第十九問「加速する移動手段」
よろしくお願いします。
相変わらず主人公の性格がぶれているかもしれません。
話はアシダカさんと一緒に移動するところまで戻る。
アシダカさんに乗って走る事、約30分。森はどんどんその濃さを増すなか、行く先に半径3メートルほどの空地があった。アシダカさんはその空地まで行くと地属性と思われる魔力を放出した。
その魔力に呼応するように一瞬地面が光ったかと思ったら、先ほどとは若干植生の異なる森の中にいた。……さっきのはもしかしなくても転移魔法陣みたいなものだったんだろうね。
周りを見渡す暇もなく、さらにアシダカさんは軽快に森の中を走り抜けて行く。
そして今度はさっきの空地よりより広い山のくぼ地に辿り着くと僕を下ろしてくれた。すぐ近くに洞穴があるし、多分ここがアシダカさんの知り合いの家(巣?)なんだろうね。
(アシダカさん、ここに知り合いのヒトが居るの?)
『うん、ちょっと待ってて。すぐ来ると思うから。って言う間に来たみたい』
アシダカさんが言い終わる前に、一瞬空が陰った。そして気付いた時には目の前に白くて大きなモフモフが、じゃなくて狼?がいた。この狼がアシダカさんの知り合いなんだろうね。
『こんにちは』
「ふむ。息災でなによりだ。アシダカさんよ。その者が先日話していた助っ人か。特に大した力があるようには見えないが、大丈夫なのか?」
すごい、この狼は人の言葉が話せるんだ。
『人柄は保証するよ。それに今回の話は知恵を求めているのであって、強さはあまり関係ないよね』
「それもそうだな。失礼した、人間よ。我はフェンリル。この最古の森に住むものだ。助けに来てくれた事、感謝する」
なんというか、凄く礼儀正しい。多分力だけじゃなく、知能も相当高いんだろうね。ってそれよりも。
「ご丁寧に挨拶、ありがとうございます。僕はテンドウって言います。アシダカさんからは大切な友人が困っているから手を貸してほしいって言われて来ました。あなたに比べれば強さは赤子同然ですが、多少でも力になれるように頑張ります」
そう挨拶を返す僕に、フェンリルは何か言うでもなく、顔を近づけて来た。何だろう。まるで珍獣を間近で観察しようとしてる感じ、かな。さらにクンクンって匂いを嗅いだかと思ったらぐわって口を開いた。
……あ、奥歯の隙間に木の枝か何かが詰まってる。
「あの、フェンリルさん。奥歯に木が詰まってるみたいですけど、良かったら取りましょうか」
そう僕が提案すると、笑いだしてしまった。ちょ、この至近距離でその音量はきつい。
「がはははははっ!! あぁ。ぜひ頼もう」
そう言ってまた口を大きく開けてくれたので、僕は体を乗り出して奥歯に挟まった木を抜き取った。体を引いて木を後ろに投げ捨てる。そうして再びフェンリルの方を見ると、そちらも元の位置まで下がっていた。
「アシダカさんよ。このような面白い人間を連れてきてくれて感謝する。と、そう怒らないでくれ。少しこの者の器を試してみたかっただけだ」
『えぇ、分かっています。ただ、彼をいたずらに傷つけるのであれば、僕はあなたと刺し違える所でした』
ん、あれ?なにか随分物騒な話になってるけど。どういうこと?
「ああ、テンドウと言ったな。試すような真似をして済まなかった。我と対峙してここまで物怖じしないその丹力は称賛に値する。聞いても良いか。先ほどの状況、一歩間違えば我に食い殺されているかもしれんのだぞ。なぜあれほど動じずにいられたのだ」
「え?だって、アシダカさんの知り合いの方が無為に僕を傷つけることはないって思ってましたから」
それを聞いたフェンリルはまたしても楽しそうに笑い出した。
「ククッ。そうかそうか。アシダカさんよ。良き友人に巡り合えたようだな」
『それはもう。こんなにも珍しい人はまず見つからないだろうね』
「全くだ。実に変わった人間だ」
今度は2人して笑い出しちゃったよ。
あれれ?褒められたかと思ってたのに、いつの間にか貶されてるっぽい?
そう思ってたら再びフェンリルが僕に話しかけて来た。
「テンドウよ。そんなお主なら、我の悩みも解決できるやも知れぬ。詳しい説明を、いや。実際に見てもらった方が早かろう。一緒に来てはくれぬか」
『申し訳ないんだけど、僕はこれ以上奥へは行けないんだ、兄弟。後は彼に付いて行ってもらっても良いかい』
この世界の生き物にもテリトリーとかがあるんだろうね。
「うん、分かった。じゃあ行ってくるよ。アシダカさん」
「ここまでの案内助かった。この礼はまた別の機会に」
『うん。それじゃあまたね。吉報を待ってるよ』
そう言ってアシダカさんは元来た方へ帰って行った。
ポンッ!
【シークレットクエスト「アシダカさんの相談」が進行し、「フェンリルの相談」に変化しました】
「さて、目的の場所はここから更に森の奥に行った所なのでな。我の背に乗るがいい」
フェンリルがこちらに背を向けて伏せのポーズを取ってくれたので、頑張って背中によじ登る。
うわぁ。見た目通りというか、なんというか。モフモフ感がハンパない。こんな布団があったらもう抜け出せないね。
「良いか。行くぞ」
そう短く言うと、フェンリルは飛ぶように森の奥へと駆け抜けて行った。
アシダカさんも早かったけど、フェンリルは更に数倍早かった。あっという間に小高い丘のさらにその木の上に上ってある一方、巨大な木が立っている方を指して言った。
「あの巨木は世界樹といって、この一帯の全てを守護している。お主には世界樹の悩みを聞き、ついでにその周りで起きている問題の解決に力を貸してほしい」
「世界樹の悩み?」
「そうだ。それは世界樹自身から聞いた方が良いだろう。……我ではどうすることも出来なかった。
今から送り届けるので、その手前で起きている事態にも目を向けておいてほしい」
そう言って、また世界樹に向けて森の中へと飛び込んで行った。
彼らは時速何キロで走ってるんだろう。イメージ的には、アシダカさん:時速100km、フェンリル:時速250km。
メインは、友達の友達は友達?という話。
信じた友の事は信じ抜く。主人公のそんな性格が表に出てきました。
(ここまでの性格から外れて無いといいな)
一方その頃の桜さん:
「あれ?例のクエストの子に付けておいたマーカーがロストした!? うそーー。また部長に叱られるーー」