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初めてのおつかい


 国が変われば、たとえ隣国といえども細々したところが異なる。着ているドレスや好まれる色、ちょっとした飾り付け方など。少しだけの違いが重なり合って、その国の特色を持った空気を作り出している。


 ようやく外出を許されたリゼットは上機嫌に馬車から異国の王都の道を楽しんでいた。小さな窓から見える街の様子にきょろきょろと視線を彷徨わせる。


「お嬢さま。少しは落ち着いてください」


 伯母のエリザベートからつけられた侍女のミラに注意されたが、初めての他国なのだ。じっとしていられるわけがない。


「だって! 今日ここで散策できると思うと楽しくて」

「デニス様にお昼を届けてからです」

「わかっているわ。ちゃんと届けたら、遊びに行ってもいいのでしょう?」


 リゼットの気持ちはすでに王都散策だ。祖国の王都も散々歩いたが、ここはまた違った空気があった。この国に来てから顔の腫れが引くまでの間、伯母の屋敷で大人しく療養していたリゼットは行きたい場所をすでにいくつも選んであった。


 用事を済ませた後の楽しみに想像を膨らませているうちに、馬車が止まった。王城の入り口についたようだ。御者に手を借りて降りると、城砦のような城に圧倒される。言葉なく見上げていれば、ミラが御者とやりとりしてくれる。


「帰りはいかがいたしますか?」

「街中で馬車を拾って帰る予定です」

「わかりました。ではお気をつけて」


 御者は軽く頷くと、馬車に乗って去っていく。その後姿を見送ってから、もう一度城を見上げた。祖国とは違い、この国では城の受付で正規の手続きをすれば、開かれているところに立ち入ることができる。


 伯母のエリザベートの話を聞いて半信半疑であったが、受付でエリザベートの紹介状を出せばすんなりと手続きが終わった。ミラは初めてではないようで、特に戸惑ったりはしていない。ただ侍女としてついてきているので、わたしの後ろに静かに控えていた。


「こちらは初めてですか?」


 受付の職員に聞かれて、頷く。


「はい」

「家族の方のみご案内できます。侍女の方はこちらでお待ちください」


 ミラと離れることになるとは思っていなかったので、リゼットは不安そうに顔を曇らせた。ミラは安心させるように笑みを浮かべる。


「大丈夫です。ここで待っています」

「すぐに用事を済ませてくるわ」

「それでは第3騎士団の詰め所までご案内します」


 しゃきしゃきとした職員の彼の後に続く。城の内部に入り、広い通路に出た。それなりに外部の人間だろうと思われる人数が歩いているが、狭さを感じないのだから広いのだろう。きょろきょろと興味深く見ていると、職員の男性がくすりと笑った。

 田舎から出てきたような様子を見せてしまって恥ずかしくなる。リゼットは咳払いをしてから背筋を伸ばした。


「こちらへどうぞ」


 しばらく進んだところで、細い通路に入った。その通路を見て、普通の人は入れないのだと思い至る。国外の人間であるリゼットがあっさりと許可されたのはエリザベートの紹介状があったからだ。


「伯母さまの紹介状が強いの?」

「そうですよ。騎士団所属の騎士の家族ですから」

「そうなのね」


 この城に関しての説明と騎士団についての説明を聞いているうちに、目的地についたようだ。


「中に入ると、詰め所に騎士がいますのでご用件をお話しください」


 それでは、と丁寧に挨拶をして職員の男性は来た道を戻っていく。その後姿を見送ってから、第3騎士団の詰め所へと顔をのぞかせた。


「こんにちは」

「何か用かな? お嬢さん」


 裕福な平民のお嬢さまのようなドレスを着ているせいか、年配の騎士が優しく声をかけてくれた。リゼットはにこにこして、大きめのバスケットを見せる。


「今日、こちらで騎士をしているデニスにお昼を持ってきました」

「お嬢さん、デニスの知り合いか?」

「ええ」


 余計なことを言わずに頷けば、騎士は少しだけ目を細める。どうやってデニスとの関係を説明をしようかと悩む。少し躊躇っている間に、リゼットの後ろに誰かが立った。


「こんなところに女性を待たせるのはいけないね」

「副団長!」


 頭の上から聞こえた声に驚いて、思わず振り返った。リゼットよりもはるかに背の高い男性が立っていた。騎士団の制服をぴしっと着こなし、無駄に整った顔をしていた。


 明るい茶色の髪とヘーゼルの瞳が柔らかな雰囲気を作り出している。少しの仕草で上位貴族だとわかる物腰をしていた。これといって威圧感を感じないが、威圧がないだけでまったく隙がない。


 振り返ったリゼットと目が合うと、副団長と呼ばれた彼はにこりとほほ笑んだ。警戒心を解いてしまいそうなほど、人当たりの良い笑みだ。だがその目がさり気なくリゼットを観察していることに気がついた。


「デニスに用事だとか。用件は何かな?」


 もしかしたら警戒されている?


 デニスの家族としてここには入ってきたが、格好が貴族令嬢には見えない。もしかしたらデニスにつきまとっている女だと思われているのかもしれない。それも仕方がないかと、思いつつも、少し悪戯心がリゼットの心の中でむくむくと頭をもたげた。


「デニスにお昼を持ってきました。出勤する時に手渡しする予定だったのですが……あの、恥ずかしいことに朝起きられなくて」


 嘘じゃない。デニスはエリザベートの次男で、5つ年上の従兄だ。ちゃんと同じ屋敷で暮らしている。朝起きられなかったのは、昨日の夜、エリザベートと王都散策について少し話し込んでしまったためだ。少しも嘘は言っていない。


 ちょっと恥ずかし気にして見せたのは、わざとだ。デニスと特別な関係にあるなんて勘違いしてくれないかなと思いつつ、首を傾げた。

 期待通りに勘違いした二人の男性は目を丸くした。


「あのデニスに朝まで一緒に過ごす女が……?」

「それはあり得んでしょう。あの朴念仁に」


 聞きようによってはとても失礼なことを二人が呟く。デニスは顔は整っているが、エリザベートの夫であるカートライト伯爵によく似て、全体的に厳ついのだ。

 その上、口もうまくないから何でも包み隠さず正直に言ってしまう。世辞の一つも言えればよかったが、言えないどころか止めを刺すことも多かった。早い話、あまり女性には人気がない。


 世の中、リゼットの国でもこの国でも甘い顔立ちの洗練された雰囲気を持つ男性が人気らしい。例えば、目の前にいる副団長のように。若くして副団長になるぐらいなのだから、それなりの身分も持っていそうだ。何かしらの欠点があったとしても、見た目とその肩書で女性が目の色を変えそうだ。


「とりあえず、デニスを呼び出してくれ。貴女は私の執務室に来てもらえないだろうか」


 ようやく事情を聴いてくれるようなので、リゼットは頷いた。しかもデニスも呼んでくれるようだ。籠を預けるだけでもいいのだが、きっと身元を確認されるのだろう。


 尋問かもしれないけど、それはそれでまた面白そう。


 いい暇つぶしができたとリゼットは先に歩き出した副団長の後ろをついていった。



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