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第8話・神話金属と鍛冶師の一品




第8話・神話金属と鍛冶師の一品




魔法国への野外学習も終わり、オルミクスに戻った翌日…


俺達の部屋には、宝飾品に使われる金属の塊がキラキラと輝きを放っていた。


貯蓄使い潰して買った白金のインゴット。同量の銀も地味に出費に一役買っている。


「ネストが無駄遣いとは思わないけど…」

「い、いや…俺も自分でやっといてちょっとおっかなびっくり…」


元々田舎物だ、金銭分投げる勢いで二人に渡そうとしたのも地味に過ごす分には金に困る気がしてなかっただけで、こんなものをあっさり買うと金銭感覚とか壊れそうだ。


「でも、かなり良心的な値段だったと思うわ。」

「だな。よし…やるか。」


フィアの言うとおり、フロースさんが本気で取り組んでくれたのか、損が出ない程度のぎりぎりで取引するって人が来てくれた。

後は、作るだけだ。


「練成術の本領発揮…ってね。」


事前に何をするか教えようとも思ったけど、どうせ出来上がった現物は見せるんだから出来てからのお楽しみでもいいだろうと思って言わなかった。

俺は必要な材料を釜に入れて、練成を開始した。




Side~フィアリス=スノウレール




「あのネストがこうまで集中する必要があるなんて…」


練成作業を開始したネストを見て、今までとまるで違う様子にナードも特別なのは分かるらしい。

けど、私はそれ所じゃなかった。


「フィア?」

「何…これ…何して…」

「そんなに?」


私も練成作業はここでやるようになった。

慣れないなりに、少しはましになってきてると思ってた。

実際、前はまともに撃つ事のできなかったフロストサーペントもさまにはなっていた。

けれど、その、今の私でもネストが何をどうしてるのかよく分からない、拾えない。


「宝石…買ったでしょ?アレはただの宝石じゃなくて、魔力を増幅させる為の加護って言うか精霊って言うか…とにかく生きた力みたいなのが宿ってるの。」


ネストが私にくれた短剣にはスノウフィアって言う氷の力、ナードに渡したマテリアルウェポンに組み込まれたスパークライトには雷の力が宿っている。


「けど、それは練成で動かそうとしたら散ってしまう。だから練成術って魔法国でもマイナーな代物なの。宿った力を意味無く殺す術…って。」


元々自然に宿る力。

無理をさせるって発想が無いって言うのもあるけど、異端研究者位は居たはず。

けれど、成功例なんておおっぴらにするほど無いからこそ、まともな体得者が居ない術なんだ。


「本来は…って事だよね?じゃあ今…」

「うん…ネストが材料にした聖水…教会で加護が込められて聖なる力が宿ってるんだけど…散らさずに銀に混ぜて…移して?駄目…分からない…」


ネストの頼みを消化しようとこの二月ほど、練成作業は散々やった。魔力の流れも感じ取れるつもりで居たけど…


「私の短剣の退魔銀、どうやって用意したのかと思ってたけど…まさかこんな…」

「よく分からないけど、とんでもないんだね。」


言いつつ、ナードは席を立つ。


「フィアと違って何がどうなってるか感じるのもままなら無い僕がここに居ても仕方ないからね、疲れるだろうし何か用意してくるよ。フィアはついててあげて。人が来たりして邪魔したら大変だし。」

「あ、うん。」


言うだけ言うと、ナードは部屋を出て行った。

ナードは家事全般が出来るらしく、家事は使用人がするものだった私は、女の子としてどうなんだろうと思う事もある。

魔法が出来るからいいだろうとナードは言うだろうけど…


『大丈夫だって、見るだけなら写真集でも買ったほうがいいし。』


茶化しただけ、うん、分かってる。分かってるけど…

黙ってれば下手すると私より綺麗な女の子にすら見えそうなナードが家事万能だと、何かもにゃもにゃと…

当の魔法も今ネストがやってる練成何がどうなってるのか全く分からないし…


ネストからの祝福とすら呼べる優しさを考えれば不安なんて失礼なのは分かっているけれど、自信が持てなさ過ぎて苦い気分だった。




SIDE OUT




終わった。

時間も消耗も自分で理解してない。


ただ、完成したと、そう自覚した所で俺は息を吐いてぶっ倒れた。


「ちょっ…ネスト!?大丈夫!?」


同じ部屋に居て気づかないわけも無い。フィアがパタパタと音を立てて俺の顔を覗き込んだ。


「ぁ…フィア?大丈夫?駄目かも…」

「これ飲んで。専門じゃないから簡単なのだけど、魔法薬作ったから。」


事前に魔法や魔力を込め易い媒体に力を注いでおく、または、自然に強い魔力を持った植物や生命を配合するなどして作る回復薬。

あんまり色々買う金は今手元に残ってないはずだから、フィアが自分の魔力を込めて作ったんだろう。


ありがたく飲むと、薬品特有の味じゃなく、ハーブやミント系統の清清しい香りと刺激が鼻と舌を締めた。魔力吸収を阻害しない程度に味の調整もしてあるらしい。

疲れに染みて少し頭が回ってくる。


「ふ…あーっ…助かった…結構効くなこれ。サンキュー、フィア。」

「お礼より状況を教えてよ。とんでもなく難しいことをしてたのは感じたけど、ここまで消耗するなんて普通じゃない。」


言葉をまともに理解しようと言う程度には働く気になってくれた頭に任せて、フィアの要望に頷く。


「ミスリル作った。」

「ミスリル?ミスリル…みいっ!!?」


素直に何をしていたのか口にしてしまって、そう言えば現物見せて驚かせようと思ってた事を思い出す。

後の祭りではあるが、驚いてはくれたので結果は一緒か。


どうにか起き上がってソファーに座ると、フィアが釜から中身を取り出していた。

成功していればミスリルインゴットが出来上がっている筈。

失敗した感じは無かったが…


取り出した四角い金属の塊を眺めるフィア。

しばらくそうしていると、軽く震え始めた。


「ほ、本…本物っ…本…」

「落とすなよー。」


貴重品だが落とした位で壊れることはない。けど、フィアが両手で抱えてやっとの重さだ、床のほうが間違いなく壊れる。

驚いているフィアを楽しんでいると、部屋の扉が開いてナードが入ってきた。


「お疲れネスト、出来上がったの?」

「あぁ。それは?」


バスケットを手にしたナードを見て、その中身を聞いてみる。


「魔法関連は怪しいけど、一応安価で買える材料で疲労回復効果ありそうな料理作ってきた。」

「二人して悪いな。」


料理が出来るのは知ってたが、フィアに作ってもらった魔法薬に加えて食事まで用意してもらえたとは思わなかった。

…ついでに、一気に金欠にしてしまった結果安価な材料しか使えなかったのも、今回の無茶が原因だ。二重で悪かった。


「えっと…フィアがやたらと震えてるみたいだけど、それとんでもないものなの?」

「ミスリル。」


もうもったいぶる必要も無いので質問に端的に答える。

バスケットを机に置いたナードが、そのままの姿勢で少し間を置いて俺を見た。


「そ、それって国宝とかで残ってる伝説の武具の素材だよね…」

「あ、ナードも知ってたか。国宝級って言っても存在しない物じゃないからな。見たことがあって組成を知ってたから作ってみた。」

「ネストが凄いのは知ってたつもりだけど…さすがに出鱈目だよ…」


フィアほどはミスリルについての実感が無いからか驚きは少ないようだったが、それでも落ち着けない様子で深呼吸するナード。

驚かせたくて作るものを教えてなかったんだ。あれこれ語って見せたかったが、薬飲んだだけで疲労そのものを抜いたわけじゃない。ナードが準備してくれた食事を取ってさっさと休むことにした。








ミスリルが出来て速攻で外出の馬車を取った俺は、急ぎでネイアスにあるガッツの工房に来た。


「お前は…」

「や、いつになるかは言って行かなかったから急ぎ目で持ってきたぜ。ホラ。」


言いながら、俺は袋に入れておいたミスリルインゴットを差し出す。


「っ!こ、これはっ…」


慌てた様子で受け取ったガッツは、丹念にインゴットを見回す。

一回解析したことあるとはいえ、実物と比較しながら作ったわけじゃないから専門家が見たら何か不都合があるかもと少しだけ心配だったが、どれだけ見ても驚いたままのガッツの様子を見る限り、ちゃんと出来ているらしい。


「馬鹿な…こんな量のミスリル一体どうやって…」

「ちなみに費用はこの量でこれだけで。普通のインゴットより馬鹿高いけど、ミスリルの量としては破格のはずだ。」

「破格って…こんな量のミスリル…国家予算でも手に入らないぞ…本当にそんな額でいいのか?」

「あぁ、大丈夫。損はしてないから。」


白金と銀、聖水の材料代にここまでの旅費、それに少しだけ足した程度の額を見せる。

普通の資材としては無茶苦茶高いが、ミスリルは普通は金でどうこうなる代物ですらない。

何がどうなってるのか分からないと言った様相のガッツを前に、あくまで損はしてないことだけは告げる。


「加工と納品まで見届けてっていいか?大丈夫だと思うが、落ち度があったら俺が怒られないといけないし。」

「落ち度ってお前一体…いや、いい。細かいことは聞かない。」


深く考えることをやめたガッツは、抱えたミスリルの塊を握る手に力をこめる。


「お前は本当に約束を守った上に、俺を選んでくれた。なら今度は俺の番だ。好きなだけ見ていけ、必ず伝説に連なる武具を作ってみせる!!」


覚悟を決めたらしく、強く宣言するガッツ。

目が生き生きしてるな…面白そうだ。








過剰と言えるほど熱された炉。

その炉の熱の中で、ガッツは槌を振るっていた。

本来赤くなるまで熱した金属を『取り出して』叩くのだが、ミスリルはそれで変わってくれない。

殆ど加熱しながらに近い場所で、その熱に耐えうる専用の金床を用意し、殆ど火を浴びながらに近い作業。

少し離れているのに熱い俺。間近で槌を振るっているガッツは下手したら死にかねないんじゃ無いかとすら思う。

だが、全く手を止める様子は無い。

むしろ、振るえば振るうほど力が増しているようにすら見えた。

何かに取り憑かれたように、或いはミスリルという代物に惹かれて正気を超えているのかもしれない。


…俺も、これ作ってる間の記憶ってまともに無いからな。

他に意識裂けない中でひたすらコイツのことだけ考えて練成を進めていた。


やがて型を成す一本の長い槍。


先端だけが刃で出来た、技巧で扱うタイプの槍ではなく、手元以外全てが貫くために作られたような突撃槍。


そのシルエットが完全に象られた所で、槍を加熱金床から放したガッツは、それと同時に床に倒れ付した。

あぁ、俺もこんな感じだったのか。

自分としては精魂出し尽くしてすっからかんで満足気味と言っても、見てる分には中々心配になるな。


俺は耐熱装備として付けているマスクと服をはいでやると、氷魔法で軽く冷気を纏わせて、用意しておいた飲み物を流し込んだ。


「んぐっ…ぷはぁっ…はあっ…」

「大丈夫か?」

「ミスリルを一から加工するなんて初めてだからな…必要な工程だけは知ってたけど…加熱しながら振るわないと加工自体出来ないなんて…死ぬかと思ったぜ…」


ぼやくガッツだったが、生気も無く顔色も悪いくせに満面と言っていいくらい笑顔だ。

全部を込めて打ち切った品、鍛冶が仕事にしていけないと嘆いていた彼にしてみれば、逆に言えば至福の時間ですらあったんだろう。


「突撃槍…剣じゃないんだな?」

「それも花形ではあるけどな、今この国最強と言われてる騎士で実態武器を使うのはアルス=セイバー様だ。竜種すら穿つ一撃を振るう槍騎士なんだ。」

「鍛冶の仕事をくれって頼むなら武器の分かる戦う人が必要だもんな。」


武器の価値が分かり、名品が必要な力量があり、人を雇う位置に居る人。

確かに、国最強の騎士ならうってつけと言えた。


「後は話を聞いてもらえるか…だな。」


別に謁見許可等があるわけでも無い。

一般人の話をいきなり何処まで真面目に聞いてもらえるか。

こないだのフィアの父さんみたいな感じの役人だったら多分話す前に突っぱねられるだろうし…ガッツとアルスさんとやらが話せるまではキチンと面倒みないとな。





城の傍まで行くと、何人かの騎士っぽい人の集まりを見つけた。

途端、ガッツは布で隠した槍を抱えたままで駆け出す。

ふらつく足取りの為、見失うことも無く後を追う。…転んで落としたりしないといいけど。


「あ、あのっ!アルス様!」

「ん?お前は…知らぬ顔だな。」


ガッツがその名を呼ぶと、長身で金髪の女性がガッツを見た。

男性じゃないんだな、家柄関係とかで何かあるんだろうか?まぁ凛とした雰囲気で騎士としては文句なしっぽいが。

とか見ながら近づくと、何故かアルスさんは俺を見て目を鋭くした。


「貴様は…」

「俺はオマケ。主賓は彼のほうだ、話を聞いてくれないか?」


軽く話したせいか周囲の兵士の人の目が険しくなる。

生意気だって奴なのか?フィアん家行った時にも思ったけど、面倒なんだな。


「いいだろう、ついてくるといい。」


周囲の兵士を片手で制しながら、俺とガッツを招くアルスさん。

彼女の先導だからか、一言二言の説明だけですんなりと城に入ることが出来た。

彼女の仕事部屋である個室に招かれ、俺達はアルスさんと向かいあった。


「さて、其方の話を聞く前にわざわざ個室に招いた理由を認識しておいてもらおうか、魔科学学生ネスト=グラスレイン。」


ガッツの用事で入ったのに何故か俺を名指しで見据えてくるアルスさん。

これは予想外だった。俺もそうなのだから先に話しかけたガッツも驚いた様子で俺を見る。

見られた所で理由などさっぱりだ。俺は首を横に振る。


「え?い、いや、俺はオマケだって」

「スノウレール当主を決闘で破りかけた人間がオマケで済まない事を認識しておけ。彼はともかく貴様のほうは事と次第によってはただで済ませられん。」


…さすが名家、と言った所だろうか。

どうやら決闘の話が大げさに伝わっているらしかった。

まさか城で喧嘩の話を話題にされるとは思わなかった。


「お前…分かってて同行したのか?」


ガッツが心配そうに俺にそう問いかけてくる。

半分はハズレだ。スノウレールでの騒ぎが知れてるとは思わなかった。

ただ、ミスリルってモノがモノだけに、出所他で何か問い詰められるかもしれないとは思ってたが。

仮にガッツがそれをされたとして、答えようがない。

練成で作ったと言う気も無いが、さすがにガッツが用意したわけじゃないことだけは言っておかないと大問題になりそうだったからここに居る。


「いや…まぁ、ガッツに問題が無い事は説明しないとまずいだろ?」

「ふっ、そのためだけに身の危険を引き受けここまで来た人格は信用しておこう。さて、それで、ガッツと言うのか?お前の用事を聞かせて貰おう。」


あくまで俺だけが警戒されているらしく、ガッツへの対応はさほど悪くなかった。

俺も、あくまでおまけ。話の成り行きは見守るだけにする。


「俺を鍛冶師として使って欲しいんです。」


布にくるまれた槍を手にしたまま進み出たガッツは、緊張こそあるものの、胸をはってそう言い切った。


「成程な、近年魔科学都市のお陰で科学国性の量産武装のほうが取り回しがよくすらある、鍛冶師は仕事に困るか。だが、当然国としても専属で必要なほどではない。私のような量産武装では話にならない者の装備に関して見繕って貰う程度だが…そのための腕の証明がその布の下の槍というわけか。」


事情を察し、布越しにも大体なんなのかは分かるのだろう。

けど…ガッツが布を解くと、アルスさんの表情が凍りついた。



「な…っ…ば、馬鹿な…これは…」



真剣な空気だったが、俺は一人可笑しくなって口元を抑えていた。

何しろ見せた皆がビックリして、城まで招かれ最強の騎士さんまで同じような有様なのだ。

違う人のパターンの驚きを色々見て楽しむと言う意地の悪い楽しみを堪能して…


「…すまない。」


槍に手を伸ばしかけたその手を下げてアルスさんが俯いて謝った。


「な…お、おい!世界一の保障は俺にも出来ないけど、名品ってレベルじゃないのは間違いないぞ!どういう」

「分かっている!不備があるという意味じゃない!」


笑ってる場合じゃない。それに、ミスリルで作ったと言うだけじゃなく、ミスリルの加工が初めてだなんて思えない出来なのは見てて間違いない。

アルスさんの謝罪もそれは分かっているかららしい。


「だがこれは…ミスリル製の武具など私の一存で受け取るわけにも扱うわけにもいかない。これは最早国宝に匹敵する代物だ、勝手には」

「見事な忠義だな、アルス。」


別の理由、騒がれそうだけどまいっかってノリで持ってきた俺と違って、自分の意思だけで使うことを躊躇っているらしい。

そんなアルスさんの言葉を断ち切るように、背後の扉の外から声がした。


「お、王!?」


開かれ、入ってきたのは魔法国の王様らしかった。

銀髪の好青年…って歳さすがに過ぎてるんだろうけど、それでも若くみえる。


「お、お邪魔してます?」


慌しく床に膝を突いたアルスさんとガッツに習う気にはなれず、だからって気さくに話すのもアレだったので、とりあえず他人の家の家主さんに話す感じで応対した。


「き、貴様っ!頭が高いわ!」

「他所の学生だ、放っておけ。それよりも…」


凄い剣幕でアルスさんに怒鳴られた。

だが、当の王様は気にした様子も無く一言で片付けて、ガッツの手から槍を丁寧に受け取り、眺める。


「見事だが、騎士として汲むものも汲んでやれ。その武器、ただミスリルで作った誰にでも使える『売り物』で無い事位お前ならば分かっているだろう。」

「それは…」


誰か使う?と競りにかけるようなものではなく、ただアルスさんに渡すためだけに打ち込まれた槍。

それは、素人目に見てても分かる。

長身の彼女の突撃槍として長めに作られている上、手元もこの部屋に置かれているアルスさんが普段使っているらしい槍と同じほどの長さと太さに見える。


「アルス=セイバー、お前が使うためだけに打ち込まれた槍だ、お前が振るうべきだろう。その手で受けとってやれ。」

「…確かに、受け取りました。」

「そして、ガッツと言ったな。その槍含め、手入れまで出来るとしたらお前だけだろう。他の専用武具も必要次第で頼もう。」

「は、はい!ありがとうございます!」


気にしていた王様直々に渡され、今度こそ槍を受け取るアルスさん。

更に、ガッツとの仕事の約束も取り付けた。


態度がでかいってだけじゃこうはならない、義と実を両方見てるいい王様なんだろう。


だから…



「さて…お前は、一体何をした?」



俺は放置されないらしかった。

円満になりかけた中で厳格な空気のままで俺に問いを投げてくる王様。

槍を賜ったばかりのアルスさんと、仕事を取り付けてもらえたばかりのガッツが俺を見る。

材料の用意をした俺が一人睨まれている状況に二人ともバツが悪いものを感じてはいるんだろう。


何をした…か、多分ミスリル入手の経緯について聞いてるんだろうけど…



「ガッツの願いを叶えた。」



俺はそれには触れず、今回の件の行動理由だけ端的に答えた。

ま、今回のって言うか俺の常なんだけど。


「…魔科学は願いを叶える力…か。」

「え?」


王様が呟いたのは、俺が目標にしている校長先生の言葉。

なんでそんな、一見何処にでもありそうな言葉を魔法国の王様がこのタイミングで?


「この槍で…戦端が開かれた魔科学国や科学国の人間が散らされる事になったとき、貴様はどうする気だ?」


疑問を晴らす間もなく、次の問いが投げかけられた。

人型の天災指定は、特定の組織や団体にのみ協力して世界のバランスを個人で覆すような真似を避けるための指定。

素材単体で世界を破壊するようなことは無いが、神話級の素材と言う異常な代物は、世界を左右すると言う意味では大差ないって事なんだろう。


「ここ数十年影も形も見えない戦争の話なんか想定して無いって。それに、それだけ警戒するなら今回何もせずにガッツが泣きながら店たたんで首つったり、質の足りない槍で魔物との戦闘中に砕けてアルスさんが殺されたりってのも、止められたのに止めなかった俺のせいだろ?」


戦争なんて考えてないと言い切り、代わりに何もしなかった場合の悲劇を示す。


結果を選べない以上必ず何かが良くなると言い切れないのかもしれない。

けれど、それを言うなら何かしようがしまいが同じ事だ。


「やれるだけやるさ。」


多分単純極まりない思考の発言で、王様から見て笑えるものでもない筈だ。

事実、溜息を吐いた王様は小さく首を左右に振った。


「その果てに、何一つ出来なくなってもか…哀れな末路だな。アルス。」

「はっ…」

「その槍の代金を二人に。後その学生の帰りの馬車の手配をしてやれ。どうせガッツからは白金の分の代金程度しか引き取って無いのだろう。」


アルスにそれだけ告げると、王様はさっさと部屋を出て行った。

白金を買った事をなんで知っている…と、一瞬思ったが、買占めとかも国策で対処する事案の一つなのかもしれない。

白金であの量なら、買占めとまで言わなくても割と驚かれる量だ。

スノウレールでの決闘も知られてたし、話が入ってたのか…


王も去って、静かになった部屋で、槍を手にしたままでアルスは深く頭を下げた。


「ネスト、ガッツ、改めて本当に感謝する。実は私が扱うに耐えうる武器が今までまともに存在しなかったのだ。」

「い、いえ、俺の方こそ!これからよろしくお願いします!」

「最初言った通り俺はオマケだ、気にしないで」


舞い上がっているのか慌てて答えるガッツに続いて、軽く片付けようとしたのだが…

その俺に向かって、槍が突きつけられた。

速い…不意打ちだったとは言え何にも気づけなかった…突撃槍だぞ?


「…だが、それだけに、私はお前と戦いたくは無い。悪気なく真っ直ぐなのは重々承知しているが、国や世界に徒成す形で動かぬようにな。」


王様が懸念を示した以上、アルスさんほど忠実な騎士なら警戒しないわけには行かないが、さっき言った通り武器については感謝してくれてるからの警告なんだろう。

俺は微笑み返す。


「出来る限りな。」

「全く…図太い奴め…形だけでも約束していけばいいものを…」


武器を突きつけても折れる様子の無い俺に肩を落とすアルスさん。

ま、何か言われて折れる程度で魔科学技師になろうとか思うわけも無い。

ミスリル持ってきた時点で察しはついていたのか、それ以上は何も言われなかった。












「…で、そんな大金を?」

「これでも帰りがけに精霊石色々買ってるんだぜ?」


金銭にも拘らず隠して持ってくるのが大変な量を持って部屋まで来た俺を見て、フィアとナードは改めて驚いた。

王様が値段も言わずに支払えとか言ってたけど…まさか国宝の半額分(もう半分がガッツの分の為)を投げ捨てるようにあっさり渡してくるとは思わなかった。

アルスさん後でクビになったりしないだろうな…と、若干心配になる程だったが、やたら持ち上げられたし多分大丈夫だろう。

ミスリル製品なんて売ったら普通の人なら一生暮らせるし、おかしくは無いんだろうが。


「なんでミスリルなんて作って、しかもあげて来ちゃったの?」


ナードからの問いかけは普通当然のものだ。

そういう異常な代物だからこそ高いんだ、ほいほい人にあげるのはおかしい。


「練成見てたならフィアは分かるんじゃないか?ミスリル『が』必須って訳じゃないんだ。」

「聖水を材料に使ってたわよね…」

「フィアとナードに渡した短剣と銃には直接精霊石を使ったけど、マテリアルって奴があるんだ。」


言いながら、俺はオルミクスに持ち込んだ数少ない荷物から、古い本を取り出して、マテリアルウェポンの項を開いた。


「ちょっと…これは…」


本来のそれは、自然採取できる精霊石とは別に作り出した、『可変精霊石』とも呼べる代物だった。

適当に魔力を通すと、組み込んだマテリアルの属性に変化させる。

精霊石を組み込んでの運用すら雑だと顔をしかめたフィアが、苦いものを見つけたと言わんばかりに頬を引きつらせる。


「製法は知らない。けど、俺が使ってるこれも…」

「そう言えばマテリアルウェポンって言ってたわよね…あ、石ない…」


筒状のそれを握って片手剣タイプの刃を展開するマテリアルウェポン。

精霊石の無いそれから、一つの四角い金属板を取り出す。


「本当のマテリアルってのはこれなんだ。ミスリルですら解析できたのにコイツ一体何をどうしたのかさっぱり何だよな…どう作ってるのか。」

「古い魔科学の製法不明の産物…か。」


真剣に見つめるナードと、若干苦い表情で見つめるフィア。

魔法国科学国のプチ構図のような光景に対照的だなと感じつつマテリアルをしまう。


「ま、同じものを作る必要も無いんだけどな。とりあえず、同種の力が宿せるものなら今の俺なら練成術で移すことが出来る。その練習と高強度金属が必要な時に使えるからミスリル作ってみたんだ。」

「…普通出来ないんだけどね。」


フィアからすればそもそも練成術で精霊石や聖水、聖遺物などに宿る特別な力を生きたまま他に移すのは異常らしい。

確かにモノの変化同様に適当に移し変えようとすると『首を切り離して移した先で別のものとくっつける』みたいな無理が出る為、宿る力や加護関連の移動にはコツがいる。

折を見てフィアにもその辺の事は伝えておいたほうがいいな。


「ミスリルは魔力のノリもいいし竜鱗位なら断ち切れる位だ。フィアもナードも装備とか道具とかで必要なら言ってくれ。」

「加工は?」


一回成功すれば大丈夫。

確信を持って作ると宣言した直後、ナードからの静かな問いかけに俺は硬直した。

魔法国で武装特化の鍛冶師が持っていた特別な炉と金床で、常時加熱と耐火装備で倒れるまで打って漸く一品できる金属。


…望み通りの形に加工など出来る訳が無い。


「…しばらくは伝説様には頼れなさそうね。」

「あ、あはは…大見得きって申し訳ない…」


折角一回り上の武装で固められると思ったのだが、そう簡単な話でも無いようだった。

やれやれ…前途多難だな。




今回書いてて、ゲームで材料持ってったら『何でも』武器にしてくれる人もチートなんだと思いました(苦笑)。

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