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第4話・山の調査と希少素材




第4話・山の調査と希少素材




銀、聖遺物を練成術にて退魔銀を練成。

合金で作り上げた柄と、シエントで買ってきたもう一つの精霊石、スノウフィアを組み合わせる。

接着剤と魔法用の触媒の材料を組み合わせて作った溶液で組み合わせの隙間を完全に埋め、固まるのを待つ。


液体が完全に固まってくっついた所ではみ出た余分な部分を削って…


「おし、完成!」


出来た短剣を握り締め、ロストリミットを起動。

室内なのに爆発したかのような速度で振るわれた短剣が甲高い風切り音を鳴らす。


二、三度ふるって短剣を見るが、傷もよどみも無く、柄に埋め込まれた精霊石も部屋の明かりを反射して水色の光を返していた。

スノウフィアの名の通りの白に近く僅かに青い雪の白と水の青の間のような輝きで、銀一色の短剣に色を添えている。


速射魔法を使って氷の塊を作り出してみる。

…うん、魔法発動の補助用具としてもきっちり働いてるな。


と、確認した所で研究室の扉が開かれる。


「…アンタ気づくとここにいるわね。」

「基本教科の、しかも最低限しか受けなくていいからな。」

「専門教科受けて無いの?」


入ってきたフィアとナードが、俺がほぼずっとチームの研究室にいることを不思議がる。

ナードの言う専門教科は高度な資格や知識を集めたい場合に専門の先生が開いている講座だ。

当然授業を受けておけば色々とためになるが…


「資格試験取るなら細かい所詰める必要があるだろうけど、授業でやるのなんて教科書の説明だからな。教科書の内容が分かるなら先生には聞きたいところだけ後から聞けばいい。」

「で、実地は研究室でしか出来ない…と。なるほど。と言うか教師なしで教科書さらうだけのほうが早いって言い切るあたりかなり出来がいいのよね…」

「僕も…さすがにその発想は無かった…」


感心する二人だが、俺がいかれてるとすればそれは褒められた事情じゃないだろう。


「じーさんが持ってた本位しかなかったんだよ。他は俺以外家事をするか作物を育てるか…だから、先生の講義って奴がどーにも慣れなくてな。楽しいけど進むのが遅かったり詰まった所に時間かけられなかったり、ちょっと馴染まないんだ。」


何のことは無い、俺に魔科学を教えられる教師なんてものが俺の村にいなかっただけ。

こっちにきて必修の授業で先生が解説したり課題出したりするのは初めてで新鮮だが、俺にはちょっと慣れない。


っと、そんな俺の事情はいいな。


「それよりほら、フィアにこれを。」


俺は作ったばかりの短剣をフィアに渡す。

フィアはそれを受け取り、しげしげと眺める。


「これ…並の杖より性能いいわね。」

「そっか?俺杖はあんまり見たこと無いからな。」

「魔法発動を補助する道具…魔力を通したり、発動時の威力を底上げしたり…そういう道具だよね?そんなのも作れるんだ…」


杖だと材料の木にも魔力の通る物使ったり出来るから、宝石より安価で使い易い。

他には短剣やグローブなんかの普通に武器になったり行動を阻害しない物になるとかどうとか。

フィアもこの間短剣使ってたから使い物になるとは思うが…どうだろう?


「もらっちゃっていいの?」

「俺は元々これもこれもあるしな。」


言いながら俺は首のロストリミットと腰の筒を指す。

二種類のマテリアルウェポンと魔法を使ってたらそれ以上道具は多すぎる。


「そう…ならありがたく貰っておくわ。」

「無理して使わなくてもいいからな。一応真面目に作ったけど、魔法国の発動体の性能がどれ位か分からないしな。」

「並の杖より発動体として出来のいい短剣なんてそんなに聞かないわよ。氷魔法使うときには重宝するわ。」


一応学生身分の田舎者が作った代物が魔法国出身の上かなりの腕利きっぽいフィアの眼鏡にかなうかちょっと心配だったが、うん、大丈夫で良かった。


「さてと、武器をよこしたって事はまた外いきの依頼でも捌くのかしら?」

「この間倒した狼から頭やら皮やら取ってきたとはいえ手持ち分位だし、材料とかそれを買う資金とか無いと何も作ったり出来ないからな。当面は…」

「よぉガキ共!!!」


地道に外依頼とか見に行こうかと言おうとした瞬間、研究室の扉が勢いよく開かれた。


「おっさん!?」


知った声と共に部屋に入ってきたのは、昨日依頼を受けたばかりのおっさんだった。

背後から、大きな袋を持った連れが入ってきてドサリと置いていく。


「あの大群片付けた後始末…っつーか、獣の皮やらなんやらを回収するのに馬車を回してな。処置が少し遅れたから全部は無理だったが、皮とか牙とかはきっちり売り物として仕入れられた。…で、やったのはお前等だからな、干し肉、牙皮を持ってきたって訳だ。」


ぺらぺらと自慢げに語るおっさん。袋が開かれると獣の濃い臭いがした。

おいおい…とりあえず干し肉と素材系は分けとけよ…ま、ありがたいと言えばありがたいけどな。


「防腐加工済んでるみたいですけど…いいんですか?」

「お前等が倒したんだろ?いいってことよ。俺のほうは馬車で運んできっちり売りさばかせてもらったからな。」


言いながら指で円を作ってニヤけるおっさん。

相当倒したからな、毛皮の毛布や服、牙の装飾品なんかを作るための材料として売りさばいたんだろう。

荷物の輸送方法とか考えたほうがよさそうかな、依頼にも品物欲しがるのもあるし、人に提供するなら結構な量が必要になる事もある。


「でだ、さすがにわざわざここまでそれだけで来た訳じゃなくてな。」


おっさんが言って一歩ずれると、眼鏡をかけた白衣の女性が部屋に入って来た。


「研究者?」

「は、はいっ…スタア=リアライトと言います。あの…じ、実は皆さんにお願いしたいことがありまして…」


自信なさげに喋るスタアさん。

俺達は頷いて、彼女の話を聞くことにした。





普段馬車で通るような街道に、雑魚数体ならともかく、あんな騎士団呼んで相手にするような数の狼が出てきて荷物を襲うなんてありえない。

だから、山林で何かあって降りてきたんじゃないかと調査に出たいと考えたらしいが…

騎士団呼んで相手にするような数の狼が『逃げる』何か。

それに足りる護衛を雇う資金なんて出る訳が無いという事だった。


「そこでお前等よ。まだランク低いから格安で雇えて、100近い狼全部返り討ちにした腕がある。当然紹介したこの俺の顔潰すような真似しねぇよな?」

「なんでおっさんが自慢気なんだよ…俺はいいけど、この間クラスの戦闘になるかもしれないんだよな?二人とも」

「私もいいわよ。」

「僕も…足手まといじゃなければ…」


前回だっていきなり巻き込む形で危険な戦闘になったのに勝手に…と思ったが、二人ともあっさり承諾してくれた。


「と言う訳で…チーム、リトルフェアリー。その依頼受けさせて貰います。」

「あ、あのっ…報酬…」

「…商人として言っとくが、契約するならきっちり確認はして置けよ?どーせ言い値でいいとか格好つける気なんだろうが。」


あわあわと慌てるスタアさんと顔をしかめるおっさん。

まぁあってるって言えばあってるんだが、お金が無くて困ってる人に安値で戦力を振れると俺らの所に顔を出したおっさんのセリフじゃないだろ。


「あ、ありがとうございます…」


スタアさんは、おどおどとした様子のままで頭を下げた。








街道で襲われる事もあるが、それ以外の人通りの無い場所は、それ自体危険といっていい代物だ。

事実、単に山林の入り口に入っただけだが、既に魔物に出会っていた。


「さすがに森の中に来ると魔物がいるな。」

「人気のない場所だしね、この程度なら大した事も無いけど。」


俺も村でなら大ムカデやデビルラビット位なら蹴散らしていたが、別の場所に来ると棲んでるのも違うらしく、大量に降りてきたこの間の狼や羽虫のようなものがこの近辺の主流だった。

序盤からナードが銃を使うとあっという間に消耗しきるから、基本的には俺とフィアであしらっていた。


「ふわぁ…」


呆けたような声を上げるスタアさん。


「どうかしました?」

「あ、えと…その…」

「学生が野獣はまだしも魔物まであしらうと思ってなかったんでしょ?昨日から不安そうだったし。」


フィアの言葉に肩を震わせるスタアさん。

否定が無いあたりフィアの言うとおりなんだろう。


「俺田舎の出だからよく知らないんだよな…フィアの事考えると俺の力量もまんざらでもないみたいだけど、実際どんなもんなんだ?中の下とか?」

「どういう表現よ…って言うか、それ私も並以下って言いたい訳?」


俺を睨んでくるフィア。

墓穴を掘ったか…まぁ確かに俺一応模擬戦で勝ってるからそういう事になってしまう。

とは言え、さすがに田舎から出てきた俺がいきなりで上位に食い込んでるとは思えないんだよなぁ…


「魔科学都市で普通に依頼としてあの狼の群れを相手にして貰ったら私の一月分の給与位は必要になるかと思います…いないとは言いませんけど、学生のギルドでは最上位ですよ。」

「うえ!?最上位!?」

「中級魔法を単独で使える魔法使いは既に並じゃないわよ、オルミクスではどうなのか知らないけどね。」


どうやら俺は自分の想像よりとんでも無い事をしているらしかった。

うーん…初期魔科学って案外とんでもない代物だったのか?じーさんが持ってる本で色々覚えたんだが、マテリアルウェポンの作り方も一年の教本には無かったしな…


「で、調査って何をどんな感じに?」

「あ、は、はい。それはもうはじめてます。」


言いながら足元を見るスタアさん。

指差したのは僅かに草木が折れた跡。


「私達の進行方向から反対に向かって、生き物の移動痕…これだけで生物の種類までは断定できませんけど、他にもいくつか同じ方向に向かっている足跡が残っていたので、逃げる何かがいるのか、何か地形に変化でもあったのか…」

「遠目に山林を覗いた限りじゃ生き物がみんなで逃げてくるような大事は見当たらなかったけどな。」


生き物が大移動するような大事と言ったら地震や雷、山火事の類になるが、その規模のものが起こっていればそっちが先に目に付くし、さすがに俺らみたいな学生がいきなりあの規模の群れに襲われるなんてことにはならない。

だからこそ、研究費だしてまで調べに行こうなんて発想にならないんだろうが…


「よく草見ただけでそんな事分かるなぁ…僕はさっぱりだ。」

「足跡に位は気づけるけど、別に今何か通ったって訳でもないのに方向とか種類までわからないわ。研究者のスタアさんはともかくアンタは…狩りでも?」

「正解。だから俺も食わない種類で危険の低いのはさっぱり。」


田舎で肉取りたかったらそれが手っ取り早い。

フィアとナードは驚いているが、田舎と魔科学に絡まないことになったら俺は多分途端にからっきしになるだろう。


「とにかく…そういう訳ですからこっち…足跡に逆走する形で辿っていけばあるだろう『何か』が見つけられると思います。」


淡々と、語ろうとして出来ていないスタアさん。

要するに、狼の群れを含めて魔物まで逃げるような何かが、来たか居るかあるか。

そんな化物がいたとして、出合ったら逃げるにしろ倒すにしろ俺達がスタアさんの命運を握ってるわけで…

強いったって学生相手じゃ信用もしきれないんだろうな。


「お?」

「あれは…」


突如として姿を見せたのはオークだった。

ざっくり言うと、人より巨大な筋骨隆々な豚顔の武器使い。

武器を作る知能は無いので、木や手ごろな石の塊、死んだ旅人の持ち物なんかを奪って使っている。

身体能力も相まってそれなりの強敵らしいが…


俺達を素通りして行ってしまった。


「えーと…」


その背を見送って固まるスタアさん。

頬が引きつっているあたり、逃げて安心してるのではなく、俺と同じ事考えてるんだろう。

と言うか、耳を澄ますと僅かに聞こえてきた。


何かの咀嚼音が。


逃げたと言う事は、アレが恐怖する何かが、この咀嚼音の元凶という事。



「スタアさん、何が居たかは俺が見てくるんで引いておいたほうがいいかも知れません。」

「い、いえっ!そんな無茶をさせるわけにはいきません!咀嚼音と他の魔物が逃げていた事を報告すればちゃんと動いて貰えると思うので今日はもう」


俺を気遣って引く事を薦めて来るスタアさん。

だが、その声を遮って森の先からバキバキと音が近づいてきた。

事を決めるには遅かったらしい。


緑色の鱗と牙と尾。

片手でオークの一匹の頭を掴んでいる竜がのそのそと姿を現した。


翼はない、大きさも規格外じゃないが…


仮にも魔物のオークの頭を掴んで持ち上げた挙句その片腕を食いちぎって咥えているあたり、弱肉強食の『強』なのは間違いない。


「ナード、スタアさんと離れといてくれ。何とかしてみる。」

「アンタ正気!?あのタイプの竜種は飛ばない以外最悪よ!?」


竜鱗の強度は金属以上。

破るならそれにダメージを通せるような手段を用意しておく必要がある。


「…とめられれば何とかなる。」

「あっそう、氷ね。何とかしてみるわよええ全く!!」


叫びながら下がるフィア。

対して俺は真正面から前に出た。

俺を見て、掴んでいたオークを放り投げてくる竜。


それを潜るようにして通り過ぎ、マテリアルウェポンを起動。

魔力で構成された剣を横凪に一閃。


振るった剣は、ガン!と、鈍い音を立てて竜の身体に触れて止まった。


「牽制にもならないのかよっ!」


左手を振り上げている竜。

適当に振り下ろされたそれを、辛うじて斜めに転がりながら避ける。


速射魔法で竜の足元に小さな岩を作る。

が、蹴り壊された上にコッチに破片が飛んできた。


「いっ…てぇっ!」


叫びつつ竜を見て、俺はどうしたものかと考える。

人の剣士とかなら刃物を手前に散らすとかでも牽制になるが、当たって無傷じゃ牽制のしようがない。

幸いなのは馬鹿だからかフィアじゃなく俺を見てくれてることで…


「フィールドフリーズ!!」


フィアの魔法によって、竜の身体が氷に包まれた。


「よし!これで…えぇっ!?」


竜を包む氷。それが、中の竜の動きと共に砕けて弾けとんだ。


「く…アンタの岩が一蹴りで壊されるんじゃ予想できたけど…」


ぼやくフィア。俺も正直苦い気分だった。

足止めくらいなら中級魔法でもできると思ったんだが、この有様じゃ期待できそうに無い。


氷魔法を放ったフィアを睨む竜。

やべっ、コッチにひきつけないと。


「こら馬鹿ドラゴン!」


背後から斬りかかる。

が、振り下ろした刃はまったく刺さる様子が無かった。


背側のほうが硬いわけだ、真正面からかかったときより手応えが酷い…


「くっ…来るなっ!」


下がりながら氷の針を撃ち出すフィア。

だが、それを無視してどかどかと進んでいく竜。


やばい、俺がひきつけたのは最悪ロストリミットで距離は稼げるからなのに、フィアがこんなのに追いまわされたら…


竜が走りながら口を開き…



直後、竜の口が弾けた。



「ネスト!沼!!」



声のほうを見ると、銃を構えたナードが木の上に上って枝に座っていた。

上からなら口を狙えるって事か、しかも助かる!


「フィア!ちょっと頼む!」

「え!?わ、分かった!」


一瞬止められたに過ぎない竜への時間稼ぎをフィアに頼み、俺は魔法を準備する。

さすがに最大クラスじゃないといけないが…


「水精よ、大地と踊り溶かしつくせ…」


あまり使わないタイプの魔法。

地味で普段から使えない代物だから慣れなくて手間だが、何とかするしかない。


魔法準備に集中していた俺に気づいたらしく、目を開くと俺のほうに竜が迫ってきていた。

丁度いい。


「メルトグランド!!」


発動と同時に、大地が揺れ溶けた。


農耕用の整地魔法では沼にする必要は無いが、水分があったほうがいい場合も多い。

どろどろぐちゃぐちゃの地面を広い範囲に作る中級魔法だが、今回は広さよりも深さに重点を置いた。


重たい竜は一気に沈み、俺の足元も巻き込まれているが、ロストリミットを起動させて地を蹴った。

腹位まで埋まった竜は、自重のせいで上がろうとすることすらままならずにもがいている。

これで十分かな。


部品を取り出して組み上げ、固定砲台を設置する。

砲台、と言っても大層なサイズじゃない、傍目にはただ長いだけの代物だ。


「雷光よ、我が示す道を迸れ…」


だが、長さが重要。

これだけあれば少なくとも…


「皆!耳塞いで!!」

「スパークウェーブ!!!」


ナードの声が聞こえた気がしたが、それを確かめる暇は無く、俺は雷撃を放った。

本来なら部屋を埋める感じで雷撃を放つ魔法だが、今回はその分をただ全て筒に集中させる。

筒のほうにも集電機構を組み込んであるから比較的簡単に…





光って破裂した。





視界を覆う準備はしておいたが、腕越しですら光っているのが分かるほどの光だった。

音も酷く、耳鳴りがする。

だが、それも一瞬で、ゆっくり目を開く。


沼の竜の胸に、小さな穴が開いていた。


よしっ!と、声に出したはずだったが、耳がまだよく聞こえなかった。


とは言え、小さな傷。重要な機関を外していればまだ動けるだろう。

だが、穴さえ開いてくれればマテリアルウェポンの刃を突き刺して雷撃なり氷の針なんかを体内側に作って攻撃する事もできる。心臓潰せればさすがに…


警戒するものの、全く動く様子が無く、穿たれた穴からはとめどなく血が流れ出てきていた。


…心臓に当たったか?コイツも運が無いって言うか。


「ネ、ネストォ…一体何したの?」


と、よろよろとおぼつかない様子でやってきたフィアが声をかけてきた。

音か光か、結構驚いたんだろう。耳鳴りが残ってはいるが、一応声が聞けるようにはなっていた。


「ん、あぁ…電気で速くなる弾を撃つ装置だったんだよ。固い敵の打開策に小さな穴でもいいから開けられるように考えて携行用に作ってみたんだ。音速超えるから弾の重さと強度によっては伝承の金属にも風穴開けられると思うぞ。」


科学畑の話をフィアに丁寧にしても分からないだろうとざっくりと説明する。

伝承の金属に穴が開けられると言う部分だけ聞いて、フィアの顔が引きつった。

…まぁ、そこまでやるのには滅茶苦茶大規模な設備が必要だから、そんなポンポン撃てるものじゃないが。


「けど…これは失敗だな。」


俺は足元の砕けた金属片を見る。

辛うじて弾は撃てたらしいが、単発で砕けて使い物にならなくなっていた。


「電磁加速銃を携行用に作るなんて無茶苦茶だね…」

「正直反省だな…五月蝿いし危ないし。」


頭を抑えて降りてきたナードを前に、肩を竦める。

本来科学国で使用に耐えるレベルの電磁加速銃は家一軒位のサイズになる。

出力の雷撃を魔法ですませ、加えて弾を軽く先端の鋭い貫通系にする事で速度を維持したが、それでも普通の金属で作った携行砲身がもたなかった。


「にしても助かったぜナード。口内を打ち抜くのに加えて沼のアイデアがなかったら撤退か全滅かだった。スタアさんは?」

「僕らの位置が分かる所で待っててって…静かになったから多分…」

「あ…あの…今の物凄い音は一体…いっ!?」


恐る恐る姿を見せたスタアさんが、動かない竜を見て引きつった声を上げる。


「りゅ、竜…穴…嘘…どうやって…」

「とりあえずコイツが原因そうですね。さすがに疲れたんで帰りましょうか。」


パニック気味のスタアさんに落ち着いて貰って、俺達は帰る事にした。



したんだが…


「ねぇ…やっぱりこれ無茶じゃない?」

「い…いーや…絶対持って帰る!!」


動かなくなった竜を背負って帰るのは中々に大変だった。

こんな事もあろうかと…と、持っていたフロートユニット…魔力を通すと浮力を生むプチ気球を取り付けて使っているのはいいんだが…

1個50kgの4個。

200程度は浮かせ…軽くさせられるんだが重い。

一体どれだけ重いんだコイツ…


「くそ…フロートユニットもっと作っとけば良かった…」


森の中と言う足場の不安定さもあってきつい。

来るときにかかった時間考えるとこいつ背負って歩くのはさすがに気がめいって…


唐突に、背中が軽くなった。


運搬用等に使われる風の初級魔法。

身体強化同様、使いっぱなしには集中力がいる。

その上、フィアが氷と火以外の属性使ってる所は見ない。


…練成の為の魔力制御で、制御に慣れたんだな。

俺が色々出来るのに驚いてたし、やっぱり練成術やってると魔力制御し易くなるんだな。


「…ナード、周辺警戒お願い。魔法発動持続させながらじゃあんまり集中できないから。」

「分かった、任せて。」


ナードに警戒してもらいながら、フィアに浮力補助をしてもらう。

二人のフォローもあって、どうにか竜を山林から持ち出す事が出来た。










「あー…さすがにくたびれた…」


竜退治から輸送後の翌日、俺は午前必修の課目をやり過ごして研究室でへたっていた。

さすがに消耗した…というレベルでも済んでないかも知れない。


「あんな無茶すればそうなるわよ…しかも、持ち出した竜スタアさんにあげちゃうし。」


呆れた様子で呟くフィア。

確かにそれはもったいないと思うが、元々原因究明のための調査が目的だったんだ。

原因っぽい奴がいたのに調べないわけにもいかない。

魔科学品の製作に使えるので出来れば材料として貰って置きたい所だが、調査後に余ったらと言う事で話をつけてある。


「ある程度研究を進める…自分の都合も考えたほうがいいよ。ネストが色々できる状態…材料や資金に満ちてる状態って事は、それだけ助けの手が出せるって事でもある。」

「まぁ…後のこと考えたらそうなんだけど…なっ。」


ぼやきつつソファから身を起こす。

ここに居てボーっとしていても仕方が無い、身体が駄目なら魔力制御、それも駄目なら設計図とか進めることはいくらでも…


「す、すみません!」


ドアをノックする音とどっかで聞いた声。

スタアさんだ。

扉を開くと案の定スタアさんが居て…隣にニヤニヤしたおっさんが立っていた。


「…おっさんは何しに来たんだ?」

「そりゃお前…ドラゴンを町に運び入れた俺にも恩恵を貰いにな。」


かなり楽しそうなおっさんがそう言いながら外を指差す。

俺達は揃って示されるままについていって…


外にある解体された竜を見て驚く事になった。


「竜の相手、輸送までして頂いて…普通の魔物退治より安いような額しか出せなかったので…せめてと思いまして。調査に必要なデータと、鱗、肉、歯などの一部は保管させていただいたので、残りは皆様に…それと…」


そこまで言ったスタアさんが恐る恐るおっさんを見ると、おっさんはニヤニヤしながら自分の胸を指差す。


「お前等が使い切れない、いらない分はこの俺が買い取ろうって寸法よ!お前等だけでこの量使い切れるわけ無いしな。竜素材…仕入れの倍額でも売れれば…ひっひっひっ…」


いやらしい笑いを浮かべるおっさん。

並の奴は竜相手には殺されるだけだし、竜を倒せる兵装を持って山中や秘境の捜索をすれば金がかかる。

腕のいい旅人が襲われて倒した所で、竜一体分を持ち歩くわけが無い。


そんなこんなで竜素材は高い。

おっさんにはお得意様とかあるだろうし相当儲けられる算段があるんだろう。


「そう言う訳だから、お前等とっとと持ってく分を決めちまいな。残りをどう売るか考えるのが楽しみだぜ…じゅるり。」

「いい年だろうにじゅるりとか口で言うなよ…そう言う事なら手早く決めさせて貰うぜ。ありがとうスタアさん。」

「と、とんでもないですっ!私こそ色々とありがとうございましたっ!!」


ともあれ全く損する所はない。

ありがたく好意を受け取っておく事にした。




実際は倒すより運ぶほうが桁外れに大変だと思われ(苦笑)

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