第九問「子供は何歳から働くか」
お読みいただきありがとうございます。
人物名が増えてきて、整理せねばと思う今日この頃です。
孤児院に行く間にこれまでの経緯を簡単にエルザに説明する。
「なるほどね。最初はてっきりまた農業体験に来たのかと思ったから、孤児院に行くって言われて内心驚いてたのよ」
「また?ってことは何度か外来人が訪ねてきたことがあったんですか?」
「えぇ。多い時だと1日に10人20人来ることもあったわ。大半が30分もせずに『きつい』『しんどい』って言って辞めて行ったけど。
あ、それと。別に私に畏まった言い方とかしなくて良いわよ。年も近いみたいだし」
「そうですか?あー、うん。そうだね。興味本位で農業は無理だろうね」
うちも祖母の家が兼業農家で子供の頃に手伝った事があるから分かるけど、収穫の時は楽しいけど、それ以外は超肉体労働なんだよね。ゲームなんだから簡略化されて楽に出来るだろうって考えは甘いみたいだ。
「さ、着いたわ。ここがこの街の教会兼、孤児院よ」
と紹介されたのは、よくありがちな小じんまりとした教会と……木造アパート??
そっちの方から子供たちのはしゃぐ声も聞こえてくる。
「ん?あぁ。そっちの建物は子供たちの住居よ。さ、院長先生は教会の方にいると思うから行くわよ」
そう言いながら教会の扉を開けて中に入るエルザさんの後を付いて行った。
中に入ると、こう言っては失礼だけど、意外と綺麗でしっかりしていた。
エルザさんはそのまま部屋の奥の扉をノックをしながら開けて行った。
奥の部屋は食堂みたくなっていて、初老の女性と3歳から10歳くらいの子供たちが5人程いた。
「あ、エルザねぇちゃんだ!!いらっしゃ~い」
「いらっしゃ~い♪」
「おねえちゃん、あそんで~♪」
「こっちの男の人はだれ?彼氏?彼氏?」
気付かれたと思ったら、あっという間に子供たちに囲まれてしまった。
「みんなこんにちは。ごめんね、今日はまだ収穫しないといけない畑が残ってるから遊べないの。それとこの人は用事があって一緒にいるだけで残念ながら彼氏じゃないのよ」
エルザさんも慣れた感じで対応してる。きっと良くここに来てるんだな。
と、初老の女性もこちらに気付いてやってきた。
「エルザ、いらっしゃい」
「はい。こちら先程採れたばかりのトメトです。良かったらみんなで食べてください」
「いつもありがとうね。ダンボとエリスにもよろしく言っておいておくれ」
「はい」
ダンボっていうのは、おっちゃんの事かな。
「それで、お隣の彼氏さんも紹介してくれるかい?なかなかに良い男を捕まえて来たじゃないさ」
「もう、院長先生まで。だから、彼はそんなんじゃないです。えっと、テンドウさんって言って、この街の為に何か出来ないかって事で、色々と動いてくれてるみたいなんです」
それを聞いた院長先生は僕の事を鋭く観察していくけど、すぐに元の優しい笑顔に戻った。
「そうかい、そうかい。あなたがテンドウさん。噂は街の人たちから聞いてますよ。ちょうどついさっき、ポーション屋の娘が『これから初心者講習やるから良かったら子供たちも参加しませんか』って言って、4人程連れて行った所さね」
へぇ。昨日の今日でもうそこまで動いてるのか。
「前に僕が話したときはそこまでは話してなかったんですけど、皆いろいろ考えて動いてくれてるんですね」
「そういうことさ。それで、エルザと一緒に来たって事は、農業の手伝いに誘いに来たってところかい?」
「ご推察の通りです。5歳にもなれば雑草取りや、野菜の収穫も出来るでしょうし、高学年になれば畑を耕したり、家畜の世話も出来ると思いまして」
それを聞いて、また院長先生の顔が険しくなる。
「……お前さん、小さい子供に苦労を強いるつもりかい?」
「小さいうちから責任のある仕事をさせることは、必ずその子の成長に繋がります。苦労を知らないまま大人になると今よりも何十倍も苦労することになります」
僕を見つめる院長先生に、負けずに僕も見つめ返す。
子供たちも僕たちの雰囲気を感じ取ったのか、大人しくなっていた。
そんな時間が数秒続いたけど、僕の言葉を認めてくれたのか、三度笑顔に戻ってくれた。
「いいでしょう。流石に今からすぐに、とはいきませんが、明日の朝には手の空いてる子供たちを農場のお手伝いに行かせましょう。何人くらい行って大丈夫かしら」
「エリスさんは20人でも30人でもって言ってましたが、最初は10人くらいで様子を見るのは如何でしょう」
「ははっ、エリスらしいね。でもそうさね。10人から始める事に致しましょう。エルザ、エリスにそう伝えておいておくれ」
「はい、分かりました。よろしくお願いします。それでは今日はまだ仕事が残ってますのでこれで」
エルザさんに続いて、僕もお礼を言って辞することにする。
「お姉ちゃんたち、もう帰っちゃうの」
「今度は遊んでね」
「兄ちゃん、男は狼だって言うからな。頑張れよ」
いや、それは男の僕にいう言葉じゃない気がするよ。
手を振って見送ってくれる子供たちに別れを告げて、元来た道を戻っていく。
「それにしても、テンドウさんって私とそんなに歳は違わないのに、しっかりした物の考え方してるのね」
「あ、さっきの? あれはほとんど父さん母さんの受け売りなんだ」
「そうだったの。素敵なご両親ね」
「お陰で大分大変な思いも経験してきたけどね」
うん、色々あったな~。っと、それはともかく、買い物してこないと。
「あ、ごめん。この後幾つか行きたいお店があるから、ここでお別れでも良いかな」
「分かったわ。それじゃ、またね」
「うん。今日は連れて行ってくれてありがとう。またね」
そう言って別れて、向かう先は古着屋と武器屋だ。
畑仕事をするなら手ぬぐいとか必要だろうし、ゴブリンとかが出るなら、ひとまず子供たちでも扱える木刀くらいはあっても良いだろう。
そこでふと、僕ってお金持ってるのかなと思って確認してみると、なぜか5万イェン近く溜まっていた。
ちなみにこの世界のお金の通貨は「イェン」で、日本円と同じ感覚で使えそうだ。
古着屋や道具屋などを何件かはしごして、無事にお目当ての物が買う事が出来たので、農家のおっちゃんの所に預けて来よう。
っと、思ったところで1台の馬車が僕の目の前で止まって、いつぞやのメイドさんが降りて来た。
「テンドウ様ですね。領主様がお呼びです。急で申し訳ございませんが、今から来てください」
そう言うや否や、馬車に乗せられるのだった。
田舎の子供ほど、小さいころから仕事をしています。20歳過ぎても親のすねを齧ってるのは裕福な国ならではです。
ただ、今回の話の一番の問題はそれほど大きくない街になぜそんなに孤児が居るのか、ということで、近隣の村からも集めてきました。




