第五十問「正しい要塞の攻略法」
よろしくお願いします。
今度は主人公の要塞攻略法。
僕たちの前に聳え立つ要塞、というか、これはもう、魔王城って言っても良いんじゃないかってくらいの貫禄がある凄い要塞だった。
その要塞にあと500mといった所で要塞から誰かが出てきた。多分、見た目から言って向こうの大将かな。その大将さんが100mくらいまで近づいてきて口上を述べて来た。
「我は魔王軍第7師団のベルギウム。我が守る要塞にそんな少人数でやってくるとは正気を疑う所ではあるが、その度胸は認めよう。我が主は寛大な方だ。今からでも主に忠誠を誓うというのであれば、我らの傘下に入るのをお許しになってくださるだろう。だがもし1度でも断るようなことがあれば、貴様らをって、あああ!! き、きさま!! きさまはあの時の男ではないか!!」
……うん?どこかで会ってたっけ。といっても、魔王軍と会ったのなんて1回しかない。そう言えば確かにあの時も「ベルギウム」って名乗ってたっけ。
「えっと、出落ちキャラのベルギウムさん?」
「誰が出落ちキャラだ!! あの一件の所為で我がどれだけ魔王様に叱られたと思っている。あの涙混じりに地団太を踏む魔王様は実にほほえましく、って違う。失った名誉を挽回する為にも、貴様だけは許さんぞ。
貴様の為に最大級のトラップを用意して最上階で待っていてやる。脆弱な人間が精々足掻くが良い」
そう言って要塞に戻っていくベルギウム。……やっぱり魔王様ってマスコット的立ち位置なんだね。
さて、じゃあいっちょ頑張りますか。と思って動こうとした時、光の要塞と闇の要塞の各方向から6人ずつこちらに向かって走って来た。
「すみません、こちらに大将様はいらっしゃいますか!? 緊急事態です。光の要塞を攻略していた部隊が敵の暗殺部隊の攻撃を受け、首脳陣がほぼ壊滅。残ったメンバーも要塞から出撃してきた魔物によって蹂躙されています」
「闇の要塞側もです。トップクランのマスターが倒された事で混乱が拡大。至急応援を送ってほしいとの事です」
その知らせを受けて、ホノカとミーナが激しく動揺……してないね。うん、ちゃんと分かってるみたいだ。軽くふたりに目配せをすると、頷きを返してくれる。
『アシダカさん、この人たちを死なない程度に拘束してもらっても良いかな』
『うん、任せてよ、兄弟』
そう返事が返ってくると共に、彼ら全員が一瞬で簀巻きにされる。
「うわっ!なんだこれは!?」
「くっ、お前たち、俺たちにこんなことをしてタダで済むと思っているのか」
「そうだ。今解放すれば、まだ勘違いだったということで見逃してやってもいいぞ」
そんなことをめいめいに騒ぎ立てているけど、
「でもあなた達って魔王軍側に付いた人達ですよね」
そう断言してあげると、水を打ったように静まり返る。
「僕の友人が『暗殺者の備えは任せろ』って言ってくれてたんだ。だから、あなた達が言ったような被害が出るはずがないんだ。じゃあ他に考えられるのはっていうと、あなた達が魔王軍に付いた人達か、その人たちに協力してる人達で嘘の情報を流してるって事になるんだ」
「それにホーリーは用心深い所があるので、先ほどの隠密騒動を受けて対策は講じているはずですし」
「『天の川』は基本、自由人が多いので、スズカゼさんに何かあっても大した問題は起きないです。それにスズカゼさんが暴走するのはいつものことですし」
うん、ホーリーさんはともかくスズカゼさんは残念な信頼具合だ。
「そんな訳で、アシダカさん。この人たちを邪魔にならない所に捨ててきてもらっても良いかな」
『お安い御用だよ』
そう言って、彼らの足を掴んで引きずっていくアシダカさん。
「さて、気を取り直して要塞攻略と行こうか」
「そうね。ところで、どうやって攻略するの?」
「そうですよね。意外と頑丈そうなので、先ほど話していた外から攻撃するっていうのも大変そうです」
そうなんだよね。もっと貧弱な造りだったら何も考えず叩き壊せば良いかなって思ってたんだけど。それをするのは骨が折れそうだ。なので、もっと別の方法を取る事にしよう。
「僕がちょっと要塞の周りを一周してくるから、その間に要塞から出てくる魔物が居たら倒しておいて」
「え、それだけでいいの?」
「うん、多分3分とかからず戻ってくるから。じゃあ、行って来るね」
そう言って駆け出すと、暇そうにしていた師匠が付いてきた。
『それで、あの二人を離して何か危険な事でもやるつもりなのか』
あ、なるほど。僕の事を心配して来てくれたんだね。でも。
「心配してもらえるのは嬉しいのですが、本当にただぐるっと一周するだけですよ」
『それに何の意味が……ふっ、なるほど。そういうことか。なればこちらの動きを見つけて飛んで来た蚊蜻蛉は我が対処しておこう』
師匠には早々に僕の行動の意図が分かってしまったらしい。僕の方はもう大丈夫と見て、こちらに飛んで来たガーゴイルっぽい魔物を倒しに行ってしまった。
そうして何事もなく一周して皆の所に戻ってくる。
「おまたせ」
「あ、お帰りなさい、お兄さん」
「それで、テンドウくん。この後はどうするの?」
「うん、こうする」
口で説明するより見てもらった方が早いので、短いやり取りだけ済ませて次の行動に移る。
みんなを少し下がらせた後、僕は地面に手を突いて、さっき走って来た自分の足跡に魔力を流し込んでいく。そして、
『ダンジョン門生成』
そう念じた瞬間、足跡を境界に巨大な門が生成され、その内側にあったものが全て僕のダンジョンに落ちて行く。そう、魔王軍の要塞すべてがまるで元々空から細い糸で釣っていたんじゃないかってくらい、あっけなく消えて行った。
『ダンジョン門閉鎖』
終わってしまえば、後には平らな地面が残っているだけだった。
「という訳で、おしまい」
「え……テンドウくん。もしかして、終わり?ここから攻略が始まるんだとばかり思ってたのに」
「そうです、お兄さん。彼らはこのまま放置してしまうんですか?これはいくらなんでもベル何とかさんが可哀そうです」
そうは言っても、本気で相手をしようとするとかなり大変そうだったし。今日も大分遅い時間になって来たから、あまり時間も掛けられなかったしね。だから、
「仕方ない。僕はこれから挨拶だけしてくるよ。ふたりは他の要塞攻略の手伝いをしてきて。終わったら今日はもう遅い時間になって来たから、打ち上げとかはまた明日にしようって伝えておいて」
そう言って僕は今作ったダンジョンルームに入って、ヤケ酒を飲みつつ不貞腐れてるベルギウムの愚痴を聞きに行くのだった。
相変わらずまともに戦わないで終わってしまいました。
残念出落ちキャラ、ベルギウム。あの場所から脱落した時点で交戦状態は解除された為、酒場の飲んだ暮れ親父化しています。
登場しなかった魔王軍に下ったプレイヤーですが、カゲロウに処理されたのと、各要塞の玉座(?)でふんぞり返ったままお亡くなりになりました。




