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僕と姉の神話遭遇記  作者: 暁0101
第七章 変動と胎動
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第百八十二話 記憶の表層

セフィラ因子により仮初の実体を現したハーザクがリーベの手を握った。

互いに手を繋ぎ聖女としての力を合わせていく。

合わせた力を向ける先はセトだ。正確にはセトの存在を蝕むダートに。

ハーザクが手を前へと掲げた。

それを辿るようにリーベも手を伸ばす。


「時間がないから一気にいくよ!」


「うん!」


転位に慣れていないリーベをエスコートするようにハーザクが青白い光を束ね、セトの頭へと繋がる穴を宙に作り出した。

これはただの転位ではない。

いつものようにセフィラ界を通して別の地点に移動する転位とはレベルが違う。

今いるこの世界と非常に近い、鏡写しのような疑似世界とも言える所。


セトの意識が作り上げた世界。

夢の中へと転位するのだ。


未知なる世界への恐怖がゾワリと浮き上がってくる。だが、その恐怖をリーベは押さえつけ、ハーザクを信じ目の前の転位の穴へ目を向けた。

リーベとハーザクが互いに目を合わせ、大丈夫だと無意識に確認し合う。

繋ぎ合っていた手を強く握る。どちらが先に握ったか分からないぐらいに強く握り、絶対に離さないと伝えて。

そして、一気に飛び込んだ。


セトの夢の中に。

その二人を邪悪に頬を吊り上げてダートは迎え入れた。


・・・。


・・・・・・。


・・・・・・・・・。


音も光も。


・・・。


温かさも冷たさも。


・・・。


・・・・・・。


全て消えた。


何も感じない。

暗い。

すぐ隣にいるはずのハーザクの気配が感じ取れない。

暗闇で見えない人を探すようにリーベが辺りを見回す。

闇に飛び込んだ感覚。


暗い。

暗い。

暗くて。自分が闇に希釈されるよう。


自分が消えていく感覚に襲われたリーベがもがこうとした時。暗闇の先に光が射した。

闇を切り裂いていくように光がなだれ込んで。

世界が切り替わる。


「ッー!」


いきなり差し込む光に堪らずリーベは目を強く瞑った。

暗闇から眩い世界へと変わって、リーベがゆっくりと目を開ける。


「・・・ここは、森?」


リーベが立っていた場所は森に包まれた村だった。森が拓けた場所にある村。

知らない村だ。

まるで森に飲み込まれているみたいな光景。家のすぐ後ろに森の木々があるのだ。

一部の家は森に完全に飲まれている。

ゆっくりと周囲を見渡していくが誰もいない。

人の気配がない。


本当にセトの夢の中に来れたのだろうか?

実感が湧かず不安になる。キュッと腕を胸にあて不安を誤魔化して辺りを散策しようと歩き出した瞬間。

ハーザクがいないことに気付いた。


「ハーちゃん?」


ハーザクがいたはずのすぐ隣を見るが目に映るのは村。

握っていた手を眺めるも、その手には何も握られていない。

不安が一気に大きくなる。

知らない世界でハーザクと逸れてしまった。それは元の世界に戻れないと同義。


元来た道を探すように後ろを振り返る。

あったのは村の入口。もう引き返せないと村に告げられている。

今、自分は一人だ。

そう言えば、夢の世界で何をすればいいのか何も聞いていない。

不安が押し寄せる。


「待って。待ってよ!」


不安に囚われリーベが完全に動けなくなっていると、幼い男の子の声が聞こえて来た。

人がいる。

リーベはすぐに声のした方へ振り返った。


そこにいたのは灰色の髪をした男の子だった。

リーベよりも幼い。まだ、4、5才ぐらいだろうか。

その幼い足で必死に誰かを追いかけている。男の子の走る先には、同じ灰色の髪をした女の子がいた。

背丈は同じぐらいだが、年上なのだろう男の子が頼るように追いかけている。

女の子はそんな男の子と遊ぶのが楽しくて仕方ないと可愛らしい笑顔を振りまいていた。


「あっ・・・」


リーベが声を掛けようとするが、その前に二人は家の中に入ってしまった。

森に飲まれそうな木造の家。彼らの家だろう。

そこへ誘い込まれるようにリーベも中へと入っていく。


「お邪魔します」


礼儀正しく挨拶をしながら入り、二人を探すが見当たらない。

1階は調理場のようだ。台所と食事をするための机と椅子がある。足元は土が剥き出しで作業場としても使用するのだろう。

森で取ったであろう薬草や木の実。小動物の肉などが置かれている。

リーベが家の奥に進んでいくと、タッタッタッと足音が上から聞こえてきた。

どうやら二人は家の2階にいるようだ。

奥に2階へ上がるための階段が見える。


二人からここはどこなのかを聞けば少しは事態が進展すると考えたリーベは階段に向かおうとするが。


「・・・だぁれ?」


「!?」


後ろから聞こえた男の子の声に驚きながら振り返る。

どこに隠れていたのか、リーベを不思議そうに見上げている男の子。

ということは、上にいるのは女の子の方か。

とりあえず目の前のこの子に不審がられてはいけない。

まずは自己紹介だとリーベは自分の名前を名乗る。

なぜか偉そうに。


「私はリーベっていうのよろしくね!」


「・・・」


エヘンと胸を張って名乗ったが。

男の子はぼーっとリーベを見上げたままだ。

名乗ろうとしないので促してみる。


「えーっと、君の名前はなんていうの?」


「・・・」


「名前教えて?」


「ふぇッ!?」


「ふぇ?」


一瞬なんて言ったのか聞き取れなかったが、リーベは変わった名前なんだと思った。

この子の名前はフェだ。

たぶんフェ君でいいと思う!


「フェ君か。フェ君よろしく!」


「ふぇ?」


フェ君は首を傾げているが、リーベは構わず話を進める。

聞きたいのはここはどこかだ。


「フェ君、ここってなんて村なの?」


「えっと、アクリ村だけど・・・ぼくの名前ふぇじゃ・・・」


「アクリ村」


聞いたことあるような、ないような?

何か思い出せないでモヤモヤするあの不快感。そういえば、この男の子も誰かに似ているような?


「むー・・・思い出せない」


何か重要なことを見落としているような、そんな感覚も追加されリーベの頭を悩ませていく。

そんな感じに悩んでいると2階から人が降りて来た。


「セトぉー。どうしたの?」


小さい足で階段を勢いよく降りて来たのはフェ君が追いかけていた女の子。


「あ!」


「む!? セト!? セトがいるの?」


女の子が呼んだ名前をリーベは聞き逃さなかった。確かにセトとこの子は呼んだ。

リーベはすぐに辺りを見回すがセトの姿はない。


「ん? セトこの人誰?」


「えっと・・・リーベお姉さん」


「え!? セト?」


「うん。ぼくの名前セトっていうんだよ。ふぇじゃないよ」


リーベは驚いた。

目の前にいるこの男の子はセトなのだ。まだ幼い頃のセト。

なら、もう一人の女の子は。


「わたしはアズラ。お姉さん何してるの?」


考える必要もない。アズラだ。

つまり、ここはセトの幼少時代の記憶を基に構成された夢の世界。

まだ、セトがアクリ村という世界しか知らなかった頃の風景。

夢の中で、たとえ自分を知らないとしても、リーベは目覚めているセトに出会えて胸が苦しくなった。

思わずギュッと抱きしめてしまう。


「ムギュッ!?」


「あー!! わたしのセトに何するの!?」


大好きな弟を取られるのではとアズラがリーベの服を引っ張って引き離そうとするが、リーベはそのままアズラも抱きしめる。

ずっとこうしたかった。

夢の中だけど、姉弟そろってハグができる。


「リーベお姉さん泣いてるの?」


「ううん。泣いてない」


「でも・・・」


少しの間、リーベはこのわがままを二人に受け入れてもらった。

本当は自分が抱きしめられる側だから。

気持ちが落ち着いたリーベは、アズラから水を貰い一口飲んでいく。

夢の中なのに水の味がする。飲んでいる感覚がある。夢とは思えないほどリアルだ。

セトとアズラの二人も夢の住人だというのに、曖昧ではなくハッキリとした意識と存在を感じさせる。

なら、他の村人もどこかにいるはず。ハーザクの居場所も分かるかも知れない。


「ふぅ・・・」


水を飲み干し一息ついたところで二人に質問した。


「ねぇアズ姉さん」


「わたしお姉さんじゃないわよ?」


「あ、ごめん」


うっかり元の世界の呼び方をしてしまった。

ここではリーベの方がお姉さんだ。

気を取り直して質問する。


「アズラ、他の人はどこ行ったの? お父さんとお母さんは?」


「お父さんたちは森で虫退治中。他の人は知らない」


「虫退治・・・?」


セトとアズラの両親は森にいるようだが、虫退治という仕事をしているようだ。

退治というからには魔獣の駆除か何かだろうか。


「私と同じ顔した女の子見なかった? 私のお姉さんなんだけど」


「ううん。見てない」


「むー」


ハーザクのことは知らないようだ。

今確認すべきことは確認した。リーベは次にどうするかを考える。


(! あのセトにくっついていたヤツは?)


もう一つ確認することがあった。

ダート。

そいつをセトから追い出すために、リーベは夢の世界に来たのだ。

だが、なんて伝えたらいいのかリーベは迷う。

悪夢? 幽霊?

姿なんか見たこともない。誰も見たことが無いのかもしれない。セトの口を勝手に使って喋っていただけの存在。

どうするかと悩むがだめもとで聞いてみる。


「ねぇ二人は幽霊みたいなヤツ見たりしてない?」


「幽霊・・・! ふぇ・・・」


「セト泣かない。わたしは見てないわよ」


「そっか」


ダートに関する情報も無し。

手詰まりになっている。

ハーザクが来るのを待つか、それとも虫退治をしているという森に行ってみるか。

どうするか難しい顔をしているリーベをアズラはじーっと覗き込み。

一つ提案してみる。


「リーベお姉さんわたしの家を案内してあげる。同じ顔の人その間に来るかも知れないし」


「む、そうだね」


考え込んでも仕方ないと、リーベはアズラの気遣いに感謝する。

二人に案内され、階段を上がる前に靴を脱ごうとして。


「! あ、そっか」


リーベは靴を履いていないことに気が付いた。

セトの部屋から夢の世界に入ったから靴は履いていない。

なぜ、気付かなかったのだろうか。違和感も感じなかった。

二人も全く気にしてないようだ。


不思議な感覚を覚えながらもリーベは2階に上がる。

2階には3部屋あり、セトの部屋。アズラの部屋。残り一つは両親の部屋だ。

アズラが自分の部屋を見せようと、小走りで扉の前に行きリーベを呼んでいる。

リーベの後ろにはセトが張り付きながら付いてきていた。さっきの幽霊の話が怖かったのだろう。

セトと手を繋いであげてリーベはアズラの部屋の前に到着し。


「じゃーん。ここがわたしの部屋です!」


アズラが自分の部屋の扉を開け放った。


・・・。


・・・・・・。


・・・・・・・・・。


二人は消え。

目の前に広がるのは樹海。


思考が停止する。

リーベは後ろを振り返る。右も左も確認する。

しかし、そこに二人の姿はない。

今さっきいたはずの家も。

あるのは生い茂る木々とおぞましい声の残響。


ここは電界25次元。夢の世界。

セトの記憶によって変化する世界の表層にして、その深部はセトの深層。

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