第30話・隠れた意図と見えない頂
第30話・隠れた意図と見えない頂
校長先生が再度動き出す前にと最低限の荷物を纏めた俺達は、リリィにだけ伝言程度に残してオルミクスを出て…
魔法国王城の広間で多量の御馳走を出されていた。
どれに手をつけても基本的にとんでもなく質がいいのが分かる。
馴染みがないから安物の濃い味の方が好きな料理もいくつかあったが、竜の肉がある辺り大分過ぎた接待だ。…いくら最近近場で偶に出るからって料理に使うもんじゃないだろ。
「ふー…ご馳走様でした。」
「ご馳走様でした。」
俺とフィアがそれぞれに食べ終わって挨拶を告げる。
ナード一人無言だったが、食べ物に感動するタイプでもないしまぁ…
「…っておかしいだろっ!!」
食器まできっちり手放した所で、俺は向かい側に立つアルスさんに向かって叫んだ。
彼女が同席でなく俺達が食べてるのを警護でもするように立っている辺り国賓扱いなのは分かる。
分かるが、だからこそおかしいんだ。
「何で今このタイミングで俺もてなされてる訳!?オルミクスから連絡飛んでるよな!?」
「私に言うなっ!王の意向だ。」
頭を振って答えるアルスさんとしても意味が分からないんだろう。
そう…さすがに寝てる間に俺が個人戦で掌の太陽を使った事はこっちにも知れているはず。
使えるというだけで俺を殺したがっていた魔法国の王様が、科学国より潜伏し易いかと向かった魔法国でいきなり俺達を招待して国賓扱いの待遇をする理由なんか…
アルスさんは全く分からない。
と、広間に王様が入って来た。アルスさん含めて控えていた人たちがかしこまる中、俺達も一応席は立って王様を見る。
いつも通り二人に挟まれるように座っていた俺は、扉傍のナードをよけて前に進み出て王様と向かい合う。
睨む、と言うと少し違うが、見据え…たかったけど、くそっ、背が低いせいで見上げる形になって格好つかないな。
「お前に頼みたい事がいくつかある、一つはこのアルスとの戦闘訓練。もう一つは追って伝えるが…それまで城の一室を使ってくれ。」
それしか言わない王様。
俺は無言のまま彼を見るが、王様の方も無言で表情を変えない。
接待した割には厳しい表情。だが、しばらくの間目を合わせて動かない。
…察しろって所か。やっぱりアレが原因なんだろうな。
結局何も言わないままで俺達は招かれた一室に入る。
一部屋だったがそれなりに広い部屋にベッドが三つと釜が用意されていた。
仕事を頼むと言う辺り準備はされているみたいだな…
「どう言う事?」
「私もさっぱり…ネストは?」
ナードは初めからいぶかしんでいたからか食事の時も浮かない様子だったのだろう。
フィアもフィアでおかしいとは思ってるらしく、二人は俺を見る。
「予想にはなるけどな。」
解析術を部屋中に走らせて見たが、監視機器や術の類はなかった。
と言うか、俺の予想通りなら王様もそんなものは用意しないだろう。
「おそらくはアイツと戦ったせいだ。王様は多分アイツ本人か、校長先生周囲にある『何か』は知ってたか感じてたかなんだろう。だから、接点のあった俺から何か得ようとか、或いは俺に力を持たせてアイツと駆け引きが出来る域に持って行こうとしてるのかもしれない。」
「成程ね。」
最悪は俺の頭に術でも施したりする予定を考えてもいたが、それだとアルスさんと訓練しろとか言う指示が無茶だ、頭弄ったら危険だろうし俺が死んだら元も子もない。
部屋にも食事にも細工はなかったし、油断は出来ないがそういう線ではないと思う。
「…とは言え、分からないといえば分からないんだけどな。」
接点は、会って、挑んで、返り討ちにあったと言うだけ。
今の俺の手持ちの情報じゃただの化物としか言えない。
あれの情報がどうしても必要な理由まではさっぱりだ。確かに得られたら凄いがそもそもアイツを止められる戦力なんて国中から引っ張ってもあるとは思えないし…
考えているとノックの音が響く。
部屋の戸を開けたのはアルスさんだった。
「ネスト=グラスレイン。準備はいいな?」
訓練の話だろう。
訓練準備とは違うが、状況が状況だけにいつ襲われても不思議じゃないから戦闘準備はしてある。何かあっても大丈夫ではあった。
「いつでも。二人はどうするんだ?」
「ついてきてくれ、二人にも仕事を頼みたい。」
「分かりました。」
返事をするフィアに対してナードは無言。
俺より警戒してるんだろうな…はは、無駄に荒事にならなきゃいいけど。
表の訓練場に出て、訓練相手等と言う依頼をした訳を思い知る事になった。
「ぐっ…」
槍を振るったアルスさんの前で、たった一撃でへし折られた剣を手に地面を抉るように足跡を刻んだ兵士の男性が片膝をついた。
片足が痙攣している。衝撃を堪えようと踏ん張りが過ぎたせいで筋肉にダメージを負ったらしい。
「うわぁ…」
「…見ての通りだ。説明するより早いと思ってな、すまない副長。」
「い、いえ!すみません隊長…お役に立てず…」
思わず頬が引きつった俺に肩を竦めるアルスさんと、かしこまる副長と呼ばれた男性。
対竜戦なんてそう多くはないが、さりとてそれが出来る人間なんて限られている。
修行はしなければならないが、あっさりやられた彼も副長らしい。これじゃ素振りと型稽古しか出来ない。
人手不足…って言うか、アルスさんが強すぎるんだよな。
「二人には出動の一部を引き受けて貰いたい。竜因子を持つ敵相手では副長でも一対一で厳しいほどで、他は名家の当主等に声をかける羽目になってしまう。」
アルスさんの言葉に顔を歪めつつ頭を下げる副長。
まぁ普通その辺の人間がリザードドレイクなんかとやり合える訳ない。
副長も自然身体強化はフィアやナードと同等に出来てるみたいだが、武器は追いつかないわ魔法にしたってフィアみたいに中級まで使えるわけもないわ、それでリザードドレイク相手は不可能だ。
「ま、確かにそんな要人ほど金は取らないよ。普通の騎士の給与位はくれるんでしょ?」
「ナード…」
「いや、当然の交渉だ、気にするな。急ぎで飛び出してきて自室に揃えていたような資材もないのだろう?融通は利かせよう。」
釜まで置かれていた部屋は十分充実していると言えるんだが、確かに武具の整備やら薬の精製やらに必要な材料は無い。
資金と資材は必要…だけど、食事と部屋で結構手間かけたと思うんだけどな。
「二人で危険そうなら俺も出張る事になるだろ。そういう意味でも頼む。」
「分かってる、町や人は任せて。」
二人が駄目なら人型の天災でも出て戦うような案件になる。
その手前の二人に出てもらっておけば並の相手なら安全だろうし、逃げ切って俺を呼ぶ事位できる…って、上級魔法いくつか使える程度なんだけど。
副長さんの指揮で二人が出た所で俺はマテリアルウェポンを手に魔力刃を展開する。
と、アルスさんは目を細めた。
「待て、ミスリルソードはどうした。」
「今真っ二つ。」
俺は言うと同時に駆け出した。
ロストリミットを全開に一瞬で間合いをつめて剣を一閃。
いつもの突撃槍で受けたアルスさんがよろめいて一歩後ずさった。
昔ガイズにあっさり砕かれたマテリアルウェポンの魔力刃。
だが、込めた魔力によって強度は変わるし、実体ではないから消費を考えなければずっと修復させたりも出来る。禁術まで使う今、前と同じじゃない。
ロストリミットも起動指示と維持に魔力を送る必要があって少し意識を削がれるが、身体強化術を直接使うよりはずっと難易度は低い。
「気にするな、コレでも人型の天災だ。」
「ふ…ん…いつかより力は上か、いいだろう。砕けて死んでも知らんぞ。」
安心させるために手っ取り早い称号を持ち出すと、微笑んだアルスさんは全力で踏み込んできた。
咄嗟に横にかわす。さすがに突きはまともに受け止めたら一撃で貫通されかねない。
が、アルスさんは事もあろうに踏み込みで突きを止めたと思ったらそのまま内側…俺側に薙いできた。
くっそ、外側にかわすのが定石ったって突撃槍の軌道変えるなよ!!
咄嗟に剣で受けたが動いてる最中だった俺が姿勢を維持できるわけもなく地面を転がる。
フリーの左手をこっちに向けて翳してるのが見えて…
「っ!」
咄嗟に氷を作ると、直撃した風の刃によってひびわれた。
速射魔法も普通に使ってくるのな、槍に絡めてしか使わないと思ってた。
「魔法の質では勝てんか。」
「冗談きついっての…」
楽しげなアルスさん。
ったく、近接戦闘慣れって意味じゃ天地の差のはずだし、アルスさんの戦闘訓練になるとも思えないけどな。
そんな事はうすうす分かっている、あれがただの『名目』で、俺をアイツの元に近づけるのが王様の目的なら…
コレは、俺の修行なんだ。
断続的に振るわれる槍を辛うじて凌ぐものの、とても攻め手に出る気になれない。
速さと力で優位と互角でも、間合いの差と技量分が大きい。
アイツ相手にも…無理矢理凌ごうとしてあっさりやられたっけか。
確か…
「こうかっ!?」
「っ!?」
斜めの袈裟斬りに合わせるように踏み込みながら剣を叩きつけて、反動に添うように剣を斬り返す。
…形だけ思い返してやってみたが、滑らかじゃない上に槍相手に剣でやって間合いを思いっきり間違えてすかした。やっぱ猿真似じゃ話にならないか。
下がったアルスさんは、槍を降ろして俺を見ていた。
「…どした?何で止まった?」
なんか不思議そうな顔をしている上に練習とは言え試合中に止まるタイプとは思えないアルスさんの停止に俺が首を傾げる。
「今のは自分で適当にやったのか?」
「え?あー…いや…何かあるのか?」
出所を素直に話すわけにも行かずに問いを返す。
俺所か王様にまで何かあることは感じてるだろうアルスさんは、いぶかしんだものの何も聞かずに咳払いする。
「旧正規騎士剣技の一つだ。力負けする上に装甲部を抜けない相手に対して剣閃を止めつつ弾かれる勢いを別方向に切り返す…戦争も無い近年では使わない対人殺傷術だ。」
戦争となると、オルミクスが出来る前位までさかのぼる話になる。
そんなころの剣技となると、魔物用より対人用のが多いのかもしれない。
「対人…そりゃそうか。コレじゃオークやリザードみたいなの相手だと浅いよな。」
「魔科学技師にそんなものを使う奴がいるとも思えんが…此方から暗殺者でも出向いたのか?」
聞くというより自問自答のように呟きを漏らすアルスさん。
一応暗殺者はいたか、校長先生に人格半壊状態で突っ返されたが。
「あー…それはいつか見たな。旧闇魔法使いとか何とか…」
「あのいきなり騎士に突き出していった廃人はお前の仕業か!」
「まぁいくらか古い奴とも戦ってはいるんだよ。…技師なんだけどな、はは。」
思い出しながら喋っていたのにいきなり怒られた。
あぁ…処理は全部魔法国の人がやったんだよな。丸投げしたのは俺じゃなくて校長先生なんだけど。
とは言え、それを正直に言ってオルミクスへの心象が悪くなる位なら俺だけの風当たりが強いだけの方がいい。
勘違いはそのままにしておいて俺は乾いた笑い声を漏らす。
「禁術まで作っておきながらよく言う。しかしそう言う事なら見ておくか?」
「え?」
「身体能力反応速度、武装性能で張ってこそいるが剣技としてだけ見れば色々足りないのは間違いないからな、見様見真似する位なら資料なり実物なり見た方がいいだろう。」
言いつつアルスさんは槍を置いて近場に置いてあった剣を手に取った。
予備の剣なんだろうが、軽々と振るったその動作は剣でも十分戦えるんじゃないかと思わせるものだった。
そりゃ順を追って成り上がったんだろうし見習いとまで言わなくても量産武器使ってた頃もあるんだろう。
ただ…
「そう…だな、知っといて損はないか。」
「殺人術と聞いて気乗りしないか?」
「いや、なんでもない。覚えたほうが近接修行に付き合い易くなるし一通り頼む。」
芳しくない俺の反応に疑問を持つアルスさんに俺は一通りの教授を頼む事にした。
ただ…コレをアルスさんに聞いたとして、アイツの剣に届くと感じないんだよな…
だが、そんな事を言っても仕方ない、少なくとも修得技術が増えた方が進むのに違いはないんだから。
一通り戦闘訓練も済んで部屋に戻る。
疲れた…と言うより、ロストリミットを併用した上で魔力刃の高強度を維持するために高い魔力消費が必要でなんか命を削った感が強い。
俺とやってたはずのアルスさんはここから執務らしい…最強の騎士ってだけの事はあるな、ホントに。
剣の修理を依頼してくれるとの事で、とりあえず訓練はその後なら多少楽になるだろうけど…
一人静かな部屋、目を閉じると思い出す。
全身を包み込む狂気の冷気。
文字通り骨ごと凍らせる…骨の分子運動すら停止させるような、完全なる生命の停止。
「アレを素で使えるって事は…そういう事だよな。」
俺が掌の太陽の発動に整形、維持、回復薬の飲用を挟んだ上での仕上げみたいな無駄手順を踏んで漸くだって言うのに、遥かに超える氷魔法を何の手間もなく普通に扱っていた。
今まで魔力の強化なんて死ぬほど使い倒して休む位しか思いつかなかったが…それだけであの域に着くとも思えない。
何か考えないとな…
考えていると部屋がノックされた。
「どうぞー。」
座っていたため声をかけてから立ち上がると、扉が開かれ王様が入って来た。
「さて、ではもう一つ…技師であるお前にこそ相応しい頼みがある。」
「何だ?」
頼みが他にもあることは聞いていた。
特に驚く事はなく近づくと、杖を差し出された。
受け取って解析してみると、伝承物の逸品であることが分かった。
「へぇ…凄い杖だな。」
「王家の至宝だ、ミスリル製の本体にスカイターコイズを核とした杖。至宝故にその性能も現存している杖の中でも突出している。」
当然俺が作った訳もなく、極極稀に見つかるミスリルを用いて昔に作られたもの。
経年を感じさせる要素は多々見えたが、劣化は殆どなくこのまま打撃武器としてすら使えそうだった。
「だが…私が全力で使うともたない。」
「そりゃ凄いな、並の上級魔法でも壊れないんじゃないのか?」
王家は風魔法の名家でもある。
確かアルスさんもその分家か何かだったはずだ。
そして、当の王様も人型の天災の枠に入る上級魔法の使い手だ。が…この杖を魔法の発動で壊すとなると風で禁術でも作らなきゃいけないんじゃないだろうか?
「単発で壊れるかはともかく、王家で代々伝わる至宝。継承にも関わる代物故にそう簡単に壊す訳にも行かない。」
言われて改めて、確かにと思う。
単発で壊れなくても、高位の魔法の発動体として連発してたらミスリルの本体はともかく、核になってる精霊石がもたない。
「そこで、戦闘用の杖をお前に製作して貰いたい。同等…それ以上の物をな。」
「同等?」
「最悪、同じだけ使えて壊れてもいいものならいい。これでも魔法国の至宝なのでな。」
同等じゃ壊れる前提だといぶかしんだが、確かに簡単に超えられても困るか。
「成程、間単に高性能の用意されても国としては嫌か。」
「依頼で真似るには過ぎた代物だと思っただけだ、上が用意できると言うならやって見せろ。」
「了解。」
あえて同性能に『控えておこう』かとも思ったが、高性能なものでも良いらしい。
王様のたきつけるような言い方に苦笑しながらも引き受ける。
「期間は?」
「そう急がん、平行してアルスの相手も勤めて貰わねばならないからな。本体は元より風の精霊石自体も高魔力に耐えうる代物でなくてはならない、練って貰おう。」
必要な事を話し終えたところで王様は部屋を出る。
確かに石部分の強度の事を考えるとそれなりの対処を考えないといけない。
杖を解析した限り、戦闘用で使用するとなると杖本体と精霊石部分の間に緩衝材の役割を果たすものさえあればかなりの戦闘には耐えうるだろう。
魔法発動だけで精霊石が過負荷で壊れる可能性があるって事だろうが、それも陽精石なら何とかなると思う。
だが…
「ミスリル…か。」
俺は両断されたミスリルソードの事を思い返す。
…あの化物は別としても、その以前にも無茶な使い方で金属疲労を起こしていたらしい。
普通の剣だったら何回砕け散ったか分からないような事ばっかりだったからな。
あの人にしても人型の天災指定の一角。戦闘用に扱うなら…
「それ以上…いるかな?」
直接杖で殴りあう訳でも無いだろうしミスリルの強度で本体が壊れる事はそうないとは思うが、少なくとも俺の方は必要になる。
模索してみるのも悪くないだろう。
Side~レイナード=マーシナルス
ネストが言っていたように校長先生の連れ合いに関しての情報欲しさに僕達を接待している。
それは間違いない、とするなら…人質や洗脳と言った手がある、と言うか確実だ。
だから、僕達を外部にと言われた時から少し警戒していたのだけど…
「普通の騎士って本当にこんなものなんだね…」
「ナ、ナード!!」
「す、すみません…」
指揮者である副長さんに呆れると、フィアから咎めの声、副長さんからは心底申し訳なさそうな謝罪が返された。
修行量はそれなりにあるのか身体能力は僕らと同じで強化できてて技術もあるんだけれど、いかんせん装備が普通で魔法も中級の弱いものがせいぜい。
普通のリザードや獣相手に着実に処理をしていけるあたりは騎士として機能しているのかもしれないけど…やっぱり多数相手だと手が追いつかない所はある。
剣だけで普通に戦えば多分僕じゃ勝てないから失礼と言えば失礼なんだろうけど…双精銃とBDSを使うと大抵は彼が戦う前に片付いてしまうし、フィアもいるから魔物に鉢合わせても彼の出番が殆どない。
…少なくとも、彼に僕達を人質にとる事は無理だろう。
指示を彼に任せているから罠にかけることは出来るかもしれないけど。
「こんなものって言い方が悪かったね。ただ、僕民間人みたいなところからここ2年ほど修行した程度だから、幼少から騎士目指してる人もいるだろう中で副長とかならもっと凄いものかと思ってたんだ。」
「ナードの場合射撃が異常なのよ、動体にあんな命中率簡単に出ないって。」
謝罪をしたんだが、フィアの呆れ声を聞く限り、どうやら僕も『元から異常者枠』になるらしい。
炎適正の癖に氷の中級魔法使って戦えてたフィアに言われたくは無いんだけどね、って言うか未だに森なんかで戦うときは炎魔法使わないし。
「いえ…実際に力量不足は感じています。正規騎士ではアルス様以外竜種の討伐は不可能に近い。情けない限りです。」
「と言うか魔法国の特性のせいだと思うけど、火器なしで竜と戦うなんて伝説の所業なんじゃないの?」
僕の問いに彼は答えなかった。
正解だからと言って国の方針を悪くも言えないし、その伝説の域の人間であるアルスさんが傍に居ては自分が弱くていいなんて言い訳になるし、苦い気分なんだろうな。
「お二人は…既に私より強いのに一緒にするのも悪いのですが、お二人から見てもネストさんはその…人型の天災で…気負いのようなものは?」
「そ、それは…」
「フィアは炎なら同等近い魔法使いの癖に自信ないだけだよ。僕は貴方の言う通りネストに手も届かない。でも、最初からそうだったから微力でも無力じゃなければ出来るだけは…って所で割り切ってる。」
この手の問いに考えると落ち込みやすいフィアの分もさっさと答えてしまう。
若干情けない所はあるが、僕にとってはネストとフィアのコンビのオマケの頃の印象は抜くに遠い。
一人でガイズの相手でも出来れば違うのかもしれないけど、とてもじゃないがそこまでの力量は無い。
「微力でも出来るだけ…」
「あはは…諦め感もあるけど、確かに割り切ってれば進むのに迷わなくはなるかな。って言うか、ナードの場合の『出来るだけ』は本当に『出来るだけ』だから成長もすると思うけど。普通薬で回復しながら戦闘訓練とかしないよ。」
「な、成程…」
何か二人して僕を異常者のように引きつった顔で見て来た。
…フィアはそれ付き合って一緒にやってた訓練の癖になに他人事みたいに言ってるんだ、全く。
森林調査と魔物…特に竜因子持ちの討伐。
日暮れまでそれらを行ったうえでの馬車帰り、城下町ネイアスに入る頃には既に日はとっぷりと暮れていた。
報告等城内部での仕事は処理しておくとの事で城の入り口で副長と別れる。
「…微力でも無力じゃなければ…か。」
呟いて、現状を省みれば今間違いなく後者に分類されてしまう事に気づいて僕は自分の手を見る。
「どうかした?」
「フィアなら掌の太陽の修得…僕はこの先に何があるだろうなって。」
「こ、怖い事言うわね…」
割と本気で考えたのだけど、フィアは頬を引きつらせる。
アレを修得するとなるとフィアでも大変だろうし、修得したと言う事実があるだけでもその後の扱いも大変だ。
怖がるのも無理はない、けど…
「あの氷を見た後じゃね。」
あまり口外できない事実。
人に聞かれてもごまかしが聞く程度の、けれど当事者ならはっきりと思いだせる異端。
フィアも一言で思い出したのか、閉口して俯いた。
本物の禁忌、世界最強の魔法、その使い手。
残った氷山を見ただけの僕達ですら絶望すら沸かないほどの遠さに感じたって言うのに、アレの使い手と対面して直撃したネストはどれだけの力を欲しているんだろう…その役に立つ力なんて僕にあるわけが無い…
微力にすらなれないと、感じずにはいられなかった。
「当面は研究資金とか時間とか、そう言うのを確保してあげる感じが精一杯かなぁ。」
「それが嫌ならアルスさんとの戦闘訓練にも出てみるか…僕らにそこまで出来ればだけど。」
「私はコレでも魔法メインなんだからあの人と近間でとか無茶言わないで。」
フィアが苦笑しながら拒む。
実際僕としてもリザードドレイクをブースターもなしで一突きでしとめるような人間相手に力比べが必要な近接戦闘なんて出来るとは思えない。
出来なきゃならないとも思う反面遠すぎてさすがに目指す気にもなれない。どうしたものか…
考えながら食事をする広間に行くと、ネストが机に両肘を突いて頭を抑えていた。
まだ料理は出てないとは言えさすがにマナーも何もあったものじゃないのは僕でも分かる。想定していたもう一つ、ネストが何かされる可能性とも違ってなんか普通の空気で崩れてる姿に安心する反面、何か問題があるんだろうとも思う。
「…どうしたの?」
「んー…全然何にも思い浮かばなくてさ…」
戦闘訓練以外に何か言われたのか戦闘技術で何か詰まってるのか、分からないが、少なくともアレに関わるから魔法国で接待されていると言う事もあって難題があるらしい。
「思い浮かばないって…何が?」
「ミスリルの上。」
さらっと何でもない事のようにとんでもない発言が飛び出した。
席に座るのも忘れて固まるフィアを置いて溜息一つ吐いて座る。
「そんな夕飯なんにするみたいな空気で言うセリフじゃないよ。大体戦闘訓練終わってから考え始めたんでしょ?今日。」
「まーそーなんだけどな…とっかかりすらないからどっから手をつけようかって。」
「あんまりへんなことして魔法国の人の神経逆撫でしないでよ?とりあえず住ませては貰ってるんだから。…フィアも、ネストが滅茶苦茶なのは今に始まった事じゃないでしょ。」
全部流してしまおうと淡々と告げる僕を二人して見てくる。
…どうせ淡白だよ、って言うかミスリル作った時点で人の所業じゃないんだからもう上が何でも驚く気にもなれない。
驚く気には。
何でもない事のようにミスリルの上を目指すと決めたネストを見ると、さっきの問題が頭を掠める。
微力でも無力でなければ出来る限り…
元々微力でも無力でもないネストが出来ないだろう所をまるで当たり前のように目指している中で、この基準では話にもならない気がしてくる。
勿論、無茶ばかり重ねる前提でも身体を壊して使えないガラクタが一人出来上がるだけだから考えないといけないんだけど…
「んー!連日高級食材って訳もないんだろうけど料理人の腕は良いから上手いな。」
「近場のお店かナードの家庭料理だったし、美味しいけど城付きの人はさすがに凄いわね。」
ネストとフィアが楽しげな中、考えながら食べていたからあんまり味が分からなかった。
翌日、連日出動と言うわけもなく、連絡が入れられる位置に居てくれとのことで、僕は訓練場にいた。
昨日考えた通りだ、ネストは当然の様に先へ先へと向かっている。
フィアは掌の太陽の修得と言う成長手段が残っているし、氷強化用のアクセサリーも黒竜に破壊されてから別のを用意しないままだ。
僕は…僕だけが、魔法で使うなら初級魔法がせいぜい、素直に双精銃を使った方がいい、武装便りの未熟者。
今更大魔法のような大事ができるようになる必要は無い、射撃は殆ど当てにいける、後は…フィアと組んで動くなり、別の役割で動くなりするとして必要な…
高速戦闘能力。
昨夜考えて出した、僕に必要な能力の結論だった。
アルスさんは相手に速すぎる、だから…
「…すみませんね、半分客の僕と違って忙しいでしょうに。」
「いえ、私も無力は避けたいので出来る限り。」
副長さんに声をかけた。
道具の扱いとしては練習はやってきたが、あの屑姉ですらちゃんと積んでた近接戦闘技術が僕には無い。騎士の正規剣技に到ってはまるで未体験もいい所だ。
それを見た上で…
ネストの実家にあった、旧魔科学技師の書物にあった、機工近接戦闘部隊の戦闘技術を修得する。
おそらくは…全身に機械装甲をつけていた校長先生が使えるんだろう戦闘技術。
データの写しは持っている。端末の充電さえすればいつでも見れる。
昨晩の内に何をどうするかは考えてみた、後は実際の騎士相手に通じるまでやる。
「お願いします。」
「此方こそ。」
礼儀として一礼を交わし、僕は死神の剣を手に副長と斬り結んだ。
SIDE OUT
色々やってますけど道具と魔法が基本で剣術修行的なのはあまり関わってなかったんだなぁと作者の癖に今更ながらに感じると言う(苦笑)




