虚構犯罪計画
真っ白なテキスト文書を前に、一人の作家が唸っている。
しかし、カーソルは虚しく点滅するばかりで、一向に執筆が進む気配が無い。
そこへ、机の引き出しから小さな少女の姿をしたリャナンシーが登場。
ネタに困る作家の耳元で、アイデアを囁く。
「独居老人の殺害計画は、いかが?」
「また君か。出し抜けだね」
「認知症でカギの締め忘れる老人が居て、犯人は玄関から侵入して待ち伏せするの」
「誰かに見られやしないか?」
「黒っぽい恰好でマスクをしとくし、部屋のカーテンは締め切っておくのよ。それで、帰宅した老人を後ろから殴って気絶させちゃって、そのままドアを施錠して居間まで運んで、万年床に寝かせるの」
「やけにリアリティーのある設定だね」
「ちゃぶ台にある煙草を一本失敬して着火して、そのまま畳の上に放置して窓から逃げるの。どうかしら? 完璧でしょう」
「そんなにうまいこと事が運ぶか?」
「疑うなら、試してみたらどう? 三丁目の奈楼荘に、お誂え向きのお爺さんが居るのよ」
「その手は食わない」
「あら、焼き蛤なのね。つまんないのー」
リャナンシーは、頬を膨らませて引き出しに戻る。
作家は、小さくため息を吐くと、シャカポコと軽快にキーボードをタイプし始めた。