未来世界でのお仕事
平日は朝8時位の更新予定です
また、誤字報告ありがとうございます。とても助かっています
『ドウズー、これお仕事』
「おう……ああ、下水道掃除の依頼か」
『そうそう。また増えたらしいよ。まあ私達は仕事が続いて助かるけどね~』
「文字通り、汚れ仕事だけどな。金にはなる」
工房での支払いを済ませて帰ってから、俺とリナはとりあえず金になりそうな依頼を探していた。
緊急というわけではないが、この先が不安になる。それに継続的な仕事をしておかないと、切られる場合もある。
と、そんな会話を聞いていたユーシャが俺たちに聞いてくる。
「えっと、お金に困ってるなら……私のあげた花の種は売れないの?」
「ああ。物が物だからなぁ。それに、今のテンドウ社が睨んできてる状態で、存在しないはずの物資を売るような手段を取ると向こうも本気になる」
テンドウ社から見た俺たちは「秘密を握っている可能性はあるが、まだ何もしてない状態」だ。もしかしたら、まだ転移で資材を不当に入手している事について理解しきっていない可能性もある。だからこそ本気を出してこないのだろう。
だが、俺達がそれで手に入れたものを売りに出せば対処が変わる。秘密を知っている事がわかり、さらに売ることでその事実を広める可能性が高い人間と認識される。そうすれば、磁場異常地帯で行っていた工作やら、テンドウ社たちが非合法な手段で物資を手に入れ秘匿していた事実が知られてしまう。そこで、テンドウ社に中央から何かしらの干渉をされれば詰み。テンドウ社自体がこの世から消えさることになる。
そういう未来のあり得る行動を俺たちが取れば、テンドウ社は採算を度外視した行動に出る。本気で、大企業としての全ての力を使って、証拠も残らないように俺たちをこの世界から消すだろう。流石にそれに対抗できる奴は居ない。
「そういうわけで、これを売るとしてもテンドウ社との事が終わってからだな。なんで、それまでは金はないも同然だ。だからって、お前の依頼に手を抜くことはないから安心しろ」
「……なるほど。うん、わかった。お金がない」
分かったといいつつも、目線が泳いでいる。多分そこまで理解しきれてねえなこれは。まあ一気に喋ったから仕方ないだろう。
まあ、だが売れない事はわかったのなら問題はない。売れないから金がないので他の方法で稼ぐ。シンプルな話だ。
「まあ、そういうわけで仕事だな。事務所は……まあ襲撃はないか」
『うん。デュエット兄弟のハンティング失敗って情報は流しておいたから様子見に入ると思うよ。絶賛売出し中、飛ぶ鳥を落とす勢いなハンターだったし、流石にその二人が失敗となると警戒もするよね』
「生きて帰ったのはいいのか? 殺さない甘い対象だと思って命知らず共が来る可能性もあるが」
『むしろ、生きて帰ったのがプラスに働いてるかな~。何故か治療中のデュエット兄弟の写真が掲示板にアップされたの。弟の腕がねじ切られてるのを見て盛り上がってるよ。一部ではコラだとか、新兵器だとか考察されてて面白いよ。死んでたら、そういう盛り上がりはないし』
「何故か……ねぇ?」
『そうそう、何故か』
そう言って笑顔を浮かべるリナ……あのデータの受け渡しって治療中のデータも含まれてたのか。多分他にも何か情報操作や仕込みをしてるっぽいな。
優秀な相方を持って俺は幸運なことだ。
『デュエット兄弟は命からがら逃げ出し、治療をして今は潜伏中ってことになってるの。こういうのって、死んだ場合には不意打ちとか罠があるって考えるんだって。だから、警戒して不意打てば問題ないと思うの。でも、あの二人が命からがら逃げ出したなら真っ向から受けて立って返り討ちにした。だから、挑むのは難しいって考えにハンターはなるんだって。だからしばらくは他のハンターの襲撃は気にしなくていいと思うよ』
「そうか……まあ、リナが他にも色々してんだろうが。ならその間に仕事に精を出せるってわけだな」
『そうだねー。というわけで、いつものお役所お仕事。下水道掃除を頼める便利屋少ないから割もいいし、ちゃんと切られないようにしないとね?』
「あんまり好きじゃねえんだけどな……というわけで、俺達は仕事に行くから……」
「私も行きたい!」
……ん?
急に主張をしてきたユーシャに俺とリナは視線を向ける。
「私も行きたい! 私もお手伝いをしたい! お願い、連れて行って!」
「おお、今までにない強い主張だな……」
『え~? でも今回下水道だよ? 臭いよ? お留守番が嫌なら私が付き添って……』
「違うの、臭いのも大丈夫。お手伝いがしたいの! だから連れて行って!」
『大丈夫って……結構吐くレベルで臭いけど』
「本当にそれは大丈夫。死ぬほど臭いのと戦ったこともある」
……あえて聞かない。ユーシャの魔王暗殺の旅はどうもハードすぎて、俺達が聞いて悲しくなってくるし普通にドン引きしてしまう。
手伝いたいか……気にするなとは言っているが、前の俺を殴り飛ばした失敗とかの自責心もあるんだろうな。
ううむ、どうするか……
「だが、あそこは危険だし生身の人間が行くのはちと……」
「お願い……ドウズさん……」
「ぐっ……いや、でもな……」
『ドウズ、どうするの~?』
「行きたい、お願い……」
「……ううむ」
必死に懇願するような顔。それを見て俺は――
「はぁ……車って凄い」
『どういうところが?』
「馬車より早いのに、揺れないし音楽も流れてるから」
「まあ、比べる対象がアレだが……お気に召したようで何よりだ」
結局、ユーシャのお願いに根負けして連れてきてしまった。初めて乗る車にビクビクしていたのは面白かったが、音楽を流しながら運転していたら案外すぐに慣れて楽しんでいた。
そうして降りると、そこはなにもない壁。
「……ドウズさん、なにもない」
「まあ見てろ。管理者。来たぞ」
その言葉に、壁だった場所から急に人が現れる。ユーシャは驚いて警戒するが、手で止める。
こいつは管理者のアンドロイドだ。見た目は老練な洗練された執事のように見えるが、サイボーグではなくAI管理されたアンドロイド(機械人形)の一種だ。このタイプは、公共施設やらで活用されている。
「ありがとうございます、便利屋さん。そちらお子さんは見学で?」
「見学じゃなくて、あー……まあ、手伝いだ」
「義体化率が低いようですが、よろしいので?」
「ああ。対策はとってある。問題はない」
「了解しました」
管理者は、丁寧にお辞儀をして顔をユーシャに向ける。
「お嬢さん、こちらへ近寄って頂けますか?」
「え、えっと……はい……」
「ありがとうございます。」
ユーシャは緊張した表情で近寄る。そして範囲に入るとアンドロイドは、ユーシャのことを数秒見つめると笑顔を浮かべる。
「問題はないでしょう。入退場の許可を致します」
「あ、ありがとうございます」
「いえ、お手伝い頑張ってください。いってらっしゃいませ」
そう言って管理者が合図をすると、壁だった場所の迷彩が消え下水道への入口が現れれる。そのまま管理者の見送りを受けて、下水道の中に入る。
足を踏み入れて開口一番、ユーシャは声を上げる。
「……凄い……下水道なのに、部屋になってる。すごい綺麗」
「ここは違うぞ。その一歩前の準備室だ」
まあ、勘違いする奴はたまにいる。下水道の入口の前に、ロッカーに洗浄ルームなどを準備して作業する人間を迎え入れる場所がある。
「そ、そうだったんだ……」
「まあ勘違いするよな。昔な、下水道作業の後にそのまま出てきて臭いとかでクレームが来てこうして準備室ができたんだ。ここで臭いを落としてから出てこいってわけだ」
『そうそう。そっちの洗浄ルーム、義体でも生体でもどっちでも対応してるの。しつこい汚れも落とせる優れもの、でも匂いのついた衣類とか、道具は洗えないから置いていけって感じ』
「すごいね……」
顔を赤くしながら感心しているユーシャ。そういや、どうするかな。
「ユーシャ、服はあるか? 貸し出し用の作業服があるが」
「……着たほうがいい?」
「その今着てる……なんだ? 鎧? 服に臭いがついて取れないなら着替えたほうがいいぞ」
「分かった」
そう言って、その場で……おい!
「更衣室で! 着替えろ!」
「……はーい。めんどくさい……」
「女の子だろ!」
『ユーシャちゃん、どういう生活してたんだろ……』
二人で心配になる……いや、俺たちはユーシャの親かよ。
そして着替え終わったユーシャがやってくる。
作業服というが、見た目としては少々ゴテッとしたウェットスーツに近い。伸縮性が高く、動きも阻害されないおまけに防御力も高い優れものだ。
まあ、体のラインが出るが……
「ユーシャ、ちゃんと飯を食おうな」
「え? うん、ゼリーじゃないなら食べる」
『……いっぱい食べさせられるように、何かお仕事とか探すね』
リナと俺で、思った以上に痩せて真っ平らになっているリナのスタイルを見てそう決める。発育が悪いのもあるんだろうが……普通に欠食児童って感じなんだよな。栄養を取らせてやりたい。
そんなやり取りをして、地下につながるハシゴを降りていき下水道に降りる。
そこは広大なコンクリートで出来た洞窟のような場所だ。薄っすらとした光が灯って視界はあるが、それでも視界は悪い。ゴウゴウという汚水の流れる音。漂ってくる不快な臭いをシャットアウトするために、俺は嗅覚を遮断する。
「ここが下水道だ。マスクはいるか?」
「ううん。思った以上に綺麗だし、匂いも普通だからいらない」
『いやいやいや!? データ計測してるけど相当な悪臭だよ!?』
「……俺もそう思う」
本当に異世界怖いな……ここの汚水は、中央から廃棄地区の一部からも流れていて相当に悪臭が漂うのに普通ってなんだよ。
まあ、文化レベルの違いなどもあるかもしれないが……
「それで、どういうお仕事なの?」
「そういや、その説明がまだだったか」
「うん。下水の中に入るの?」
「入らねえよ!?」
油断をすると、俺たちの常識外のことを言い出すので恐ろしい。下水に入る作業って明らかに便利屋に頼む仕事じゃねえだろ。
何の躊躇もなく言ったってことは……止めておこう。そういう仕事があると言われたら聞きたくない。
『――えっとね、下水には住み着いてる生物の駆除だね』
「リナさん、なんだか薄い?」
そのユーシャの指摘に、姿の見えないリナの声のトーンが落ちる。
『……どういう理屈で見えてるんだろ、それ。まあ、ここは繋がりになるネットが弱いから、ドウズをルーターにしてギリギリ繋いでる感じなんだよね。つまり、私はほとんど無力。サーチも出来ないからさー。この後は私は離れるよ』
「そうなの? ……なら、リナさんは居ないんだ」
『まあ会話とかはある程度聞いてるけど、ここでは役たたずってわけ。でも、薄いっていう指摘面白いなぁ。電子体を感覚で見てるのかな?』
「まあ、その話は後でいいだろ。ということでユーシャ、俺とお前で頑張るしかないってことだ」
「うん。頑張る」
『二人が頑張ってる間、私は外で色々とお仕事とか雑務をしてるからね~。緊急のときはドウズに言ってね? ドウズとは緊急回線があるから……』
「もういいだろ。終わらなくなるぞ」
『あはは、そうだね。じゃあね~』
そう言ってリナの気配が消える。
……さて、仕事だ。と、その前に。
「ああ。そういやユーシャ、お前の道具は……」
「退治だよね? なら、これがある」
そう言って取り出したのは、小型の剣……剣!? どこにしまってたんだソレ。
「愛用の剣。魔物退治にも使ってた」
「……まあいいんじゃねえか? 俺も素手みたいなもんだしな」
思っていた以上に原始的な武器が出てきてビビったが、悪くはない。むしろ今回やる仕事ではそっちのほうがいいだろう。
俺は専用の臭い避けの手袋をつけて、説明をする。
「下水道に住み着いてるネズミと虫が退治する対象だ。相当に進化してミュータントみたいになってるんだよ」
「みゅーたんと?」
「まあ、バケモノみたいなもんだ。異常にデカいとか、意味のわからない身体のパーツがあるみたいな変な進化をしてるんだ。で、そいつらは場合によっては外に出てきて襲ったり、重要な配線やらパイプを噛み切ったりする。そういうのを定期的に間引いておくのがこの仕事だ」
「……つまり、見つけたら殺せばいい?」
「まあ、そうだな。そういうシンプルな仕事だ」
とはいえ、人気はない。義体を齧って餌にするミュータント達を相手にするのは神経を使うし、下水という環境に長時間居ることは精神的に辛い。俺みたいな全身義体でないと、臭いだけでもノイローゼになる仕事だ。それに、たまにどこかの排出口から潜り込んできた廃棄地区の人間やらも居たりする。
「人間は見つけたらスルーするか、俺に知らせてくれ」
「うん」
「じゃあ、行くか――」
と、その瞬間に眼の前からユーシャが消える。
呆気にとられていると、ギイッという断末魔が聞こえてきて、後ろを見る。すると、そこにはユーシャの体格の半分もあるネズミを持っていた剣で真っ二つにしていた。
どうやら、一瞬で俺の背後にいたネズミを見つけて、仕留めたらしいが……
「よし、一匹目。ねえ、ドウズさん。このくらいのが普通?」
「あ、ああ……それは一般的なやつだな」
「……うーん」
ユーシャはネズミの死体を前に悩んでいる表情をして、何だと思っていると懐から小さい刀を出して……んんっ!?
「何してんだ!?」
「何って……解体。お肉だし、ネズミは食べれるよね?」
「いや、食べれるのは食べれるが……」
「なら、お肉」
嬉しそうな顔で手際よく解体していくユーシャ。手際よく、一瞬でネズミだったものから何かの加工肉になっていく。
……異世界育ちってバイタリティがすげえんだな。そんな子供みたいな感想が出てくるのだった。
沢山の人に見て頂けているようで感謝の気持ちでいっぱいです
面白いと思えるように書いていきますので、これからもよろしくおねがいします




