File・11 最低な先輩は社畜の悩み
少し不愉快な文面が御座います
社畜をテーマにしておりますので
ご了承していただけると幸いです
では、お楽しみください
あぁ、またきちゃったよ。
もう何回目か分からない魔王の神殿、ほんの数分前に勇者が殺され神殿はお祭り騒ぎだ。
うん、さっきも見た。
そういえば、喰われたんだっけ……。
リル先輩は確か…あぁ、そうそう魔王のペットの餌にされてたねぇ。
しみじみと思い出しながら現実離れした現実に辟易とする。あと、何回繰り返すんだろ…。
完全に誰がどこにいるのか把握している俺たちは真っ直ぐに魔王の居る部屋へと駆けだしていく。
尊厳な扉を前にリル先輩はピタリと止まり振り返ると俺を見て満面の笑みを浮かべる。
彼女の背後の扉は微かに開いており、奥では禍々しいオーラを放つ魔王の姿が垣間見えていた。
その姿に俺の背筋に鳥肌が立った。
何度も殺された記憶が蘇ってきたからだ。
そんな青ざめた俺を余所にリル先輩は自信ありげに胸を反らして俺の前に指を立てる。
「今回は趣向を変えます」
嫌な予感しかない。
「…と、言いますと?」
正直に言って聞きたくない。
きっと碌でもないことだからだ。
「説得は諦めて魔王を討伐します!」
どうだ!とばかりにリル先輩はさらに胸を張る。
いやいや、無理だから……。
俺は心の中でツッコミを入れながら今までの死に方を思い出し項垂れる。
正直、殺された勇者は凄かった。
最初にこの場所に降り立った時はまだ勇者が魔王と死闘を繰り広げている最中だったんだ。
えっ?おかしくないかって?
しょうがないだろ、リル先輩なんだから…。
「…あっ、早すぎた」
勇者と魔王の死闘のまっただ中に降り立ったリル先輩は苦笑いしながら部屋を後にする姿は何とも言えない微妙な空気だった。
………うん?
俺の意識に何かが引っ掛かった。
ってか、勇者が負けたの俺らのせいじゃね?
いま、思い返すと俺たちの存在に気をとられた勇者が魔王にバッサリと……うん、俺らのせいだ。
真実に気付いた俺はジト目をリル先輩に向ける。
「どったの?」
不思議そうに首を傾げていやがる。
…………あれっ?
………なんだろう、この不愉快な感じ。
もしかして………。
「ねぇ、リル先輩?」
俺が疑惑ありげな瞳で見つめるとリル先輩はビクッと身体を震わせ冷や汗を流しながら俺を見る。
「な、な、な、何かな?新人君」
動揺しているのが一目で分かる。
「もしかして、ですけど……」
リル先輩の目が泳ぎ始める。
その姿に俺は確信した。
「この時間軸の原因って……」
「ごめんなさい!」
綺麗な土下座で頭を下げるリル先輩に俺は盛大な溜息をつきながら彼女を見下ろした。
「…やっぱりですか」
俺の予感的中である。
この時間軸は本来、存在しなかったモノなのだ。
リル先輩の調整ミスが招いた結果である。
本来、俺たちの仕事は魔王に倒された世界を本筋に近づけることであった。
けれど、実際は時間軸を間違えて対決している場に出現してしまった……俺は周囲を見渡す……いた。
壁に項垂れながら座り込むリル先輩の姿……。
そして、慌てて逃げ出そうとする過去の俺たちの後ろ姿が見える……うん、そういえばしばらく俺たちは成り行きを見守ってたな。
この場所にはリル先輩が3人、俺が二人存在することになる。
過去のリル先輩が涙を流して呟いている。
完全にやらかした顔だ。
たぶん、自分のやらかしたことに茫然としているのだろうと予想が付く。
今の俺たちの存在に気付いてもいない。
何だか不思議な感覚だな。
タイムパラドックス…って言うんだっけ?
未来のリル先輩が変えようと現れた場所に過去のリル先輩がいる……うんっ?どっちが先なんだ、これ?
未来の俺たちが現れなければ勇者は魔王を倒して平和な世界でめでたしめでたしのはず…。
でも、俺たちは………。
だめだ、頭が痛くなってきた。
その横で土下座したリル先輩が上目遣いで俺を見つめており、涙で瞳がウルウルしている。
「っで……」
言葉が出てこない。
どうすんだこれ?
「うぅ、このままだと減給される……」
自分本意かい………。
ちょっとイラッとした。
俺が社畜だった頃にもこんな上司がいた。
上司が自身の勤怠を誤魔化して残業代をちょろまかしていたのだ……っで、バレそうになると……。
思い出しただけでムカつく。
胸のムカムカを抱えながら俺は冷たい瞳でリル先輩を見下ろす。言葉が出てこない。
暫しの沈黙の後、俺はリル先輩に一言呟いた。
「…サイテぇだな、あんた」
その一言にリル先輩はガックリと項垂れた。
「だって、だって……」
言葉にならない呟きが耳障りに感じる。
「とりあえず、戻りましょう」
俺はリル先輩から鞭を取り上げると空を斬り次元の裂け目を目の前に生み出す。
何度も見てきて使い方は理解できている。
「うわぅ……」
その裂け目を見つめながらリル先輩は涙と鼻水でグッチョグッチョの顔を俺に向ける。
けれど、今の俺はイラついていたので、いつもの営業スマイルなど出来るはずもなく冷たい視線を彼女に向けている。
「帰りますよ……」
「…やだ」
俺の言葉に即座に否定するリル先輩。
「あぁ!?」
俺は眉間に皺を寄せ瞳を見開いた。
「……帰ります」
その姿に身震いしたリル先輩は観念したのか、ガックリと肩を落とし力なく座り込むのだった。
呼んでいただき有り難う御座います
<(_ _)>
若干、作者の体験談も含まれています
(^_^;)
社畜なもので…(T^T)
では、失礼いたします
(o_ _)o