File・14 社畜は癇癪上司に逆らわない
社畜な主人公がクズに見えてきた…
ではお楽しみください
(o_ _)o
幼女先輩がキューブに力を込めると俺にとって馴染み深い物へと姿を変えていく。
掌より少し大きい長方形で厚みは限りなく薄くなり枠一杯に液晶画面のある姿…スマホ…ですな。
そういえばスマホとスマフォって、どっちが正解なんだ?まぁ、どっちでもいいけど……。
そんな、どうでも良いことを考えていた俺を横目に幼女先輩はどこかへと電話をかけ始めた。
「あっ、私だけどアトロポスいる?」
ちょっと待て……。
幼女先輩の言葉に思わず心の中で突っ込む。
いま、俺でも知ってる女神の名前が出たぞ…ってか、そういえばリル先輩のキューブを操るときに上級神って言ってたよな?
俺の中でラノベの世界が広がっていく。
ギリシャ神話に北欧神話にゲルマン神話、上げれば切りの無い神々の名前が脳裏を過ぎる。
そう言えば幼女先輩の名前を知らないな…。
ふと、そんなことを考え幼女先輩を盗み見る。
まさかと思うがラキシスとかクローソーとかじゃないよな?いやいや、よく考えろよ……。
ここは時間を管理する場所なのだから、人智を越えてるのは明らかだ。
でもな……。
チラリと俺はどんよりと沈み込んで床で項垂れているリル先輩に視線を向ける。
この人も神様なんだろうか……世も末だな。
床に正座して震える両手は膝の上に置かれ、顔は項垂れて虚ろな瞳で床の一点を見つめているリル先輩……あの人の周囲だけどんよりと薄暗いのは気のせいか?
その姿にげんなりしていた俺の横で不審な気配を感じ取り恐る恐る振り返ると……鬼がいた。
「はぁ~?どういうことよ!」
幼女先輩の眉間に皺が寄り、巻き舌が炸裂している。幼女の姿と巻き舌口調の言葉遣いのアンバランスさが更に恐怖を煽ってくる。
なんだ?なんだ?
俺はつかず離れずの距離を保ちながら幼女先輩の動向を観察することにした。
不機嫌そうに相手の話に耳を傾ける幼女先輩、彼女が喋る度にリル先輩の身体がビクッと震える。
……不憫だな。
リル先輩の姿をチラ見しながら同情しそうになる俺、まぁ大体が同情して痛い目に遭うのが社畜なんですけどね……自分で言ってて哀しくなるな。
俺の脳裏を過ぎる過去の醜態、身体に寒気が走り首を振って脳裏から追い出す。
過去は過去だ……。
思い出せば、切りが無い後悔に呵まれる。
よし、幼女先輩に集中しよう。
「あ~ぁ、じゃあ駄目ねぇ……ったく」
舌打ちする幼女……なんだろう、子役の裏側を見た気がするのは俺だけか?
テレビに出ている純粋無垢な子役が裏ではスタッフに横柄な態度で接するなんて話をよく耳にする。
まぁ、ゴシップ雑誌で得た知識ですけどね。
ただ、幼女先輩の行動がそれを彷彿とさせるのは勘違いなんだろうか…うん、勘違いですね。
俺の心の呟きに感づいたように幼女先輩が俺を睨みつけてきたので営業スマイルと共に受け流す。
はい、社畜の特技です。
「もう、いいわ。別の部署に頼むから」
ブチッと会話を打ち切ると幼女先輩は通話を切り、虚ろな瞳でスマホを見つめる。
あっ、手がプルプルと震えていますよ。
さぁ、幼女先輩はスマホを握りしめましたぁ~。
どうする?どうする?おっと振りかぶったぁ~!
心の中で彼女の実況をノリノリで始めてみる。
「……………………………あぁ~!もう!」
ガッシャン。
キューブを壁に目掛けて全力で叩きつける。
良い音したな……けど丈夫だな、キューブって。
衝撃で黒い正方形の物体に戻りはしたが破損した箇所は一切、見られない。
流石は神々の所有物、頑丈ですね。
ただ、キューブを叩きつけた音にリル先輩の震えはマックスになっている。
震えかたが尋常じゃない。
しかも、顔面蒼白だな…。
自分に害の無いことには興味津々、若干口元に笑みを浮かべてしまうのは哀しい社畜の性なんです。
「…ったく、どいつもこいつも使えないわね。あぁ~!もう、彼奴のとこしかないじゃない…」
ブツブツと文句を言いながら頭を掻きむしる幼女先輩、なんだろう……嫌な予感がする。
「新人君!付いてきなさい!」
突如、俺を指差す幼女先輩。
「はいっ!」
思わず返事をしてしまった。
俺の返事に少し気分を良くしたのか幼女先輩はニヤリと笑みを浮かべる。
その笑みに嫌な予感しかしない…。
颯爽と扉へと向かう幼女先輩について行く俺、それがチャンスとばかりに正座を崩して逃げ出そうとするリル先輩……うん、フラグが立った。
何となく次の展開が読めてしまう。
「あんたは動くなぁ~!帰ってくるまで反省しときなさい!」
幼女先輩はクルリと振り返り、鬼の形相でリル先輩を睨みつける。
「はいっっっ!ごめんなさぃ~!」
その形相にリル先輩はシュタッと綺麗な正座に戻り、青ざめた表情を浮かべてプルプルと震える。
なんだろう……帰ってきたら逃げている予感がするんだが気のせいだよな……そう思うことにしよう。
生き残れよ……先輩。
最悪な先輩だけれど、不憫さが半端ない彼女の今後…まぁ、あればだけれど幸福を祈るよ。
チラリとリル先輩に視線を向けると幼女先輩が視線を逸らしたタイミングで俺と目が合う。
今まで震えていたのが嘘のようにニヤリと笑みを浮かべ親指をグッと立てたんだ。
おぉ……演技ですか?
救いようのないクズですね…先輩。
反省なんて微塵も感じさせないその笑顔に正直言ってね…うん、イラッとするよね?
まぁ、そんな時は…。
小さく溜息をついて俺は幼女先輩の肩をチョンチョンと叩いて彼女を振り向かせる。
「うん?なに……よ」
振り返った幼女先輩に硬直するリル先輩。
その手はバッチリと親指を立てていて、引き攣った笑みを浮かべた状態である。
冷や汗がダラダラとリル先輩から流れていた。
〔う・ら・ぎ・り・も・の〕
口をパクパクさせながら呟くリル先輩、読唇術の出来ない俺でも分かったよ。
ただ、まぁ、味方じゃないわな。
俺は満面の笑みを浮かべ、グッと親指を立てる。
「こんのぉ~!腐れがぁ~!」
リル先輩の姿に幼女先輩の逆鱗に触れたのは明らかだ。怒声と共に近くにあった書類の束を持ち上げ放り投げる。
それらは寸分違わぬようにリル先輩の頭上に目掛けて放物線を描いて降りかかっていく。
大きく瞳を見開き近付いてくる書類の束を見つめながら彼女はなんの躊躇もなく素早い動作で綺麗な土下座を見せてくれた。
スゴいね、あんな綺麗な土下座みたことないですわ…まぁ、手遅れですけどね。
両手を胸元に合わせて合掌する俺の姿にリル先輩の表情は失意のどん底にたたき落とされる。
だが、容赦なく降りかかる書類の束にリル先輩は謝罪の言葉しか出てこない。
「ごめんなぁさ~ぃ………グフッ!?」
正座したまま書類の束に埋もれていくリル先輩の姿に俺は何だか胸がスーッとする気がした。
成敗、そんな言葉が脳裏を過ぎる。
悪人、世に憚らす…うんうん、いい言葉だな。
腕組みして俺は満足げに頷く。
「…ったく、誰の尻拭いしてると思ってるのよ…ちょっと発育が良いからって調子に乗ってんじゃないわよ。私だって本気を出せば、それぐらい……って、何よ?」
心の呟きが声に出ていた事に俺の表情で気付いた幼女先輩は俺を殺意に満ちた瞳で睨みつけてくる。
「いえ、ナンデモアリマセン……」
思わず片言で返事をする俺。
…こいつは地雷だな、正解を間違えたら最後…。
「…ゴクッ」
俺は唾を飲み込み、睨みつけてくる幼女先輩の殺意に満ちた視線にどう返すか思考を働かせる。
回答を間違えれば即ちそれは死を意味する。
最適な回答を………これだ!
俺の脳裏に浮かんだ言葉…それは。
「その手の人には需要があります!」
俺の回答に幼女先輩の額にピキッと音を立てて血管が浮かび上がるのがありありと見えた。
はいっ、アウトで~す。
妙なテンションの心の声が虚しく響く。
直後、リル先輩の姿が消えた。
そして、鳩尾に走る激痛に俺の呼吸は止まった。
幼女先輩の右ストレートが見事にめり込みました…うん、比喩表現じゃなく本当にめり込みました。勢いであばらが何本か折れました……。
こうなることは分かってた…けど、何も浮かばなかったんだから仕方ないだろ?
何も言わなければ、それはそれで殺られるし…。
一撃で済んだんだ…ベストアンサーだろ?
「どいつもこいつも…行くわよ、新人君!」
あまりの痛みに蹲りながら嗚咽を漏らす俺に顎だけをクイッと動かして付いてくるように促してくる。
「ゴホッ……はい」
痛みに堪えながら立ち上がり俺は部屋の扉を開く幼女先輩の後をフラフラしながら追いかけたんだ。
呼んでいただき有り難う御座います
<(_ _)>
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(*´ω`*)
では、失礼いたします
(o_ _)o