表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/43

第5話・冷たい古傷と暖かい手



第5話・冷たい古傷と暖かい手



Side~フィアリス=スノウレール



殆ど詰める事になってしまっているリトルフェアリーの研究室から自室に帰ると、私は驚愕の光景を目にした。


借りている部屋の扉にびっしりと落書きがされていたのだ。


「な…何!?なんなのこれっ!?」


訳がわからず扉の文字に目を走らせると、『ブス』だの『尻軽女』だのと書かれていた。


イジメ。


魔法国の方に居たときは、『ダンスの時に差し出す手が違う』とかだったため、空気が違い過ぎてパッと見でわからなかった。

流石に文章の内容から察したが、次にわからないのは誰がこれを書いたかだ。


自慢じゃないが必修科目を受けるためのクラス内では殆ど交流がない私。

目の上のたんこぶをつつく、といった意味合いもあるのはわかるけど、そもそも私は誰かの上をでしゃばった覚えはない。

リトルフェアリーが竜討伐に成功した話は流石にあの研究者さんが喋り散らしてなきゃ知れてないだろうし、何でこんなことになっているのかわからなかった。


「ちょっとフィアリスさん!!」

「え、あ、大家さん?あの…」

「借りてる場所に何て事してくれてんの!!」

「…はい?」


何がどうしてこうなったのか、それを知りたいのはこっちのほうなのに、いきなり怒鳴られた私は硬直する。


「ちょ、ちょっと待って!何で私が自分でこんなものを!?」


理屈も何もなく叫んでいた。

私が指差した落書きを改めて見た大家さんは、厳しい目付きのまま私を見る。


「…で、犯人、対処法の目星はあるのかしら?」

「え?い、いや、私も初めて見て何がなんだかさっぱり…」

「じゃあ意味無いでしょ!問題なのはこんなことになってる事そのものなんだから!!」


扉を指差して怒鳴る大家さん。

いやそうだけど、解決できるなら私だって


「解決出来ないなら掃除して出てって頂戴!!」


呆然と立ち尽くす私に、掃除用具が投げつけられた。

怒りをそのままに踵を返す大家さんの背を、私は黙って見送ることしかできず…








日を跨いだ頃、私は一人小袋を手に公園に居た。

家具の類いは少しの間だけ預かると言われたが、本気で家を探すためにここは出ていけと言われた。

落書きの追加を避けるためか、ご丁寧に空き部屋とまで貼られている。


「無茶苦茶よ…こんなの…」


膝を抱えて呟く。

どうしてこんなことになっているのか、訳がわからない。


「出ていけ…か…」


呟くと、涙がこぼれてくる。

まさかオルミクスまできてこんな目に遭うなんて…

本当に…私が何で…


「何も…出来てないから…よね…」


呟いて、余計に涙が溢れてくる。

支払う家賃より被害の方が大きいから追い出され、関わりがないから的にしやすく被害に遇い、才能がないから…


「う…ぐっ…」


嫌だ…もうやだ…私なんて…産まれてこなければ良かったのに…


ジャリ…と、砂を踏む音がした。

ゆっくりと近づいてくる。


こんな時間に外を出歩いている人間何てどうせマトモじゃない。

…まぁいいか、私なんてどうなったって別に誰も


「フィア。」


頭上近い声に、私は伏せていた顔をあげる。


ネストが笑顔で立っていた。


ポケットから容器を取り出したネストは、無言で容器に氷を作り出すと、それを溶かして、次いで取り出した粉を溶かす。

大気中水分の氷結と、炎に満たない調整をした炎魔法。どっちも使う私でもちょっとすごいと思う程で、思考をそっちに奪われた。


「粉末ミルクティー。科学国の量産品だから質は気に入らないかも。」


私が恐る恐るそれを受けとると、隣に腰かけるネスト。

一口飲むと、まだ溶けきってなかった粉が混ざったお湯が口に入る。

雑なものを甘さでごまかした代物。

少し甘過ぎるくらいで…


「ふ…ぅっ…」


甘い。あったかい。

涙が止まらなかった。


隣に座ったネストは、何も言わなかった。

そのくせ、ずっと隣を動こうとしない。


「…何も…聞かないの?」


耐えかねて私からそう口にすると、ネストは私を見る。


「俺が聞いていいなら、力になる。なってみせる。」


ネストはそう言った。

火を意味する呪を描いたネストを見て思いっきり狼狽した私。知るだけで不味い話がある身なのを気づかってくれてるんだろう。

どうでもよければ付き添ってこんなところにいてくれるはずがない。

私が帰らなきゃ、ずっと側にいる気だろう。


帰れないのに。





落書きだらけになった挙句追い出された一連の話をすると、ネストは肩を落として苦笑いを浮かべた。


「うわー…大家さんもキツいな。」


軽い口調で告げるネスト。

一般人には規格外の事態に巻き込まれても飄々としている彼らしいと思うと私も肩の力が抜けた。


「とりあえずは研究室くるか?風呂も台所も無いから女の子が住むにはあれだけど、外よりはましだろ。」

「でも…ナード…」

「離れて寝る分には大丈夫だろ、俺間に入るし。」


気を使ってみたが、私の方も他にアテがあるわけでもなく、ネストに手を引かれて歩き出した。





SIDE OUT




目に見えて落ち込んでいたフィアと一晩一緒に寝ての翌日。

さすがに早めに何か考えないとまずい気がする。

俺は勿論、女子と見間違える様相とは言えナードも男子だし、同室じゃフィアも気が休まらない筈だ。


「うーん…どうしたものかな…」


犯人探しをする…ってだけなら多分さくっとできるし、とめるのも手を選ばなきゃ難しくは無いんだろうけど…それだけだと、多分糾弾になる。

本気で悪意全開のやり口には見えない。俺も昔扉の紙に穴を開けたりとか位はしてたし、フィアは滅茶苦茶強い魔法使いだから、多分何かが気に入らないって程度の事なんだろう。


下々の事など知ったことかー!

って性格ならほっとけばいいんだろうけど、一人で人の輪を外れていたのは無理をしていただけらしいフィアに、それをさせるのもどうかと思う。


「ネスト君、どうしたの?考え事?」


授業も終わってまだ考え込んでいると、クラスの女子に声をかけられた。


「フィアが借家に落書きされて追い出されてさ、どうしたもんかって。」

「ふっ…ふーんっ…」


一瞬言葉に詰まる女子。


「あー…」


俺は何を言うか困った。

フィアのクラスメイトだとばかり思い込んでたが、そういう可能性もあったか。


「あの子の何処がいいの?やっぱり凄い魔法使いだから?」


どうしたものかと思っていると、別の女子が若干不機嫌そうに声をかけてくる。

…とりあえず今直接触れるのはやめておくか。


「何処がいい…って言われると中々困るな。魔法の腕もそうだし、ナードにも優しいし、足りない所を探すほうが難しい気が…」


一瞬、胸と言いそうになったのをぐっと堪えた。

さすがにこの場でさらっと言うにはあまりに酷い単語な気がする。

並より少し高い位の身長でアレだと、フィアには悪いが足りなさが際立つ。


「え…でも魔法専行のクラスでも評判悪いって聞くけど…」

「フィアが評判悪…げ…」


最初に話していた女子が控えめに割り入って来るのを聞いて、俺は嫌な予想が立ってしまった。


炎関係の何かをばれたくないからか、魔法関係で一線引くような位置にいる上に、基本授業以外はギルドで練成作業してくれてたフィア。

ろくに話せてもないと冷たいエリートに見えるんじゃないか?


「やべ…俺のせいか…」

「え?ど、どういう事?」

「フィア、山ほど抱えてたギルドチームでの作業に全時間使ってくれてたんだ…多分何誘っても断ってた筈だし…」


確かに、人と色々用事なさそうだからギルドチームに誘った。時間無いと困りそうだったし。

けど、弊害まではちょっと想定できてなかった。…いや、これが理由かはわからないんだけども。


「今いきなり仲良くってのも無理な話か。しょうがない…」


俺は手早く荷物を片付けて席を立った。

話していた女子に軽く手を振って、早足でフィアのクラスへ向かう。

同じ高等校内とはいえ専行違いで思いっきり教室違うからさっさと行かないと。




Side~レイナード=マーシナルス




「き、気づかれてないよね?」

「気づいてて笑顔で手を振って帰る訳ないでしょ。やっぱり魔法の腕が凄いから重宝されてるのねアイツ…」


大半予想通り。

落書きの内容から男子のファン…無能でびくびくと生活してる僕じゃなく、凄腕で優しいネストのほうのファンのやっかみ混じりなんだろうとあたりをつけていたけど、まさか堂々とネストに話しかける程図太いとは思わなかった。

女は図太く悪くなければやっていけないんだろうな。


あいつらも…


僕はトラウマに震える手を握り潰すつもりで拳を作る。

腕の震えはとめきれないままで、ネストと入れ違いになるように教室に入った。


「ん…あ、アンタは…」

「ナード…リトルフェアリーの一人と言えば、僕が何でここにいるか位分かるよね。」

「あ…っ!?」


話の内容を聞かれたと悟ったのか、一人があからさまにうろたえる。

けどもう一人の方は、元からの性格か全く動じてない…むしろこっちを忌々しげに見てくる。


「アンタが何でここにいるかなんて知らないわよ、何のつもり!?」

「っぐ…」


怒鳴られて、反射的に身体が竦む。

震える手をそのままに、僕は何とか堪えて彼女たちを見る。


「何よその手、女子相手に手を上げる気?最低」

「上げたいさ!!」


自分の恐怖を振り払うつもりで叫んで好き勝手喋る女子を黙らせる。

罵倒を続けたかったらしい彼女も、まさか『殴りたい』なんて明言されると思わなかったのか、僕の叫びを聞いて一歩引いた。


「けど、見逃したネストに悪いから今はまだそこまで出来ない。」

「え…」

「ネストもフィアも、人の身を優先して動くようなお人よしなんだ。だから、わざわざ触れなかった。」


依頼破棄になるからって賃金断って商人さんの荷物を守ろう何て言い出す位だ、仕事としても学生の行動としても間違ってる。

褒められた事じゃないと分かってて、それでいいって残る事にしたネスト。それに付き合って文句の一つも言わなかったフィア。二人ともお人よしが過ぎる。

だからこそ、険悪にならないままでフィアも守ろうと、ここで何かをするのでなくフィアへの助けに走ったんだ。

僕が、初めて知った暖かさとすら言える気がするそれを…



よりにもよってまた醜い女なんかに踏みにじられるなんて冗談じゃない。



「だけど、二人の苦労が過ぎるようなら僕が叩き伏せる。」



抱えたトラウマは逆に憎悪になりつつあって、僕に力をくれた。

呟きから憎悪が伝わったのか、二人は息を呑んで引く。


…フィアのフォローはネストに任せよう。

どうするかわかんないけど、女性にトラウマを抱えていて優しくもない僕が一緒に居るよりきっといいだろうから。




SIDE OUT




意気消沈して荷物をまとめているフィアの姿をクラスの外から見かけた俺は、思いっきり扉を開いた。

軽い素材で出来たスライド式のドアが高い音を響かせ、注目が集まる中フィアと目を合わせた。


「え…ね、ネスト?」


フィアは俺を見て驚いた様子だった。


「いや、まぁ…迎えに。」


唐突ではあるが、家を追い出されたような状態で心配になって迎えに来ても不思議はない。

周囲の学生もこっちを見てきたが、フィアの現状は知れているらしく特に何も言う奴は居なかった。


「…ありがと。」


お礼を言って席を立ったフィアは教室を出てくる。


「ちょっと…付き合って。」


並んだフィアの呟きに従って、俺はその後に続いた。







魔法の試し撃ちも兼ねた競技場。

その場を借りて、俺はフィアと向かい合う。


初めて会った時に試合したその場所で、フィアは俺を見据えて真剣な表情で深呼吸する。


「…全力で行くから、相殺して見せて。」

「分かった。」


余程難しいのか緊張があるのか、返事をしてまだ深呼吸を繰り返したフィアは、ようやく魔法陣を展開する。


「氷鱗纏う白き蛇よ…」


丁寧に詠唱を行うフィア。

中級魔法の中でもフィアの手にすら余る代物なんだろう。

得意が炎とは言え並の氷魔法ならポンポン撃ってたフィアの手に余る代物…相応のものなんだろうと想像はついた。


「氷域よ、我が望む空間を凍て潰せ!」

「道程の全てを呑み砕け!!!」


こっちが何をしているかすら気にしている余裕がなさそうなフィア。

本当に、込められるだけ全力で行かないとまずいだろうな。


「フィールドフリーズ!!」

「フロストサーペント!!!」


フィアが竜相手に身体の半分を覆うように使った空間氷結魔法。俺はそれを、自分の前に柱状に絞って展開した。

密度が高ければ氷の質は良くなる。

半分以下ぐらいの範囲に納めれば当然強度は倍位に…


なった氷の柱に、蛇のような白い流れが弾丸さながらに衝突した。


「うわ!!」


氷の柱が砕けるのと同時に冷気の余波に押されて包まれる。

咄嗟に顔を片腕で覆ったが、全身に氷がまとわりつくような冷たい感覚があった。


フィアの普通の氷魔法は、特に無関係の地属性魔法で相殺できた。だから雷必要ないかと思ってたけど、この分だとかなり危なかったらしい。


「だ、大丈夫ネスト?」

「う、動けないほどじゃない…死ぬほど寒いけどな、はは。」


無理矢理動くと、パキパキと小気味いい音がして体から氷が剥がれ落ちた。

駆け寄ろうとして失敗したのか、よろけたフィアはゆっくりと近づいてくる。


他に人も使うためいつまでも借りているわけにも行かない。

競技場を離れた俺達は、外のベンチに並んで腰掛けた。


「氷魔法の名家、スノウレール。私はその生まれ…フィアリス=スノウレール。一応それが本名なんだけどね…」


寂しげな笑みで語るフィア。

そう言えばファミリーネームって聞いた事無かったな。

スノウレールって言えば氷系の魔法書や魔法国の歴史なんかにすら出てる名門だ。


「今のはスノウレールに伝わる純戦闘用魔法、フロストサーペント。中級魔法最高位ぎりぎりで、直撃すれば竜種にも効く…兄さんとかならね。」


自嘲気味に呟くフィア。

その意味を察して、俺はどう言っていいか分からなかった。


氷魔法の名家に生まれて、身体は完全に炎適正。

無適正の俺には分からない感覚だが、得意な属性の両隣…火が有利な森と、不利な氷、その二つは、フィアには扱い辛い筈だ。

中級魔法を単独で扱うのは稀…少なくとも、フィアのクラスでやってた魔法適正検査の時には初級すら扱えない奴も居た位だ。

それを苦手な属性で修得…どれだけ頑張ったんだろうか。なのに…


「役立たずのおちこぼれ、頑張ったんだけど…とうとう追い出されちゃった。」


フィアは要らないと、家を追い出されたのだ。


前に魔法を絵に例えたが、属性はつまり色みたいなもの。

魔法国の、それも名家ともなると、同属性の優秀な魔法使いとしか結婚できないとかそんな決まりになってすらいる家もある。

突然変異か何か、家系の氷魔法を覚えるのに不都合なフィアの血は、スノウレールには『要らない物』だったんだろう。


「…そう、要らないから、いちゃいけないから、追い出されたんだ。だから…昨日、本当嬉しかったんだ。」


大事そうに呟くフィアに、俺は昨晩の今にも壊れそうなフィアの姿を思い出す。

家族に疎まれ追い出され、誰かに憎まれまた追い出され。

何か悪い事をしたのかと言えば、フィア自身に悪い部分なんて何一つない。


泣きたくもなるな。


「ネスト…あの…さ…私、居ていいよね?」

「勿論。」


自分の肩を抱えて聞いて来るフィアに俺は迷わずに即答した。


「この流れで聞くの卑怯だし、重たいのも分かってるんだ、でも怖くて…」

「大丈夫、そんな事言わないって。」


ナードがトラウマがあるって言ってるけど、フィアのほうが辛そうだった。

フィアは『怖がって』いる。

怨んでない、見返そうとかじゃない、追い出された事で傷ついて、追い出されることを怖がっている。


それはつまり、失ったものが大切だったって事で…それこそ、不得手な氷魔法をここまで身につけるほどに大切だという事。

憎むことすら出来ず、ただただ自分が悪いって思うしかなくなってしまう。


「その…なんだ、どうしろって…上手くは言えないんだけどさ、自分の事は悪く思わないでやってくれないか?」

「え…」

「無理があるのは分かるんだけどさ、居たかった家からの要求を満たせなかった身体を喜べないのは。でも、それをフィアのせいって言われるのは何か嫌だ…って言うか…だってどう考えてもフィアに悪い所見当たらないし。」


押し付けになりかねないから強めにいけないが、それでも言うしかない。

こういうのは、自分の事なら自分のせいって思うものの、他の人が同じ境遇の時にそいつを怒るかと問えば、それには頷かないタイプが多い。


「少なくとも、俺は追い出したりしないから。あー…まぁ、俺の無茶に毎回付き合う必要もないけど。」


堂々宣言しようとして、既に狼の群れと竜相手に付き合わせていた事を思い出す。

もしあの時点で、仲間外れの恐怖と戦って無理させてたなら大分悪い事をしている気がする。


「そうね、本当一月も経ってないのに無茶苦茶ばっかりね。」

「だ、だよな…悪いホント…死んでたらシャレにもなってないしな…」


笑いながらフィアに乗られて、俺のほうは実際に悪いことばっかりしてる…と言うかさせてきた気がする。フィアのフォローどころか俺が反省するべきじゃないのか?


「一緒に居させてくれるなら、ついていくわ。やっぱり嬉しいのよ…私…必要だった事なんて無かったから…」


泣きそうな笑顔で言われると、そこまで大層な事をしたつもりのない…と言うか、練成とか色々巻き込んだ身としてはどう応えたものか困る。


「あ、怖いのは怖いんだからね!?さすがに竜相手にするなんて思わなかったんだから。ちょっとは考えてよ?」

「はは…覚えておく。」


さすがに釘を刺された事は無視もできない。

元々色々慣れてる俺やフィアと違ってナードも居るわけだし、覚えておこう。


「さて…と、フィアの話を聞いとくのはいいとして…実際どうしようって所があるよな。」

「え?」

「いや、部屋自体は別で用意できないとまずいだろ。」


捨てないでと泣かれた後の話で誤解招きかねないが、そういう問題じゃない。

まともに寝具もないところに雑魚寝、風呂は外か施設のシャワールームでも借りるかしないと使えず、男子二人いるところにいつまでも居る訳にも行かないだろう。


「まぁ普通は…そうよね。」

「…うん?普通は?」


女子のほうが問題多いと思ってずっと考えてたのだが、何故かフィアのほうが鈍い反応だった。わざわざこんなこと言うってことは、フィアあの部屋で大丈夫なのか?


「実家に比べたら正直一人で頼りない構造の家に居るのも不安なのよ。庭付きの家の一室を使ってた頃と比べたら、落書きだけなら学生の身でもあっさり出来るようなところに住んでたって環境も不安なのは同じで…ネストやナードは信用できるから…その辺を考えると身支度に融通利かない位でいいなら大差ないかなって…」

「あぁ…」


ぼろいってわけじゃないが、普通のアパートの壁なんか、初級魔法でも穴位開けられる。

その上、いつ落書きされたかも分からないとなると、他の部屋借りるにしても豪邸住まいよりは不安が残るのか。

それに、借りてる家から追い出されたフィア。度々古傷を抉られることになるのを心配する気持ちも判らなくは無い。


「一緒に住んでたほうがいいのか…学生用のギルドルーム借りてるだけじゃさすがに手狭だし、いっそ一軒家買えたらいいが…そこまでの大金はないしな…」


魔科学都市オルミクスの中心部はほぼ学校か研究機関か集合住宅。

孤児とかでも住めるような安物揃いの区域もあるけど、大分端のほう。

車含めて移動手段の持ち合わせが無いからいちいち時間がかかる。


「ナードにも許して貰えるならしばらくはギルドルームに一緒に置いてくれないかな。私も大荷物はないから。」

「それしかない…か。」


フィアを気遣ってフィアを不安な配置にするために部屋探しってのもおかしな話になってしまう。

落書きの内容考えると若干風当たりとか不安はあるが、不健全とか先生達が言うなら、それこそただで何とかしてもらおう。元々フィアが悪い訳じゃないんだから。







結論から言うと、ナードはあっさり承諾した。

釜とソファと本棚があるだけの部屋。収納は竜素材含めた荷物で埋まっているし、俺とナードは釜横に布を敷いて寝る感じにして、ソファと机のあるスペースとの間に仕切るようにカーテンをかけた。


女の子なのにこれのほうがマシってフィアの状況も切ないものがあるな…

俺は家を出る際に『何デカイ事を』と怒られた位だし、自分で村を出た身だから、居たい家から切り捨てられたフィアのショックは想像しきれない。


「けど良かったの?」

「何が?」

「毎日事故無くもいかないでしょ。この薄っぺらいカーテンめくれたらフィアが着替え中なんだし。」


人差し指でカーテンを突くナード。

軽いカーテンがゆらゆらと揺れる。


「こ、こら!それはさすがにわざとやらないでよ!」

「大丈夫だって、見るだけなら写真集でも買ったほうがいいし。」

「な…どーせ胸ないわよっ!!」


何もする気のない理由として妥当かと思ったが、どうやらフィア自身気にしてたらしく、怒った声がカーテン越しに聞こえてくる。


直後、軽い音と共にカーテンが思いっきり開かれた。


「「あ…」」


怒りながら羽織ろうとした服を振るったらしいフィア。

服のボタンがカーテンに引っかかったようで、下着姿で服を羽織ろうとしたフィアの姿が眼前に広がっていた。


硬直する俺とフィア。

そんな中、フィアを視界から外したまま部屋の出口に向かって歩きだすナード。


「言っておくけど、僕は知らない見てない興味も無ければ関わりたくもないから、怒るならネストだけにね。先に出てるから。」

「ちょ、ナード!?それは酷くないか!?」


ナードは女性がトラウマになっていると自白している上に俺達も把握している。

無関係と言えば無関係で、本当に関わりたくないと言わんばかりの様子でさっさと部屋を出てしまった。


「…えーと、ご馳走様でした?」

「いっ…今更うるさい馬鹿ぁ!!」


どう言っていいか分からず呟いた俺目掛けて、フィアの鞄が飛んで来た。

俺のせいじゃないとは思うけど、こういう場合しょうがないんだろうなぁ…


理解し辛い所で怒るおばさんっているよなぁ…(苦笑)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ