未来世界の招ざかれる客
風邪気味なのでダウンしたら申し訳ないです
「んっ、二十匹目!」
そういって、ネズミの首を剣で跳ねるユーシャ。
俺も俺で、負けないように見つけたネズミを掴み上げて頚椎を折る。ゴキリという、少々不快な感触がする。とはいえ、血も出なくて汚れないからこれでいい。
一方ユーシャはネズミから飛んだ血でズブ濡れだ。正直、見ていてかなり猟奇的な光景だとは思う。
「ドウズさん、その死体貸して? 血抜きをするから」
「……まあいいけど、冷蔵庫とかねえぞ?」
「れいぞうこ?」
「ああ、食品とか保存する機械だ。そんなに大量の肉を持ってても腐るだろ?」
「大丈夫。異世界では……えっとね、こうして……※※※」
何かを唱えると一瞬で空間の温度が下がる。何だと思えば、ネズミ肉の周囲が恐ろしいほどに気温が下がっていて、空気が凍り局所的に雪が降っている。
呆気にとられてみているうちに、ドンドンと雪が積もっていって、先程ユーシャが処理していたネズミ肉がカチコチに凍ってしまった。
「すげえな、雪を降らせて凍らせることもできんのか。魔法ってのは」
「……凄い、ここまで綺麗に凍ることはなかったから……ビックリしてる」
ユーシャ本人も驚いている。元の世界では、もうちょっと不便だったのか。
温度低下の影響で、近くの下水も一部分だが凍っている。まあ放置しとけば溶けるだろうが……
こうしてみると理不尽でかなり怖い技術だな。魔法というのは。
「その魔法、人間相手に使ったら、あっという間に殺せそうだな」
「しないよ? それに、生き物に使うのは難しいの。相手が魔力を持ってると、それだけで難易度がとっても上がるし……あと、なんて言ったらいいんだろう……」
悩む表情を浮かべるユーシャ。まあ、違う技術の説明は難しいよなと思いながら次の言葉を待つ。
「――動かないものにするならいいけど、生きて動いてるものに使うのは凄い難しいの。えっと、動かないものに対して使う魔法は、大きい石に向かって石を投げる感じ。生き物に魔法を使うのは、川で泳いでる魚に石をぶつける感じ」
「ああ、そりゃ難しいな」
(……ふむ、もしかしてこれ、座標と物体を指定してんのか?)
ユーシャの話を聞いて俺なりに理解をする。それなら分からないでもない。ここにあるこれを凍らせるために温度を下げるということで、周囲への影響は副産物なのだろう。水に石を投げた波紋みたいなものか。
それに、ユーシャが使うときには集中していた様子だし、使っている最中に動けないと考えると……コレ自体は実践的ではないな。ちょっとだけ安心する。
「ありがとうな、よくわかった。……しかし、ユーシャのネズミ狩りの速度は凄いな。俺はまだ10匹だ」
「ふふん、魔物退治で慣れてるから」
そう言って自信満々に胸を張るユーシャ。自分の得意分野だからか、かなり自信満々だ。
実際、ネズミ狩りの時の動きは確かに野生の獣を殺すのに慣れた動きだ。気配を気取られないように足音を消し、一瞬で首を刈り取る。俺には出来ない挙動だ。素直に感心する。
……とはいえ、流石に自分よりも随分下の少女に倍も差をつけられてると悔しいからちょっと気合を入れる。
「ユーシャのおかげでこの仕事も早く終わりそうだ」
「どれだけ狩ったら終わりなの?」
「ちゃんとカウントする機械を俺が持ってる。今回は……まあ、100匹って所だな。定期的に一定数を狩って間引くのが目的だ」
「……全滅はさせないの?」
「そうすると、ここで生まれた生態系が崩れるからな。廃棄地区の人間も潜り込んで狩ってる関係上、下手に狩りすぎると何が起きるか分からねえから止められてる」
事故防止のためにわざわざ中央の方で下水道の生態系を観測している。あの管理者AIがそれだ。計測できる数から一定数に安定させるように間引きの指示を出しているのだ。
過去に、実際とある害虫を薬剤で一斉駆除した瞬間に、そいつらが食べていたことで抑えられていた厄介な害虫がバイオハザードを起こして地上に出没。あらゆる便利屋、駆除屋、ハンターが総出になって倒す自体に発展したことがある。なので中央はこういう駆除に対してはかなり慎重になっている。
「というわけでだ。このままサクサクいくぞ」
「うん、任せて」
そういいながら解体に使っていたナイフを投げて、ネズミを仕留める。ちなみに俺は気づかなかった
……ちょっとだけ義体の出力を上げる。ズルではないと自分に言い聞かせ、ネズミを探すためにモノアイを動かすのだった。
キイキイと小さい鳴き声をあげながら、仲間が反応しないことに首を傾げるネズミ。
そうして、違和感を感じ取ったのか、首をあげ周囲を確認し……その瞬間に、そのネズミは生を終える。
ユーシャの剣による一刀で、首と胴体が分かれて身体が力なく崩れ落ちた。
――狩り始めてから四時間。これで百匹目を狩り終わった。
「ふぅ……お疲れ様、ドウズさん」
「はぁ……いや、大丈夫だ……そっちこそお疲れ様だ。六十匹はそっちで狩ったからな……本当に助かったぞ」
「ううん。このくらいは楽。もっと面倒なのが魔物にいたから」
「そ、そうか……」
俺も本気でやったんだが結局追いつけず、義体ながら負荷を表すための疲労信号が送られてくる。ちなみにユーシャは余裕の表情だ。本当にどういう環境なんだ異世界……まあ、仕事が早く終わったことはいいことだ。
「本当にありがとうな。普段なら、今日の倍以上は時間がかかってたからな」
「いいよ、私もいっぱい動けて楽しかったから。あと、お肉もいっぱい」
ホクホクとした顔で最初の場所に戻ると冷凍された大量のネズミ肉。
……保存用の器具とかあったか? 調理する道具もこの体になって久しく用意してないからな……
そしてハシゴを登り地上に戻り、準備室の洗浄ルームに入る。
「あ、ドウズさん。この服は……」
「そこで脱ぐなよ! まずは、そのまま洗浄ルームに入って綺麗になってから更衣室で着替えろ!」
「うん、分かった」
本当に羞恥心とか教えるべきだろうか。でも俺全身義体だからなのか……? という悩みを持ちながら、俺も洗浄ルームに入って入浴をする。
……風呂っていうか、なんだろうな。生体が多いなら豪華なシャワールームなのだが、俺みたいな全身義体は車の洗車に近い。高圧水流で流されて、ウォッシャー用のブラシで四方八方からガシガシ洗われる。風呂を楽しめないのは、全身義体の寂しいところだ。
そうして清掃が終わり洗浄ルームの外に出ると、すでにユーシャは元の格好になり待っていた。まあ、生体と義体で時間は違うしな。嗅覚を再起動。よし、臭いなし。
と、そこでリナからの通信も復活する。
『――お疲れ様ー。一応聞いてたからお肉焼く道具と、簡易冷凍庫を注文しといたよ。まあ中古の安い奴だけど』
「ああ、ありがとなリナ」
「ありがとう、リナさん! やったー、お肉、お肉♪」
スキップでもしそうなくらいにウキウキな顔になっている。……なんだろうな、また今度廃棄地区のバザーと言う名の闇市に連れて行って買い食いさせると喜ぶかもしれない。
市街地区や、中央ではあまりそういう食事はないからな。屋台とか買い食いは廃棄地区くらいでしか楽しめない。
『それにしても、想像以上に早かったね。もっと時間が掛かると思ったけど……』
「ユーシャのおかげだな。本当にネズミ狩りは俺なんか足元にも及ばねえ。下手すると、ちょっとした戦闘なら俺も負けるかもな」
『……そこまで?』
「ああ。ある程度は理屈で動いてるが、半分は感覚だろうな。それが混じって、まあ失礼な言い方だが厄介な獣みたいな動きをしてる」
『ほえー、なるほど』
リナの気の抜けた返事だが、目の当たりにすると恐ろしいと思ってしまうくらいには強かった。
とはいえ、こうして普通に笑顔で肉の入ったバッグを抱える姿をみると可愛らしい女の子だ。
『……無理してない? 子供っぽいところあるし、張り合って義体に無理でも』
「さて、帰るか。管理者にはデータが行ってるから報告の必要もない」
「うん」
『ちょっと! ドウズ! 質問に答える!』
そうして、準備室から出た瞬間に、俺たちは嫌な予感を覚える。ユーシャも俺も一瞬でその場を避けて回避する。
その一刻後に、何者かが落下してくる。轟音、衝撃。何者だと思って見ると、見覚えのある顔の男……って、おいおい!
「よおおおおお! 久々だなぁ! 便利屋ぁああああ! 会いたかったぜぇえええ!」
「……ガラクかよ」
「ひああああああ!! ははははは! 名前を覚えててくれてるんだなぁああ!! 俺とお前は! 相思相愛だなぁ!! ドウズゥううううう!!」
「もう死んでくれねえかな、こいつ」
『回収屋のやつにクレームメール送ってやる』
「おう、死ぬほど送ってやれ」
以前襲ってきたテンドウ社の刺客である殺し屋のガラクだ。
テンションが異様に高い。前回ぶち抜いた場所も治っている。見たところ、生体のままだ……再生治療か。肉体を復元して治療する技術だが相当高いはずだ。金持ってんなコイツ。
「で、何のようだ。リベンジか?」
「ひはははははは! そうしたいが、今日は違うぜぇえええええ!」
「なら帰れよ」
「心外だなぁああああああ! 俺は忠告に来たってのによぉおおおおおお!!」
「……忠告?」
その言葉に、少しだけ意識を傾ける。
コイツは狂ってる変態だが、嘘はついてなかった。つまり、本当に忠告の可能性が高い。俺が聞く体制になったのを感じたのか、笑顔を消して無表情になる。
「テンドウ社にも派閥がある。その中の急進派がお前達の知ってる情報が許せないようでな。三人のハンターに直接指名をして依頼をした」
「……三人のハンター?」
「「オーガ」、「サムライ」、「サイレント」。この三人だ」
……その名前は。
『……聞き覚えがあるっていうか、ハンター業界に疎い私達でも聞いたことのある超有名な奴らじゃん! 依頼成功率は八割超えの超優秀ハンター!』
「ああ。その三人がドウズ。お前を狙いに来る」
……そこまでしてくるのか。
ハンターというのは中央から許可をもらっている賞金首狩りのことだ。目の前にいるガラクのような殺し屋と違い、破壊活動や本来は違法になる装備品や義体仕様の許可を貰って活動している。
この前のデュエットの兄弟は末端で依頼を探す側だが、先程の名前を上げた三人のレベルになれば使える義体や装備は中央でも貴重なレベルになる。相当に高い依頼金を払う必要があるが、それを払ってまで頼んだのだろう。
つまりだ――
「今までの比ではない奴らがお前の命を狙う。覚悟しておけ」
「……なんでわざわざ忠告したんだ? ガラク」
「それは……決まってるだろぉおおおおおお!?」
無表情から一転して、笑顔になるガラク。
「お前を殺すのは俺だからなぁあああああああ! なあ、ドウズうううううう!」
「……なるほどな」
聞いた俺が馬鹿だったというわけだ。
とはいえ、感謝を言っておく。
「助かった。また相手をしてやるよ」
「ひは……ひはああああああああああ! わかってるぜぇえええええ! また殺し合おうなああああ、ドウズううううううう!!!」
そう言って、そのまま一瞬で走り去っていく。
……嫌な約束をしたが、まあそれはいい。
「……リナ、とりあえずだ」
『うんうん、分かってるよ~。魔王探しもしながら、さっきのハンター対策だよね? まあ頑張るしかないよねぇ』
「……えっと、私もなにか……」
「ユーシャ、お前は依頼主だ。こっちは俺たちの事情だ。だから……あー、なんだ……そのだな……いざというときに、助けてくれ。な?」
「……うん!」
クソ、ずるいよな。泣きそうな顔をされたらそう言うしかないだろ。
そんな俺に向けられる呆れたような、生暖かいリナの視線がなんとも居心地悪かった。




