File・1 面接で死亡理由を聞かれる…
改めて周囲を見渡す。
明らかにファミレスではない。
こんな豪華な装飾を施されたファミレスなんて見たことない。どちらかと言えば中世の貴族の屋敷に近い気がする。
だからって貴族の家なんて行ったことがあるはずないから本当に近いかどうかなんて分からない。
そう……分からないのだ。
とりあえず、胸元に手を当てる。
うん、何も刺さってない。
記憶をたぐり寄せて思い出した最後の記憶に寒気を感じながらも俺はこの状況を何とかしようと思考を巡らせる。
先ず、なぜ刺されたのか?
あるとすればあの注文しかない。
時の旅極上コース……まさか、店員さんに笑顔で刺され永遠の旅路に向かうことだったのか?
いやいやいや、それはあんまりだろ。
思わず、自分の考えを苦笑いで否定する。
じゃあ、どういうことだ?
俺がそんな疑問を思っていると遠くで靴音が聞こえた。
カツン、カツン。
軽快な足取りだった。
靴音のした方に振り返った俺は一瞬、我が目を疑った。先程までの絢爛豪華な内装の部屋が消え去り真っ暗な空間に変わっていたのだ。
しかも……目の前に事務机と対面するようにパイプ椅子が一脚、見たことのある光景が広がっていた。
「…面接会場?」
思わず呟いたが、この雰囲気はそうとしか言いようが無かった。
そういえば、足音がしたはずだよな。
けれど人の気配は感じられない。
「…誰かお探しですか?」
突如、耳元で女性の艶やかな声が聞こえ、俺は突然のことにビクッと身体が反応した。
俺はゆっくりと振り返る。
「…あぁ」
声の主を見て思わず溜息が漏れる。
黒のレディーススーツに身を包み、長い髪を一纏めにして髪留めで上向きに整えた女性がそこに居たんだ。
ただ、俺がため息をついた理由はいかにも神経質そうに眉間に皺を寄せながら右手でそっと黒縁眼鏡を押し上げる仕草……THE面接官の体を有していたからだ。
正にこの空間にぴったりの彼女の姿に俺は何だか嫌な予感に襲われた。俺の社畜魂が警笛を鳴り響かせている。
「貴方が連絡のあった方ですね……いい感じの魂の色ですね。鍛えがいがありそうで楽しみです。ふふふっ」
俺の背中に寒気が走った。
なんだろう、この感触……。
嫌なはずなのに抗えない。
「では、面接を始めましょうか。貴方はそこの椅子に座って頂けますか?」
俺の心情など興味が無いかのように座るよう促してくるが彼女の瞳は俺の心の葛藤を見越しているかのように楽しそうに笑っていた。
俺は言われたとおり椅子に座り、膝の上に手を置き背筋をビシッと伸ばす。身体に身に染みた面接対応だ。
彼女も事務机の椅子にゆったりと座ると机に置かれた書類に目を通しながらチラリと俺を見る。
「っで、志望理由は?」
どっちだ?死亡?志望?意味が分からん。
だから、俺の返答は……。
「…はい?」
聞き返すしかないだろ?
けど、その返答に彼女はチラリと俺を一瞥して視線を種類に戻すともう一度聞いてきたんだ。
「…それで、志望理由は?」
俺は言葉に詰まった。
何が正解なのか分からない。
もし彼女が聞いている死亡ならファミレスで刺されましたと説明できるのだが、これが志望だったとしたら?何の面接を受けているのか分からない状況で志望理由など言えるわけがない。
その結果、俺は死亡に賭けることにした。
というか、それしか選択肢がなかった。
「深夜のファミレスで注文したら、店員さんに笑顔でフォークを胸に躊躇なく刺されました」
死亡理由を自分で説明しておいてなんだが……俺は一体、何を言ってるだ?
俺って物凄く不憫じゃねぇか……。
注文しただけで刺されて死亡って、どんだけの確率なんだよ?
自分自身の死亡理由に悲観に暮れている俺を彼女は何故だか呆れた表情を浮かべていた。
あれっ?違ったのか?
もしかして志望の方だった?
俺が無言でいると彼女は我に返ったのか「…不憫」と小声で呟き書類に視線を向けた。
ってか、おい聞こえたぞ!不憫って…言われなくても自覚してるよ。しかも、改まって言われるとへこむだろ…。
項垂れる俺に彼女は小さく咳払いすると俺を真っ直ぐに見つめてきた。その瞳は薄茶色の色彩で彼女によく似合っていた。
「…えっと、板崎渉さん?」
俺の名を呼びながら彼女は傍らの大きな判子を握りしめ、たぶん俺の書類だろう…持っていた書類に判を押した。
「合格です」
にっこりと微笑む彼女に思考が追いつかない。
「…えっ?なにが?」
思わず聞いてしまった。
「時空管理局の見習社員に採用です」
「…えっ?なにが?」
同じ言葉を繰り返す俺に不思議そうに首を傾げる彼女…どうも、認識のズレがあるような気がする。
「ごほんっ…」
とりあえず咳払いをして気持ちを落ち着かせる。
「質問しても良いですか?」
彼女が了承の意味で頷いた。
頭の中での疑問は尽きないが取り合えず聞いておかなければならないことが確実に一つだけある。
「…ここどこ?」
そう、それが最大の疑問だった。
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