第十八問「ありふれてない日常風景」
よろしくおねがいします。
ここから第2章スタートです。
追記:こっそり日付をずらしています。
5:40 起床。
もうVRマシンで寝起きする生活にも大分慣れた。むしろ今では布団で寝るより楽かも。
6:00 日課のランニングに出る。
6月も後半になり、大分暑くなってきた。あともう半月もしたら暑苦しくなるんだろうな。
6:20 いつもの公園に到着。
いつもの広場に移動して周りに誰も居ないことを確認する。
目を閉じ、呼吸を整え、意識を広げる。薄く広く均一に。
そうすることで普段より自分の周りを広く正確に把握できる。今は大体半径10mくらいが限界。その中で感じられるのはスズメの気配が9、野良猫が1、羽虫は沢山。あとは、っと。僕の腕に狙いを定めた蚊を追い払う。
続いてイメージトレーニング。
両手を前に出して手のひらを上に。その上に野球ボール大の気弾を3つ作る。それらをお手玉みたく規則的に飛ばす。まずは縦回転。続いて僕の周りを回るように横回転。その間も加速や減速、急停止などの動作も織り交ぜる。
最初やった時は動きが不安定だったり、後ろに回ったところで消えたりして上手く行かなかったけど、大分コツが掴めてきた。
問題はここから。3つの気弾それぞれを不規則に飛ばす。今はまだ直線的に飛ばすのが限界。半径3mの球形の壁をイメージして、それにぶつかったら反射させる。そして不規則だからこそ、僕に当たるコースの弾も出てくるので、最小限の動きでかわす。このあたりはまだまだ師匠から動きが荒いと叱られる。
そして次のステップ。気弾の数を増やしていく。3から5、5から7。ここまで増やすと避け切れなくなる。その場合は横から弾いて逸らす。避けるのと逸らすのは7:3くらいの割合。
ぐっ!? 時々、避け損なって被弾する。バレーのスパイクを受けたような衝撃に襲われる。急いで体勢を整えるも、ここぞとばかりに残りの弾が襲い掛かってきて敢え無く撃沈。
師匠『この程度で死ぬとは情けない』
って、師匠。僕はどこぞの勇者じゃありませんからね。まったく。
気を取り直して、時間になるまで繰り返す。
6:50 整理体操をしてから公園を後にする。
7:10 帰宅。
シャワーを浴びて汗を流し、学校へ行く準備をする。
7:40 学校に向かう。
この時、公園に行くのと同じ速度で走ると、周りがびっくりするみたいなので、半分くらいの速度で軽く流す。
8:10 学校に到着。
クラスメイトに挨拶しつつ、席につく。ここから始業のチャイムまでは、ちょっとした作業タイム。うちの両親は学費と最低限の生活費を出してくれるが、他は自力で何とかしろっていうタイプ。まあ、それだけ出してもらえるだけでも有難いよね。それを友達に言うと、微妙な表情を浮かべた後に「がんばれよ」って肩を叩かれる。
閑話休題。なので、小遣い稼ぎに去年から合間を縫って携帯PCで小説を書いてたりする。有難いことに去年の夏に何かの大賞に選ばれたらしく、見事書籍化。お陰でちょっと忙しくなったけど、ちょっとくらいは良いお肉と果物を食べられるようになった。って、それを言うとまた友達から肩を叩かれるんだけどね。
「おはよう、天道くん」
そう挨拶をしてくれるのは、クラスメイトの織田 ほのか。初めて会ったのは去年の春なんだけど、仲良くなったのは秋の終わりくらいになってからだったかな。最近は、おなじVRゲームをしていることが分かり、昼休みとかに話す機会が増えた。
「おはよう、ほのか。あれっ、前髪少し切った?」
「うん、揃えようと思ってちょっとだけ。って、ほんの数ミリなのによく分かったね」
下の名前で呼び合ってるのは、ゲーム内でそうだから、リアルでもって言うことになった。
まぁ、最初教室で呼び合った時のまわりの反応は凄かった。一瞬にして全ての音が消えるし、全員が僕の方を凝視するし。一部男子の殺気も混じってた気がする。ほのかの人望なのか、質問攻めにされることは無くて助かった。
挨拶を交わす間も手を止めない僕を見て作業の切れが悪いのを察して「じゃあ、またお昼にね」って早々に話を切り上げてくれる。こういう気遣いが出来て、いつも楽しそうだから友達も多いみたいだ。今も他の女の子と挨拶を交わしてる。「え、昨日とほとんど変わってないじゃん。どうしてぱっと見で分かるの!?」って声が聞こえるけど、普通分かるよね。
放課後。
帰宅途中にスーパーによって帰宅。小説の投稿期限が近いので1時間くらい集中して書き上げてしまう。完成したら、編集部の担当の飛鳥さんにメールで送信。校正してもらって、早ければ2日くらいで戻ってくる。
あとは家事を済ませて食事を取れば準備完了。部屋の中央に鎮座しているVRマシンに乗り込み、起動。
ログイン時独特の浮遊感が終わると、薄暗い洞穴の中に降り立った。ここ1週間くらいの僕の寝床だ。洞穴から外に出た先は、鬱蒼と茂る森に囲まれた広場になっている。
そして僕が起きた気配を感じ取ったのか、この洞穴の本来の主である、全長4メートルの聖獣フェンリルが僕の目の前に降り立った。そう、彼が今の僕の師匠だ。
『今回はいつもより遅かったではないか。さあ、お前たち人間の寿命は短い。早速、今日の修行を始めるぞ』
「はい、よろしくお願いします。師匠」
そう言って今日も僕と師匠は森の中へと飛び込んでいくのだった。
少しずつ、VRの影響がリアルに出ています。睡眠学習?
そして悲報。ほのか(ヒロイン?)は当分お休みの予定です。