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僕と姉の神話遭遇記  作者: 暁0101
第七章 変動と胎動
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第百八十話 安息が戻って

五血衆のリーダーであるヌアダの見る先には、術式による光のモニターに映し出されたセトの姿があった。

セフィラ因子と術式を合わせたアーデリ王国独自の技術による映像出力装置。

それが遥か遠くにいるセトの様子を映し出していた。


セトは、1年前からずっと眠り続けている。

一度は心臓を貫かれ死んだ。

だが、エール族の血の契約により死の因果を捻じ曲げて強引に生を繋ぐ。

彼は聖女エハヴァに選ばれた存在。

だから、エール族のギッサー・エールは彼を生かす選択をしたと報告している。

本心は違うかもしれないが。


眠り続ける彼の下に一人の少女がやって来た。扉を静かに開け、体を拭いてあげようとタオルを手に持っている。

赤く長い髪の少女。

聖女エハヴァ、セトたちからはリーベと呼ばれている。

リーベが部屋に入ると彼女はすぐに顔を天井にへと向けた。丁度、ヌアダたちが見ている映像を見るように。


すぐに映像が切られる。セフィラ因子で彼らを覗いているのだ。最上位セフィラの人の姿が聖女であるなら気付かれて当然。

敵意は無いと伝えるように、ただ静かに覗いていた目を閉じた。


そんなヌアダたちの行動をリーベは不思議に思いながら逆にヌアダたちを見ている。

何故こっちを見ているのだろうと首を傾げていたが、目を閉じてしまったので放っておくことにする。


「んしょ、体ふきふきしてあげる」


セトの眠るベッドに上がり掛け布団をめくりあげる。

リーリエが体を拭いてあげている所を見学していたリーベは自分もやってあげたいと思ったのだ。

見よう見まねで、水に濡らしたビッチャビッチャなタオルをセトの顔に押し付ける。

ビッチャ・・・とセトの顔面がタオルで覆われた。ついでに鼻と口も塞いだ。


「ふきふき!」


心成しかセトが苦しそうにしている。

口の辺りがもごもごと動いているが、リーベはそれを何か喋ろうとしていると思った。


「セト起きたの!?」


ビッチャビッチャタオルをどけてセトの声を聞こうとするが、セトは大きく息を吸い込んでまた寝息を立てるだけ。


「むー・・・」


残念ながら違ったようだ。

次は体を拭いてあげようと、服を脱がそうとしていく。

寝ている人の服を脱がすのはリーベにはちょっと無理がある。

だから、前だけをはだけさせてタオルを胸とお腹に押し付けた。


「ふきふき!」


自分一人ではお風呂に入れないセトのため、汗を拭ってあげる。

全然手慣れてなくてヘタクソなお世話だけど、リーベはなんだか小さな幸せを感じていた。

誰かのためになることをするのは幸せ。

大好きな人のためならもっと。


「ふきふき!」


その人が起きていたら、それはどれ程幸せなのだろう。


「ふきふき・・・、セト起きて欲しいな・・・」


当たり前だったその幸せをリーベは恋しく思う。

リーベは思い出す。布団に潜り込んだらギュッとしてくれていたのに。

二人がリーベをギュッとしてくれていたのにと。

そう思っていた時、リーベが違和感を感じた。


「・・・二人?」


その思い出した記憶とギュッとしてくれた人たちの人数が合わない。

一人はセトだ。

それは確かだ。では、もう一人は?


「むー・・・」


リーベは時々この違和感に苦しめられる。

感じて来たことと記憶が一致しない。知らない人が自分を知っていると語る。

それはアズラ。彼女は本当に自分の姉なのだろうか?

考えても、考えても答えは出ない。

セトの体を拭いていた手を止めて、そのまま倒れ込む。

兄に甘えるようにその胸に横たわって温もりを感じていく。


セトの心臓の鼓動が聞こえる。

兄が生きている証拠。

鼓動の音を聞きながらうつらうつら。

ちょっと眠気が誘ってきてリーベの意識は遠のいていった。



----------



リーベがウトウトしているころ、リーリエは新しく来た仲間にアプフェル商会の説明をしていた。

亜人の親子3人組。

エリウたちが保護してきたのだが、先の首都防衛の戦闘に巻き込まれたのだろう。

3人に綺麗なアプフェル商会の従業員用の服を手渡し、空いている部屋にへと案内する。

空いているといっても、まだ人が入れるという意味だ。

部屋にギッチリと詰まった三段ベッドの一つを貸し与える。

少し窮屈かもしれないが我慢してもらおう。


ベッドを見た亜人の少年はとても嬉しそうに布団に飛び込んでいき、少年の両親は深々と頭を下げて感謝を述べた。

アプフェル商会はアズラの指示により、避難してきた市民に出来る限りの援助をするようにしている。

寝床の提供もその一つだ。

部屋には限りがあるため全員を助けることはできないが、それでも少しでも助けになればと助けを求める声に応えている。

この亜人の親子には職を与え、ここで働いてもらうつもりだ。


彼らの階級は奴隷。

奴隷という身分はちょっとやそっとで抜け出せるものではない。奴隷ではないと他者からの承認が必要だ。

対等な人だから発生する対価は、物として扱われる奴隷には発生しない。

誰かが対等な人として接する必要があるのだ。

だから、それをアプフェル商会が務める。彼らを働かせ賃金という対価を支払う。

そこまでしてようやく彼らは普通の人となれる。


その後のことは彼ら次第。アプフェル商会もそこまで面倒を見ない。

後は、稼いだ金で市民権をベスタから買えばいい。

市民権を得るか、奴隷のままでいるかは彼らの自由だ。


「さて、と。今日のお仕事は終わりっと」


時刻はもう夕暮れの終わり時。

数時間前まで戦争をしていたとは思えない町の静けさ。

第一城壁区画は壊滅状態だとリーリエも聞いているが、実際に見てみないとその惨状は実感が湧かないだろう。


それよりも、リーリエはアズラのことが心配だ。

今回の事件で確実にアズラは戦場に出ることとなる。

今までの小競り合いではなく、大規模な戦争に。

ディアにエリウ、ランツェも一緒に行くのだろう。


ずっと一緒だった人たちがいなくなる感じ。そんな寂しさをリーリエは感じながらも、いつも通りにセトの様子を見に行く。

きっと、今日もいい寝顔をしているのだろうと思いながら階段を上がって部屋へと進んでいく。

この一年、毎日セトの世話をしているがこれといって変化はない。

目覚めないことに心配にはなるが、状態が悪化する訳ではないので、いつものことだと慣れてしまっていた。


アズラは全く慣れないようだが、実の姉なら当たり前だろう。

むしろ、慣れてしまった自分はどうなのだろうか?


(だめだな私・・・しっかりしないと)


疲れることは悪い事。

誰が言った訳でもないのにそんな考えに囚われている。

セトが目覚めないから、疲れてはいけない。

そんな重荷を自分で課しているんだ。


それは無理矢理セトの置かれた立場に合わせようとしているリーリエの逃避だ。

それではダメだ。

リーリエが重くなった気持ちを切り替える。

いつもの明るい笑顔で、セトのいる扉を開け放つ。


部屋へと入り暗くなった部屋に明かりを付けると。

そこにはいつものセトが。


「セトさん! お着換えの時間です・・・・・・よ?」


「むにゃ・・・?」


はだけたセトの胸元で寝ていたリーベが白いワンピースを乱しながら起き上がる。

眠い目をこすりながら、入って来たリーリエを見て。


「あ・・・リーリエどうしたの?」


と、尋ねるも。


「・・・」


バサ・・・持っていたセトの着替えを落とした。

その反応にリーベが?マークを浮かべる。

リーリエの頭の中はこうだ。寝ているセトをリーベが襲っちゃった!


「はわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわ・・・!」


リーリエの頭の中でピンク色の光景が自由自在に飛び回る。

ダメだ。リーベが大人の階段をかなりすっとばしてしまった。


「はわわわ! 私まだなのに~!」


「?」


両手で頭を抱えて、ぐるんぐるん頭を振り回す。

ちょっと怖い・・・、リーベが軽く引きながら苦笑い。

そんなリーベに目もくれず。


「うわ~ん! 後れを取っちゃった~!」


リーリエは部屋から飛び出してしまった。

ついでにセトの着替えも置いていく。


「・・・? セトを着替えさせればいいのかな?」


勘違いしたままのリーリエは何処に?

リーベの健全で純粋なイメージはどうなる!



----------



「うわ~ん!!」


泣き叫びながらリーリエが廊下を走り抜ける。

突然のことにアプフェル商会本店にいる人々が、なんだなんだと騒ぎ出した。


「!」


その中で、部屋から顔を出す人々から隠れるように廊下の角に潜む者が一人。

それは黒いローブ姿の女。

丁度、リーリエが飛び出した部屋を視界に収めれる位置にいた。リーリエが走っていったのは階段側、女は廊下の奥だ。

侵入しているのがバレたのかとヒヤヒヤしながら様子を窺う。


「・・・」


バレていないようだ。

騒がしいのは下に言ったのか、一階が騒がしくなっていく。

今の内だと女がセトの部屋の前に出る。

慎重に、警戒しながら部屋の扉に手を掛け、ゆっくりと静かに開け中に入る。


女はある人物を探していた。

それは少女。赤髪の少女。それは聖女と呼ばれている存在。

ここに彼女がいるはず。


聖女の反応を辿って女が振り向く。


「・・・」


「む? 着替え中!」


そこにいたのは赤髮の聖女。

リーベが寝ている男の子のズボンを脱がそうとしている真っ最中だった。

ズボンが半分脱げてお尻が見えてしまっている。


「・・・コホン。ごめん」


女はタイミングが悪かったと着替えが済むまで背を向けた。

しかし、リーベ一人ではなかなか着替えが進まないのか、ガサガサと衣服の擦れる音が響く。


「むー・・・ズボン取れない」


「はぁ・・・、手伝うよ」


見かねた女がリーベの横に腰を落とし、セトのズボンを脱がすのを手伝った。


「む! ありがとう知らないお姉さん。私、リーベ。お姉さんは?」


「ぼくはハーザ、ッ! あ、ああ。うん。えっと・・・ハーク」


「ハークお姉さん!」


リーベが嬉しそうにハークを見る。

やさしい人が手伝ってくれていると思っているのだろう。

ハークお姉さんが手伝ったことであっさりとズボンが脱げた。すっぽんぽんだ。


「え、えっと・・・タオルか何か」


「はい! これを履かせるの」


「う、うん」


ハークお姉さんはちょっと恥ずかしそうにズボンを履かせていく。

セトは知らない間に男の大事な所を知らない女の人に見られてしまいました。

知らないからいいか。


「これで終わり」


セトの着替えが完了した。

布団を掛け直して、脱がした服をまとめておく。

さて、ようやく本題に入れると女がリーベの前に立つ。

深々と被ったローブを後ろにやって顔を出す。

リーベの知らない顔。女の人。

髪型は茶髪でセミロング。スラッとした美しい顔立ちで年齢は二十歳前後。


「えっと、リーベ久しぶりだね。ぼくのこと分かる?」


「? ハークお姉さん」


「ごめん、それウソなんだ忘れて」


なぜ名前でウソをついたのとリーベがショックを受ける。

たちまち不機嫌になった。


「むー・・・ウソをつかれた」


「ご、ごめん」


「本当の名前は何?」


聞かれた女は目線を合わせて、リーベの目を真っすぐ見ながら答えた。

本当に久しぶりでそれこそウソではと聞き返したくなる名を。


「ぼく、ハーザクだよ」


「むー、ウソだ」


「ほ、本当だよ」


困った。信じてくれない。

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