第7話・古い鍛冶屋と古い名家
第7話・古い鍛冶屋と古い名家
「えー…今日はここ魔法国ネイアスで過ごすことになりますが…くれぐれもっ!問題になるような危ない事はしないで下さいねっ!!」
「「「はーい!!」」」
恐らくは真剣に注意しているんだろうメリア先生の声に凄く楽しげな生徒たちの声が返る。
昨日のキャンプでは『リトルフェアリーのお荷物がオークの群れを葬った』話題でどこもかしこも盛り上がっていた。
一人走って危険域に外れたシイルと怪我をしたナードが帰らされる事になり、話し半分しか知らない他の皆はその話題で大盛り上がり。
俺はと言えば、教師陣への今回使用した武器の説明やらで皆に混ざらず、フィアも口をつぐんでいた。
女性恐怖症の事をベラベラ喋らない為だが、そのせいで皆の憶測が余計に盛り上がったらしい。
しかも、皆を盛り上がらせた上でいないから、先生は何かナードのせいみたいな空気になってるし…
いっぱいいっぱいの中傷心の女の子を守ったんだし、フォローと言うか…酷評でなくてもいい気がするんだけどな。
ともあれ魔法国城下町ネイアス。
傾向可能なサイズの袋に入る分なら買い物をしていって良いことになってるし、死神の剣を完成改良するための道具とか、錬成用の器具とか、多少高くても良い奴があったら…
「今時流行んねぇんだよ!!」
買い物考えながら歩いていると、物騒な怒鳴り声が聞こえた。
…問題を起こすなとは言われたが、起きてる問題は俺たちのせいじゃない。
とりあえず様子をうかがうために声の方へ向かった。
店の入り口で、三人組に青年が囲まれていた。
「武器は消耗品だぞ!?そんなの無茶苦茶だ!」
「自慢の品だとか抜かしてやがったろうが!別に武器が当たらなかったわけでもねぇのに折れたんだぞ!!」
叫びながら折れた剣を地面に放る男。
青年が足元を見て苦い顔をする。
俺はそこに顔を出した。
地面の剣の半分を拾い上げ、解析術を使う。
芯の密度が濃い、元の出来はかなり良いみたいだけど、結構な力で使われたんだな。
「何よあんた!行きなり来て!」
「結構な出来だけど、これ折れるって相当な負荷だったんじゃないか?」
「魔科学装備持った奴と試合したんだよ、盾に当たったと思ったら折れやがった。」
旅人らしい人の話を聞いて苦い表情で拳を握る青年。
当たったとたんに折れた…か。
「確か反作用増幅効果のある盾があったな…あれに普通の金属ぶつけたら無理ないか。」
俺は言いながら、青年の腰の剣を抜く。
…うん、同じ金属だ、出来も良い。
ロストリミットを起動、全力で振り抜く。
派手な風切り音が響くが、ぶれも歪みもない。
「うん、良い剣じゃないか…あれ?」
ロストリミットを起動して振ると並の剣じゃ歪む。
だから試しに振って見せたのだが…
よく考えたらロストリミット使って一閃何て、普通の人から見たら『何者』って事になるか…
奇異の目で見られた俺は、なるべく気にしないようにわざとすっとぼけた咳払いをした後、剣を青年に返す。
「今ので並の剣だったら歪んでポンコツだ。彼の腕の保証にならないか?」
「いや…そりゃ…ちっ!」
俺の問いかけに目をそらした男が舌打ちして踵を返すと、仲間らしい回りの二人も続いて帰る。
「…助けに来てくれたんだろうけど、最悪の気分だよ。」
折れた剣の残骸を手にした青年が、唐突にそう言うと俺を睨んでくる。
「お前も魔科学技師だろ?課外授業でネイアスに来てる学生。」
「正解。しかしどうして気分が悪いのかは聞かせてもらってもいいか?」
俺の問いに顔をしかめる青年。
だが、俺は胸を張って笑顔を見せる。
「魔科学は願いを叶える力…魔科学技師のせいで気分が悪い何て言われたら引き下がるわけにはいかないからな。」
俺の言葉を聞いて鼻を鳴らした青年は、首だけ動かして背後の扉を示すと、折れた剣を持った手で器用に扉に入っていった。
通された工房で俺は、鍛冶屋の青年ガッツの話を聞いた。
機械的な機構が組み込まれたものこそ制限されている魔法国でも、素材や武具に関しては入荷の関税程度。
機械国の方で作った合金や特殊素材を使われた武具…まして、魔力を使用して強化できるような武具相手では、普通の素材にどれ程の精魂を込めて武具を打とうと効果がない。
挙げ句量産可能な上に手入れも要らないような家庭用品まで作られては、純正の鍛冶屋である彼は仕事にならないと言うことだった。
「そっか。」
「何だよ…大見得切って話を聞いた割に興味無さそうに。どうせ時代の流れとか言うんだろ。」
短い返しに苛ついたのか匙を投げるように呟くガッツ。
言うんだろと彼は言うが、おそらくは『言われてきた』んだろう。
「儀式用…細工や刀身の模様、磨きに精魂込める技で、他の元鍛冶屋は今やってる。けど俺は…」
「言わないよ、言うわけがない。」
噛み締めるように呟いているガッツの言葉を遮って立ち上がった俺は、工房の端の方にあった安物っぽい刃物を手に取る。
さっき外で振ったガッツが打った剣と同じ素材の包丁。ロストリミットを起動して、まっすぐに降り下ろす。
柄だけが俺の手に残ってへし折れた刃先が工房の地面に突き刺さった。
同じ素材だなんて、俺が言わなくたって鍛治師のガッツがわからないわけがない。
俺は手元に残った柄を軽く投げ渡してガッツに笑いかける。
「同じ素材でこの出来の差。あんたの腕の証明はこれで十二分。後は素材だが…良かったら打ってみるか?『伝説の武器』って奴を。」
「何…」
俺の言葉に困惑するガッツに、俺はある資料を見せる。
「これは…」
さすがに驚いたようで、目を見開くガッツ。
俺が見せた資料は、伝承級の武具に使用されている金属のリストだった。
「オリハルコンを初め、殆ど所在の真偽も製法も構成要素も解らないもんばっかりだから、さすがにワンランクかツーランク落ちるけど…」
リストの中から少し外れた場所にある金属を指差す。
ミスリル。
鉱石が見つかるのは稀、加工に携わったことがある鍛冶屋も殆どおらず、剣鎧盾の一式が揃ったミスリル装備は国宝扱いになっている。
「こいつなら多分用意できる。一回見たことあるからな。」
国宝級の名品だが、教会の遺物等にも残るミスリルは、組成を把握してある。
錬成は桁違いの難度になるだろうが、必要になればやってみようと準備はしていたのだ。
「古参の騎士には手打ちの武器にこだわる実力者もいる筈だ、こいつで一振り打ってやれば出来次第では売り込みになると思うぞ。」
無言で資料を見つめていたガッツは、顔をあげて俺を見る。
「何で俺なんだ?」
「え?」
「ミスリルで一からの武具製作何て、やってみたい鍛治屋はいくらでもいる筈だ。なぜ俺なんだ?」
聞かれて漸く合点がいった。
上手い話を疑われてるのかと思ったが、確かにその疑問もごもっともだ。
「悪い、言われるまで気づかなかった。巡り合わせとガッツなら打てると思って必要だと思った。」
確かに、打てる技量と熱意がある鍛冶屋全員が知って頼み込んで来たとして全員分の要望を聞く余裕はさすがに無いだろう。
にも拘らずガッツにだけ協力する理由。そんなものさすがに考えてなかった。
「気づかないって…いや、もういい。もし用意できるなら持って来てくれ、あまり期待はして無いけどな。」
「了解。」
あまり真面目に取り合う様子のないガッツだが突拍子なさすぎて無理も無い話だ。
とりあえず承諾だけ聞いて、俺は鍛冶屋を出た。
材料は退魔銀と白金…
作ることが出来ないわけじゃないが、やっぱり白金がネックではある。
インゴットで用意しようとしたら家買う位の値段が必要になる。
…まぁ、神話級の装備の材料にしようって言うんだから当たり前と言えば当たり前かもしれないが。
そう言えば、フィアは魔法国の名家の生まれだった筈。
本人はその時期の話に触れては欲しく無いだろうけど、単なる『情報』としては金持ちの情報持ってるかもしれないし、白金の入手法でも聞いてみるか。
となると集合前に会うならあたりをつけて探さないと…
…と、思って、スノウレール本家の見える道に来ると、離れた物陰から家の門を眺めるフィアの姿を見つけた。
うっわ触れづらい…
い、いや、楽しい事の邪魔と言うわけでもなし、寂しいなら一緒に居ればいい。
「フィア。」
「ぁ…ネ、ネスト…」
バツが悪そうなフィア。
フィア的に見られてまずいかどうかは知らないが、俺は特に何か言うつもりは無い。
思い出に耽ってても何か引きずってても、別に悪く無い。
「邪魔して悪いな、大丈夫か?」
「うん、ごめん。…何か用事?」
「あぁ、白金が大量に欲しいんだけど、入手手段思いついたりする?」
フィアの感傷がぶっ壊れた。
儚さを感じさせていたフィアの表情が、口を開いて呆然と硬直したものになる。
「いや、ちょ…まっ…え?白金?」
「うん。」
パクパクと口を開いて閉じてと繰り返すフィア。
うーん…やっぱ無茶な要望だったか?
「す、少なくとも私に思い当たる事は無いわね…古代遺跡とかにはアイアンゴーレムとかいたりするけど、さすがに白金では聞いたこと無いし…」
「だよなぁ…しょうがない、帰って何とかするか。」
元名家なら高価な装飾品にも縁が多いと思ったが、さすがに白金を大量にってなるとそう簡単でもなかったらしい。
まぁ元より一つしか手なんて無いわけだが…
「…帰って買うか。」
「それ…あの竜素材の余り売った報酬ほぼ全部つぎ込むレベルよね…」
「えーと…そうなるよなぁ…」
「…ちなみに、何で要るの?」
「鍛冶屋との約束に必要で。」
向かい合っているフィアが瞳を閉じる。
あ、やば…
「アンタはっ!少し位っ!モノを考えなさいよぉっ!!」
「さ、さすがに現物タダで渡す気は無いって!ただモノが出来てからじゃないと信用してもらうのは難しい話だから!!」
両肩を掴まれて前後に揺さぶられる。
実家では金もあったろうフィアがこれだけ怒るんだから相当無茶なお金の使い方なんだろう。
実験の意味もあって丁度いいと思ったんだけど、さすがに早まったかな…
「貴様…ここで何をしている。」
考えていると、いつの間にかフィアの手が俺の肩から離れていた。
俺と言うより、俺の背後を見て震えている様子に、俺も振り返る。
スノウレールの現当主のオッサンが立っていた。
つまり、この人がフィアの…
「っ…お父様…」
「貴様にそう呼ぶ資格など無い。」
「ぁ、す、すみません…」
フィアをちらりと見ると、俯いてしまっていた。
俺は目の前のオッサン目掛けて…
「おいオッサン。」
ポケットにしまっておいた手袋を叩き付けた。
「なぁっ!!!」
「貴様…」
フィアから悲鳴に近い声量の驚きが聞こえ、俺を視界にも入れていなかったオッサンが眉を吊り上げて俺を見据えてくる。
魔法国で、手袋を叩きつけるのは決闘の証。
子供同士とかなら冗談とかで片付けられる事もあるかもしれないが、名前や格式なんかを大事にしてるからこそフィアを叩き出した名家のオッサンにしてみれば、無視できるはずも無い大問題だった。
そして…
「フィアと関係ないなら俺から見たらお前は友達怯えさせてる性悪なオッサンでしかない。ご自慢の氷魔法、フィアと同等の俺の魔法で叩き潰してやるよ。」
俺にとっては、フィアの方が大事だった。
大事と言っても、今フィアが落ち着けるかどうかを気にしてる訳じゃない。
フィアの心境を心配するなら、俺が彼と決闘なんて落ち着けるはずが無い。
「ちょ、な、何馬鹿なこと」
「魔法国の事情、血統の維持、それには理解があるつもりだ。けど、それと人の古傷をあえて抉ることとは全く関係ない。俺の友人舐めるな。」
失うこと、捨てられる事に怯えて泣いていたフィアの姿を思い出す。
まして、体が受け付けない力をああも使えるように身に着けるのに一体どれだけの研鑽があったのか、少なくともそれ自体は蔑ろにされる謂れの無いものだ。
フィアが嫌だからやめろって言ってもやめる気になんかなれなかった。
オッサンがスノウレールの家の門を開き、俺達の…俺の方を見る。
「…来るがいい小僧。」
言うだけ言ってさっさと入っていくオッサン。俺はフィアの手を引いてその後に続いた。
「ネスト、私はこの家に」
「フィアがアイツに気を回す必要ない。って証明してやるさ。」
震え気味のフィアの手が少し痛む位の力を込めて、俺はスノウレール家に入った。
魔法国での決闘である以上、さすがに一定のルールがある。
特に、魔法国名家のオッサンみたいなの相手に速さ生かして殴りかかったら犯罪だ。
と言うわけで、最大魔法の打ち合いになった。
「死んでも知らんぞ。」
「ご自由に。」
ぴりぴりした雰囲気のオッサンを前に、俺は笑う。
魔法陣を展開し、集中する。
「「氷鱗纏う白き蛇よ…」」
俺の詠唱を聞いて、オッサンが顔をしかめた。
フィアに見せて貰った魔法、試し撃ちに思いっきり小さな威力では打って成功してる。
とは言え…全力で撃つのは当然これが初めてなんだが、向かいあった空気から、負けるとは感じなかった。
「「道程の全てを呑み砕け…」」
後は俺がコレを使いこなせるかどうかだけど…やってみりゃわかる!!
「「フロストサーペント!!!」」
中空を走る白い氷蛇は、俺とオッサンの間で衝突して爆発四散した。
強力な冷気を孕んだ氷蛇の炸裂は、衝突箇所の地面を中心に広い範囲を凍りつかせた。
とは言え…フィアの一撃を普通の氷壁で防いだ時と違って凍らされることは無かったが。
「おいオッサン、決闘中だがいい事教えてやるよ。」
自分家の魔法で相殺されて苦い表情をしているオッサンにあえて話しかけた俺は…
「俺は無適正だ!!」
「な…」
自身の魔法適正を告げると同時に魔法陣を展開した。
「猛き雷の槍よ、ただ一閃を撃ち貫く光となれ…」
氷同士で相殺。
なら、特に得意の無い俺が氷の弱点の雷属性を使えばどうなるか。
挙句、動揺で完璧に出遅れたオッサンは何も準備できておらず…
「ライトニングジャベリン!!!」
俺はそんなオッサン目掛けて雷の槍を撃ち放った。
直後、岩の壁が現れ、俺の雷槍を防いだ。
突き刺さった槍が弾け雷撃を散らすが、刺さった岩壁は罅が入った程度でまだ崩れなさそうだった。
凄い出来の岩壁だ…一体誰だ?
岩の壁が砕けて消えると、オッサンの横に青年が立っていた。
「父上、経緯は耳にしましたが、外来の少年に乗せられてその身で無理をなさらないで下さい。スノウレールへの決闘であれば私が応じますから。」
「む…」
オッサンは俺と青年を見比べるようにした後、歩み寄ってきた女性に伴うようにして家へと入っていった。
「兄さん…」
俺の側で試合見学をしていたフィアの呟きが聞こえてきて、そう言えば氷蛇の魔法見せてくれた時に兄さんなら竜種もとか言ってたよな。って事はその兄さんが…
静かに歩み寄ってくる青年。
な、何だ?決闘の代行引き受けたなら魔法で来るんじゃないのか?
「決闘に割り入り大変失礼しました。私はフロース=スノウレール、其方のフィアリスの元兄になります。」
「え、あー…どうも。」
一礼されて俺も会釈を返す。
「それと…父への直撃を外していただいてありがとうございます。」
「あ、完全に見切ってたのか…本当凄腕だな…」
足元あたりの地面に突き刺して炸裂させて土塗れにしてやろう何てちょっとの悪戯心混じりのトドメにしてやるつもりだったんだが、ばれた上で完全にとめられたとなると一枚上手か。
「彼女のために真剣に怒って頂いたのはありがたいですが、一応念を押して置きます。もし今後スノウレールに真っ向から挑む場合は父ではなく、人型の天災指定を受けている私がお相手する事になります。」
「へ…ぇ…それはまた…」
凄腕なのは間違いないとは思ったが、堂々と言ってのけた内容は中々とんでもないものだった。
人型の天災指定。
それは、単騎で世界のバランスを傾けるほどの力がある人につけられる称号にして制限。
そりゃいい腕な訳だ。
「さて、では決闘に割り入った無礼のお詫びです、何か出来ることがあれば多少はお聞きしますが?」
「あ、あのっ!なら多量の白金を安く扱ってくれる商人をご存じないですか!」
唐突に弾かれたように反応したフィアが、全く無関係の話をしだした。
フロースは俺とフィアを見比べると、小さく微笑んだ。
「…成程、分かりました。既知の商人にあたってみたいと思います。お二人がオルミクスへ戻った頃合に訪問するように交渉しておけばよろしいでしょうか?」
「は、はいっ!」
「フィア、折角なのに…ん?」
時間とって話すとかでもいいのに、俺の持ち込んだ用事の話なんてと思ったが、何故かフロースが俺を見て人差し指を自身の口元に立てた。
フィアがあえてそうしたから黙っておけ…って事か?
考えてるうちに、フロースはさっさと家の中に引き上げてしまった。
フィアに促され、俺達もスノウレールの家の庭を去る。
集合時間までまだ微妙に残る時間、近所だけあってフィアが好んでいたらしい喫茶店に入ることにした。
「色々厳しくて、変わった家なんだけどね。」
向かい合って座るフィアがカップを傾ける。
「兄さんは…そんな中でも私に優しかったんだ…氷魔法の名家なのに、まずはなじむものから鍛えたほうがいいって炎魔法の教本もこっそり教えてくれたり…」
あの兄さんはどうやら見た目通りの好青年らしい。
思い出を語るフィアの顔を見てる限り、多分家に居たい理由の大半があの兄さんなんだろう。…オッサンの方は毒吐きまくりだったし。
「でも…私が問題起こしたときに、家から追い出すように進言したのは兄さんなんだ…それで私…お父様には疎まれてた上に兄さんすらそんな事を言って…もう何もしたくなくなって…投げやりでオルミクスに居たのよ。」
魔法科目の試合場で、一人輪を外れて冷たい目で他の皆を眺めていたフィアの姿を思い出す。話すようになっての実際の姿とあの時の雰囲気は今にして思えばびっくりするほど違った。
「若干突っ張ってたもんな。ナードより儚げとは思っても見なかった。」
「無理してたのよ…元々は庶民と肩を並べる位置に甘んじるなとは言われ続けてきたし…」
「根が優しいのにつんけんしてたわけだ。」
「あの…さっきからその褒めてるのか弄ってるのか分からないのやめてよ…どう反応していいか…」
照れた様子で俯いたフィアはカップの中身を強引に煽る。
褒めてる、と言うか思ってたより柔らかいと言いたかったんだが、かえって困らせているようなので、俺は別に気になった事を聞いてみることにした。
「あの兄さん、本当にフィアを追い出したのか?」
「信じたくないけど…お父様に合わせて嘘を吐いたって感じでもなかったし…」
あの兄…フロースとオッサンの空気が違いすぎて、フィアが慕ってることも相まってどうしても性悪には見えなかった。
けど、フィアが嘘を吐いたとかどうとか言ってるって事は本人から直接聞いてるって事になる。なら…
「…フィアを…追い出してあげたかった…のかな?」
「え?」
「あのオッサンの嫁さんってどう言う馴れ初めなんだ?」
一つ予想できた俺は、その可能性を上げる為に質問を投げかけた。
のだが、なんかフィアは自分の身体を抱えるようにして視線を逸らす。
しばらくしてフィアは、恐る恐る小さな声で呟いた。
「お父様は…お爺様なの…」
「は?どういう…どっ!?」
叫びかけて慌てて自分の手を口に叩きつけるようにして止めた。
さすがに下手に叫んでいい状況じゃない。隅の席にしてるとはいえ、ここの店員さんもフィアの事を知っているようだし。
「お母様の代に釣り合う氷魔法の使い手が居なかった上に、お母様を生んだときにお婆様も亡くなったそうで…その…」
「ふわぁ…」
予想の説明にあたっての確認のつもりで、そんなレベルじゃない話を聞かされた。
血の濃度を上げる…って話は聞いたことがあるが、普通は親戚程度の話のはずだ。
中々ブラックな所だな…フィアの家も。
でも、分かり易い例が出たな。
「その辺なのかもな。このまま家に居たらどっかに嫁がされたんじゃないか?魔法自体は上手いし。」
「ぁ…」
フィアは全く思っても無かったらしく、呆然とする。
魔法の名家に生まれ、自分の家の魔法を使いこなせない女子。
売る…他の家との交友材料には都合いいだろう。
オッサンがそれを予定してたならどの道家からは追い出された訳だし、あの兄さんがフィアを大事にしてたなら、ありえる話だ。
「あの兄さん、そんなにフィアを傷つけようって感じに見えなかったからさ。まぁ予想でしかないからなんとも言えないんだけど…」
「ううん、ありがとうネスト。兄さんにすら追い出されたってショックが過ぎて、そんな事考えた事も無かった。」
幾分かフィアの顔に笑顔が戻った気がする。
ま、思い出話がどうであれ、フィアが別にしたい事が出来たりしない限りは俺が見捨てるような真似さえしなければ一人ぼっちになる事は無いんだ。
実際のところが何でも別に気にしなくてもいいだろう。
少なくなった残り時間をフィアの案内でのんびり過ごし、集合場所の宿泊場所に帰った俺とフィアは…
「で、ですねっ…スノウレール家のお屋敷のお庭から…派手な魔力反応と出てくる少年少女の姿が目撃されてですねっ…」
「あー…いや、えっと…」
他の先生に内緒でこっそりメリア先生に招かれ、興奮か何か、血が上ってるらしく頬を赤く染め軽く震えている涙目のメリア先生の前で揃って正座していた。
「さ、幸い私っ…フィアリスさんの事知ってる人しかっ…知らないからっ…でも…でもですねぇっ…」
「ご、ごめんなさいメリア先生…」
「す、すみません…お願いですから半泣きの震え声での詰問は勘弁してください…」
決闘を挑んだとは知らない…が、そうでも無い限り名家の人間の家での戦闘なんてありえない上、フィアの回りの事情を知っているメリア先生。
大体どんな流れでどうなったのか想像つくんだろう。
「くれぐれも…危ない事はしないでって…しないでって…っ!!」
「「本当に済みませんでしたぁっ!!」」
ネイアスに来て早々の注意、その理由はナードが大怪我退場したから。
だって言うのにそのナードと同じギルドチームの人間が、下手したら命に関わる決闘を学生側から名家の人間に仕掛けるなんて言う危ないどころか命知らずな真似をして、泣かれている。
なんと言うか、怒られるより効いた。
注)このおはなしはふぃくしょんです、じっさいのみすりるとはいっさいかんけーありません。
…実際のミスリル?(苦笑)




