第36話・仲間の喝采と家族の試練
第36話・仲間の喝采と家族の試練
『後一度付き合ってやる、前日に教えろ。』
たったコレだけ、伝言で済みそうな機械的に丁寧なメモを校長先生に手渡された。
一応手書きらしいが印刷のようにすら見える気味の悪い整い方をしているそれは、いかにもアイツが書いたんだろうと想像できるものだった。
校長先生が届けてくれた、アルラート=エクス直々の挑戦快諾。
「日時の指定も何もない…それこそどれだけ準備してもいいって事だろうね。」
「余裕なんだろうさ。一回会ったから言うが、正直地上の生命体と思えないレベルだからな。」
無機質で上からのメモに顔をしかめるナードに呆れ混じりに答える。
あれは、魔法使いとか兵器とか竜とか、そういう問題で済まない気がする。
「それが分かっていても…やるんだね。止めてくれて全然構わないんだよ。」
心配そうに俺を止める校長先生。
全く…吐き出さないとどうしようもないもの一人でずっと抱えてきたくせにまだそんな事を言うか。
「はいはい。」
俺は生返事を返しながら校長先生の頭をなでた。
一瞬で目を見開いた先生は俺の腕を弾きあげながら後ずさる。
「なっ…まだ学生でしょ!大人の頭を撫でるな!」
「俺にしろアルトさんにしろ、もう少し素直に話せるようになったら考えます。」
「っ…」
赤い顔を逸らす校長先生。
アルトさんと並べたのにそこを否定しない辺り一応嫌われては無いらしい。
ミルアーク先生にはエロガキとか言われたからな、最悪冷めた目で見られるのも想定にあったんだけど。
「とりあえず後一月で戦技会だから、それ終わって落ち着いたらかな。」
「そう…それじゃあそのつもりで連絡しておくよ。まぁ彼に準備はないけど。」
目線を合わせないままでアルトさんを押してくる校長先生。
嫌われてはないが、怒ってはいるらしい。
「拗ねないで下さいよ、誓って馬鹿にした訳じゃないですから。」
「信じられない。」
「普通教員の頭撫でないでしょ…」
「だよね…」
畳み掛けるように声が続いたので見回すと、校長先生が不機嫌なのは元より、ナードは呆れ、フィアまで苦笑い。
「分かった悪かったって。三人して睨まなくても…」
軽く返して再び手元のメモを見る。
待ってろ…必ず届かせて見せる。
メモの先にアイツの姿を想い描きながら目を閉じる。
さてと…そうと決まったら本格的に準備しないとな、アイツ相手じゃいくらやってもやりすぎにならないからな。
ここから一月、確かに集中していたと言えばしていたのだけど、どうやら俺はあまりにも回りに目を向けていなかったらしい。
総仕上げと魔法漁りの日々が過ぎて一ヶ月。
いつも通りにお祭り騒ぎの戦技会、前年度色々やった関係もあってかこの期間位はと運営の手伝いやら医療班やらで過ごしていたのだが…
『と言う訳で本日のエキシビジョン、人型の天災ネスト=グラスレイン討伐イベントを開催したいと思いまーす!!!』
「どういう題だよっ!討伐って何だ!!」
最終戦が終わるなり競技場へと追いやられた挙句いきなり司会にとんでもない事を持ち出された。
競技場に追いやられた時点でそう言うのだとは思ったけど、討伐はないだろ討伐は。
『近いうちに仕事の関係でオルミクスにあまり顔を出せなくなるとの事で、その前に!あのリトルフェアリーの発起人である伝説の魔科学技師ネスト=グラスレインの壮行会を兼ねて!その伝説的御力を存分に奮って頂こうというイベントになりまーす!』
滅茶苦茶だが、趣旨を聞いて少し納得した。
コレで俺がアイツとやりあって、結果何があっても動揺少なく終わる。
まだ学校終わってない位だしな。
『皆ー!伝説の魔科学技師の力が見たいかー!!』
「痛い痛い耳が痛い!ったく…コレじゃ四面楚歌だっての。」
司会の悪ノリにあわせるように客席中から競技場が揺れそうな声が響いた。
皆盛り上がってるなぁ…俺だけ今このハイテンションじゃないんだけど。
『一人または複数チームで参列してますので、大怪我させないように上手い事立ち回ってあげてください!後一応中級魔法まででお願いしまーす!』
「急だなおい!まぁいい、やってやるさ!!」
ここまでされて応えないのもバツが悪い。それに、裏方やってたのだって戦技会を楽しいものにするためだったんだ、ここで白ける真似はする気はない。
『ではまず一番手の方どうぞ!』
司会の先導の声が響くと共に、向かいの入り口から一人の人影が向かってくる。
大剣を背に真紅のマントをはためかせ進み出る筋骨隆々の大男。
「漸くだな、待ちわびたぞ。」
「初手から先輩かよっ!」
ガイズ先輩…って学生枠からはもう外れてるけど、そのままキングフェンサーズのギルドマスターとして多数の戦闘依頼に出向いているらしい。
真偽は知らんが竜すら倒したとか。
「ふん、貴様が全快でなければ意味がない。」
「あぁそういう…OK、やろうか。」
そう言えば俺にコンファートさんにと、勝ち逃げを二回も食らってるんだよな。
そこまで待ち望んでくれてたって言うなら、応じようか。
俺はプロトオリハルコン製の片手剣…POソードを抜く。
かすかに青の混じる金属の光沢は、塗装なんかでは見えない輝きで、抜いただけで会場が静まり返った。
素人目にも分かるらしいな、さすがに詳細はばらせたものじゃないが。
ガイズも大剣を抜く。
アイツの力じゃもう並の金属じゃ強度的に無理があるんじゃないだろうかと思ったのだが…
いきなり大剣が光を纏った。
成程、マテリアルウェポンは魔力だけで使用者なりの強度になるんだから、もう大剣そのままの運用は止めて強化状態で扱う事にしたのか。
ミスリルソードじゃ罅位入ったかもしれないな。
「おおおぉぉぉぉっ!!!」
咆哮と共に駆け出すガイズ。
みたとこ金属製の靴の癖に速い…さすがだな。
綺麗な剣技の型を成してないが、『板についた』ダッシュの勢いをそのままに振り下ろす大剣の一撃。
俺はそれにあわせるように両手で持った剣を振りぬいた。
剣が衝突すると共に工場で事故でも起きたかのようなやかましい金属音が鳴り響いた。
踏ん張っている地面が削れる。
「更に馬鹿力に…」
「ち…拮抗して言う台詞かっ!!」
競り合いになるが、押し勝てる程じゃない。
意地なのか更に力を込めてきたガイズの力に乗せられるように地面を滑りながら後退する。
足熱っ…靴が金属製なのにも訳があるんだな、強化素材程度じゃ駄目かも。
さて…と。
「人型の天災目指してる所悪いが、先に行かなきゃいけなくなったんでな。コレで決めさせて貰うぜ。」
ガイズ先輩は間違いなく強い。
けど、人型の天災に挑む、そんな強者になろうとしている段階だ。
今手こずる訳にはいかない。
俺は速射魔法で砂煙を巻き上げ、ガイズを包み込む。
攻撃力はほぼないが、視界が一瞬塞げれば十分だ。
俺が駆け出すのと同時に剣を振り上げたガイズ。その一撃で、紙切れのように砂煙が斬撃で払われた。
「っ!小賢しい!何っ!?」
振り上げた剣を振り下ろしたガイズだったが、『そこに俺はいない』為何もない地面に大剣が突き刺さる。
別に外した訳じゃない、光を弄くって実像の位置を蜃気楼さながらにずらした状態で駆け出しただけだ。
「プリズムミラージュ…悪いね先輩。」
さすがに隙だらけの所に迫れた為、手足の関節部狙って俺は剣の切っ先を素早く走らせた。
俺が離れたのを見て剣を振り上げようとしたガイズだったが、手足に力をこめた瞬間に走っただろう各所の痛みに動けなくなる。
『な、何だ今のはぁっ!?ガイズさんが叩き斬ったネスト君の姿がまるで幻のように掻き消えたあっ!?』
「速射魔法を併用した近接戦闘…魔法騎士上位が当たり前に使ってくる訳だが、攻撃ばかりじゃなくてな。剣技自体もへっぽこだったから苦労したぜ。」
「正規魔法騎士の技…道理で…出血の割に動くのに弊害が出る箇所ばかり的確に斬れる訳だ…」
使っている魔法自体はオリジナルだが、近距離で速射魔法を併用して戦う事、そのタイミングなんかはアルスさんとの訓練で馴染ませた。当然剣技、戦闘用の人体の特徴も。
無理したらこう…ブチッ、と行く感じに斬ってあるからな。
普通にしてる分にはともかく大剣ぶん回すのは無理だろう。
ゆっくりとにはなるがガイズ先輩は自分で退場して行った。
『い、いきなり出たがったガイズさんのお陰で消耗して企画倒れも想定していました運営ですが…こ、これは想定外だあっ!そ、それでは次に行って見ましょう!魔科学総合学クラスメイトチームですっ!!』
「はい!?」
いきなりとんでもない事を言われた。
クラスメイトって…魔科学は戦闘限定と言う訳じゃない。
普通に学者や技師だけの奴が多いはずなのに…
「掃除当番何回代わってやったか覚えてるか!」
「いきなりだけどネスト君!好きです!私と付き合って!!」
「お、俺はフィアリスさんが…ま、まぁ無理でもいい所見せるまで頑張ってやる!」
ぞろぞろと入って来たのは、全員ではないものの本当に見知った顔だった。
総合専行にも関わらず基本科目以外はあんまり学校で習わずギルドと仕事で何とかして来た俺は午前中の歴史とかの共通科目ぐらいしか会わなかったが…
「ホントに学生ノリだなオイ!俺このメンバー倒すの!?」
『一応痛いの嫌なら参加しないようにとは規定に出して募集したんで!紳士的にお願いしまーす!』
「完全にネタだよな!後告白はゴメン!色々大変だしいきなり言われても!!」
司会に突っ込みながら告白に返事を返すと、頷いた彼女は俯いて涙をこぼす。
『それでは失恋確定から始まります第二試合!始め!!』
「やりづらいわ!!!」
ふざけた司会にノリノリの観客に押されながら、十数人のクラスメイトと戯れる事になった。
『ここまで9戦を終えてまだ息も切らしていないネスト君!さすがに人型の天災の称号は伊達ではないのか!そして何と次が最終戦となっております!』
キングフェンサーズの副長さん率いるガイズの仇討ちチームやら、リリィ選抜の新生リトルフェアリーチームやら、個人で相手にするには過ぎた相手が続いた。
…しかし、言われて自覚するが、本当に消耗したって感じは無いな。中級魔法なら使ってるのに。
プロトオリハルコンやら緋緋色金の練成もそうだが、魔力の底上げできそうな事は出来るだけやってきたつもりだからな…それなりの効果はあったって事か。
『余裕のまま全力の一端を垣間見る事も出来ないのか!?…不安に思った皆様!御安心ください!』
自分の手を見て思考に取られていた意識が司会の声で戻る。
いろんな対戦相手の出てきた対面の入り口、その扉を見る。
『それでは最終戦…リトルフェアリーが誇る機工技師と魔法使い、レイナード=マーシナルスとフィアリス=スノウレールの両名の御登場だあっ!!!』
「…ま、だよな。」
司会の紹介、割れんばかりの歓声に続いて扉が開かれ、見知った二人が並んで入って来た。
この一月…どうやら俺はあまりにも回りに目を向けていなかったらしい。
入場してきた二人の目を見ただけでそれがよく分かった。
お祭り騒ぎの明るい喧騒を消し去るみたいな静かな二人の歩み。
ただのお遊び企画じゃ無くて、コレが本番なんだろう。
最終試験兼、練習相手…って所か。
周りの喧騒から取り残されたように静かな気分で俺は足を止めた二人に応えるつもりで微笑みかけた。
Side~レイナード=マーシナルス
僕達の姿を見ても微笑んで構えていたネストを見て大半を察する。
「さすがにばれてるか、驚いてくれた方が演出的には美味しかったんだけど。」
「ネスト相手だしね。じゃあ理由も察してくれるよね?」
「この程度凌げなかったらやらせられない…だろ?」
僕とフィアの言葉を聞いて笑みのまま小さく頷いて答えるネスト。
誰か音でも拾ってたら事なので名前は出さなかったのだろうが、それだけで僕達にも十分伝わった。
「まぁ後は、ネストの存在を喜んでくれる人がコレだけいるって事は覚えて置いて欲しくて。皆サプライズで企画ねじ込むのに躊躇い無く協力してくれたよ。」
「何かを掴むきっかけになるか、それとも無理で休めるか…どっちかにはなってくれると思うから…私も全力で行くよ。」
フィアとは事前に決めているが、たとえここで四肢が吹っ飛ぶ位の『大怪我』を負ったとして、治らなくても、僕達相手にソレではあの氷山を作る化物とは戦う意味がない。
死にさえしなければすぐに治せる薬がある分マシだから、本当に全力で潰すつもりでかかる事にしている。
『家族と称して共に住んでいるお三方だが、この空気!間違いなくその全力が拝める事でしょう!それでは壮行会最終戦!始め!!!』
司会の人はそこまでの事情は知らないが、少なくとも和気藹々とやるつもりじゃない事は察したようで、期待を込めて試合開始を宣言してくれた。
僕は、容量追加カートリッジを取り付けた双精銃をネストに向け…
引き金を引きまくった。
連射可能にした双精銃。カートリッジ内の魔力が尽きたら切り離さないと邪魔になるけど、事前に準備して初手で使うくらいなら僕の魔力でも容易だ。
斬り払うか回避するか、どうしたとしても隙が出来た箇所を次から次に撃ち続ければ…
「だろうと思ったよ!」
そうは上手く行かなかった。
足裏で爆発を起こしたネストは光る障壁を展開する盾を眼前に一直線気味に身体を真っ直ぐにして射撃を防ぎながら突っ込んできた。
僕の盾と同じもの、いや、質は向こうの方が上なんだろうけど。
けど…詰めればどうにかなると思うな!
「っ!?」
僕は左の足裏だけ点火して、BDSの勢いそのままに蹴り上げた。
ブーストが光のような軌跡を残して、僕は宙返りする。
BDSを使ったサマーソルト。
盾を構えていた所で着地前のネストにどうにかできる訳も無く、ネストは展開していた障壁を砕かれて宙を舞う。
あくまで『回転』に勢いを乗せる事で飛び過ぎないように練習はしてある。
「これでっ!」
ネストが宙にいる間に右足を後ろに着地した僕は、銃を手にした右手で突進突きを放った。
機構の関係で普通は直接銃で戦わないとは言え、所詮金属の塊。
素手よりは十分鈍器だ。けど…
金属の感触がした。
空中の癖に剣で受けたらしい、吹っ飛んだけどダメージは無いか。
でも…
「ファイアスコール!!!」
フィアの詠唱時間は稼げた。
ルールの関係で中級までにはなってるけど、ちゃんと丁寧な詠唱込みで構成した方が威力は高い。
地面を転がっている最中のネストの元に炎の雨が降り注いで…
空爆のような音が響いた。
当然ながら緋緋色金の手袋装備。
元々高い威力だったフィアの炎魔法は、本人の修行も相まって天変地異のような威力を要していた。
これ、その辺の『人型の天災』の上級魔法破るんじゃないだろうか?いや、そもそもその辺に人型の天災は転がっていないけど。
『か、会場の皆様御安心下さいっ…上級魔法の使用は禁じてあり、また競技場の客席障壁もミルアークさん監修の元強化されておりますっ…し、しかしコレはさすがに…』
爆炎と砂塵によってネストの姿が見えない。
僕はカートリッジを放り捨てて銃をしまうと、両足の死神の剣を手に取る。
並の相手ならコレでもう警戒すらしないでいいくらいだけど…
フィアも次の詠唱に入っている、ネスト相手に僕らのやる事でやりすぎ何て無
「フロストサーペント!!!」
爆炎砂塵を切り裂いて、氷の蛇がフィアの元へ迫る。
連射…であんなもの撃てるとは思えない、炎の雨はロストリミットか盾か、魔法なしで凌いだんだろう。出鱈目だな…
「っ…ファイアストーム!!」
準備していた炎の竜巻を放つフィアだが、氷蛇の頭を潰す程度で冷気の勢いを止める事はできずに全身を氷に包まれる。
フィアの方をろくな確認もせずこっちを見ているネスト。
油断もすきも無い…ったく!
僕は先手を打って駆け出し…
「スピン…ブレードッ!!!」
両手の死神の剣のブースターを吹かして、こまのように回転した。
片方を反対向きに持ってブースターである事を利用しての回転斬撃。
投擲と違って手放さないから威力と取り回しは上だけど…
高速回転の視界の中じゃ、姿勢制御が手一杯だ。
回転前に対象に当たる距離を把握しておかなければいけないんだけど…
感触がないまま僕は止まった。
避けられた?何処に…
「ウインドクロー。」
「がっ…く…っ!」
背中から、声と共に痛み。
風の刃に押されて僕は前に転がって…立ち上がろうとして片足が滑る。
飛び越えて着地したのか…飛びすぎたらまた着地まで時間が出来るし近いと回転している刃に当たるって言うのにあっさりやってくれる。
「まともに受けたら強いんだろうけど、三半規管大丈夫か?」
「さすがに…けど、そう簡単に引くわけには行かない!」
半分膝立ちの状態で死神の剣を接続した僕は、それを投擲した。
避けても追撃できると思ったんだけど、ネストは水平に伸ばした剣が高速回転する刃に触れた瞬間に薙いだ。
力すら感じられない柔らかい動きなのに、逸れた死神の剣はそのまま方向を変えて競技場の壁に向かってすっ飛んでいく。
今更手も変えられない、左の手首…悪魔の尾をネストに向けて射出した。
空いていた左手でその先端を掴んだネストは、視認すら難しい糸で繋がれている事を利用してそれを引きながら踏み込んでくる。
先端の重さと、『伸びきった』状態で操作する鋼線。
近づかれてたわんだ状態では自由に糸を動かせず、僅かに光を反射して糸がキラキラと宙で光り…
「残念、コレでおしまいっと。」
「が…」
ネストの蹴りによって僕は無造作に地面から引き剥がされ…
「ストームアロー。」
声だけで放たれた暴風によって僕の意識は途絶えた。
Side~フィアリス=スノウレール
自身を包む氷をどうにか割り出た私が見たのは、『速射』で中級魔法を放つネストの姿だった。
さすがに威力は落ちてるけど…吹っ飛ばされたナードがピクリとも動かないのを見ると心配になる威力だ。
「…さて…と。」
私を見ながら近づいてくるネスト。
私はスタンスを広げて立って、それを待つ。
中距離…中級魔法でも撃ったらそうそう避けようの無い距離。
ネストはそこで止まった。
「私達の始まりね…覚えてる?」
初めも初め、私はこの競技場でネストに試合の相手として選ばれた。
氷魔法を使って戦って、炎適正を見抜かれて、炎で再戦して、ロストリミットで負けた。
「勿論、声かけてナンパと間違えられて散々だったからな。あんま関係のない可愛い女子に声かけるのにちょっとは勇気要るって言うのに。」
「あ、そうだったんだ。」
田舎の出だって言ってたし、背も低めだから自信ないんだろうか?それを言うなら私だって胸ないのに可愛いなんて言ってくれてるのに。
咳払い。
近距離に詰められて戦ったら、今のネスト相手に私が同行できる余地は無い。けど、そんな事はネストも分かってて、コレはアルラートさんと戦ってもいいのかを試す為の試合でもある。
だったら…ネストに破ってもらうのは、私の全力だ。
「…ナードみたいに器用に行かないし、フルパワーで行くよ。」
「分かった、中級でいける目一杯で行く。」
承諾してくれたネストを前に両手を広げる。
思えばコレすらギフトなんだよね…本当、ネストにはどれだけの贈りものを貰ったのか。
即物的な意味じゃない、ネストに会えていなかった自分が想像出来ないほど、私の大事な部分を担っている。救って貰った。
でも…だからこそ全力で…
「舞えよ不死鳥、立ち塞がる壁を焼き尽くす翼となれ…フェニックスブレイズ…」
「氷鱗纏う白き蛇よ道程の全てを呑み砕け…フロストサーペント…」
『あ、あぁっとコレは!二重詠唱!?え、ええっと…こ、コレ客席大丈夫…』
剣を閉まったネストも二つの魔法陣を展開する。
全く…私が使えない事を難儀してた家の魔法を強化してくる?
一瞬羨ましいと思ったものの、今に不満がある訳じゃない。
炎の鳥と、氷の蛇がそれぞれ重なり、四翼と双頭に姿を変え…
「行くよネスト!クロスフェニックスっ!!!」
「ツインサーペント!!!」
全開で放った魔法は私達の間で炸裂した。
光だけなら校長先生と禁術を打ち合った時の方がこの世の終わりみたいだったけど、距離が近いせいか大差ない衝撃に思えて…
気付けば、私は首から下を氷に埋められていた。
交差された腕ごと氷に包まれて、身動き一つ取れない。
「っ…は…ぁ…駄目か…」
届かなかったとは言え、すっきりはした。
何も出来なかったと言う訳でもない、何しろ…
『ぃ…ぁ…きょ…競技場が…熱と冷気の直接衝突の爆発で地面に直接攻撃したような大穴が…』
視界の人が言葉に困るような大穴が、競技場のど真ん中に出来上がっていたから。
単にネストがコレを超えたと言うだけで、無力と言う程でもない。
半分は自分でやっておいて言うのもなんだけど、凄まじいなぁこれは。
と、唐突に氷が解け砕けた。
ネストが解いたのだろう。放った魔法分以外…威力で水分が凍った分はそのまま残るからキラキラと氷の粒が宙を舞って消えていく。
そんな中、ネストは大穴の中央に向かって歩いていき…
「…ま、いきなりだったけどこんなもんかな。中々楽しかったぜ!またな!!」
言うや否や、いきなり土ぼこりを舞い上げた。
あっという間にその姿が見えなくなる。
少しして、魔法の発動を感知した。
転移魔法。
上級魔法に位置する高等技術だからさすがに派手で分かり易いけど、魔法の心得がないと…
『ぁ…あーっと!い、いない!ネスト君がいない!?い、一体何処へ…』
…こうなる。
仕事でいなくなると言ったって本当はアルラートさんと戦うと言うだけなんだからここを離れる理由もないし、サプライズのつもりなんだろうけど…
いつ治したのかナードも無傷で立っているし…全く、格好つけ過ぎだ。
SIDE OUT
練成作業に使ってきた釜を眺めながら、俺は今日を振り返る。
力はついていた。
最終調整の形も成した。
いきなり巻き込まれたが、それ自体は本当に良かったと思う。
でも…
「魔科学技師は、アルラート=エクスには勝てない?」
「っ!!」
思いつめている所を正にずばり言い当てられて弾かれるように振り返ると、フィアが微笑んでいた。
同じ家にいるのだから帰ってきていても不思議はないけれど、帰ってきたのにまるで気付かないほど考え込んでたのか…
「校長先生から聞いたんだ。」
「言ってくれる…」
その勝てない相手との決戦ラストチャンスしかも前回殺される所だったって言うのに、わざわざ言うかそれ。
しかも、心配性で一人になるのが嫌なフィアに。
怒るか泣くか止めるか…そう思って…
そっと抱きしめられた。
「私もナードも知ってる…ネストがオルミクスに来て、ううん、来る前のミーフィーちゃんからの話すら聞いて、よく分かる。ネストが、願いを叶える力で誰かに負ける訳が無い。」
「え…あ…」
フィアが言っているのは能力の類の話じゃない。
現状の絶対的なほどの問題の解決にはならない。
「それは単なる力じゃない、落ち込んで、傷ついて、諦めて…そんな所に力を与えてきたんだ。私がそうだからよく分かってる。そして、リトルフェアリーで私も一緒にそれをしてきたつもり。」
だけど…抱きしめられたまま…ぬくもりに包まれたまま、耳元から聞こえてくるただただ優しい声に…予想してた不安とか心配の無いフィアの声に、変な力が抜けて行く。
「だから大丈夫…ネストなら校長先生の願いを叶えられるし、ネストの願いだってきっと叶う。」
「俺…の?」
「うん。ネストが進んだ先で…きっと皆笑えるから。」
ガチャリと音を立てて、何かのピースが、はまったような、そんな気がした。
そして…
家の扉を空けたナードと目が合った。
…あ。
音だけはどうやら家の扉の音だったらしい。
無言で買い物袋を置いたナードが、そのまま外に出なおして扉を閉める。
「ち、違う!待てナード!!おい!!」
「へっ?ええっ!?い、いつ帰って…ちょっと!!」
慌てて離れて振り返ったフィアもおかれた買い物袋に気付いて、俺達は揃って慌てて家を飛び出した。
あーあ…決戦直前に何やってんだか。
有名って言っても特に語られなかったら『近日命がけです』とか分からないものだなーとか、ふと思ってちょっと寒いものを感じたり。




