File・12 有給?何それ美味しいの?
床に座り込んだリル先輩を引きずるようにして俺は書類の束で埋め尽くされた部屋へと帰ってきた。
なんだ……また増えてるな。
足の踏み場すらなくなった室内を見渡す。
幼女先輩が爆睡していたソファにも書類の束が積まれているな……埋まったかな。
少し不安げな表情を浮かべる俺とは反対に床に蹲りながら半べそでブツブツと呟くリル先輩の姿…
「…減給、降格…」
未だ自分本意な発言にウンザリしながら俺は周囲を見渡して幼女先輩の姿を探す。
けど、なんだろう?違和感があるな……。
俺らが出て行ったときと何だか微妙に違う気がする…もしかして、時間軸が違うのか?
確認しようにも日付が分かるものが何もない。
…どんだけ時間が過ぎてるんだ?
別の世界を何度もやり直していたから時間の感覚がさっぱりと分からない。
何日も経過したようにも感じるが俺の体感的には数時間程度のような気もする。
そんな疑問を感じて考え込んでいた俺は何かの気配を感じて書類の束が山積みされた一角に視線を向ける……何かいるな。
ガサガサッ。
書類の束を掻き分けながら何かが近付いてくる。
ガサガサッ。
床を這うような音……あれか、室内に時々出現する黒い悪魔的なあれか?
彼奴ら飛ぶからなぁ…。
その姿を思い浮かべ身震いする。
ガサガサッ。
真っ直ぐに俺に近付いてくる音に身構え、近くにあったリル先輩の鞭を握りしめる。
来るなら来い。
ある意味では魔王と対峙するより緊張する。
魔王は未知の恐怖、彼奴はDNAに刻み込まれた先天的な恐怖だ。
ガサガサッ、ガサガサッ………ピタッ。
俺の気配にやつが書類の陰で動きを止める。
書類の陰からこちらを窺うようにジッと俺を見つめる大きな瞳………あぁ、幼女先輩だ。
書類の束に埋もれ床を這うように姿を見せる幼女先輩の姿は惨めだった。
「……何してるんですか?」
俺のジト目に幼女先輩は視線を逸らす。
「…気が付いたら埋まってた」
どんだけ爆睡してんだ、この人。
ふつう気付くだろ?
ってか起きればすむことだろ?
うん?もしかして………まさかな、でも……。
視線を逸らし床を這う幼女先輩に俺は苦笑いしながら彼女を見つめる。
「…もしかして、書類の重みで起きれない?」
「…っ!?」
身体をビクッと震わせた幼女先輩の顔が一気に赤く染まっていく。
マジか……。
言葉が出ない。
そりゃあ、たしかに凄い量だけど動けなくなるほどか?どんだけ、筋力ないんだ……この先輩。
呆れた表情を浮かべる俺を恨めしそうに涙目のリル先輩の瞳が突き刺さってくる。
何だ、これ?端から見たら幼児虐待じゃないか…完全に俺が悪者だろ……。
書類の束に埋もれる涙目の幼女を冷たい目で見下ろす成人男性の姿………OUT!
思わず心の中で叫びながら俺は幼女先輩の上に積み重なれた書類の束を降ろしていく。
「ふわぁ~、助かったぁ~」
自由になった幼女先輩が両手を伸ばしながら自由を噛み締める姿に…何でだろう、涙が止まらない。
思わず視線を逸らすと、どんよりと落ち込むもう一人の先輩の姿が視界に入りげんなりしてしまう。
なんなんだ、ここの部署は?
まともな奴は居ないのか…。
「はぁ…」
溜息が漏れる俺に幼女先輩がリル先輩の姿を見て眉間に皺を寄せ冷たく彼女を見つめた。
「…何をやらかしたの?」
口調はそんなにキツくはなかったが俺の社畜感性が危険を知らせている。
うん、ヤバいやつだ。
二人に視線を合わせられない。
巻き込まれるのが関の山だ……なんで、こっちを見るのかなぁ~リル先輩ぃ……。
救いを求めるように俺に視線を向けるリル先輩を…うん、これは無視しよう。
俺の感性が、そう告げている。
敢えて視線を逸らし、少しずつ距離をとる…うん、完璧だ…俺は空気を読めますから。
「…あんまりだ、ヘルプ!」
助けを求める声が聞こえるが俺は無視する。
視線を逸らす俺に心底、ショックを受けているリル先輩……いやいや、原因はあんたですから。
なんだか、ちょっと罪悪感を感じるだろ…。
社畜が社畜たる由縁、この罪悪感が曲者なんだ。
みんなが汗水垂らして働いてる傍で「私用で休みますんっで有給お願いしまぁ~す」って軽いノリで休みやがるやつに……えっ?有給って私用で使っていいものなの?なんて考えが浮かんだら……社畜だ。もちろん俺は休めないタイプ…THE社畜です。
そんなことを考えてガックリと項垂れてしまう。
「目をそらすな、私の目を見て報告しなさい。あんた、何をやらかした?」
幼女先輩の姿に似合わず、その瞳はかなり狂気に満ちている…うん、怖いです。
そんな、目で見られたら逆らえません。
案の定、俺が助けてくれないと悟ったリル先輩はシュタッと正座をして額を床に擦りつける。
「もぉしぃわけ御座いませんでした~!」
震えた声で謝罪するリル先輩。
その姿に俺は唖然とする。
土下座だ…。
あまりにも綺麗な土下座に目を奪われてしまう。
両手をくの字に曲げ、額はこれでもかと床に密着しており、彼女の鼻水と涙が床を塗らしている。
許す……。
思わず、言っちゃいそうになるよ。
何故だろう、涙が止まらない。
呼んでいただき有り難う御座います
<(_ _)>
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では失礼します(o_ _)o