余裕があるよ』
「ああ……自給自足で助かるっちゃ助かるが」
「~♪」
視線をソファに向けると、机の上にランチセットを置いて嬉しそうに焼いたネズミ肉を食べているユーシャ。調理道具と冷凍保存の機器を渡したら二日三日で使い方をマスターしたのだから、子供は飲み込みが早い。まあ、食い意地が張ってる可能性もあるが。
と、そこで俺が見ていたことに気づいたらしくこちらを見る。
「……えっと、食べる?」
「いや、食えねえ。俺はこれでいいからな」
「うぇぇ……」
「……なんて顔すんだよ、ユーシャ」
ソニック社の社印の入ったオイル缶を見せると、とんでもない顔でしかめ面になる。一回俺が飲んでいるのを見て隠れて口にして悶絶していたせいだが……
やっぱりユーシャ、食い意地が張ってるな……飲み込みが早いわけじゃなくて。
「えっと、ならどうしたの?」
「ん? ……あー、そうだな。リナ、俺の予定は?」
『特になしかな~』
ふむ、なら別段やることもないわけか。襲撃にビクビクしても仕方ない。
ソニック社製のオイルを飲み干して、ソファに座って肉を食べているユーシャに声をかける。
「じゃあユーシャ、今日も行くか?」
「見回り? うん。行く」
そういうと、一気に食べきって立ち上がる。そこで汚れているユーシャの口の周りをハンカチで拭ってやり、俺はコートを着てユーシャと共に外に出る。……なんだろうな、本当に保護者みたいな気分だ。いや、実際やってることは保護者か。
二人で外に出て、市街地区を歩く……何をしているのかと言えば、魔王探しだ。目視すれば魔法を使うかどうか分かるらしい。見つからなくても、こうしてユーシャを連れて外を見回るだけで気分転換にもなるので案外良いものだったりする。
ユーシャも、俺たちの世界を見て楽しそうに笑顔を浮かべている。
「ねえねえ、ドウズ」
「ん? なんだ?」
そして、ちょっと前からユーシャから「ドウズさん」から「ドウズ」と呼ばれるようになった。俺が許したのもあるが、気を許してくれたらしい。
気難しいアンドロイドの対応が丸くなったような、達成感と特別感があってちょっと嬉しいものだ。
コートの裾を引っ張るあたり、近所の子供とかそういう感じだが。
「あれは何なのかな?」
「あれ? ……ああ、アレは自動清掃機械だな。道を掃除する機械だ。まあ市街は数は少ないが」
指を指した先には、腰ぐらいの高さの機械がランダムに動いて道の清掃をしている。
見た目はドラム缶みたいだが、意外と優秀で歩行の邪魔にもならずとんでもなく丈夫だ。
「アレもその……「あんどろいど」なの?」
「いや、アレは違う。機械だぞ。アンドロイドは思考をして、様々な用途の仕事をこなすことが出来る人間型の機械のことだ。そういう意味じゃ、あれは機械だな。まあ人間型でも機械はあるんだが……まあそれは難しいからまた今度な」
「そうなんだ……んー、じゃあドウズはアンドロイド?」
「俺はサイボーグ。身体に機械を埋め込んでたり置き換えてるが、人間の脳みそを持ってりゃサイボーグだ。ちなみに間違えると相当に怒られるぞ」
「……うぅ、難しい……怒る?」
「俺はそこまで気にしねえから安心しろ。とはいえ、下手なサイボーグとアンドロイドは見分けがつかないことも多いんだ。そういう時は目を見ろ。目の色が緑色ならアンドロイドだ」
「……そうなの?」
「そうだ。これは見分けがつくようにって理由で存在しない緑色の目の色になったんだ。俺も赤だろ?」
「ん、んー……うん、本当だ。赤い……分かった。ありがとうね、ドウズ」
「気にすんな。色々とあるだろうが、無用なトラブルに巻き込まれるのはつまらないだろ? せっかくだから俺達の世界を楽しんでほしいからな」
ちなみに、このアンドロイドとサイボーグに関することで過去に色々とトラブルはあったのだ。目の色はその影響だったりする。
そんな風に、俺たちの世界について説明をしながら二人で歩道を歩いていく。
と、そこで廃棄地区と市街地区の境目に到着する。俺たちの住んでいる第五地区から廃棄地区に入る道では毎日のようにバザーをやっている。まあ、いうなれば闇市だ。様々な回収されたゴミが売られていて、時たま掘り出し物が見つかるかもしれない。そんな場所だ。
市街地区からも人が来る。思ってもないものが売っていたりするから、ここでは廃棄地区の住人も市街地区の住人も関係がない混沌の坩堝だ。
「どうだ?」
「んー、ちょっと待って」
そういいながらじっと人混みを見つめるユーシャ。
何をしているのかと言えば、魔王が混じっていないかを見ているらしい。
「……いない。魔力を感じる人はいないし、それっぽい姿もない」
「まあ、そんな簡単に見つかるものでもないか」
「うん。それで、ドウズ。その……」
「ああ、いいぞ。小遣いやるから行って来い」
「うん!」
そう言って笑顔で走り出して、廃棄地区のバザーの人混みに消えていく。
さて、俺もバザーを見て回るか。
『――ドウズも甘いよねぇ』
「おう、リナ」
先程まで姿を見せていなかったリナが現れる。
まあ、近くにいるとユーシャに見られるから落ち着かないらしい。なので、基本的に音声を聞いてるだけだったりするらしい。
「甘いか?」
『甘いっていうか、なんだろ。自由にさせすぎ? 下手したらトラブルの元になるのにさー』
「でもリナも反対してねえだろ」
『だって、ドウズがそうしたいんでしょ? なら私はこうやって言うだけだよ~』
笑顔でそう言われると、俺も何も返せない。
消極的なわけではなく、全面的に俺のためにしか動かないからこそこういう事を言うんだと。俺が思考するように、こうして意見を言うが基本否定はしない。
……怖い奴だよな。ある意味。魔性の妖精かもしれない。
『ああ、そうそう。情報だけどね』
「ああ。「サムライ」と「オーガ」、それに「サイレント」の情報だ」
有名だが、その実態は謎に包まれているハンター。この三人についてリナに調べてもらっていた。
だが……
『まあ、当然だけどあんまり分からなかったねー。ああ、容姿のデータくらいなら送れるよ』
「……まあ、そうだよな。んじゃ、後で送ってくれ」
『はいはーい。まあ、戦闘とかハンター業務に関わる部分は電子妖精に頼んで隠蔽はして貰ってるよね。だから異名を頼りにするしかないけど……』
「それも罠の可能性があると」
『そうそう。ちなみに、「サイレント」に関しては本当に情報不明。隠蔽の気配すらなしだったの』
「……そりゃ怖いな」
容姿データすらないってのは奇襲にも警戒するべきか。
テンドウ社との交渉に関しての進展も聞いてみる。
「どうだ? リナ、テンドウ社との交渉は」
『いい報告と悪い報告の二つ~』
「悪い方からで」
『はいはーい。まず、ハンターに関してはもう諦めたほうがいいかも。テンドウ社では派閥が二つあって、急進派と穏健派。異世界からの物資をドンドン使っていくべきだっていう急進派と、いざという時を考えて穏当に進めてダメージを減らすべきだっていう穏健派が言い争いしてるんだけど、ハンターに関しては撤回はありえないって』
「まあ、そりゃそうだ。とはいえ、追加戦力はないんだろう?」
『そうそう。ちょっといい報告。流石にハンターに頼むお金って相当かかるし、指名したからこの進退次第で発言権が変わるっぽいよ。まあ、有名な三人に頼んでるし、私達さえ潰せば問題はないから急進派は楽観してるっぽいけど』
「……ふと疑問なんだが、テンドウ社側からすれば俺たちは秘密を知ってるだけだろ? そこまでする必要があるのか? 口封じに使う金を超えてるだろ」
『それなんだけどね? ……こっそり聞いたんだけど……今回の磁場異常は、過去にないほどのレベルだったんだってさ。どうもデータを見てみると、規模に応じて手に入るものが貴重になっていたらしいの。だから、私達は相当に貴重な物資を手にいれた思ってるみたい』
「……まあ貴重っていや、貴重だな。オンリーワンだ」
『ある意味間違ってないのがねぇ』
苦笑するリナ。異世界の人間……それもバカ強い勇者娘を拾ったからな。
確かに金に変えられない価値はあるだろう。とはいえ、奴らがほしがっているものとはちょっとズレるんじゃないかと思う。植物の種に関しても、テンドウ社が欲しがるかといえば微妙な所だ。
「で、いい報告ってのは?」
『テンドウ社と連絡つけれたの。穏健派だけど、割と話がわかってくれるの。そういうわけで、ハンターの襲撃さえ乗り切ればテンドウ社との敵対はなくなるって考えればいいよ』
「なるほどな。つまり、俺たちが図らずもテンドウ社の派閥争いの争点になってるわけか」
『だねぇ。私達という不確定の爆弾を抱えるか、後腐れなくさっぱり消し去るか。まあ、本音だと消したいんだろうけど』
「まあ、俺も逆の立場ならさくっと消えて欲しいとは思うな」
巻き込まれた俺たちは迷惑だが。まあ、テンドウ社という大企業に狙われてる話に明確な終わりが見えているのは気持ちが楽だ。
「……ん?」
ふと、気づく。今まで周囲にいたはずの人だかりがいっさいない。どういうことだ? 周囲を確認するが、バザー会場じゃない。場所としては……いや、覚えがある。廃棄地区の外れにある、ひらけた人影のない荒れ果てた荒野だ。境目だったはずなのに、いつの間に踏み込んだ?
どういうことだ? 気づかないうちに拉致を……いや、違う。俺が無意識に歩いてここに来た。歩行ログを見れば、無意識のうちに足がここへと向かっていたのが分かる。
「……リナ!」
『――ごめん! 妨害! 気づかなかった! こんなに面倒くさい手続きでハッキングして、気づかないように歩かせるだけって何!? 早く元の場所に――』
「――いや、ダメだな。もう遅い」
目の前に、何者かがやってくる。
――どうやら、平和な一時というのはあっさりと終わるらしい。




