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僕と姉の神話遭遇記  作者: 暁0101
第一章 少女と黒い巨人
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第三話 道の途中で巡り会い

ラガシュ街道。

ディユング帝国の東、ミズラフ地方を横断する街道で、

大森林地帯を有するミズラフ地方から、木材などの天然資源を中央に送る役割を担っている。

名前の由来は、ミズラフ地方最大の町ラガシュから。

ラガシュは、大森林地帯を開拓している村々を支援し天然資源を安定供給するのがその使命だ。

必然として、安定供給するために街道が整備され交通網が発達した。

山岳地帯や森林地帯はまだだが、平地の整備は行き届いており、

この街道に出れば確実に目的地にたどり着く。

旅人からも重宝されており、生活に無くてはならないものだ。


セトとアズラは、アクリ村を出て1日後にラガシュ街道に到着した。

アクリ村は山岳地帯にあるため、山を下りるのに時間がかかる。

この辺りが整備されるのは、かなり先の話だろう。


セトたちの目的地は、ミズラフ地方最大の町ラガシュだ。

ラガシュには、成人を迎えた者たちに洗礼名を授けるツァラトゥストラ教の施設がある。

ほかの町にも神官はいるのだが、洗礼名を授ける権限を持っていない。

よって、ミズラフ地方に住む臣民はラガシュに集まるのだ。


地平線の先にまで延びる街道を黙々と歩く。

時折、旅人や馬車とすれ違うがみな足早に過ぎ去っていく。

街道が整備されているとはいえ、まだ森や山が近く魔獣が出現しやすい。

山賊の被害もあると言う。

町の近くになるまでは、油断できないのだが、

セトは油断しまくっていた。


何故か。

初めての外の世界に浮かれているからだ。


「町にはいつ頃着けそうかな。市場とか、ジグラットとか大きい建物があるんだよね。かっこいい剣とか売ってるかな?」


セトは、浮かれながらアズラに尋ねる。

ジグラットとは、洗礼名を授けるツァラトゥストラ教の施設だ。セトの目的地。

アズラにとっては、嫌な思い出のある場所だが。

セトは、初めて見る物に夢中でそこまで気が向いていない。

街道を見たときも、感動でアズラに質問をしまくっていた。


「もう!あまり浮かれてないで、ちゃんとしなさい。大人になったんでしょ」

「えへへ・・・」


アズラから注意が飛ぶが、セトは何故か照れ笑い。

完全に浮かれているようだ。

のんびり暮らしていたいと考えていたくせに、外の世界という名の誘惑には勝てなかったようだ。

セトがここまで浮かれているのは、アズラと一緒に町に行けるのも原因の一つではあるのだが、

本人は気づいていないようだ。

離れ離れになると思っていたので、仕方ないのだが。


「むぅぅ・・・!!」


アズラが立ち止まり、腕を組んだ。

セトは思わずアズラの方へ振り向き、顔を青ざめさせる。

アズラが仁王立ちポーズとなった。お叱りの時間である。

光る白いスジのようなものが浮かび出て、すごいオーラを放つ。

魔力が漏れてしまっている。


「ア、アズ姉! もうすぐ昼だしご飯にしない?アズ姉のご飯食べたいし」


セトが慌ててアズラのご機嫌を取ろうとするが、アズラから無言の圧力が返された。

だめだ、完全に怒ってしまった。

目がちょっと据わっている。

こうなってしまったら、もう謝るしかない。

セトは、これ以上怒る前に怒りを静めてもらおうと考え。


「ごめんなさい! ちょっと浮かれてました!」


セトは頭を下げ、謝罪の意を示す。

アズラはちゃんと謝れば許してくれる。逆に言い訳を聞いてはくれない。

理不尽と思うことはあるけれども、それは、セトを思ってのことなのだから、

嫌いになることはない。


アズラがハァと息を吐き怒りを沈めてくれたようだ。

チラリと顔を上げる。

アズラは腕を組んだままどうしたものかと悩んでいるようだ。

しばらくアズラを見つめる。


(・・・!)


セトは重要なことに気がついてしまった。

村では気づくことの出来なかったこと。

服を固定するベルトとアズラの腕が、慎ましき丘を上下から挟み、その柔らかさを表すように、形を押しつぶしている。上着を内側から押し広げ、普段現れないちょっと潰れた饅頭の輪郭を露にしていく。

肌の色が見えてしまいそうなほど服が張って、年頃の男の子には効果抜群な状態だ。


目のやり場に困る。

けど目を離せない!

誰だ、あんな服のチョイスをしたのはと、セトは心の中で文句をいうが目は放さない。

きっとひさびさに怒られたから、ご褒美で神様が見せてくれたんだ。


(あ・・・)


アズラと目が合った。完全に目が据わっている。

ばれたようだ。

とりあえず、セトは笑ってみる。


バシッ! 制裁が飛ぶ。

ドゴッ! ついでにもう一発。


セトは殴られた頬と腹を押さえながらトボトボと歩き出す。

アズラは顔を真っ赤にしてプンプンしながら前を歩いている。

町はまだ先だ。



----------



景色が変わった。

生い茂る木々がなくなり、目の前いっぱいに草原が広がっている。

その草原を縦に分断するように街道は続いている。

ここまで来れば魔獣に襲われる恐れも無いだろう。


街道を歩いていた行商人の話だと、歩きだと後3日はかかるようだ。

馬があれば、1日で行けるのだが。

アクリ村に知らせを持ってきた人は、近くの町から3日で来たと言っていたから、途中まで馬で来たのだろう。

山に慣れていなかったせいで、時間を食ったようだが。

ラガシュはそこからさらに先だ。


セトは食料の心配をする。

やはり、馬車に相乗りさせてもらうべきか。

途中で食料の調達をするのにも、こんなに何もないんじゃどうしようもない。

食料が尽きる前に町にたどり着くしかなさそうだ。


初めての旅なのだ。旅というよりは永久出張のほうが正しいか。

さまざまな要因が不安に繋がる。

食料の量はちゃんと計算されているのだが、徐々に減っていくのを見ていると不安になってくる。

アズラはとくに不安は感じていないようだ。

一回ラガシュに行った経験があり、ほかの町にも数ヶ月に一回の頻度で出かけている。

旅には慣れたものだった。

セトはラガシュでの今後を聞いてみる。


「ラガシュに付いたらしばらく滞在するのかな?いきなりどっかに飛ばされるなんてことないよね」


「普通は洗礼名を授かった後、教団から基礎教育を受けるみたいなの。わたしは、教えてもらっていないからどんな教育なのか分からないけど、村のみんなは、算術とか剣術とかを習ったみたい」


「そんなの教えてどうするのかな」


「どんな仕事が向いているか調べているんだと思う、剣術の素質があったら兵隊とか衛兵に、算術だったら商人とか」


「僕は何に向いているかな?」


「セトは・・・、そうね、職工とか、・・・あ、パン職人とかもいいかも」


「えぇー、なんか地味だ」


「そんなことないわよ、パン職人はいいと思うけど、作り方教えてあげようか?」


「アズ姉のパンは確かにおいしいけど」


「ふふ、一緒にパン職人になってあげてもいいよ」


「僕は剣士になりたいんだけど」


ラガシュの今後から他愛無い会話に移っていく。

セトの旅への不安も会話をしている内に消えたようだ。

街道はまだまだ続いている。草原が終わり麦畑が当たり一面広がっていた。

近くの町の畑だろう、今回はそこに用はないので通り過ぎる。


ふと、街道から少しずれた所に馬車が止まっているのが見えた。

麦畑に突っ込んでしまっている。

馬の操作を誤ったのだろうか。


「困ってるかもしれない、ちょっと見てくる」


「セト!待ちなさい!」


セトが馬車に駆け寄る。アズラが慌てて後を追いかけた。

誰もいないようだ。

馬車の荷は無事なので、ならず者に襲われた訳ではなさそうだ。

アズラは辺りを警戒しながら馬車に近づく。


(何かに追われていた?馬車を捨てなければいけないほどの?)


アズラは、人や馬のいない馬車を見て思う。

争った形跡もない。

馬がいた部分がゴッソリとなくなっているが。


「誰もいないみたい」


「そうみたいね、早めにここから離れましょう。あまりいい気がしない」


馬車から離れて街道に戻っていく。

どうも引っかかる。

馬車の位置から考えても街道から見える位置だが少し遠い。

安全地帯から引き離されたような。

麦畑が邪魔で仮に死体が周りに転がっていても気づかないだろう。

そう麦畑が邪魔で気づかない。


「!? セト、伏せて!!」


アズラが叫んだと同時に、麦畑から影が飛び出す。

セトを思いっきり蹴飛ばし、襲撃者を拳にて迎え撃つ。

バシィッ!と裏拳で弾き返す。

全身を緑色の甲殻に覆われた1mほどのムカデのような魔獣が地面を転がった。


「ギム・ゼントの幼体!? なんでこんな所に」


「アズ姉! 囲まれた!」


セトの言葉に周囲を見渡す。

ギム・ゼントの幼体は母体と森に生息しているはず。

アクリ村でのことといい東の森で何かあったとしか考えられない。

ギム・ゼントの幼体が6体、こちらを獲物と定めて包囲してきた。

麦畑にまだ気配を感じる。10体近くはいるだろう。

このままではまずい。


「街道まで走る! ついてきて」


行く手を阻むギム・ゼントの幼体を蹴りで押しのける。

セトもダガーを抜き戦闘態勢に移った。

麦畑を利用して死角から襲ってくる。

アズラは攻撃をいなせるが、セトが捌ききれない。

敵の体当たりに徐々にダメージが蓄積されている。

ギム・ゼントの幼体は5m級ほどのパワーはない。

代わりにその俊敏さとチームワークで獲物を追い詰めることが得意だ。

幼体でも狡猾。

あの馬車は、狩場に誘い込むための罠だ。


「ぐっ!」


セトが足を攻撃され、倒れこんでしまう。

街道にはたどり着けない。

アズラは拳を構え、魔力を解放していく。

ここで向かえ打つ。

セトも腹を決めたのか、アズラの背に付きダガーを構えた。


ギム・ゼントたちはチャンスと言わんばかりに、一斉に飛び掛ってくる。

それが、飛び掛ったギム・ゼントたちの最後となった。

アズラは魔力を解放したのだ。

一撃にて、ギム・ゼントたちを叩き潰し、殲滅する。

一気に半数以下となったギム・ゼントは、後ずさりをしつつ様子を窺っている。

セトは勝てると思い、少し前へ攻めて行く。

だが、アズラは違和感を感じていた。


ギム・ゼントの幼体は母体と常に行動を共にする。

母体が死んだ場合は、ほかの母体に移るはず。

ここに幼体がいるということは。


「!?」


ゴゴゴゴ・・・、と地響きが鳴り渡る。

アズラは警戒を最大値まで引き上げる。

ドゴォォオオ!!、と地面が舞い上がり、麦畑に黒い甲殻で覆われた壁が出現する。

蛇のように、その長い胴体を見せながらセトたちの眼前にそびえ立った。

アズラの予感は的中した。

全長12m。

通常のギム・ゼントを遙かに上回る巨体。

長い年月で黒く、強固になった甲殻。

その長い鎌のような顎は、引き裂くというより押しつぶすことに特化したような威圧感を放っている。


ゾギム・ゼント。


ギム・ゼントの変異体であり、ある一定まで成長したギム・ゼントが、

飽食と呼ばれる餌の過剰摂取で変異して出現した存在。

幼体を大量に産み落としギム・ゼントの大量発生を引き起こす。

飽食を行う理由は不明だが、群れが危機に陥ると高確率で発生する。

このゾギム・ゼントの存在が、ギム・ゼント殲滅を行えない原因でもある。


アズラはセトの手を引き一気に街道目掛けて走り出す。

あれは、自分の手に負えない。

そう判断したアズラは、セトをなんとか安全な所に逃がそうと考える。


ゾギム・ゼントがその巨体を動かす、土煙が舞い巨体を持ち上げる。

空が黒い甲殻で見えなくなりそうだ。

セトたちに狙いを定めて、破壊を秘めた鎌のような顎を槍のように振り下ろした。

爆発といっていいほどの衝撃が発生する。

セトとアズラは吹き飛ばされ、身を縮めることでやり過ごす。


ゾギム・ゼントが再びその巨体を上げる。

セトは今ので戦意が喪失したようだ。

ゾギム・ゼントを見上げたまま固まってしまっている。

顎を突き刺した場所は、クレータのように抉れていた。

アズラはセトを庇うように前へ出る。


二発目が来た。

アズラは、魔力を足に込めセトを抱えて跳躍し回避する。

先ほどまでいた所が爆発に包まれる。

距離を取り、セトを降ろして、どうすべきか考えを巡らす。

この巨体、破壊力もはやギム・ゼントとは別物。


必殺の構えを取る、魔力を足と拳に集めていく。

短期決着を狙う。

ゾギム・ゼントが三発目を放つ前に、攻撃に移る。

一瞬で距離を詰め、自身の攻撃範囲に収める。

拳を叩き込む。

ドガンッ!と異常に硬い何かをぶん殴った音が響く。

ゾギム・ゼントの顔が大きく揺れ、顔の甲殻が凹み殴られた後がくっきりと付いていた。

だがこれは、硬い甲殻に必殺の一撃が完全に防がれたことを意味している。


(どうすれば・・・)


何発も同じ所に打ち込めば、いつかは硬い甲殻の鎧を崩せるだろう。

しかし、セトを守りながらではそれは厳しい。

やはり、逃げるのが安全か。

いや、町に逃げ込んでも、あれがついて来てしまう。町の衛兵では力不足だ。

通常のギム・ゼントならともかく、ゾギム・ゼントは討伐隊が必須だろう。

アズラは考えを巡らす。

セトが町に救援を求め、アズラが足止めを行う。

これが最善か。


作戦を伝えようと声を出そうとした瞬間。

ゴゥ!とゾギム・ゼントが炎に包まれた。

いきなりの高熱でゾギム・ゼントが巨体を暴れさせる。

いつの間にか、ゾギム・ゼントを中心に炎の円が出現し、街道より馬車が突っ込んできた。

馬車から降りてきた5名の戦士が、あっという間に陣形を完成させる。

洗礼された動き、一目で強者と分かる構え。

セトたちは、一歩も動けず成り行きを見守るしかない。


炎に炙り出され、ギム・ゼントの幼体が姿を現す。

それを最小限の動きで、陣形を崩さずに斬り捨てる。

炎が消えて、焦げて黒ずんだ煙を吐きながら、

ゾギム・ゼントが包囲を崩そうと、攻撃を仕掛けた。

それを待っていたように、弓と縄で動きを拘束していく。

攻撃パターンを削ぎ落とされ、地面に縫い付けられる。


アズラの真横を馬に乗った男が凄まじい速度で通り過ぎた。

剣を構え、技を放つ姿勢を取る。

ゾギム・ゼントが返り討ちにしようと、巨体に力を込めた。

縫い付けられた縄を引き千切り、破壊を生み出す凶悪な顎を開く。

向かってきた男を食らおうと、顔ごと突っ込んだ。

男は、絶妙なタイミングでゾギム・ゼントの顎を受け流す。

脅威ではないと、完全に見切っている動き。

上へとかち上げた。

顔が上を向き、甲殻に僅かな隙間が現れ、

一閃にて、叩き斬った。

ゾギム・ゼントの首が落ち、巨体を地面に放り出す。


セトは何が起こっているのか分からないと目を見開いている。

アズラも助けられたことは分かるが、あの6名が強すぎて何をしているのか理解が追いつかない。

馬に乗っている男の技は、まったく見えなかった。

もはや、狩りといってもいい圧倒的な強さ。


ゾギム・ゼントたちが3分もしない内に駆逐された。



----------



「大丈夫か、小僧ども」


馬に乗った男に話しかけられる。

セトはまだ放心状態のようだ。

アズラは礼を述べるべく口を動かす。


「ありがとうございます。おかげで助かりました」


「無事なようだな。小僧は大丈夫か?」


「え? あ、はい! だいじょうぶです」


「ここいらは危険だ。東の森から魔獣共が移動してきている。

馬車で運んでやるからすぐに乗れ」


「わかりました。セト行くよ」


「う、うん」


セトたちは、馬車に乗り込み、男たちに任せる。

男たちはゾギム・ゼントの死体に火を放ち、馬車ですぐにこの場を離脱した。

見事な手際、間違いなく討伐隊の人たちだろう。


「一旦、町まで戻る。お前らそれでいいか?」


「はい、ラガシュまで行く予定だったので」


「ラガシュか、ちと遠いな。わかったこのまま送ろう。」


「いいのですか?」


「気にするな、ついでだ」


アズラは思わぬ所で移動手段を確保できて喜ぶ。

1日もすれば到着だ。

セトは、目を輝かせている。

強くてかっこいい戦士たち。

セトの憧れだろう。


「自己紹介がまだだったな、俺はバティル。ここらで傭兵をやっている者だ」


「わたしは、アズラ。アズラ・アプフェル。こっちが弟のセト、アクリ村から来ました」


「よ、よろしくお願いします」


「ああ、よろしくたのむ」


バティル一行に救われたセトたちは、目的地のラガシュを目指す。

だが、東の森で起こっていることは、まだ何も分からなかった。


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