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VR世界は問題だらけ  作者: たてみん
第3章:夏とダンジョン問題
32/56

第三十一問「祭の魔力」

よろしくお願いします。

ちょっと説明が長くなりました。ご容赦ください。

7月7日(日) 17:40

待ち合わせ場所の、神社近くの公園にたどり着くと、ほのかと水菜ちゃんが先に来て待っていた。二人とも浴衣だ。ほのかは紺地に花火模様、水菜ちゃんは明るい緑地に蓮の花模様だ。


僕に気が付いた水菜ちゃんが手を振ってくれる。

「あ、お兄さ~ん。こっちですよ~」

「おまたせ。二人とも待ち合わせの時間までまだ20分もあるのに、随分早くから来てたんだね」

「えへへっ。楽しみで早く来ちゃいました。それで、どうですか?お兄さん」

そう言いながら手を横に広げてくるっと回ってみせる。うん、可愛らしいけど、去年そう言ったら機嫌悪くしちゃったから気を付けてっと。

「浴衣新調したんだね。去年のも良かったけど、今年のは大人っぽくて、とっても似合ってるよ」

「大人っぽいですか!そうですよね♪良かった。頑張って選んだ甲斐がありました」

よし、今回は言葉を間違えずに済んだみたいだ。次は、ほのかかな。耳を弄りながら待っててくれてるし。

「ほのかも可愛いね。髪をアップにしてるのも凄く似合ってるよ」

「そ、そう。ありがとう」

そういってうなじを赤くして照れてる姿も良いよね。


「それじゃあ、行こうか」

「はい、お兄さん」

そう言って水菜ちゃんが僕の左手に抱きついてきたので、空いた右手をほのかに差し出すと、おずおずと握ってくれた。・・・・・・って、これって。

「両手に花ですね。お兄さん」

「あ、あはは。そうだね。まぁ、行こうか」

知り合いに見られたら何言われるか分からないけど、手を離すタイミングも無かったので、そのまま行くことにした。


お祭り会場に着いた時には、まだ明るい時間という事もあり、家族連れも多く見かけられた。

「順にお店を回って行って、境内で短冊を書いてこようか。多分それくらいの時間でちょうどいい時間になるだろうし。もし、はぐれた場合はメールするか、この場所で落ち合うってことで。良いかな」

「ええ」「はい」


そうして3人で連れだって屋台を回って行った。

まずは、という事で入口近くで売っていたベビーカステラを買ってみんなでつまみながら進む。お祭りの時って普段なら見向きもしないものもついつい手が出てしまうよね。

「あ、お兄さん。金魚すくいやっていっても良いですか?」

水菜ちゃんが3件先の金魚掬いの屋台に行きたいみたいだ。確か去年は1匹も釣れなかったからリベンジかな。

「うん、じゃあ折角だからみんなでやろうか」

「良いわよ。誰が一番多く釣れるか勝負ね」

そうして屋台に着いたので、おっちゃんから代金を支払って3人分のポイとお椀を貰う。あ、お祭り中のお金は財布の出し入れが大変だから僕が一括で払う事にしている。(一応後から割り勘ってほのかは言ってるけど、おごりにする予定だ)

じゃんけんでやる順番を決めた所、ほのか、水菜ちゃん、僕の順番になった。

そして袖を捲って右手でポイを構えるほのか。

「えいっ」と掛け声と共に残像が見えそうな程鋭いポイ捌きを見せ、結果は2匹。

お次は水菜ちゃんの番だ。

一瞬目を瞑った後、水槽を満遍なく捉える姿は、まさに漁師が銛で魚を狙っているのを彷彿とさせる。

そう言えば、水菜ちゃんはAOFでは『氷槍のミーナ』っていう槍遣いだっけ。

そう思っていたのも束の間。昨日のほのかに続き、今回は水菜ちゃんが全身から青い気を発していた。ちらっとほのかの方を見たけど、ほのかは気付いていないみたいだ。

そして、「やっ」と短い声と共に決して早い動きではないけど安定した動きで次々と金魚を掬っていく。結局お椀がいっぱいになってもポイが破けなかったので、そこで終了。おっちゃんもたまげていた。

「水菜ちゃん、すごいすごい!こんな特技を持ってるなんでびっくだよ」

「えへへ。わたしもこんなに取れるなんて思ってませんでした」

そう言って照れてる。

僕は「うん、凄いね」って言って頭を撫でてあげながら、さっきの現象について思いをはせていた。


その後は、輪投げをしたり、射的をしたり、わたあめを食べて、リンゴ飴を食べて、焼きとうもろこしを食べて、たこ焼きを食べて……って後半食べてばっかりだったな。そうして楽しみながら進むとちょうど太陽が完全に沈んだ頃に一番奥まで辿り着いた。

そこには七夕祭という事もあって、短冊とペンがあって、思い思いの願い事を書いて笹に飾れるようになっている。

短冊に何を書くかは秘密、という事で、トイレ休憩も兼ねて一旦解散して20分後に集合することにした。さて、願い事はベタな内容だけど、二人の……あ、いや『ほのかと水菜ちゃんの願いが叶いますように』にしよう。何となく一人ひとり名前を書いた方が叶いそうだよね。

そうして適当な場所に飾ってから、2人を待つと15分くらいで水菜ちゃんが戻って来た。けど、30分経ってもほのかが戻ってこない。水菜ちゃんに確認したらお手洗いは混んでは居たけど、遅れるほどではないそうなので、迷子か何か問題が起きたか。

朝の訓練の時の様に気配探知を周囲に広げてほのかの気配を探る。人が多くて分かりにくいけど、ほのかとも大分長い付き合いになって来たし、すぐに見つけられた。誰かと話してるっぽい。友達と出会って、話が盛り上がってるのかな?でもそうじゃなかったらまずいので、水菜ちゃんにはここで待っていてもらって迎えに行くことにした。


無事にほのかの姿は見つかったけど、あれはナンパかな。大学生くらいのチャラい男が3人でほのかを囲んで好き勝手言っていた。

「いいじゃん、はぐれたって事にしとけばさ」

「そうそう、一緒に来た奴より、俺らと一緒の方が刺激的だぜ」

「俺ら金あるしおごるからさ」

ほのかは明らかに迷惑がっているんだけど、ああいう奴らは聞く耳持ってないだろうな。


僕は男達の間をすり抜けて、ほのかの肩を抱くと

「あ、おまたせ、ほのか。さ、行こうか」

と言ってさっさと男達の輪の中から抜け出す。


「おい待てよ兄ちゃん」

そう言いながら男のひとりが僕の肩に手を置いてきた。

馬鹿だなぁ。見逃してくれたら何もしなかったのに。

そう思いながら、その手を掴んで折れない程度に関節を極めてひねり上げる。「ウギッ!!」って声にならない悲鳴を上げるそいつらに殺気をぶつける。「ヒィィ!」って悲鳴を上げて後じさったのを見て極めていた手を放して、水菜ちゃんの元まで戻った。


「あ、お兄さん、お姉さん。大丈夫でしたか」

そう水菜ちゃんが心配そうに駆け寄ってきたので、

「ああ、知り合いに会って話し込んでただけだったよ」

「ごめんね、待たせちゃって」

と言いながら頭を撫でてあげた。


「さて、じゃああとはお父さんたちにお土産を買いながら帰ろうか」

「そうね、何が良いかしらね」

「あ、うちのお父さんは杏子飴がほしいって言ってました」

「マスターが杏子飴って。想像すると面白いね」

そんなことを話して屋台も回って縁日の会場から離れた。


帰り道。

二人にちょっと話したいことがあるからって言って、最初の待ち合わせに使った公園に寄ることにした。

「それで、お兄さん。話したい事ってなんですか?」

「あらたまって、何か真剣な話かしら」

「うん、お祭りの後に伝えるのはどうかとも思ったんだけど、きっと早い方が良いと思ってね。あ、別に怖い話とかじゃないから気軽に聞いてほしいんだけど。

最近、以前に比べて凄く上手になったことって何かあるかな」

そう二人に尋ねると、ほんの少しだけ考えた後にほのかから答え始めた。

「私の場合、火を使う料理が上手くなったわ。包丁捌きはまだまだねってお母さんに言われるけど。後は、数学や物理が簡単に解けるようになった、かな」

「わたしも、さっきの金魚すくいもそうですし、お店のお手伝いが前よりいっぱい出来るようになったって、お父さんとお母さんが褒めてくれました。他にも学校の体育で50m走をした時に運動部の男の子と同じくらい早くてて驚かれました。

あの、お兄さんは原因を知ってるんですか?」

やっぱり、少しずつ日常生活に影響が出てるんだな。

「うん、知ってる。ただ、これから話すことは、ちょっと信じにくい話だけど、出来たら信じてほしい」

そう言うと、二人とも真剣なまなざしで頷いてくれた。

「僕が子供の頃に道場に通ってたことは話したことがあったよね。そこで、生き物がその身に宿すエネルギー、気って呼ぶんだけど、それを扱う方法を教えて貰ったんだ。あー、気はAOFで言う魔力みたいなものだよ。そっちの方がイメージしやすいなら魔力って言い換えようか。

それで、この前のほのかが料理していた時とか、さっき水菜ちゃんが金魚すくいをしていた時に、二人からその魔力が沢山出ていたんだ。だからあんなにも上手く出来たんだと思う」

「それって、つまり私達が無意識でその気というか魔力を扱っていたってこと?」

「あの、お兄さん。それって使い過ぎると危険だったりしますか?」

若干不安そうな水菜ちゃんの頭を撫でながら続ける。

「日常生活で問題は起きないから安心して。あってもせいぜい頑張り過ぎて疲れたって感じるくらいじゃないかな。あと、火事場の馬鹿力が凄くなるかも。

ただ、これからさらに魔力が強くなった場合に少しだけ困ったことが起きるかもしれないんだ。分かりやすく言うと、さっきの水菜ちゃんの体育の話。もし運動部の男の子よりずっと速いタイムで走ったらどうなるだろう。凄いねって言ってくれるかもしれないけど、もしかしたら、普通じゃない、恐いって言われるかもしれないよね。だから、誰かの前では目立たないように程々にしておこうねっていう事なんだ」


二人とも考え込んでしまった。

さすがに突然、魔力なんて言われても理解出来ないし、信じられないよね。


「それで天道くん、その魔力が強くなった原因とか、今後、程々で抑える方法は分かるの?」

そう聞くほのかの横で水菜ちゃんもおなじように頷いてる。

「そもそも、僕のこの話を信じてくれるの?魔力とか言ってる時点でVRとリアルを混同してるって思われても不思議じゃないと思ってるんだけど」

「わたしは信じます。最近の事もありますけど、お兄さんが真剣に話してくれたんですから本当の事なんだと思います」

「うん、信じてくれてありがとう。それで、魔力が強くなったのはぶっちゃけAOFをやってるからだと思う。AOFだけに限らないかもしれないけど、VRで魔法を使う体験をすることで、頭が魔力の使い方を学習してるんだと思う。だからリアルに戻ってきても魔法を無意識で使う感覚で魔力が扱えるんだと思う。

抑える方法については、今後ゆっくり教えて行くよ」

だから、今後はちょくちょく付き合ってもらう事になるかもって言うと、二人とも凄く嬉しそうだ。


「という事で僕からの話は終わり。少し長くなっちゃったから、少し急ぎ目で帰ろうか」

「「うん」」


そうしてまた3人で手を繋ぎながら、今度はAOFで一緒に冒険する約束をしつつ、家まで送って行った。

今後は修行という名のデートが増えます(表には出ません。きっと)


ダークサイドはあまり書かない事にしているので、ナンパ君が不良仲間を集めてきて主人公に返り討ちにあうイベントは没になりました。


次回は掲示板を挟んで、VRに戻ります。

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