File・6 終わらない仕事に社畜は逃げ場を失う
俺は意識に蓄積された情報を見つめながら漠然とだけれど、この部署の意味合いを理解した。
ザックリと噛み砕けばこの部署の役目は最初に説明してくれたことで間違いない。
他の部署から依頼された時の流れの道筋を現場で調整して仕上げる言わば建築屋だ。
ただ、俺の中で理解できないことがある。
「何で同じ時間枠に何種類も道筋があるんだよ」
そう、道筋は一つじゃないって事だ。
平行世界って言えばいいのかな。
誰かが右と左の分かれ道で悩んでどちらかに行ったとする。それが正規の時の流れだとして選ばれなかった方はどうなるのか?
それはそれで別の世界の正規の時の流れになる。
つまりは無限大に増えていくのだ。
……きりが無いだろ。
判断に悩んだ分だけ世界が増えていく。
それらの道筋を調整していくのだ。
チラリと幼女先輩を見る。
うん、こりゃあ寝る暇ないよな。
だって寝てる間にどんどん増えていくもの。
現にさっき片付けた場所は既に書類の束で埋まり始めてるし………終わらない仕事ってやつだ。
比喩でも何でもない。
そうなってくると、どうするか?
普通の人なら早々に諦める。
だが、社畜は?
ぶっ倒れるまでやり続ける。
幸いなことに過労死は存在しない。
だって死んでるから…。
そう結論づけて一瞬、思考が止まる。
死なない=眠らない=時間は無限大(……死んでるから)結果として…ビバ、社畜天国。
おっと!?危険な考えが脳裏を過ぎったぞ。
えっと、ここってもしかして地獄なのか?
確か無間地獄なんてのがあったような気がする。
ちょっとだけ今までの行いを考えてみる。
………………………………………うん?
そこまで悪いことはしてないぞ。
ってか、むしろ俺って被害者じゃね?
ファミレスで意味も分からず殺されて、これまた意味も分からず就職して……。
俺、何やってんだろ…。
悲痛にくれる俺とは対照的に幼女先輩は毛布を蹴飛ばしお腹を丸出しにして大の字で寝ている。
何だか解せない。
それ以前に幼女先輩は寝てるって事は死んでも眠れるって事なのか?永眠って何なのよ?
イヤイヤ、待てよ。
俺と幼女先輩は違う存在の可能性もある。
思考の輪廻に陥り俺は思わず頭を抱えた。
「…だれ、あんた?」
突如、単調な口調の声が背後で聞こえた。
確か俺の背後は壁だったよな?
「あぁ、幻聴まで聞こえるようになったか…」
更に俺は項垂れる。
ドカッ!
いきなり椅子の背もたれに強い衝撃が走った。
「おっわぁ!?なんだ?」
俺はその衝撃に思わず立ち上がり後ろを振り返り、目の前の光景に何度も瞬きした。
うん、だってね…壁から足が生えてるですよ。そりゃあ、誰だって驚きますよ…。
壁から長い生足が生えていた。
しかも、明らかに女性だ。
スラッとした長い足の先にあるのは赤いピンヒールのロングブーツ……うん、女王様だね。
俺の予想通り壁から黒のボンテージ衣装のスタイル抜群の女性が姿を現したんだ。
「…で、あんた誰?」
けど、その表情は冷たかった。
俺の嫌な予感がビシビシと警告を発している。
そりゃそうだろ?
あんな格好の女の人が冷たい視線を向けているんだ、ろくな事にならないのは容易に想像できる。
案の定、彼女の手には堅い本革の鞭が握られているのを見て生唾を飲み込む。
ヤバい、死ぬ。
冷や汗がダラダラ流れる。
身動きが取れない。
俺の目と彼女の視線が交差する。
俺は緊張のあまりに生唾を飲み込み彼女は冷たい視線を……全力で逸らしやがった。
しかも若干、顔が赤い。
うん?何だか想像と違うな。
俺の想像では彼女の瞳が更に冷たいものになって俺を見下し、無言で手に持った鞭でシバかれると予想して身構えていたんだが…何だかおかしい。
何だかモジモジとしながらチラチラ俺を盗み見ては視線を逸らすを繰り返している。
俺はまさかと思いながら彼女に呟いた。
「その格好…はずかしいのか?」
聞いた瞬間。
「ひゃあ~!み、み、見るなぁ~!」
叫びながら書類の山へと突っ込んで隠れていく。
でも、隠れてないんだが…。
確かに書類の束に頭から突っ込んでいるが四つん這いになった下半身は隠れていない。
頭隠して尻隠さず……実行する奴が本当に居るなんて正直、言葉が出ない。
そうして俺は、これから同僚でありパートナーとなるリル・カルエダと対面することになったのだ。
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