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VR世界は問題だらけ  作者: たてみん
第2章:過保護な子育てとスパルタ教育
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第二十三問「真打は遅れてきてすぐ帰る」

総合評価とブックマークがじわじわと増えております。

皆さま、本当にありがとうございます。

そしてその日はやってきた。

そこに生きる者たちは、いつものように日が昇り、いつものように日が沈み1日が終わっていくことを信じて疑わなかった。

だが、太陽が中天に差し掛かる直前、一瞬にしてその姿が闇の奥へと消え、世界から光が失われた。


ワオオォォォーーーーン!!!


それに呼応するように森全体に狼の咆哮が響きわたり、森の至る所から黒き悪魔が姿を現した。

悪魔たちは現れるや否や、そこに生きるものたちを拘束していった。余りの早業に誰一人抵抗することも出来ず、うめき声一つ上げることも出来なかった。

ただ、もしここに第3者が居たら気付いただろう。この瞬間、誰一人として殺されていないことに。そしてなぜか世界樹の中心が見えるように拘束されていることに。


そうして1時間と経たずに動ける者はいなくなり。そして、魔王が降臨した。


魔王は拘束されたものたちを一瞥すると、まるで自分の庭であるかのように悠然と世界樹の根本へと歩を進めた。

世界樹の根本に広がる泉へとたどり着いた時。魔王の行く手を阻むように一匹の聖獣が現れた。

フォレストガーディアンスパイダーだ。太古の森の守護者と呼ばれるその者は、一瞬で魔王に接近するとその鋭利な前足で魔王を袈裟切りにした。だが魔王はただ撫でられただけだとでも言うように、そのまま一歩を踏み出しフォレストガーディアンスパイダーに触れた。まるで友達の肩を叩くような軽いしぐさにもかかわらず、カァンッ!と甲高い音を鳴らしてフォレストガーディアンスパイダーを泉の反対側まで吹き飛ばした。

動かなくなったフォレストガーディアンスパイダーを尻目に、魔王はとうとう世界樹の幹に触れられる所まできた。

その時、一瞬世界樹が光を放ったかと思えば、魔王の前に緑髪の美しい女性が立っていた。世界樹の精霊体だ。魔王は精霊体に話しかける。


「世界樹よ。見えるか。わが眷属になすすべもなく拘束され、死体の様に力ないあの者たちの姿を。貴様が長年守り続けて来たものがあれだ」

『魔王よ。たとえなんと言われようと、彼らはかつて私を支えてくれた者たちの子孫。どんな姿になり果てようと、それを守り続けるのが、かの者たちとの約束。私は約束を違える事はありません』

「無様だな。守り続ける?笑わせるな。その結果があれだ。生きる意味や目的を失った瞬間、それは死んでいることと同義だ。」

『うっ。ですが、それでも』

「まあいい。それも今日までだ。これからはわれが貴様のその力を有効に活用してくれよう。そして教えてやる。この世界に必要なのは貴様のような過保護ではなく、絶対的な悪であると」


そう言って世界樹に差し向けた魔王の手を、最後の抵抗とばかりに払いのける精霊体。


『いいえ、認めません。私の力は今を生きる者たちの為のもの。あなたの思い通りにはさせません。

私の力、私の命。この世界に生きる次代の若者たちに託しましょう。

たとえこの身を侵し、魂を束縛しようとも、必ずや新たな力を宿したものがあなたの野望を打ち砕くでしょう』


そう言った瞬間、世界樹全体が光り輝き、その葉が光の玉となって世界中に飛んで行った。

後には光を失い、葉も無くなり、枯れ木のようになった幹と、力を失い消えかけて小さくなった世界樹の精霊体が残るのみだった。


「ふっ、そうだ。これでようやく面白くなるというものだ」

そうつぶやいた魔王は、小さく笑みを浮かべると、そのままその場を後にしたのだった。


【『精霊と魔王』の第一楽章より】



……と、こんな感じで世界樹の方はおおよそ予定通りに話が進んだ。今頃世界中で卵イベントが展開されているだろう。あ、アシダカさんは演技で飛んで行っただけなので、向こうで傷一つなく手を振ってくれている。

さて、あとはこの周りのエルフ達がどうするか、だけど。ん~、やっぱり奇跡は起きないか。ここから見える彼らは、世界樹がこんな姿になっても、まだ胡乱な目をしたままだ。世界樹も残念そうだ。


『テンドウ様にこの話を提案頂いてから、2か月間。警鐘を鳴らし続けました。この地を魔王が狙っている、私の力の一端も既に影響を受け自由に出来なくなっていると。それに合わせて送る力を弱めたり断続的に止めたりもしてきましたが、何も変化はありませんでした。

元々はこの地を守護する為に集まってくれた方々だったのです。皆力強く、希望に満ちていました。それが今は見る影もない。とても悲しいですが、これが、私が甘やかしすぎた結果がこれなのですね』


そう言って世界樹は手を合わせ、祈りを捧げる。

僕がエルフ達の為にした提案を一言で言うと「絶望を与えて、そこから立ち上がる人を助けよう。それでも動かない人の事は無理だから諦めましょう」というものだった。結果は御覧の有様だけど。


『決断をする勇気を下さったテンドウ様に心から感謝致します。何のお返しも出来ず、全ての力を失いこのまま眠りに就くしかない私をどうかお許しください』


そう力なく頭を下げる世界樹に手を伸ばし「よく頑張ったね」って想いを込めて頭を撫でる。物理的にはもう触れなくなってしまっていたので、掌から魔力を放出することで何とか無事に撫でてあげられたようだ。


『はぅっ。テンドウ様、あの、これは、その。……!!!?』

「え、なに!?」


世界樹が何か言いかけた時、それは起こった。僕たちとはまた別の闇の気配が森全体を覆う。異変を感じ取って師匠やアシダカさん達も集まって来た。一体、何が起きるんだろう。

そう警戒している僕の所に、ほのかからのフレンド通話が飛んで来た。


『テンドウくん、テンドウくん! 世界樹の卵来たよ♪きゃーどうしよう。だっこし……ザッ……はや……ザザッ……あれ、つ……ッ……』


ほのかから場違いとしか言いようがない興奮した声が聞こえたと思ったら、途中でノイズが入って切れる。多分この闇が通信妨害の役目を果たしているんだ。そう思った矢先、闇に覆われた太陽から数千匹の魔物が現れると同時に声が響いた。


「我は魔王軍第7師団のベルギウム。何者かは知らぬが、世界樹の結界を解除してくれたことを感謝する。

我が力を持ってしてもあの結界を破るのは手間だったのでな。そして世界樹よ。貴様の力、すべて魔王様の為に捧げて貰う」


ポンッ!!

【ワールドアナウンス:魔王軍が世界樹の麓に出現し侵攻を開始しました。世界樹が陥落した場合、世界中に魔王軍が侵攻を開始する可能性があります。十分ご注意ください】


……何というか、嘘から出た実?モノマネしてたら本物が現れた的な。ただ、結界が、とか言ってたし、どう考えても僕の所為で起きた事態だよね。何とかしないと。


「師匠、アシダカさん、それにカゲロウ。申し訳ないけど、もう一度力を貸してもらえますか?出来る事なら奴らが地上に降り立つ前に撃退したい。この森を破壊されたくはないからね。

「よかろう。久々に腕がなるというものだ。それに弟子の尻ぬぐいは師匠がしてやるものだろう」

『水臭いよ、兄弟。僕が君に感じている恩は、君が考えているよりずっと大きいんだ』

『フッ、地上は任されよ。我らの糸で奴らが降り立つ前に雁字搦めにしてやろう』


心強いね、本当に。彼らが居てくれれば、これくらい困難でもなんでもない気がしてくる。

さぁ、行こうか!! と思った僕の袖がくいっと引っ張られる。


『お待ちください。泉が、任せてって言ってます。これが漸く訪れた最初で最後の晴れ舞台だからって』


世界樹の言葉に呼応するかのように、世界樹の周りを覆っていた泉の水が揺れだした。

そして次の瞬間、全て泉の水が大量の水滴となって空へ打ち上げられていく。さながら雨が空に向かって降っているような、神秘的な光景だ。

でも空に居る魔物たちにとっては絶望的な光景だっただろう。水滴を浴びた魔物はまるでそれが強酸だったかのように溶かされ、一瞬にして原型を無くし消滅していく。

後に残ったのは幹部クラスと思われる強力な魔力を持った魔物が10体程度だけ。


「くそっ、これほどの力を隠し持っていたとは誤算だ。ここはいったん下がり体勢を整える。貴様ら、短い間だが時間をくれてやる。せいぜい余生を楽しんでおけ!!」


そう捨て台詞を吐いて、魔王軍は飛び去って行った。


ポンッ!!

【ワールドアナウンス:世界樹に侵攻した魔王軍が撃退されました】


あー、うん。結果オーライなのかな。師匠たちがやり場を失った力を持て余してるけど。

あ、待って。期待した目で僕を見ても今は相手しないからね!!

これで前々回の掲示板に追いつきました。

本来の原稿からキャストを変えて表現をちょいちょい直す作業を演劇部牧野さんにお願いしてました。

魔王様役はもちろん主人公です。

本来の劇では、ここから世界樹の力を授かった勇者たちが立ち上がり、魔王と戦うというありきたりなシナリオです。


そして主人公の戦闘シーンは流される。

第2章も次話が最後になる予定です。

3章からは新たな問題に対応することになります。

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