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盲目の少女  作者: 柳瀬
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見えないこと

 部屋の照明に虫がぶつかってばたばたと音を立てる。昼間に家の中に入った虫が、家の灯りに集まってきているのだろう。よく見るとそれは蜻蛉のように見える。

 ハエや害虫であれば容赦無く叩くが、蜻蛉となると少し悩む。結局、こちらに飛んでくれば殺してやろうと決意を固め、手元に新聞紙を引き寄せる。

 キャリーバックに荷物を詰め、何か忘れてはいないか不安に思う。大抵そういう不安は出発した瞬間に気付き後悔する。

 出先で買ってしまえば良いかと思うが、今回は予算が限られている。今、自分がいる所の遥か南、そこへ修学旅行に行く。所持金も決められていて、教師からのチェックが入るか分からないが念のため上限きっちりにしよう。

 友達はDVDプレイヤーを持って行くと言っていた。別の友達はDVDを借りて来ると言っていた。どちらか一方は忘れてくれば意味がない計画だ。

 やはり、こっそりと持って行くお金を足そうかと思うが、性善説。悪い事はできない。

 一通りの荷造りを終えて、時計を見る。時間はまだまだ夜とは言えないが、さっさと風呂に入ってしまおう。


 早起きは億劫なものだと決まっているが、今日はむしろ楽しみだった。むしろ目覚ましが鳴るよりも早く起きて準備を始めたくらいだ。

 それに加えて、自分が遅刻して集団行動を乱してはいけないというプレッシャーもある。 まだ暗いうちに家を出て、コンビニで朝ご飯を買う。朝早くに親に車を出してもらうのが申し訳ない。

 学校に着いたら大型バス2台で空港に向かう。今から酔わないようにと遠くを眺める。

 まだ夜が明けていない街はとても静かですれ違う車もない。遠くを走る車や後ろの方にいる車が同じ学校の生徒なのではと考えてしまう。そんなはずもないのに、特別な空気感がそうさせてしまう。




 持ってきたDVDはホラーだった。

  見れないわけではないが、出来れば見たくない。さらに言えば、クラスメイトにバカにされてでも、見たくない。

幽霊が怖いとか、怪物が怖い、ゾンビが怖いのではない。大きな音や突然の出現で驚くのが嫌いなのだ。好きで吃驚するのが理解できない。

 「諸君、折角ここへ来たのだ。普段できない、夜海辺を散歩するなどしないのかね。」

 そう言っても皆折角持って来たのだからとDVDを見るようだ。

 仕方ない、もう1人で散歩に行くぞ、そう言うとどうぞご勝手にだそうだ。薄情な奴らだ。

 部屋を出て廊下を歩くと、各部屋からざわざわと声がする。

 ご丁寧にこの2階は男子だけの部屋で、上の階は女子だけの部屋になっている。

 不貞を妨げる為か。先輩によると就寝時間を過ぎると、廊下に教師が見張りに出るらしい。何とも恐ろしい。

 階段をとんとんと降りて、フロントに目を向ける。ニコニコと女性が声をかけて来る。

 「お散歩ですか?」

 「そうです。海でも見ようかなと。」

 「是非ごゆっくりと。今日は波も穏やかですが、気を付けて下さいね。あ、携帯電話はお持ちですか?」

 一瞬何故だと思うが、そうか、迷子にならないとも限らない。

 「今取って来ます。」

 そう言って慌てて部屋に戻る。階段を今度は軽やかに登る。

 2階に着き、部屋に戻ると大きな声が聞こえる。一同吃驚したと騒いでいる。

 携帯を取りに中まで入ると暗い部屋、皆自分を見て来る。

 「やっぱりお前か。」

 と安堵される。

 察するに、ホラー映画を見ていたら緊張が走るシーンになり、そこに自分が来てしまったようだ。悪い悪いと言いながら後にする。

 付け加えるように。

 「1時間後位に戻るから覚悟しておけよ。」

 そう言って部屋を出た。


 フロントの女性にひらひらと携帯を見せる。変わらずニコニコとしながら、いってらっしゃいませと声をかけてくれる。

 ホテルを出て歩いてまっすぐ3分歩けばそこは海だ。渚が広がり、夜でも人がぱらぱらといる。

 ホテルや町の灯りで、夜の海もそんなに怖くない。砂が綺麗で足跡を付けるのが、何だか申し訳なく感じる。

 波の音を聞きながらそのまま南に向かってみる。靴の中に砂が入り、立ち止まり靴を脱ぎ砂を落とす。また歩き出すとまた砂が入る。

 いっその事裸足になってしまえば良いかとも思うが、それはそれで面倒だ。

ホテルの灯りがどんどん遠くになって行く。携帯の画面を見ると時間が10分程経っていた。人とすれ違う。その大半が観光客のようで、たまにうちの学校の生徒もいる。1人でいるのは自分だけで少し恥ずかしく思える。

 少し先に1人、女の子が浜辺に座っている。制服ではないしラフな格好のため、現地の人かなと思う。そう言えば今朝、教師から挨拶をしっかりしろとの指示があったなと思い出す。我が校の品格がどうとかこうとか。よく言う、1人の言動が集団の評価を下げるというやつだ。

 さっきまでは遠目に人の姿を見ていただけだが、今回は目の前を横切るわけだから、挨拶はした方が良いなと思う。

 「こんばんは。」

 そう言うと少女は弾かれたように俺を見る。綺麗な目をしていて、同い年か恐らく数歳下、中学生くらいだろう。

 「誰ですか?」

 軽い挨拶くらいだったのに、なぜか質問されてしまった。

 「いきなり声を掛けてすみません。今修学旅で此処に来てます。。」

 すると少女はハッとした様な顔をして

 「ごめんなさい!」

 そう言って何処か遠くを見ていた。

 驚かせてしまって申し訳ない事をしたなぁと思い、そそくさと先を歩く。そりゃいきなり知らない男に声を掛けられたら驚く。復路でもまだ居たら謝ろうと思う。

 浜辺も終わり、石の階段を上り舗装された道を歩く。靴に入った砂を落とし、ゆったりと歩いてみる。知らない土地を歩くのは楽しい。立木も見たことないものだし、咲いてる花も知らない。夜の気温も暖かく、少し汗をかきはじめた。

 携帯を見るとホテルを出てから30分経っていた。そろそろ戻ろうかなと踵を返す。

 一度通っただけの道でも、何となく安心して通れる様な気がする。

 浜辺に戻ると遠目からでもあの少女がいる事が分かる。

 ゆっくりと、わざと足音を大きくして近付く。後数メートルのところで、声を掛けない方が親切なのではと思い当たる。それでもここまで来たのだとええいと気合を入れて声を掛ける。

 「さっきはいきなり声を掛けてすみませんでした。おやすみなさい。」

 そう言って立ち去ろうとする。

 「待って。」

 立ち止まり、少女を見る。少女は俯いたまま何も言わない。

 「どうしました?」

 そう促すが、なかなか話出さない。立っているのも疲れるが、座るのもなんだかおかしい。何となく気まずい思い耐える事少し。

 「まだそこに居ますか?」

 「居ますよ。」

 「本当にごめんなさい。私、目が見えないんです。」


 何となく少女の横に腰を下ろし話を聞いて見ることにした。

 「勝手な、偏見だと思うんですけど。目が見えない人って、瞳を見れば察する事が出来るものだと思ってました。貴方の瞳は普通で、むしろ綺麗ですよ。」

 そう言ってから、口説いてるみたいだなと思い顔を赤くする。失礼だが、幸いその顔を見られる心配はない。

 「私に場合、特殊だったからもしれません。」

 「後天的なんですか。」

 「はい。7歳の頃に。」

 「事故か病気ですか?」

 「いいえ。一生に一度のお願いです。」

 「え?」

 思わずそう声に出してしまう。

 少女は自嘲気味に笑い、綺麗な瞳をこちらに向ける。

 「おかしいですよね。」

 確かに、一生に一度のお願いで目が見えなくなるなど、今まで聞いた事がない。大抵は小さい頃につまらない事に使ったり、もっとメリットのある事に使う。

 「目が見えなくなるようにお願いしたんですか?」

 「間接的に、そうお願いしました。」

 「一生に一度のお願いは、皆もっと良い事に使うものだと思ってました。」

 少女はそうですよねと呟き、顔を海の方へ向けた。そして深いため息。悪い事を言ってしまったなぁと思う。一度謝ろうと思うと少女が喋り出す。

 「昔、犬を飼っていたんです。その犬が老化で目が見えなくなってしまったんです。それがとても嫌で悲しくて、私が代わりに見えなくなるからその子は目が見えてほしいと、そうお願いしたんです。」

顛末を極めて簡単に教えてくれた。きっといつもこの経緯を人に話すため、伝えることに慣れてしまっているのだろう。

 「それが7歳の頃か。」

 「そうです。」

 大変だとか、可哀想とか、凡ゆる言葉は慰めにも勇気付けにもならないだろう。それに、少女が望んでなった結末を、他人がどうこう言うのは間違いだ。

 何か言うべきかと思うが、言葉は浮かばない。

 「何も言わないんですね。」

 少女にそう言われて、何か言葉を待っているのかと思った。それでも何か言う事が正しいとは思えない。

 「今までこの話をすると、大抵の人は可哀想だとか心配してくれますが、その全てが嫌いでした。」

 「そんな陳腐な言葉じゃ片付かないだろう。」

 「そうなんです。何か気の利いた事が言えないなら、何も言ってくれない方が助かります。」

 そう聞いてやっぱり何か言うべきだったと思う。しかし、それは俺が出来る事じゃない。

 立ち上がり、砂を払う。見えないだろうが少女に手を差し伸べる。

 「一人で帰れますか?」

 「慣れてるので大丈夫です。」

 それが強がりか正直な言葉か分かるほど少女を知っていない。せめて、それを知るくらいはなりたいと思う。

 それじゃあと声を掛けて、歩き出す。

 ホテルの灯りに近付いて、名前を聞いていなかった事に気付く。

 明日もいるだろうか。


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