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第2話・ギルド仲間と練成術



第2話・ギルド仲間と練成術



村から出て来て持ち物なんて蔵書がある程度だった俺はギルドチームの申請をした上で即行でチーム用の部屋に寝泊りする事にした。

ギルドチーム用の部屋が必要なのは、防音等の作業の為の環境が整っているからだった。

仮宿でガリガリボコボコと音を立てていたら間違いなく問題だ。

持ち家でも持てれば屋内にそういう部屋を用意することが出来るだろうが、どうしたって最初はギルド用の作業部屋を借りる必要があったのだ。


学生がギルドの申請をしても対応できるように、簡易設備の整った小部屋が連なるギルド用の建物があり、その一室を借り受けたわけだ。

村にはしゅーごーじゅーたく?って言う類の物自体が無かったから、でかい建物に部屋が大量に存在する事そのものが珍しくてびっくりだ。


「俺もここで寝る事にするな。作業部屋だからホント寝るだけが限度だけどな。」

「あ、うん…僕は大丈夫…」


おっかなびっくりの様子のレイナード。

トラウマがあるのが女性だって言うなら俺にはもう少し普通でもいいのにな。

なんにしても、ここからだ。

二人の進路とかは分からないけど、何があっても大丈夫なようにはしておかないとな。


ソファで毛布に包まるレイナードには悪いと思ったが、俺は小さく明かりをともしたままカリカリと書き物を進める。


「何書いてるの?」

「ん、あぁ。明日からの予定。レイは何かやりたいこととか要望とかあるか?」


フィアのほうは割と想像できるが、科学科目の教室で見つけただけのレイナードについてはやることにもいくらか種類ありそうなものだ。


しばらく待ってみるが反応がかえってこないのに不思議に思い…


「あの…レイって呼ぶの…やめてくれないか…」


苦い声でたどたどしく告げられたのは、全く関係ない要望だった。


「その…トラウマの原因に…ずっとそう呼ばれて…」

「そっか。じゃ、ナードでいいか?」

「え、あ、うん…」


あまってる部分で呼ぶと、今度は承諾して貰えた。

毎回フルネームで呼んでたら面倒だし、急ぎの時危ないしな。


「んじゃ改めてナードはなんか要望とかあるか?」


本来の用件を聞くと、少し間がある。


「強く…なりたい。」

「強く?」

「人に振り回されたりしなくていいように…」

「ふうん…」


ゆっくりではあるが、しっかりとした回答だった。多分トラウマ関連で女性に振り回されて痛い目を見たんだろう。


強く、と言っても色々ある。

精神的とか人間的とか言う意味ではなく、戦闘能力の方向性についてだ。


今回の場合、多分自分の周囲の人間に絡まれてもあしらって捌けるようにって事だろうから、大型の魔物や竜種を倒せるような巨大兵装を作れる技術はいらない。

その代わり、取られて相手に使われたりせず、いつでも使える力…魔法や身体能力、使用者識別機能のある小型兵装等になる。

大きな力は必要ないがナードが自分でなるべく常に使える力が必要になる。


「科学より魔法系のほうがやり易い話だな…魔法が嫌って事はないよな?」

「え、う、うん…」

「分かった。」


取られない、と言う事を考えるなら魔法を覚えてしまったほうがいい。

魔科学装備を作って扱うにしても、魔力は使えたほうがいい。

当面は魔力の扱いについて磨く方針でよさそうだ。

聞くだけ聞いて、俺は再びペンを進めた。




Side~フィアリス=スノウレール




釜に手を翳し、魔力の流れを感じとることだけに集中。

錬成中の物の構成要素を、溶かし、選り分け、固めていく。


何か、の区別なんてさすがに出来ず、全ては球体のように集まっていく。

歪な、子供がペタペタ張り付けた粘土のように…


全てが終わったと思った所で、私は手を止めて息を吐いた。


疲れたが、一仕事終えた充足感が…



「あるかぁっ!!!」

「ヒイィッ!!!」



私は怒りに任せて金属製の釜を思いっきり蹴りつけた。

さすがに足に痛みが返る。それと共にナードが悲鳴をあげるが構ってる余裕はなかった。

ってかレイが駄目で余りをとってナードって呼ぶことにしたって、さっぱりしてるって言うかいい加減って言うか…


「こんな地味な作業任せてアイツは一体何処で何やってんのよ…」


ごみをかき集めてきては部屋の隅に貯めていくネストに錬成を任されてすでに一週間。

釜の中にごみをがちゃがちゃ放り込んではひたすら魔力を用いて練成作業。

別に魔科学都市に友達がいるわけでもないのに、必修科目をだらだらと聞いていられる授業時間が至福にすら感じられた。


「い、一応帰っては来てるよ…たまに来なかったりもするけど…」

「ここで寝泊まりしてるあんたがその調子じゃ、本気でいないのねアイツ…」


私はぼやきながら釜から網を引き上げる。

反応液の中から網に乗ったいくつもの塊が姿を見せた。

網の上に出来たいくつもの塊の中から、いくつかの輝く物体を見つけたナードが小さく頷く。


「相変わらず金、銀もあるんだね…」

「無きゃやってられないわよ…あんまり来ないようならこれ売り捌いてやろうかしら。」


網の上で光る塊をつまみ上げた私は、乱雑にそれをおき直すと近場のソファーに腰かけた。


「休憩?」

「当たり前でしょ。って言うか辞めて出てってやろうかしら…」


ぼやいたものの、そんな元気さえ今はなかった。男子であるナードの前でなければ間違いなく寝入っていただろう。正直かなり神経を使う作業だ。


「…それじゃこれでもやる?」


言いながらナードが差してきたのは、ネストが書いた、自分がいない間にやっていて欲しいことの欄にあった、情報交換だった。

自己紹介をのんびりと、と言う話は私が訳ありだからかしなかったが、ここは魔科学都市オルミクス。

私が魔法国、ナードが科学都市出身である以上、どうしたって半人前にならざるを得ない。

更に言えば、自分が使わなくても知っておいて無駄にはならない。魔科学品制作の半分を担当するとして、魔法と科学を『繋ぐ』ことはどうしたって考慮することになるから。


「…そーね、ネストの鼻を明かしてやろうかとハイペースで進めてきたけど、流石に疲れたわ。」


私はソファーに座ったまま手摺に寄りかかるようにしてナードを見る。

手元のごちゃごちゃ書かれた本を閉じたナードは、床に座ったまま私と視線を合わせた。


「それじゃ、魔法についてだけど…必修でどれ位進んでるかしら?」

「魔法国の簡単な歴史と、魔法の適性検査。陽の光火雷風、陰の闇氷地森の基本属性。特殊なものもあるけど、それらが素養である事は殆どないから使いこなすなら魔科学の見せ所って言ってた。」


偏見と言いかけて口を噤む。

魔法国ではそもそも、魔力や魔法を『自然に即す力』としているのが根本にある。

基本属性で素養が無ければ科学でどうにかしちゃえなんて中々暴論だと思って…


私の台詞じゃない、と気づいた。


ここは魔科学都市なんだから、所詮異物でおちこぼれの私が考え方に口を挟んでも仕方ない。


「初級魔法って呼ばれてるカテゴリーからすら扱える気がしないけど…何となく魔力は分かってきた。」

「…魔法って出来ないとそこまで酷いものなのね。」


ナードの呟きがさすがに想像もできない話で私は少しだけ驚いた。

私は初級魔法だったら全種類扱えるし、そもそも物心付いたくらいには最初期の魔法くらいは扱えていた。


「ちなみに、アンタの適正は?」


私が聞くと、ナードは掌を上に向けて目を閉じた。

静かに集中すると、掌の上でぱちぱちと弾けるような音がする。


青い雷…


「ふう…っ…これで一杯一杯…」

「ふうん…」


息を吐くナードを見て複雑な気分になる。

機械を扱う方から魔科学に手をつけて得意が雷である事がちょっとうらやましい。


「…所で、一応これから発展させたのが魔法なんだよね?速射魔法が凄腕しか使えないって聞いてるけど、その辺ってどう違うの?」


掌で魔力を玩んで多少の雷が出たのとまともに魔法を扱うのとの違い。

良く分からない奴にどうすれば伝わるのか…正直私は手がある足があると同じ位当たり前に魔法が使えるからどう言ったものか分からず…



「絵の具を垂らす、図形を描く、人を描く、風景画を描く、って位違う。」



考えていた所に、いつの間に入ってきたのかネストが割って入ってそう簡単に片付けた。

魔法には明るい筈の私だったが、これよりざっくりと分かり易い説明が出来る気はせず、人のお株をあっさり奪っていったリーダー様を軽く睨むしか出来なかった。




SIDE OUT




帰って来ると丁度魔法講義の最中だったから、俺なりの解釈でさくっと割って入ってみた。

うぐ、フィアが睨んでる…ま、まぁ間違ってたら訂正してくるだろ、うん。


「…絵の具が属性、絵が発動する魔法って事?」

「ま、すっごいざっくりとだけどな。で、当然何の準備も無くやるのは超大変だろ?図形を描けって言われたって少なくとも机の上に紙を固定して筆に絵の具を…ってやらないと。その準備が魔法陣の展開とか詠唱とかになるわけだ。風景画とかまで到ったら構図や見本の用意からデッサンとか…とにかく滅茶苦茶やることが増えてくる上に難しい。」

「それらを何の準備も無く、制御も失敗しないで素早くこなすのが、速射魔法って訳だね。」


納得してくれたようで頷いてくれたナード。

睨まれたのでフィアの様子を伺うが、割ってこない割にむすっとした表情で俺を見たままだった。


「えっと…俺なんかした?それとも練成きつかった?」

「はぁ…きついに決まってるでしょ!」


くたびれた様子だったフィアが立ち上がりながら怒鳴ってきた。

あらら…まいったな、どうやら無適正か昔からやってたせいか俺は大して苦に思ってなかったけど、練成って結構きついらしい。


「大体なんで練成術なのよ、錬金術じゃないの?」

「それなら聞いたことある。賢者の石とか金を作ろうって言う欲たましい術でしょ?」


魔法を知っている身ならつっこんで当然だろうと思うフィアの指摘に続いて、ナードがわざわざ名前を変えた理由を的確に表現してくれた。

怪しげな解釈にある程度は知っているフィアがナードを睨み、女性にトラウマがあるらしいナードが身を強張らせて震えだす。


「とまぁ、よく知らない人が聞けばこの有様だし、折角だから目的通りの名前にしてみようと思って。」

「してみようって…」

「あ、あの…フィ…フィアが睨んだって事は…その…違う…の?」


呆れたようなフィアと必死で落ち着いて搾り出すナード。

フィアですら察しがつかないあたり、多分説明が必要なのは間違いない。


「ナードの言う通り錬金術なんて言って金を作る術だって言ってた。けどそれは、ようはスポンサー狙いだよ。金を作れるって言ったら資産家が食いつくだろ?」

「…それ、本当?私専門で学んでないからそこまでのこと知らないけど。」

「諸説ある…としか。俺だって本から見た程度だし。」


疑わしげな…というか、俗っぽくて嫌だったのだろうフィアが苦い顔をするが、正直俺にもそこまで断言は出来ない。

けど、賢者の石そのものを不死や万能薬みたいに言い広めてるあたりその感バリバリだ。


「そもそも錬金術って呼ばれるものは科学国でも扱われてるんだよ。ただし、方法が違うけどな。」

「は?科学国で魔法をどうやって」

「魔法じゃないんだって。『金を作る』って結果を得るための過程を科学でやろうって試みだよ。物質に関する知識が増えた今は用途がまるで別のものに変わって行ったけどな。」


物同士や薬品を掛け合わせて固体になるなら金が作れる組み合わせもあるんじゃないかって調べてたようだが、そもそも組み合わせで作るものじゃない金は出来ない。

魔法国のほうの錬金術は、その変化を術者が魔力で行っているが、それでも別の物質が出来ることは無い。


「だから、金がいらない俺達にしてみれば、別に錬金術じゃない。けど、便利ではあるんだ。」


金を作れると思っていた原因は、金を含んだりメッキ状にはりついたりするような物を混ぜてしまった為で、実際には別のものに変化するのではなく、くっついているものをはがしたり、別のものをくっつけたりする変化を起こせる術だ。科学では専用の手順を踏まなきゃならない変化の部分を、魔力制御によって行うのが魔法国での錬金術…俺が使っていきたい練成術だ。

つまり、錆びた鉄を練成して錬鉄と酸素にしたり、合金を作ったりすることが出来る術だ。

科学変化は準備が多種多様に必要で、魔法国では難度が高い上に別のものに変わらない以上あまり必要ないとされ見向きされなかった術。

けど、魔科学では相当便利だ。


「魔法国の錬金術…この練成術なら、地金や素材の作成が出来たり、『縫い目の無い服』なんて普通には作れないものも作ることが出来る。」

「ガラクタから金属の塊が取り出せるのも、機械作るなら便利だよね。」

「取り出す?あのゴミの中に金があったって言うの?」


納得してくれたナードに対して、俺が持ってきた不良品郡がただのゴミにしか見えなかったらしいフィアが首を傾げる。

はは…片方しか全く知らないって言うのも中々大変だな。金まであったのは意外とは言え、精密機器には少しずつでも希少金属が使われてるんだけど。


「…とにかく、練成をやらせてた訳はわかったわ。で?」


練成術をフィアに任せていた理由は説明したのに、何故かフィアは俺を睨んだままだった。


「え?」

「えじゃない!あんたは今まで何してたのよ!!」


訳が分からず聞き返した俺を睨んで怒鳴ってくるフィア。

…あれ?


「あー…ひょっとして俺…何してるか言ってなかった?」


恐る恐る聞いてみると、二人はなんか残念なものを見るような目で俺を見て来た。

や、やばっ…一週間放置して行方不明みたいな感じだったのか俺?


「わ、悪い悪い!これだよこれ!」


割としゃれになってない勘違いに、俺は腰の袋を放り投げた。

派手にジャリという音を鳴らして置かれた袋。その中身は多量の硬貨と紙幣。

袋を開いてそれに気づいた二人が驚いて俺を見る。


「依頼捌いてたんだ。ランク上げないと外出系の依頼は受けられないからな。魔物と戦えないと不都合も多くなりそうだし。」


学生の新設ギルドチームが受けられる依頼に戦闘が絡むような依頼は弾かれる。

危険度や重要度によって受けられないものが出てくる為、早急に位を挙げる必要があったから、俺は今までそれが出来そうな依頼を選んで片っ端から捌いていたのだ。

氷がたくさん欲しいとかなら中級魔法が扱える俺ならサクッと終わらせられたし、農耕用の地の魔法もいくつか修得してあったから、普通にやってたら長時間かかる依頼を短時間で捌いて、こうしてそれなりの資金をついでに持ってこられた。


「って訳で適当に持ってってくれ。」

「て、適当にって言われても…」


いきなりお金を袋で投げられて持って行けと言われても困るのだろうか?

まぁ俺も特に気にしてないから投げたわけだが、決まらないなら決まらないでぱぱっと三等分して…


「ねぇ、あんたの目的は?」


フィアが俺を見据えていた。


「ナードは生活費が欲しい、私はまぁ…特に魔科学に用事は無いけど、あんたはギルドチームを組んで何をする気なの?」


意図が分からないという事なのだろう。

丸投げに近い感じで金銭放り出してるしな、変って言えば変か。

ま、別に隠す事でもないしな。


「実は、魔科学技師目指してみようと思ってるんだ。」


俺の言葉に首を傾げるフィア。

あ、あんまり魔科学技師についての話聞いてないらしいな。

それなりに突拍子も無い話なのに驚いてない。


「魔科学技師…って…まさか、本物の?」

「まぁな。」

「本物?魔科学技師って本物も偽物もあるの?」


一人分かっていないフィアの問いかけに頷く。

俺の目標だから、俺が説明するべきだろう。


「魔科学を学んで扱う技師ってだけなら勿論ここ出身なら星の数ほどいる。けど、本当の意味での魔科学技師…『世界で出来うる全ての事が出来る』と称される、校長先生だけが持ってる称号。そこを目指すつもりでいるんだ。」

「はぁ?何それ?校長先生が人型の天災指定受けてるのは知ってるけど、それよりもっととんでもないわけ?」


フィアの問いかけに頷く。

人型の天災ヒューマノイドディザスター指定。

単独で世界をひっくり返すような力を持つ人間に好き勝手に行動させない為にと決められた規定。

例えば、自然災害級の上級魔法を単独で扱えてしまったりするとそれに加えられ、監視とか行動制限とか定期報告とか、そういうのを各国の代表にする義務を追う。


けれど…


「それは、上級魔法一個使える程度でもなれるだろ?」


逆に言えば、その程度でしかない。

全てが出来るって言う域からは遥かに遠い。


「出来うる全て…全種の魔法に薬剤やら機械の製作まで全部って事?…魔法全種だけでも人外じみてるわね。」

「科学にしたって薬剤とか生物とかあるし、並大抵の所業じゃないよ。」

「だな。目指すってだけでなれるって断言するには自惚れすぎだ。でも、そのつもりでいる。」


迷い無く告げると、二人も納得してくれたようだった。

なれるは言い過ぎかもしれないが、目指すってだけなら誰にとやかく言われる筋合いも無い。


「だから、色々試す為に魔物相手に戦える状態にしておきたかったんだ。ナードの強くなりたいって願いも、フィアが魔法を振るうにも、人以外相手に実戦出来た方がいいし、魔科学の製品作るなら魔物の素材も必要になってくるだろうしな。」

「なるほどね、それでまずは戦闘がらみの依頼も受けられるように最低限のランク上げがしたかった訳ね。」


何か考えるように目を閉じるフィア。

元々問いかけてきたのはフィアだ、怒ってたし怪しんでたし、納得してくれなかったら受け入れてくれないかもしれない。

ギルドを維持する…部屋を使うだけなら、仮に彼女が拒んでも人数だけいればいい話だが、俺としては折角だから二人にいて欲しい。


「分かったわ、それなら私も最低限の生活費でいいわ。ゴミ集めから材料作りするくらいならここの研究費用にでもして。」


だが、杞憂どころかフィアは微笑むとそんな事を言い出した。


「え?いいのか?一応言っとくけど練成で作った金属使って作った物を納品したりもしたんだぞ?」

「使ってるのは分かってるし、ギルドに協力するって言ったんだから別にいいわ。あんたの望みの内容考えれば、半分は魔法関連の高等技術にも絡むから、私の足しにもなる筈だし。」

「それなら僕も…科学だけならともかく、魔科学で強くなるなら僕一人じゃ絶対無理だし…」

「フィア…ナード…サンキュー!必ず力になるから何かあったら言ってくれよ!!」


笑顔でそんな事を言ってくれる二人に、俺は全霊を込めてそう告げた。


これは誓いだった。


魔科学技師…校長先生と同じ域…それを目指す本当の所。

それは、魔科学で『願いを叶える力』を目指すこと。

寂しげにそれを言っていたあの人に、その言葉に応えること。

それは単に自分の力だけが高ければいいというわけじゃない。


そのためにも…


強気で実力もあるフィアが泣きながら逃げるほどの事態、女性関係で酷く怯えて力を欲しているナード。

俺の出鱈目を信じてくれた二人にある筈の切望に、必ず応えて見せる。




Side~レイナード=マーシナルス




あの後、科学側がさっぱりだったフィアのために話に付き合っていたネストが眠気を訴えてソファに倒れて眠りに付いたのを最期に解散となった。

お金が入っていた袋に一緒に入っていた依頼完了の書類の数を見て、フィアはすっかり怒りをなくして眠ったネストに毛布をかけて帰って行った。

僕もそれに伴って部屋を出て少し離れた所にある中庭に来る。

日もすっかり落ちた中庭で、僕は夜空を眺めて溜息を吐いた。


『フィア…ナード…サンキュー!必ず力になるから何かあったら言ってくれよ!!』


屈託の無い笑顔でフィアと僕にお礼を言って、力になると言ってきたネスト。

慈悲の塊が輝きを持ってそこにいるかのような彼の姿を思い出すと…


泣きたくなった。


とても神経を使うらしい練成作業をずっとやっていたフィアはともかく、僕のほうは魔法関連の学習と何故か筋力鍛錬を言われてやっていただけで、何の足しにもなれていない。

僕を利用し、いたぶり、売ろうとしていたあいつらから逃げて、ようやく僕はここに来れた。

孤児ですら良識があって色々と乱さなければ入学させてもらえるような懐の広い場所だからこそ入学できたが、最低限仕事はこなそうとしなければならない。

だが、女性へのトラウマが残ってフィアすら怖がっている僕では、知らない人との仕事場で雑用をする事すら怪しい。力仕事だって魔力で身体を直接強化できたり機械を使ったりできるこのオルミクスで僕みたいな優男が引き受けられるわけもないし、はっきり言って状況は絶望的だった。


何もかも、ネストが何とかしてくれた。

何一つ、僕は出来ていない。

こんな僕に賃金を分けるとか言い出して、あまつさえ礼を言われた。

暖かい。

その暖かさだけで火傷を負った如くのたうちまわりそうなほど、僕は脆かった。


「ありがとうも…力になるも…僕が言わなきゃならない台詞だ…」


使われている道具だった。

逃げてきて、使い物になってないガラクタになった。

ネストは勿論、フィアだって優しい、暖かい、あいつらとは違う。

力になりたい人に会ったと同時に、使い物にすらならないなんて、みっともないにも程がある。


「でも…僕が、あの二人の力になれる訳がない…」


みっともない、なさけない、嫌だ。そう思いながら同時に、僕なんかがあの二人の力になれる姿が想像も出来なかった。

舞台裏の小間使いすら勤まらない無能と、主役、ヒロイン位の差がある。

この有様から一体何をどうすればあの二人の力になれるのか、想像も出来なかった。

頑張れば、いつかは、足しになる程度は…


「遠い…な…」


目を閉じる。

とりあえず、できる限りはやろう。

一緒にいれば後からでも分かる筈だ。



と言うわけで。


「朝食作ってみたんだけど…」


寝泊りする所じゃないが、スペース自体はあるためまな板で切る程度で出来るサラダやサンドイッチを用意した。

無力感と共に思い出した嫌な事の中から引っ張り出した『出来る事』。


「ふーん…あ、美味い。」

「そう?なら良かった。」


サンドイッチを齧って微笑むネスト。

…料理が好評で嬉しいなんて思う日が来るなんて思いもしなかったな。


「けどちゃんと調理しないと駄目か?まともに調理台備えるスペースとると」

「あ、いや…違うんだ。」


部屋を見回そうとしたネストを慌てて止める。

僕がまともな朝食欲しさに手間をかけたからそれにあわせて研究用の部屋を狭めるなんて勘違いをされたら完全に本末転倒だ。


「今の所、僕がまともに役に立てそうな所がこれだけだからやってみたんだ。余計な事だったかな?」

「余計って事はないけど、別に無理はしなくていいんだぜ?大体魔法慣れしながら家事までやってたら面倒だろ。」


にこやかに告げるネストを前に、僕は何も言えずにいた。

確かにやれば成長はするんだろうけど、二人の役に立つ域になるのすら果てなく遠い気がして、頑張るとすら言えなかったのだ。


「助かってるっていやチーム組んでくれた上で方針を俺に任せてくれてる時点で十分だし、あんまり気にせずのびのびしてくれ。」

「…うん、ありがとう。」


明るく励ましてくるネストだったけど、明るい気分にはどうしてもなれなかった。



力が欲しい。



僕は授業の合間に、昔から考えていたファンタジーさながらの武器のアイデアを書き綴る。

元より強くなりたいと願ってるんだ、どうせなら…


現存している魔科学武装、科学道具、魔法道具、その効果、それらから作り出せると思われる武装案を綴り…


「ほう、中々突拍子も無いものを書いてるな。」

「え?ぁ…」


影が差して、僕のノートを覗き込んでいる人影が寄ってきた教師だと言うことに気づいた。

魔科学における科学側出身者を中心に魔法国の基礎を教えるベクトル先生。


…に、見つかったのは問題だ。


「あ、その…」

「ま、そう言うのを自由に作るためにも魔法の基礎くらい拾っとかないとな。」


先生は武闘家かなにかと見まごうような太い腕で手にした名簿で僕の頭を軽くはたく。

…多分軽くなんだろう、滅茶苦茶痛いけど。


結局その後職員室に呼ばれ、課題のプリントを渡された。

はぁ…何空回りしてるんだろう僕…




SIDE OUT





作者は日常でも例え話の世話になるほうなのですが、同じ内容でも人によってすんなり伝わったり首傾げられたりします。ぴったりはまる用法とかポンポン浮かぶといいんですが(苦笑)。

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