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第3話・護衛依頼と初戦闘




第3話・護衛依頼と初戦闘




馬車の護衛。

街道こそ整備されているとはいえ魔物の類いが彷徨いている世界では入り用で、腕の立つものは大企業の専属だったり未開地域調査だったりと高値で動く状況。

やっとチームで動けるようになった程度の学生は、安いから念のためと言う程度のオマケに過ぎない。


「いやぁそれにしても若いなお前等!魔物のでない護衛なんて退屈なだけだろうが、まぁしっかり頼むわ!」


今回受けた依頼も例に漏れず、緊張感のない商人のおっさんがやたら明るく喋る馬車に向かい合わせで座っている…今の所はそれだけだった。


「うぶ…気持ち悪い…」

「君だけ科学都市の出なんだっけか?機械の忌諱されているこっちに出るなら馬車の揺れくらい耐えないとな!!」

「は、はぃうぶっ!!」


答えかけたナードが隣のおっさんに肩を叩かれて口元を押さえた。

小柄な女の子のような線の細さのナードを恰幅のあるおっさんに叩かれるとぐらぐらと揺れる。


「あんま虐めないでやってくれよ?ナードはリトルフェアリーの中でも唯一デリケートなんだ。」

「ちょっと、唯一ってどういう意味よ。」


おっさんをたしなめたつもりだったが、何故か隣のフィアが怒る。

どういう意味って言われても…


「俺らはちょっとやそっとじゃ壊れないだろ。」

「あんたが人をどう見てるかよく分かったわ…」


素直に答えると、フィアはフイと顔を背けた。

訳がわからない俺の前で、おっさんが楽しげに笑い出す。


「はっはっは!!坊主は女の扱いをもうちょっと覚えるんだな!!」

「豪快に言うけどおっさんこそ結婚してんだろうな?」

「てめっ…躊躇なく人の地雷踏みにくんじゃねぇよ!!」


得意気だったおっさんに問い返してみたが、どうやら思いっきり当たりだったらしい。


「すいません。俺の父さんが母さんに頭上がらないくせに煩かったんでつい被っちゃって。」

「可愛くねぇなあ…そりゃ親父さんプライドぐしゃぐしゃだろ、坊主がデリケートにならなきゃダメだぜ。」

「ま、憎たらしい奴ほど役に立つって相場で決まってますから。往復の旅は格安大当たりって事で安心して下さい。」

「うっわ生意気な野郎だ。そこまで言うなら今度ドラゴン退治でも名指しで依頼するぞ?」

「それ特例でもないと学校に止められますって。」


言い合って笑う俺とおっさん。

馬車の旅なんて言うが、狭いところで揺れてるだけってのが実情だ。

科学都市製の緩衝材や軽量素材が使われているため普通の馬車より快適だが、こうして喋ってくれるのは気を紛らわそうと言う意図もあるんだろう。

…いや、自分が喋ってたいだけかも知れないけど。






オルミクス最寄りの魔法国の町、シエントに着くと、おっさんはさっさと買い出しに向かってしまった。

護衛で雇われた以上付いていくと言ったのだが、雇われ学生に取引先やら方法やらまで教える気はないから時間まで適当に過ごしておけと言われてしまった。

その言い方ではつけるほうが悪くなりかねない為、おっさんの好意に甘えて俺とナードは買い物に出る事にした。


何しろ俺はど田舎出で本での知識のみ、ナードは科学国出身で当然ながら魔法国の商品なんて知るよしはない。


「家電が一切無いんだね…」


町並みを見回していたナードが驚いたように呟く。

ナードの言うとおり、建物には当然の様にあるはずのファンや配線の類は何処を見ても見当たらない。

家自体も木や煉瓦が素材の大半を占めていた。


「禁止されてっからな。俺の村は山奥とは言えオルミクス管理の田舎出だから洗濯機位はあったな。がたがた煩い旧型だったけど。それを考えるとナードから見たら秘境に近いのかもしれないな。」


自然の力と魔法を大事にしている魔法国管轄化では機械の類は許可や特例が無ければ使えない。

国の長の話し合いなんかで科学国の長が魔法国に来るときに急ぎとかだと飛行機使ったりするらしいが、普通に入国する分には携行品位しか許可されてない。


「でもこんなんはあるぞ、ほら。」


俺が指差したのは、露天に並ぶ精霊石と呼ばれる宝石だ。

杖の先端、魔法具等に使われる、所謂ブースター。

冷蔵庫や街灯のような役割を果たす力を持たせるには氷や炎、雷などの精霊石に魔力を蓄えて扱えば不便にならない程度には使える。


「このサイズで大きな力を蓄えられるなら、物によっては科学より便利だよね。」

「なんだけど、便利って視点であんまり喋らないほうがいいらしいんだ。」


科学国出身としてはぴったりのセリフだったが、あまり魔法国では薦められないセリフらしいから一応伝えておく。

案の定知らなかったらしくナードは首をかしげた。


「色々と、神聖なもの、大事なもの、って感覚があるんだ。俺が廃品漁って来てたけど、あんな感じで新品が出る度に使い捨てるような感覚で物を扱う科学側の便利とかってセリフはあんまり聞きたがらないんだ。」

「へぇ…ありがとう、気をつけておくよ。」


情報としてだけ知る知識をナードに伝えながら、俺は精霊石を眺める。

さすがに店売りの代物で、しかも普通の予算で買えるもので大層な物は無いが…


と、それなりの値段はするものの、買える中からいい代物が見つかった。


「あ、これとこれ下さい。」

「い…ちょ、ネスト!?」


俺が宝石を指差したのに驚くナード。

研究用予算から出すわけで、無闇な散財なら怒られるのも無理ないが、二人とも良いと言ってくれてるし、魔科学装備で使うものだ、大丈夫だろう。


「君達オルミクスから来たんだね…大事にしてくれよ。」

「たはは…機械との併用なんで魔法国の人には怒られるかもしれませんけど、ちゃんと使います。」


さっき神聖の何のと言ったばかりでアレだが、さすがに嘘は吐けない。

機嫌を損ねかねないのを覚悟で正直に目を見て答えると、店員さんは苦笑した。







いくらなんでも護衛相手を待たせるわけには行かないという事で、作業も兼ねて予定時間よりそれなりに早めに馬車へ向かう。

俺は持ち込んでいた部品を取り出すと、さっき買った精霊石のひとつ、『スパークライト』を軽く加工して部品郡とあわせて組み立てる。


「…うん、よし。とりあえずこれでいっか。」


組み立てた銃を手に、軽く魔力を込めてみる。


「フィア、防御。」

「え、ちょ」


軽く声をかけて引き金を引くと、魔力弾が放たれフィアに向かって行った。

フィアが咄嗟に張った魔力障壁に当たると、こめた魔力にしては派手に雷撃が弾ける音がする。


うん、使えるな。


「いきなり銃撃つか普通!!」

「ごめんごめん、外で試しうちするの不味いからさ。魔法ならともかくコレはな。」

「アンタ滅茶苦茶にも程があるでしょ!」


威力自体は最小限に絞っていたから仮にあたってもちょっとしびれる程度で済んだんだけど、それでも駄目だったらしい。

普通に撃ったら一応武器だからな、冗談で済む威力に絞ったとは言えさすがに悪かったか。


とは言え確認はしておかないと不味い。


「と言うわけで、ほらナード。これ渡しておくな。」

「え…」


俺が出来上がった銃を渡すと、ナードはおっかなびっくりそれを受け取る。

銃を両手で持って全面を眺め回すナード。


「マテリアルウェポン…っつっても本物はもっと汎用性高いらしいから、精霊石で代用した劣化版だけど。俺のコレと同じ。」

「組み込んでるのスパークライト?やっぱり研究費それなりにかかりそうね。」


魔法にしか精通していないはずなのに放たれた魔力弾を一発受けただけで組み込んだ精霊石を当てて見せたフィア。やっぱ凄い魔法に触れてきたんだな。


「魔力をグリップに送ることでチャージ、一発で完全消費の単発タイプ。溜めた分強くなる。魔法を撃つときみたいな集中力は要らず、引き金を引くだけで雷撃弾を撃てる。」

「マテリアルウェポン…噂で聞いたとおり魔科学がどういう物かすぐに分かる代物ね。」


フィアの複雑そうな呟きを聞いて俺ははっきりと頷く。

マテリアルウェポン。

制御の難しい魔法の制御部分を殆ど武器任せにし、機械として使うには多量に必要なエネルギーは、組み込む精霊石や込める魔力の質を変えるだけで多種多様の力をエネルギーとできる。

魔科学の魔科学たる所以を分かり易く示す基本の道具と言っていい。


「こ、こんなもの…僕が?」

「魔法を直接扱える俺達は遠距離攻撃に困らないし、ナードは科学側で魔法のほうが苦手だろ?マテリアルウェポンの扱いに慣れながら作りを覚えて自分用の道具考えるほうが強くなるのにいいと思うんだ。」

「あ、ありがとう…」


大事そうに銃を握るナード。

戦闘慣れしてれば剣でもいいだろうけど、まずは安全な所から物を狙うのに慣れる程度がいいと思ったけど、喜んでもらえたならなによりだな。


「おう、待たせたな!」


と、丁度かえってきたらしいおっさんに外から声をかけられた。

空だった馬車の荷台に、山ほどの荷物が載せられている。


これ…馬大丈夫なのか?








結構な量の荷物を乗せた馬車が動き出す。

結論から言えば大丈夫ではあったけど、行きと違って走ることなくのんびりと進んでいた。

どうせ馬車が遅いので俺は外に出てついていっていた。


「小走りとは言えずっと走ってられるってアンタ本当凄いわね。」

「山中の村だとそういう機会もあるからな。身体強化は便利だったんだよ。」


さすがに素の体力で常時馬車を追い回すのは厳しすぎる。

だが、ロストリミットを扱う関係で俺は身体強化系も扱ってきた為、荷を積んだ結果重たい馬車を歩いて引いている馬位ならついて回れた。


「身体強化術って大変なの?」

「術で意識して制御するのは中々ね。魔力の扱いの難しさは体験してると思うけど、それを『全身にバランスよく』振りながら、強化した身体で動きたい動作をするって考えて見なさい。」

「失敗したら骨が外れたり身体が捻じ切れたりするんだね…」


馬車の中から魔法に明るくないナードへの講釈を行うフィアの声が聞こえてくる。

魔力自体認知するのに集中力が必要で、認知した力を身体に術として発現するのに集中が必要。

そこまでやって、身体を動かす必要がある。

ダッシュやジャンプ程度ならともかく、身体強化した上で運動や武術でやるような繊細、ダイナミックな動作をすると言うのは不可能に近いのだ。


「でも、肉体鍛錬を重視してる魔法騎士なんかは無意識に近い形で身体強化を行ってる奴も居るわ。私も少しはそうできるようにとやってみたけど、安全に扱えるのは限度があるわね。」

「へぇ、そっちはあんまり俺も知らないな。」


魔法騎士が無意識で身体強化をしてるのは俺もさっぱり知らなかった。


「ネストはどうなの?」

「直接強化しないでロストリミット使って調整かけてる。でないと戦闘動作はさすがにな。」

「そう言えばソレって壊れないバランスで強化かけるんだっけ?魔科学製作物って言ってたけど、便利な代物よね。」


フィアが褒める位だから相応に珍しい物らしい。

魔法国じゃ制御って観点薄いみたいだから使いこなせる技量になる以外の発想は無いんだろう。


と、俺は足を止める。


馬車の皆も気づいたらしいが、急には止まれず少し進んだところで止まった。

その間に俺は遠く山林の方を眺める。


「…狼の群れが来てるな。」


群れが過ぎて、草木が動く音が派手だった。

その上、ちらほらと姿が視認できた。


「おう、馬車にのれ坊主。逃げるぞ。」


馬車の中からおっさんが唐突にそんなことを言ってきた。


「ありゃ学生にどうにか出来る相手じゃねぇ。仕事料はきっちり払う、今回は俺の落ち度だ、さっさと乗れ。」

「おっさん…」


おそらくは急いで乗り込まなきゃ逃げられないからだろう。

荷台を切り離して逃げれば積荷が荒らされるだけで馬は行きの速度で走れるから逃げられる。そしてそれは、生物や壊れ物を捨てる事を意味していた。


商人が、学生を気遣って。


その上、学生に無駄足を避けさせるために仕事量まで払うと言いながら逃亡を薦めて来たおっさんの気遣いに頬が緩む。


「…サンキューおっさん、けど代金はいいや、さっさと逃げてくれ。」

「はぁっ!?」


予想外だったらしい俺の返答に驚いたらしいおっさんが馬車から顔だけ出してこっちを見る。


「オイ馬鹿言ってんじゃねぇよ!!死にたいのか…あっ!オイ!!」


と、こっちに叫んでいたおっさんを横に通りすぎるようにフィアとナードが馬車から降りてきた。


「クライアントの要望を聞かないなんて子供の自己満足よ?」

「解ってるから料金断ったろ?二人こそなんで降りてきたんだよ。」

「君を利用して逃げるような真似はごめんだ、囮でもなんでもいい、使ってくれ。」


肩をすくめてさも当然と言わんばかりに立つフィアと、震える手で銃を握るナード。

感謝して色々言いたくなったが、時間がない。

出来るだけ荷台から離れた場所で戦うために、俺は狼の群れに向かって駆け出した。


「フィア、アースフリーズ。行けるか?」

「最大威力で良いわね?」

「おう!!!」


言い合って、俺達は二人で魔法陣を展開する。


「「地を伝う石針よ凍て付き氷鎧を纏え…」」


それぞれに撃てる中級魔法だが、当然二人でやった方が…



「「アースフリーズ!!!」」



多人数でやった方が楽だし強い。

地中を伝い地の力を用いて石の針を絨毯状に広げる魔法に氷結効果を乗せた中級魔法。地面を埋め尽くすように現れた氷の針が、左半分の狼を飲み込んだ。

ど真ん中に撃てばもう少し数は飲めたが、残りが左右に割れる。だからあえて左めに撃った。

案の定氷針の絨毯を避けるために右回りに向かってくる狼。


「抜けたやつは任せる!俺は突っ込んで数減らしてくる!!」

「あ、ちょっ…」


フィアの声を背に、俺は狼の群れめがけて真正面から突っ込んだ。




Side~フィアリス=スノウレール




馬鹿でお人好しとは思ったけど、まさかここまでとは思わなかった。

さすがに死ぬとは思わなかったが、ネストでも楽に勝てる数じゃない。

それを引き受けるために報酬を蹴って敵の群れに単身で立ってるんだから。


「名家として誇りをもって…か。」


幾度となく告げられた、私が届かなかったが故の失格の烙印。

意味がなくなって、自信もなくて、今だってわざわざ戦おうなんて思わなかった。でも…


意味が…報酬がなくなって、雇い主に怒られてまで笑顔で戦うことを宣言したネストの姿は、私なんかより余程合格を振れる姿に思えた。


『無理して付き合わなくていい。』


一人笑顔で立つネストからそんな幻聴が聞こえてきた気がして、気付けば私は外にいた。

人型の天災指定すら受けようなんて思ったことのない私は、このままじゃまた…


「ええいうっとおしいっ!!!」


胸中に現れた絶望の幻影を振り払うように魔法陣を展開する。


炎の方が断然強い。それがわかっていながら、私は氷の魔法を準備する。

私事もあるが、燃えた獣がそのまま荷台に突っ込んで馬車ごと炎上するのを避けるためだ。


「ニードルヘイル!!」


中級魔法の氷針の雨。

数匹の狼めがけて降り注いだ針は狼の身体にいくつも突き刺さるが、ナイフ程度の長さの針の雨程度では、獣の身体を沈黙させるには至らない。


「っ…この…」


短剣を抜いた私は、向かってきた一匹の開かれた口にくわえさせるように振り抜いた。

ただの魔法使いなら、最悪全く戦闘訓練などやらない引きこもりもいるが、私は家絡みで戦闘訓練もしてきた。

距離を詰められたときの対処として短剣と蹴り位は使えるようにしている。


口の脇を切り開いて通りすぎた狼を横目に、遅れて向かってきた狼に左手を向ける。


速射で氷の針を放ち、向かってくる狼の顔をうち貫いていく。


私の脇を背後からなにかが通りすぎた。

何かは狼の顔に着弾し、けたたましい音をならす。


雷撃弾…


「半分で今くらいだから…連射はできないから。」


振り返った私に、銃を構えたナードが申し訳なさそうに声をかけてくる。

…当てるのはともかく、魔法慣れしてないのにあの威力の弾連射するのは無理がある。


「丁寧にやっとけばいいわ、後は私が…ぁ?」


視線を群れが来ている『筈の』方に戻しながらナードに無理をしないように言いかけていた私は、それを見て硬直する。


二本足で狼と同等に地を駆け、魔力の刃は煌めきだけを残し、速射魔法を乱射している人影。


あんまり狼が抜けて来ないとは思ったけど…ロストリミットって多用したら危険な物のはずなのに…



「あの馬鹿っ!!」



一緒に戦ってのフォローも手伝いにはなるんだろうけど、そんな悠長な事を言ってはいられない。

私はこの状況をどうにかする為に、思いっきり行くことに決めた。


「降り注げ爆炎!地を焼き尽くす火の雨となれ!!」


ネストとの試合では避けられた、私単独での最大火力の魔法。

必要以上に詠唱を大声で叫び、ネストに何を撃つ気なのかを伝える。


案の定、狼の群れの中でネストはコッチを見た。


ちょっと心配。だけど、無茶だと言うなら今既に無茶なんだから…凌いで出てきてよね!!



「ファイアスコール!!!」



同じで違う中級魔法。

私が使うと氷より数倍規模で強い炎の雨が、狼の群れ目掛けて降り注いだ。




SIDE OUT



大声で使ってくれたのは気遣いなんだろうけど、戦闘中に気づいた最大火力の中級魔法なんて代物に、ロストリミットを起動させた俺は慌ててフィア向かって駆け出す。


着弾地点で次から次に細い木位ならへし折りそうな爆発音が断続的に響く中を突っ走って、俺はフィアの足元に転がった。


「ちょ…ちょっ…さ…さすがに…」

「馬鹿!ロストリミットって負荷大きいんでしょっ!」


立ち上がりながら言いかけた俺に、凄い剣幕でフィアが怒鳴って来た。

…心配かけたらしいな。


謝ろうと思って、まだ倒しきったか確認したわけじゃ無い事を思い出した俺は振り返る。


一匹、燃え盛る狼が駆けて来た。


「くっ…」


咄嗟にマテリアルウェポンを構え、迎えうとうとした直後、向かってきていた狼の顔面で光が弾けた。


雷撃弾…


「ふ…うっ…僕も射撃の腕だけはあるみたいだね…」


振り返ると、背後でナードが胸に手を当てて息をついていた。

引き金を引くだけで真っ直ぐ弾が出る雷撃銃。弾が曲がったり逸れたりしないとは言え、撃った弾が当たるかどうかはガンナーの腕次第。


携行武装で修行いらずと思って銃にしたけど…


「助かったナード、上手いな銃。」

「肝心の魔力の扱いが残念で連発できなかったけどね…」


今日渡した武装の扱いに不慣れな事に渋い顔をするナードだったが、とんでもない。

無事に荷物を守りきれたのは二人が残ってくれたお陰だ。


「さて…後は…これ、どうすっかな…」


フィアの中級魔法で焼き払われた平原と、動かしようの無い積荷山積みの荷台。

さすがにくたくたで、とはいってもこの状況を放っておくことも出来ず、どうしたものかと座って眺めてみる。


「あれ?」


休憩のつもりで座って周囲の様子を眺めていると、オルミクス方面から二台の馬車が向かってきた。


「…おっさん…かな?」

「みたいね。」


どうやら応援込みで引き返して来てくれたらしい。

経費かかるだろうに…優しい商人だな全く。








がたがたと、ゆっくりと進む帰りの馬車の中で、俺達は無言で椅子に身体を預けていた。

さすがに疲れたと言うのもあるが、目の前にいるおっさんまで無言でバツが悪いと言うのもあった。

全く信用されてないのを断って無理矢理残って戦ったんだ、勝てたからよかったとかそういう問題じゃない。

わざわざ戻ってきてくれたおっさんにも経費かけてしまったし、依頼としては問題だろう。

ま、断った上で戦ったわけだし、荷物もちゃんと守れたから後悔はしてないけどな。


「おら、ついたぞ。」

「はは、悪いなおっさん。依頼断ったのに乗せてもらってさ。」


最後位と思って明るく礼を言っておく。

と、おっさんはがりがりと頭をかいて…


「あぁくっそ!!」


叫んで叩きつけるように小袋を俺にブン投げてきた。


「依頼の報酬?…俺は好き勝手」

「正規騎士団で相手にするような数捌かせて、荷物も俺らも無傷で済まされたってのに何も払わずいられるかってんだくそ!」


おっさんは返そうとした俺に怒鳴りながら指を突き出す。


「戦いで勇気なんて勘違いで無茶苦茶する奴は早死にすんだ、覚えとけよ!いいな!」

「わかってるって。ほっときゃいいのに学生数人守るのに売り物と賃金捨てようとまでしてくれたお人よしの商人さん。」

「把握して残りやがったのかこの…性質の悪いガキめ!」


肩を竦めて鼻を鳴らしたおっさんはそのまま俺達に背を向けてすたすたと去って行く。

終始怒っていたようにも見えるが、多分俺達への気遣いと照れ隠しなんだろう。

説教だけにしておきたかったらお金置いてかないはずだ。


「散々な言われようね。」

「全くだ。」

「あ、アレだけ好き放題言われてなんで二人とも嬉しそうなの?」


疲れているだろうに嬉しそうなフィアと顔を見合わせていると、少し後ろからしかめっ面のナードが声をかけてきた。


「あのおっさん良い人だからな。」

「みたいね。」


とことん人に慣れてないらしく、明言しても意味が分からなさそうにナードは困惑していた。




Side~レイナード=マーシナルス




静かに銃を構えて、的を見る。

魔力は常時手元の銃に集中させながら、的目掛けて銃を動かし、引き金を引く。

雷撃の塊が放たれ、放たれず、放たれず、放たれ…


膝を折る。


息が荒れる感じじゃないが、眠気のようなものに襲われ、何もしたくなくなってくる。


ふらふらしている間に訓練が終わり、結果が表示される。


命中率8%、撃破数1。


「最悪…だ…」


高等科2年の平均より少し上のランクの戦闘系受講者がやる射撃訓練。

当然、高等科1年の新人が挑んでポンポン高スコアを叩きだせる代物ではないんだけど…


ネストとフィアなら、速射魔法できっと命中100%の完全撃破が出来る。


震えながら立ち上がる。

魔力を銃に送りっぱなしで引き金を引いても殆どが弾も出ないで終わる。

最初の一発以外は威力が足りずに撃破に至らず、他の命中率は的を撃ててすらいないから。

一応撃てた分はど真ん中でこそなかったものの全部的には当てられた。


「くそ…っ…」

「何してるのかと思ったらこんな所にいたのね。」

「え?ぁ…」


唐突に声をかけられて視線をやると、フィアが部屋に入って来る所だった。

ターゲットスペースの脇にあるモニターに表示されている僕の結果。

すぐに消えるわけでもなく、当然フィアの目にも入る。


「8…ぱーへんと…へー…」


笑われるかと思ったら、なんかたどたどしい言い方でモニターを見るフィア。


「もしかして…8%がどれ位か分からないの?」


ビクリと肩を震わせた後、フィアは僕を慌てて睨んできた。

トラウマが若干蘇って…胸が痛い…


「わ、わかるわよっ失礼な!100個ある内の8個でしょ!?…って!アンタ魔法慣れしてないくせにその銃100発も撃ったの!?」


睨んで怒鳴ったかと思ったら、慌てて僕に近づいてくるフィア。

だからトラウマがあるって言うのに…

肩を抱えるようにして後ずさった僕を見てフィアは近づくのをやめる。


「あ、えと…いやでもあんたそれ大丈夫なの?」

「…8%は割合だから、別に的を100回撃ったわけじゃない。」

「え…あ、そ、そりゃそうよね。あはは…」


乾いた笑い声を上げるフィアを見ながら、僕は小さく息を吐いた。


「ひょっとしてフィア…馬鹿?」

「な…失礼なっ!科学関係はコッチに来て初めて触れただけよ!基本計算も分数も普通に出来るわ!!」


本気で怒るフィアを見て、少し考える。

僕は魔法の基礎の基礎もここに来て初めて聞いた位だった。だったらフィアも図形の面積体積とか割合とか濃度とか密度とかそういうものの話は知らないのかもしれない。


…そっか、優秀とは言えない僕でも役に立てる部分あるのか。


「…今日はもうやめておくよ、よければ数学教えてあげるけど?」

「うるさいっ!」


僕から顔を背けたフィアは出口の扉に手をかける。


「…基本学習で詰まったら教えてもらうわ。」


…僕が魔法で大変なようにフィアも魔科学共用学習中々大変らしかった。

超人みたいに見えたフィアとネストの二人。そのフィアの僕でも全然力になれそうな部分を初めて知って、少しだけ安心できた。


改めて銃…マテリアルウェポンを見る。


魔法部分はいまいち理解が及んでないし、全ての機構が理解できるわけではないけど、僕もこの銃の作りは大体見える。

フィアが魔法で優れてるなら、僕は道具、装備の類を使えるようにしていくべきかもしれない。


少しだけ見えた光明に、焦りで曇っていた視界が晴れた気がした。





SIDE OUT





触れていないものと言うだけで、フィアの『頭が悪い』訳ではないです。

フォローになるんだろうか(苦笑)。

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