始まりとか出会いとか
近未来っぽさ強めの作品
可愛い勇者娘がSFな世界に転移してきたら……って感じで思いついて書いてみました
ゴウンゴウンという休止状態だったコンベアの動く音で目が覚める。
全身の義体が意識の覚醒とともに起動して、朝のルーチンとして起動する身体のセルフチェック。オールグリーン。
身体を動かし馴染ませて問題がないと確認をしてから動き出す。朝は決まってソニック社製のオイルだ。好みは分かれるらしいが俺は好きな味だ。味覚機能を遮断すれば何でも同じという奴らとは話が合わない。
窓から外を眺める。機械の森とでも言うべき風景。パイプは血管のように張り巡らされ、そこかしこで端末装置が演算を繰り返す。光は昼夜問わずに照らし続けて空は排気されたガスで常に曇天。
AIセラフ歴三十五年。ちょうど今日はセラフ管理に代替わりして三十五年目の記念日だったりする。
とはいえ、なにか起きるわけではない。記念日に見えるがAIの移り変わりなんてものはスクラップ市場の相場よりも興味を持たれないニュースだ。だから、俺くらいは祝ってやろうと思いながら普段よりも上等な液体栄養剤を体にセットする。
お祝いに何故か自分に特別なことをする。なんだろうなあの文化。そう思いつつ、これも人間らしさだと思いながらオイルを飲み、今日も仕事の依頼メールを眺めている。
ふと、八割のダイレクトメールと一割の脅迫メールの中に気になるメールを見つける。
ピックアップして開くと、詳しい内容が載っていた。見れば中央管理室からの依頼。つまりはお国からの指名依頼だ。
「……きな臭えなぁ、これ」
片手で端末を弄りながらそうつぶやく。
AI管理された世界でも、権利やら利権やらは存在する。AIが管理して反抗するなんて話も昔はあったらしい。だが、現実では人間様のほうが百倍醜悪で強欲だったらしいし、昔ながらの娯楽作品のようにAI様も反抗するようなムダをするほど愚かでも暇でもないのだ。
そのせいで、お国の保証を持つ中央管理室はサイボーグとデザインヒューマンが議席を持つ生臭い欲が絡んだ権力と政治の支配する伏魔殿で、正直関わり合いになりたくない場所だ。
そんな近寄りたくもないような危険地帯からやってきた依頼。まあどう考えても碌なことにならない。
「んで、どんなクソッタレな依頼だ……あー、んん……? 異常磁場地帯の解決?」
モノアイが点になる。異常地場地帯なんてのは、廃棄地区の掲示板に張れば捨て値の依頼料でも三秒で完売するようなゴミ依頼だ。
中央発表では、人類の七割は身体の五割以上を義体化。義体化率だけでいうなら全人類が義体化した現代。義体でないと生きられない世界で磁場の異常は問題ではあるが、その実害は隕石にぶち当たるような確率だ。当たると死ぬが、当たるかわからない。身体の機器の異常が出ようとも、死なないやつは死なない。
だから、廃棄地区と言う名のスラムに住む人間からすれば割のいい依頼だ。普段から運が良ければ生き残るという限界ギリギリの中で生きる奴らには数%の死亡率などあまりにも良心的すぎて涙が出てくるような依頼だろう。
「そんなのを、なんでわざわざ俺に……? しっかり名前まで指名されてんな……」
『あれ? ドウズ、それ受けるの?』
ふわりと視界の端に妖精が舞い降りる。
比喩ではなく、羽の生えた片手程度の少女が浮いているのだ。これは拡張現実による投影であり、視界に映るソイツは俺の相棒で電子妖精でもあるリナ。
肉体を捨てて電子体で生きることを選んだハッカーの第二の生、それが電子妖精というやつだ。
義体化をする中で、肉体が不要だというネジの外れた発想で電脳世界に居住を移した電子妖精とか言う奴らは本当に伝承にある妖精のように気まぐれでイタズラ好きな奴らが多い。リナもよく暇つぶしに視界をジャックして認識阻害やら休眠状態に遠隔操作で勝手に体を動かすようなイタズラをしてくるものだ。
思い出すとちょっとムカついてきたな。
『ドウズどうしたの? バイタル上がってるけど』
「お前のイタズラを思い出してムカついてきただけだ。この前も特定の音が全部お前の声に聞こえるイタズラとかしただろ」
『なんで急に!? かわいいイタズラでしょー? ドウズは怒りっぽいよね。他の完全義体者って、大抵は感情なんてありませーんって感じなのに』
「そういうロールプレイだろ。確かに生身に比べて違和感はあるが、そこまで感覚は大きく変わらねえぞ。完全義体でも」
『あはは、義体愛好者が聞いたら目くじら立てそうだねー』
ケラケラと笑うリナ。
さて、先程も話題になったが俺は完全義体。つまり、脳髄と一部の神経系を残してすべて義体に置き換えたサイボーグだ。実は完全義体の人間は珍しかったりする。大多数は八割以上を義体化するのを躊躇うらしい。
さて、関係ない話は置いてこの依頼だ。
「まあいい。さて、この依頼に裏があるかどうかだな……」
『ないと思うよ?』
「ん? なんでそう言えんだリナ」
俺の疑問に、俺の見たメールを補足するように電脳へ大量の資料をダイレクトに送りつけてくる。うげっ! 処理能力を超えてめまいがしてくる!
「やめろバカ! お前らみたいな狂った処理能力はねーんだよ!!」
『あ、ごめんごめん! 間違えちゃった。ちゃんと口頭で説明するね』
電脳世界で無敵を誇る電子妖精だか、電脳に最適化しすぎてしまい人間の感覚を忘れているやつが多い。実際に電子妖精に雑な調査を頼み、依頼報告の膨大な資料を直接脳内にダウンロードさせられ廃人になった事件もある。
そんなわけで会話だの関わり方には注意が必要だ。
『ドウズ、中央から目をつけられてるんだよね』
「ああ? なんでだ? 納税もして特に法律違反もしてない模範的な便利屋だろうが」
『だからかなぁ。首輪を付けて飼える番犬になるかどうか気にされてるっぽいよ』
「……マジか。てか、目をつけられてるってそっちかよ」
『うん。そうそう。便利屋なんて基本的に半分以上は犯罪者みたいなもんだし』
否定できないな。大した免許も必要ない便利屋はアコギなやつも多いから目をつけられるのだが……俺は模範的に行き過ぎて、逆に目をつけられたらしい。真面目な人間に対して本当にはた迷惑な話だ。
中央なんて言うものはあらゆる人間から嫌われすぎて「クソ以下の吹き溜まり」「アイツら全員脳みそにオイルが回ってるカビ臭い骨董品」「割のいい依頼だったけど中央だったから煽りメールで返した」などと定期的に掲示板でぶっ叩かれている。
しかし、直接指名依頼というのは断りづらい。
「この依頼を俺が蹴ったら……」
『反抗心ありのブラックリストだねー。中央とは絶対に恭順しないって意思表示になるから。だから、その依頼だけ受けてその後は蹴ればいいんじゃい? 敵対はしないけど首輪は許さないってスタンスで』
「それしかねえか」
首輪の着いていないフリーの便利屋というのは、自由がききやすい。
サイボーグにとっては便利屋はやりやすい仕事だ。最低限の審査で通るのも相まって便利屋が乱立するせいで、質がピンキリになっている。だから、ある程度まともに依頼を達成する便利屋は何処も囲いたがるというわけだ。
とはいえ企業で囲われる話は聞くが、中央は初めて聞いた。
『もうちょっと不真面目に仕事してもいいのにねー」
「アホか。金をもらってんだ。そんだけの仕事はすべきだろ」
『まっじめー!』
リナのこういう享楽的なところは電子妖精らしい。まあ、可愛げがある程度だ。
まあ、これも俺の性格だしな。どうにかなるもんでもない。
「んじゃま、返事を送って行くか」
『はーい! 場所どこー?』
「……お前付いてくんのか?」
『何いってんの! ドウズが居るところに私も居るってのは決まってるでしょ? ちゃんと掲示板でも言われてるし』
「何処の掲示板だよ」
『オススメ便利屋掲示板』
「削除依頼入れろ」
そんな雑談をしながら準備を済ませコートを着る。防塵、防ガス、耐熱と揃っているお気に入りのコートだ。通気性も良いので熱暴走も起きない。
上手くいけば、爆発が直撃しても大丈夫だと評判だ。
『いやいや、サイボーグなのにコート着る意味あるのー? それよりも自分の体の方が丈夫じゃん』
「気分と好みの問題だ。お前のほうがその大切さは分かってるだろ」
『あはは、まあ確かに! 気分も楽しめなくなったら終わりだからね』」
二人で雑談をしながら車に乗り込む。お気に入りのナンバー。メタルロックだ。音楽は電子音派と生音派が今でも争っているが、好きなものでいいだろと毎回思う。まあ、これを言うと俺がぶっ叩かれるが。心地いい音楽を聞きながら目的地を見る。
目標地点は第三廃棄地区。簡単に言えばスラムだ。特権階級の住む中央、第一から第五市街までの一般的な住人の居住スペース。そのさらに外周が廃棄地区。そこにはAI様から管理されていない存在していない人間が住む場所だ。
廃棄地区は広く、サイボーグですら居住できない区画もあるほどに荒廃している。だが、市街に近い箇所もあり無視は出来ないのでこうしてわざわざ調査に送られるわけだ。
とはいえ、調査と言っても目視して異常がなければデータを調べて送るだけの簡単な子供の使いだ。
「~~~♪」
『あれ? ご機嫌だねドウズ。こんなクソ依頼なのに』
「ああ、この音楽が最近お気に入りでな。聞いてるだけでテンションが上がる」
『へー……ふんふん。最近流行ってるバンドだね。生音かー。それだと無理矢理潜り込めないんだよねぇ』
「ハッキングはやめろ。ちゃんと席を取れ」
二人で雑な会話をしながら運転をする。
外に見える灰色の風景。空はずっと灰色に染まり暗く、市街は勝手に増改築されたビルが立ち並び幾何学的な風景になっている。昼夜問わず消えない電子的な光で眠ることがない。
これが俺の生きる世界。俺の生きる時代。
悪くない。
だからこそ、この風景を見れる今の状態のままで生きていきたいところだ。
「……っと、着いたな」
現場に到着した。適当に車を止めて降りる。
市街と廃棄地区の境目。お互いに不干渉のポイントになる辺りだ。なるほど、これは面倒くさい。
踏み込むと、廃棄地区側から何やらガラの悪いハゲのアンドロイドがやってくる。やけに大仰な義体の右腕を見せつけてくる。なんだ? 自慢したい子供か?
「おうおう兄ちゃん、誰の断りがあって踏み込んでんだ? ここは廃棄街のフォー様の縄張りだぜ? 失せな!」
『ひえー、こんなテンプレな暴徒いるんだー! どっかの見世物小屋でコメディアンで売り込んでるほうが稼げるんじゃない!?」
「好き勝手言ってんな」
「ああっ!? 文句あるようだなぁてめえ!?」
『あ、私の声はコイツラに聞こえないようにミュートにしてるから』
(逃げやがったなこいつ。まあいいが)
さて、こういう時は穏便に……
「悪いな。俺も仕事でな」
「ああ? 仕事だ? ほー、どっかの馬の骨の便利屋が仕事がありますってあてつけか? まあ、高そうな義体をしてっからなぁ……なあ?」
ガンをつけられジロジロと値踏みされる。この男は……肉体が五割くらいか。スラム出身ではそこそこに稼いでる部類だな。右腕は特注だろう。何らかの手段で稼いでるタイプだ。
こういう犯罪者崩れの奴は便利屋に因縁をつけて場所代をせびるのが生業だったりする。スラムでは脅迫と犯罪と掲示板のゴミ依頼だけが仕事で、中央からは本来存在していない住人として扱われている。
まあ、そういうわけでこういう奴らへの対応は……
「ぐおっ!?」
ガギンという音がして、俺の後頭部に衝撃が走る。
思わずよろめくと、いつの間にやら複数人の廃棄地区の住人が集まって俺を囲んでいる。
「良くやった! おら、さっさと回収して……」
「……いってえな。お前ら」
クラクラとしているが、意識はちゃんと残っている。
奴らには見えていないリナへと視線を向けると、回答がやってくる。
『えーっとね、背後からの一撃。まあ、完全義体者じゃないと危なかったかもね。電磁ロッドで義体と脊髄の中枢狙ってたから。結構手慣れてるねー』
(なるほどな)
無理やり過充電を起こして神経系と義体を断裂させる道具だ。かなり高価なものだから、廃棄地区で警戒することはないが……どうやら、その油断を利用していたらしい。
随分と同じ便利屋が犠牲になっただろう。ショバ代せびり程度なら見逃してもよかったが……
「おい、どういうことだ! なんで気絶してねえんだ!」
「やべえ! こいつ完全義体者だ!」
「はぁ!? なんでそんなバケモノがこんな場末の依頼なんか……」
「……ああ、加減はしねえぞ。覚悟は良いかお前ら?」
ゴキゴキと、義体を鳴らす。
さて、お仕置きの時間だ。
「まあ、お前らも散々食い物にしてきたんだ。それ相応の報いってやつを受けても文句はねえよな?」
「ひ、ひいい!」
「あ、てめえ逃げ……」
逃げ出そうとした男は、逃げる途中でまるで身体を誰かに操られたかのようにガクガクと揺らしてその場にぶっ倒れる。
『スラムだからハッキング対策も0だしやり甲斐ないなー』
「悪いなリナ」
『まー、私のドウズを傷つけたんだし……ちょっとは痛い目を見てもらわないとね?』
「誰かお前のだ」
そのまま、スラムの住人たちをひっつかむ。
さて、死なない程度に痛めつけさせてもらおうか。
大仰な右腕をアピールしていたフォーとかいうやつの破れかぶれの右腕の一撃を受け止めて、捻り切る。
バキバキと破裂する音がして、そのまま右腕が外れる。驚愕に目を見開くフォーの土手っ腹に死なない程度の力で拳を入れる。
「ぐげぇ!」
「さて、これで全部か」
散々食い物にしてきたであろうスラムの暴徒を総勢五人。拳で全員畳んでおいた。義体部分はへし折り、生体部分は多少殴っておいたが臓器にダメージがない程度にしておいた。
徒党を組んでここの調査に来たサイボーグを行動不能にして、パーツを分解しそれを売り払っていたのだろう。よく聞く手口だが、実際目の当たりにするのは初めてだ。
「リナ。どうだ?」
『あー、無理無理。電脳化もしてないしデータも漁れないからどうやってこの手口を考えたのか犯人は手繰れなかった。そっちの電磁ロッドもほとんどデータまっさらだし』
「そうか。廃棄街の奴らが持ってるには高級すぎるからな。どっかのブローカーが噛んでるかと思ったんだが」
言うなれば、コイツラは捨て駒であり実働部隊だ。所詮、最初から行き場もなくAIからは住人としてカウントすらされていない存在。つまり幾らでも替えが効き、そして多少買い叩いても文句を言わず犯罪に使える存在というわけだ。好き放題出来る訳ではないが、犯罪行為ではたいていこういう奴らが手として使われる。
適当に一人を選ぶ。立てないように足の義体をへし折った男でいいか。胸ぐらをつかみあげる。そのまま宙に浮いた男は悲鳴を上げて涙を流す。
「ひ、ひいい! た、助けて! 命だけは!」
「聞きたいんだが、ここで商売をしてるらしいな?」
「は、はい! ここで俺たちは頼まれてサイボーグ狩りをしてました! その武器を使えばサイボーグは一発でノックアウト出来るって言われたんで!! そ、それで解体したパーツは毎週来る業者に買い取ってもらってました!」
「なるほど、ここの異常磁場はお前らの仕業か?」
「へ……? なんですか、それ……?」
ぽかんとした表情。まあ、下請けにそこまで教えるわけはないか。なので質問を変える。
「受け取り場所はどこだ?」
「え、ええっと。廃棄街の七番地区の方です! は、離して……」
「なるほど。助かった。じゃあな」
そのまま手を話して調査に向かう。
倒れているフォーというやつが必死な形相で俺に向かって叫ぶ。
「ま、まって! ここで放置されたら、俺達は……」
「ああ、廃棄地区のハイエナ共にバラされるだろうな。とはいえ、運が良けりゃ生き残るだろ。生体は最近かなり安いしな。まあ、義体はまっさらなくなるだろうが」
「た、助け……」
「日頃の行いが良けりゃ、心配はないだろ。廃棄地区の人間だって鬼じゃないからな。じゃあな」
そのまま歩いていく。おそらくはバラされて明日にパーツ市にでも並び、適当な安い義体を装着されて労働力にでもされるのだろう。
あいつらが殊勝な心がけで廃棄地区の住人に優しくしてたら助かるだろうが……まあないだろうな。
『ドウズ、お疲れー』
「ああ、しかし……一気にきな臭い依頼になったな。異常磁場地帯で狩りをさせてるなんざ、正気とは思えねえな。あんまり酷いと目をつけられるだろうに。というか、そのせいで俺にお鉢が回ってきたのか?」
『かもねー。調べても情報一切なかったし、相当上手くやってたみたい。まあ、ドウズが来たから終わりだけどねー。にひひ』
自慢げな表情のリナ。その表情は俺がするべきだと思うんだが。と、ここか。
問題の異常磁場地帯に到着した。異常磁場が発生する地点は、機械類が一切ない場合が多い。詳しいことはわからないが、どうやら機械やらサイボーグの存在が居ないことが一種の原因になっているらしい。
廃棄地区の一部でしか見れないような、荒廃した大地だけが広がる寂しい風景。ここが今回の異常磁場地帯か。。
「さて、サクッと調査を済ませるか」
『はいはーい。じゃあサポートは任せて。機器系のデータの同期と準備はこっちでしておくねー』
そう言って姿を消すリナ。居なくなったわけではなく、投影していた妖精のボディを消して集中するのだろう。
俺も色々とゴチャゴチャした機器を設置して、準備を済ませる。ある程度使い方はわかるが、たいていはリナ頼りだ。……なんだ、またお礼でもすべきかもしれねえな。
設置が完了すると機器がガリガリと音を立てて動き始める。見てみると、色々と数値を計測し始め出力している。
『はい、こっちが基本データね。見比べるとよくわかるね』
「……かなり数値が乱れてるな」
リナから貰った正常な数値のデータと比べてみると意味がわからないほどにぐちゃぐちゃになっている。
正常な数値と比べて基準値の倍になったり半分になったり、場合によっては0だったりとめちゃくちゃだ。完全義体者の俺でも、ここに長い時間いると不具合が起きてぶっ倒れるのではないか心配になる。
「リナ、大丈夫か? 相当にデータが乱れてるみたいだがリナはもろに影響を受けるだろ」
『……ごめ……電波……わるっ……通信……』
「おい、リナ?」
そのままノイズと共に通信が切れる。不味いな。俺が孤立してしまった。
平地でも、ネットから断絶され機械類に妨害されれば俺たちはいつだって孤立無援になってしまう。
「……おいおいおい」
計器を見る。グルグルと数値を指し示す針は回転し、データはデタラメにキーを叩いているかのような結果を吐き出し続けている。
「クソ……」
天を仰ぐ。珍しく、黒煙ではない自然の雲が発生していて……
衝撃、光、熱、ブラックアウト、再起動。
「うおあっ!?」
遅れて音が聞こえてくる。
……嘘だろ?
「か、雷だぁ!? 始めてみたぞオイ!」
雷をデータ以外で見れるなんて。大体は遭遇するとサイボーグは死ぬし電子妖精は電圧不可によって自我消失が起きるらしい。つまり、俺が雷の近くで生きているのは天文学的数字を超えて、俺の存在がノイズになっているレベルで……
「くそっ、落ち着け。平静になれ」
無理やり意識を落ち着ける。
ソニック社の新製品。あれは良さそうだったな。あの火力は魅力的だ……よし、落ち着いた。
『――ン!? ドウズ!? 大丈夫!? ねえ、返事して! ドウズ! お願いだから! やだよぉ!』
「あ、あー。リナか?」
『ドウズ!? 大丈夫!? そっちで大規模なエネルギーが観測されて私、ドウズが死んだと……』
「雷が近くに落ちた。生きてる。以上だ」
『えっ!? どういうこと!?』
「俺もわからん。現場の写真を……」
そして振り向く。
……そこには、ありえないものが居た。
「……は?」
『ドウズ、どうしたの?』
「あ、いや……なんだ?」
磁場異常が無くなっていることも、雷で生きていたことよりも、それ以上に信じられないものを目の前に見ている。
「俺の目の前で……生身の女の子が倒れてるんだが」
「え?」
雷の落下したであろう地点。
そこに倒れた薄汚れた少女。
理解が出来ない。
「ア……ウ……」
うめき声をあげて、少女が手をのばす。
まるで、何かを掴むように。誰かにすがりつくように。そして、声を出す。
「※※※※」
何を言っているかわからない。
だが、その言葉はまるで誰かに助けてと言っているようで。
「……あー、畜生!」
俺にその手を振り払う事はできなかった。