表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

企画参加作品

せんせいへ贈る

作者: 黒イ卵

 春めいた風が吹いている。


 体育館で卒業式の練習という名の進行確認を済ませた後、3年2組の担任は生徒を教室へ戻るようにと指示を出した。

 何人かは冗談でも言っているのか、笑い声が大きい。

 体育館の窓が閉まっているかどうかを確認した後、担任は1度外へ出る。

 桜の枝枝が大きく揺れ、今にも開きそうな蕾が落ちそうである。


 1人の生徒が教室へ戻る列から外れ、外へ出た。


 「先生!せんせい!」


 女生徒は両手に何かを握りしめ、息を弾ませて担任に近付く。


 「これを!読んで!ください!」


 女生徒は手にした分厚い本を、担任に向かって大きく振りかぶった。


 【宣誓】による、【先制】だ。


 すぐさま【卒業先制】と判断した担任は、胸ポケットから女生徒の先制攻撃査定チェックシートを取り出し、分厚い本を躱しながら上から順に査定する。


 ・【宣誓】のタイミングは攻撃の前、丸

 ・【先制】は担任が1人の時、丸

 ・【先制】は授業時間外、丸

 ・【先制】の武器は学校に持ち込み可能の物、、、狂極冬彦の本、丸


 他、【卒業式前日に担任に読んでほしい】という少女漫画でよく見られるフェイント技を考慮し、加点する。


 「先生、避けないでください!」


 体を軸にし、振りかぶってくる本という名の凶器。上から、下から、斜めにと、独楽のように回りながら攻撃を繰り返す女生徒。担任は全て避け続け、査定のボールペンを止めない。


 「良い動きだ。随分練り込んだな」


 技が研ぎ澄まされ、(わざ)となっている。担任は思わず微笑した。


 「卒業式にっ!間に合わせたかったんっです!」


 吠えて女生徒が高く跳ぶ。太陽を背にし、一瞬目が眩んだのか、女生徒のシルエットが見えた時、担任は査定を止めて両手を前に出していた。白刃取りならぬ、本取りだ。


 本を両手で掴み、そのまま女生徒を後ろに投げる。女生徒はくるりと回転し、地面に着地した。


 「ふむ、こちらの査定の手を止めさせたか。いいだろう、合格だ!」


 担任が先制攻撃査定チェックシートに合格と書き丸で囲み、女生徒に手渡した。


 「明日の卒業式に参加し、校長先生から卒業証書をもぎ取れ。今のお前なら、できるはずだ」

 「ありがとうっございます!」


 大きく礼をし、女生徒が去って行く。


 残された担任は、こきりと首を回し、ふと上を見る。


 膨らんだ蕾の1つが、風を受け落ちることも無く、花開いていた。




暖かくなると、このような作品を……読みたくなりますね。



遥彼方様の、ほころび、解ける春 企画に参加させていただきました。



三人称視点、『青春、春』、格闘描写、短く纏める、に挑戦しました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] おもしろかったです (*´▽`*) 蕾の描写からするに、この生徒さんは卒業がやばかったのかな? みなさん無事卒業してほしいですね (∩´∀`)∩
[良い点] 美しい情景描写です。すばらしいですね
2019/09/24 03:42 退会済み
管理
[良い点] 予想もしなかったストーリーに驚いてしまいました。しかも面白かったです。 卒業式当日は、もっとすごいバトルが待っているのですよね。楽しそう!
2019/03/21 19:07 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ