あのね。忘れてね。
口許を指で撫でて、彼女は言う
つい先程の温もりを忘れて
わずかに垂れさがった瞳は
恥じらいが混じる潤いで滲んで
握り締めていた掌
心の隙間を埋めていった指先
そっぽを向いたままで
赤く染まるゆうべ
時が止まったかのように
いつまでも秋の調べが鳴り響く
同じ旋律を奏で
同じ慟哭を突き付けて
いつまでも一緒にいたい
このままでいられたら
どれだけ幸せなのだろう
自然と頬を伝う涙
別れが辛いと想うのは
我が儘とさえ言い切れない
「「 あのさ 」」
思わずタイミングが重なり
言った矢先から態度で現そう
そうしてシルエットがひとつになる
好きだよ
なんて言えない
たった一瞬の恋物語