第四十問「水菜注意報」
よろしくお願いします。
引き続き、水菜ちゃん視点です。
---- side 水菜 ----
そして翌日。お兄さん、お姉さん、サラさんとわたし、それからわたしの世界樹の聖霊セツナ(略して樹聖って呼ぶようになりました)の4人と1匹で郊外の森に来ていた。
お姉さんの樹聖は、今回はお留守番です。前情報では樹聖が狙われる危険性が高いので1匹だけにしようって事になり、ならいざという時に飛んで逃げられるセツナに来てもらう事になりました。
ただ、わたし達の周りもですが、セツナにはお兄さんが張った防御結界が幾重にも展開されています。多分、ドラゴンに踏まれたって大丈夫です。
あとの心配は盗賊をしているPKの人達が来てくれるか、ですが。
どうやらそちらは杞憂だったようです。先ほど斥候らしき人が居ましたが、現在300人近い人が集まっています。
たった4人に対して正気なのでしょうか。そう思っていたら男性が一人出てきました。恐らく向こうの代表なのでしょう。
「おいガキ。テメエ、ガキの癖して可愛い女の子を3人も侍らせてるとか。なに、爆発するの? まあ、今なら女と樹聖おいて行けば見逃してやっても良いぞ」
……可愛い女の子っていうのはわたし達のことですよね。でもそれ以外が何を言っているのか、いまいち分かりません。なにが爆発するのでしょうか。
「女の子をっていうのは分かるけど何で樹聖まで?」
お兄さんには伝わってるみたいです。凄いです。
「バカか、テメエ。決まってんだろ。俺たちの樹聖の餌にしてやるって言ってんだよ。見ろよ、俺の樹聖を。お前らのみたいな雑魚樹聖を食いまくったお陰で大分デカくなってきたぜ」
今度は何となく分かりました。前情報通り、樹聖を殺して、そのエネルギーを自分の樹聖に与えてきたようです。樹聖を殺そうなんて許せません。
ただ、真っ当な方法でエネルギーを確保しなかったせいでしょうか。この人の樹聖は酷く濁って歪んでいるように見えます。
「……かわいそう。お兄ちゃん、眠らせてあげて」
サラさんがお兄さんの肩に手を添えて静かにそう伝えました。サラさん自身も樹聖なので、あの子たちの状態が良く分かっているのでしょう。
お兄さんもそれに頷くと手に持っている杖を頭上に向って伸ばしました。すると、サラさんからお兄さんに、お兄さんから杖へと魔力が流れ、そして空に飛んでいきます。ただ、直ぐには何も起きません。
「あん?なんでえ。何も起きねえじゃねえか。はったりかよ」
そう男の人が言ってきましたが、この人にはお兄さん達が恐ろしいほどの魔力を放ったのが理解出来なかったみたいです。
そして一瞬太陽が翳ったかと思うと、空から雨が降ってきました。
これは、振ってきているのは水ではなく、お兄さんの魔力弾です。それがまるで雨の様に細かく、ゲリラ豪雨の様に降って来たのです。わたし達はお兄さんの結界のお陰でなんともありませんが、周りはそうではありません。人も樹聖も分け隔てなく消えていきます。まるで砂糖に熱湯を掛けたように一瞬で。
それが10秒くらい続いた後、周囲は静かになっていました。不思議なことに植物や動物、魔物には無害だったみたいで、向こうにいるレッグスパイダーがこちらに手を振っています。お兄さんも先程の雰囲気が嘘のように笑顔で手を振り返しています。
「さて。確認も済んだし、街に帰ろうか」
そう言って来た道を引き返していくお兄さんに付いて、わたし達も帰路につきますが、
「お兄さん。他の盗賊をしている人達はこのままで良いんですか?」
多分いま居た人達って全体からするとごく一部のはずなのですが、良いんでしょうか。
「ああ、うん。僕達が全部を相手にするのは流石に無理があるし、他のプレイヤーから恨みを買いすぎるのは良くないでしょ」
そう寂しそうに笑うお兄さん。思わず手をぎゅっと掴んでしまいました。
「だからさ。彼らに自発的に事態が収束するように動いてもらう仕組みを作ろうと思う」
「仕組みを作るって、テンドウくん。なにか当てがあるのね」
お姉さんも心配そうで、でもどこか期待した視線をお兄さんに向けています。うん。わたしもお兄さんなら何とかしちゃうんだろうなって思ってます。
「まあね。一番重要な部分は僕が直接交渉に行かないと行けないけど、それ以外は皆で行こうか」
「お兄さん、行くってどこにですか?」
「まずは冒険者ギルドに報告を済ませて、それから領主様のところだね」
まるでお友達の家に行くように言ってますけど、普通はプレイヤーでも領主様に会いに行くって難しいんですよ。お兄さん。
冒険者ギルドでの報告はごくあっさりと終わりました。
外来人が結成した盗賊の狙いは樹聖であること。ただし、女子供を狙う変質者が混じっているので注意が必要であること。盗賊の樹聖を倒すことで沈静化が見込めるが、根本的な対策のためにこれから領主様に会いに行くこと。
これらの事が特に疑問も挟まれることなく伝えて、お兄さんさ無事にBランクに昇格しました。
って、ホノカさんも当然みたいな顔してますけど。本来、領主様への相談が上手く行かないと解決しないんですから、普通はその後でクエスト完了なんですよ。
そして領主館でも、本当にお友達の家に上がるように尋ねて行くんですね。そしてお兄さん、そんな荒唐無稽な話で領主様が納得するはずが、あ、はい。するんですね。いえ、お気遣いありがとうございます。もう慣れました。
前からお兄さんって凄い人なのかなって思ってましたけど、色々と常識で考えようとするとダメみたいです。
そして領主様とのお話が終わった後、お兄さんは知り合いに会ってくるって言ってダンジョン経由でどこかに行ってしまいました。何でもひどく人見知りする人らしく、今のところ他の人は連れて行けないそうです。
もしかして、女の人でしょうか。・・・・・・大丈夫ですよね。
このゲームは全年齢対象です。
何名かには注意勧告と共に監視が付きます。
次回から時間軸このままで主人公視点に戻ります。




