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僕と姉の神話遭遇記  作者: 暁0101
第七章 変動と胎動
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第百七十九話 力を手にして守りたかったのは

アズラの変化に呼応し、黒い天使アレーテイアが目覚めた。

割れるような唸り声を上げ、背中から生えた長い突起の先にある翼を広げていく。

その翼は、黒い骨に赤い羽根が積み重なり真紅と言える赤の美しさ。

翼が大きく開き切り、アレーテイアが飛び立とうと上を見上げた。


そうはさせないと、異端技術管理区画で黒の異端者の監視に就いていた殲滅神官ウォフ・マナフがセフィラを召喚して防ごうと試みる。

青白い光を浮かび上がらせ、上位存在を降臨させようとするが。

その愚かな行為は、アレーテイアの腕の一薙ぎが叩き潰す。

召喚された瞬間に肉塊にされ消滅するセフィラ。殲滅神官ウォフ・マナフも吹き飛ばされ頭から血を流す。

ジグラットの最大暴力が手も足も出ない。

意識が朦朧としながらもヴェヒターにアレーテイアの目覚めを伝えようと神術を使用して。


「ヴェ・・・ヒター様・・・、異神が・・・ッ!」


ゾンッ!

異の魔力(クセノス・マギ)に毟り、削られ。それが彼の最後となった。

魂神の力を。それを信じる者共を否定するかのように、アレーテイアが飛翔する。

すでに崩壊したシェレグ城をさらに破壊し、大空へと姿を現したアレーテイア。

戦場に姿を現した異常なエネルギーに魔装獣はすぐに反応し城の方へと振り返り、漆黒のその姿をすぐに魔装獣の目に捉えらえた。


アレーテイアを目に捉えた瞬間に術式で組まれた危機管理システムが警告を吐き出す。内容は圧倒的な内包エネルギー差によるもの。

システムは告げている。勝てないと。

これだけの怪物を用意しても届かない。

ジュゼッペに僅かながら焦りが生じる。


だが、まだこの戦いに負けた訳ではない。アレーテイアに勝てなくともアズラには勝てる。

魔装獣がアレーテイアから目を放し、首都の外にいるアズラを攻撃しようと再び振り返ると。

致命的なダメージをシステムが吐き出した。

すでに彼女の拳が外装を貫き内部機関にまで達していた。


メキ・・・ベキッ!

アズラがさらに拳を押し込み中をかき乱す。

魔装獣が声を上げ、腹にめり込んだ拳を引き抜こうと腕を伸ばすが、アズラがそれを異の魔力(クセノス・マギ)の膜で弾き返した。

今のアズラの魔力は魔装獣と同じ異の魔力(クセノス・マギ)

同じ力ならば、その差は単純に規模で決まる。

それは、今のアズラの方が強大だという事だ。


「・・・吹き飛べ!」


ボソリ・・・と敵を恨み、憎悪する感情がアズラの口から吐き出され、それが力として行使される。

魔装獣の腹を第弐魔装ツヴァイト絶対魔掌ヴァルテンマギが貫き、その巨体を言葉通り吹き飛ばした。

巨体が地面を滑り、瓦礫を宙に飛ばしながら第二城壁に激突する。


「ア、アズラ様・・・」


姿、形は変わっていない。

だが、その雰囲気の変わりようにルスティヒが確認でもするかのように名前を呼ぶ。


「・・・」


アズラは答えてくれなかった。

その目は魔装獣を捉えて離さない。

第二城壁の下で倒れている魔装獣の様子を窺っている。

一瞬の油断もなく、警戒の目を向けている。


アズラが警戒する魔装獣は、腹に風穴を空けたダメージを物ともせずに起き上がった。

胴体の漆黒の外装が砕け、赤い血の術式が紫電を散らしてダメージの大きさを物語る。

元が何だったのか。赤い血を垂れ流しながら反撃しようと異の魔力(クセノス・マギ)を大量に生み出し始めた。

攻撃態勢に移る一時の間にジュゼッペは、魔装獣を退ける力を見せるアズラを称賛する。


「ただの一人で魔装獣を凌駕するとは・・・。称賛しましょう。恐らくこの血界型魔装獣では相手にならない、ですが。それでも、お相手願いましょうか」


魔装獣が朽ちるまで攻撃を続ける。

ジュゼッペはそう宣言し、それを聞いたアズラは。


「私に相手をしろと? 心配しなくてもやってあげるわ。そこに私の席はあるわね? すぐに行くから待ってなさい」


「!? ・・・今なんと言いました?」


「すぐに行くと言ったの。まさか、自分だけ相手を覗けるなんて思ってないでしょうね?」


「・・・・・・!」


その一言に初めてジュゼッペから余裕が消えた。

ベスタから遥か先に離れた地で、豪華な会議室の円状テーブルの一席に座りながら戦場を見ていた自分が逆に見られた。

それは、こちらの手の内を見破ったことに他ならない。

ジュゼッペの額にしわが寄る。

それは焦りからか?


違う。


会議室中央に映し出される映像に、黒い天使アレーテイアがアズラの横に降り立った所が映し出されていたからだ。

映像は魔装獣の目とリンクしている。

つまり、魔装獣はアズラとアレーテイアの両方を相手にしなければいけないという事。

映像の横には投入した自軍戦力の残機が表示されていたが、一か所を除いて全ての数字が0を表示していた。

この黒い天使は、一瞬にして二個大隊規模の戦力を灰にしたのだ。

圧倒的強者だった魔装獣が、逆に狩られる側になっている。


ジュゼッペは判断を下す。

今回投入した戦力ではベスタを落とせないと。


「その異神の使途。どう手懐けたのかは知りませんが、肝に銘じておくことです」


自分たちに立ちふさがる、もう一柱の神の力に向けて。


「神の力は人の手には余る! 選ばれし聖女だけが神との対話を成し、我ら人を救済するのです!」


会議室にジュゼッペの荒げた声が響き渡る。

映し出される映像にはもうノイズしか映っていない。

アズラの目の前には、アレーテイアによって剣で串刺しにされた魔装獣の残骸が転がっていた。

ここにベスタの首都ウェスタ防衛戦はアズラたちの勝利として終結する。



----------



防衛戦の終結から数時間後。

第一城壁跡の前でエリウたちやゲネラール将軍がフローラたちを見送っていた。

エリウがアズラからの頼みを嬉しそうに聞いている。


「エリウ、二人のこと頼むわよ」


「あちしに任せてニャ! 姉御の頼みならなんでもやってみせるニャ」


その横ではゲネラール将軍が心配そうにフローラと話している。


「やはり行くのですか?」


「ええ、わたくしに出来る事はこのくらいですもの」


フローラは当初の予定通り帝国の公爵と会談をするために出発する事にした。

今回の首都襲撃を受けて、早急に帝国の援助を引き出す必要が出て来たのだ。

会談は、交渉ではなく要求に近いものになるだろう。それだけ、ベスタには後がない。


宗主国であるカラグヴァナ王国からの援助は期待できないだろう。そう判断したからこそのディユング帝国への接触だ。

もともと、帝国とは敵対していた歴史がある国の流れを汲むカラグヴァナ王国だが、今の世はそれほど険悪という関係ではない。

フローラは、そういう時代の情勢などもしっかりと考慮して、この会談に臨むのだ。

カデシュ大陸の大国であるディユング帝国の援助を取りつければ、アーデリ王国の侵攻を食い止める事も可能となる。

そんな希望を持ってフローラは出発する。


フローラを乗せた馬車に続きディレクトア騎士団が出発していく。

滞在日数と交渉期間を考え、移動時間を短縮するために護衛の騎士団の規模は最小限に変更されていた。

指揮を執るのはアズラだ。

黒の天使アレーテイアは再び眠りについたため置いていく事になるが、その方がいいだろう。

帝国はツァラトゥストラ教の総本山。異神の使途である黒の異端者を連れていては交渉どころか敵と認識されかねない。


フローラたちを見送ったゲネラール将軍は後ろを振り返る。

広がっている光景は、蹂躙された首都の姿だ。

避難していた第一城壁区画の人々が戻って来ているが、住むところを失い途方に暮れている。

それだけではない。

国の中枢である城も失った。異端技術管理区画は無事だが行政機能などあるはずがない。

まずはそこを用意しないといけないだろう。

しばらくは、第四城壁区画にあるベスタ家管理の屋敷を間借りするしかない。


ゲネラール将軍は早速、部下に指示を飛ばし準備を進めていく。

復興作業中以外の手の空いている者をかき集め、すぐに城の前に集合させたら城だった瓦礫の山から資料を掘り出す作業を開始した。


「ゲネラール将軍、異端技術管理区画について報告が」


異端技術管理区画の技術部門の者が報告に来た。

白い白衣を身に纏ったその姿は、騎士が大勢いる中では非常に目立つ。

技術部門所属の者の姿を見て、ゲネラール将軍はそちらの問題も思い出した。

困ったものだと、思いながらも報告を聞く。


「聞こう。先にマルクの容体だ」


「ハッ。マルク技術顧問の容体は安定し生命活動に支障はないとのことです」


「そうか・・・」


最も危惧していたことは回避された。

それなら他に問題があっても許容できる。


「他の報告を」


「ハッ。機能を停止した黒の天使は異端技術管理区画に搬送を開始中。また、敵の新型術導機と思われる機体も収容中であります。鹵獲機を最優先で解析開始する予定なのですが・・・」


なぜか、技術部門の者が言いよどむ。

ゲネラール将軍が目を細め報告を続けるように促した。


「どうした続けろ」


「ハッ。鹵獲機を最優先する予定なのですが、管理中のコードネーム・アイゼンが突如として起動」


「何!? なぜそれを早く言わない!」


「も、申し訳ございません。で、ですが、アイゼンはその後、動き出す様子はなく。要解析対象として扱うべきとの技術部門の総意を出し・・・」


ゲネラール将軍が想像した事態にはなっていなかった。いや、なっていたらこんな呑気に資料集めなどしていられないだろう。

先史文明期の兵器。そんなものが暴れ出したらベスタは終わりだ。

報告に来た彼が落ち着いていることを見れば、そんなことにはなっていないことは分かること。

早とちりだったと、フゥ・・・とため息をつき。


「分かった。アイゼンの起動原因を早急に調べてくれ。あの黒い魔装獣という奴は後で構わない」


「了解致しました。鹵獲機には封印処置として永久魔力枯渇を施します」


「うむ」


一礼し、早々に去っていく。すぐにでも作業を開始するのだろう。

ベスタの奥深く。

暗部ともいえる所で変化が起きている。

当事者であるはずの自分たちが制御できない変化だ。


黒い天使アレーテイアと先史文明期の兵器。


ゲネラール将軍は異端技術管理区画の方向を見る。

そこでは、反セフィラ因子力場発生装置のメンテナンスが急ピッチで進められていた。今回の敵の侵攻を食い止めてくれた装置。

今後も来るであろう敵に備えるためにも、いきなりの本稼働で受けた負荷を取り除いている最中だった。

ゲネラール将軍の見る先にあるものは、この先新しい力となる兵器たち。戦争の形を変える力たちだ。



----------



ベスタより遥か南東。

カラグヴァナ王国の王都よりもさらに先。

アーデリ王国の中枢。


王都ディケ。


術式のコードが町を彩り、水の術式が水。火の術式が火を各家庭に供給しているカラグヴァナよりもシステム化された町。

そのさらに深く最高権力者たちが集う場所。

王都の象徴であるユースティティア城の一室でその者たちは今回の結末を話し合っていた。


豪華な会議室の円状テーブルを囲むようにアーデリ王国宰相のジュゼッペ。その横に五血衆の面々が席に座っている。

そして、指導者は誰かを示すように最も背もたれの大きな椅子に導師ノネが腰を掛けていた。

そのノネが口を開く。


「で、負けてしまったということかな?」


「はい。その通りでございます」


「うーん・・・困ったな。魔装獣はこちらの切り札なのに敵わないのか」


ノネは敵の戦力が予想以上に強大だったことに、頭を悩ませる。

それに対して、青い狼の顔の亜人ゼヴは。


「ヌハハハハ!! 強敵、それは結構ッ!! このゼヴが相手を」


と、自分が攻め込むと挙手するが。


「それはダメだゾ。ばかゼヴ!」


「そーなの。アズラとは私たち戦いたくないの」


二本角の白肌のラバンと、一本角の黒肌のシャホル。二人のエールの姫が反対を表明していた。


「というか。あっちたちは初めからベスタを攻めるの反対だゾ」


「ファルシュの仇なのーは、分かるけどね」


二人でわいわいと異議を唱えるが、ノネの座る位置から正面にいる人物から異様で、そして圧倒的な気配が二人を黙らせる。


「あッ・・・・・・」


「・・・・・・」


指導者の正面にいるのは彼女を支える存在である龍の顔をした亜人ヌアダ。

彼が今後どうするかを決める。


「宰相」


「はい。どうされましたヌアダ様」


「潜伏している癒呪暴走体兵アンデットゾルダートを聖女エハヴァの下に向かわせろ」


その命令に、エールの姫たちが反発した。

逆らってはいけない存在に向けて、リーベのために声を上げる。


「あ、兄者! イヤだゾ。リーベを殺すのだけはイヤだゾ!」


「そーなの! リーベとは友達なの。だから兄者・・・」


二人の必死の反発。懇願。

それに対しヌアダは。


「勘違いするなエールの姫たち。癒呪暴走体兵アンデットゾルダートを通じて聖女ハーザクと接触させる。こちらの真意を伝えるのだ」


「そ、そうなのか・・・」


「よかったのー・・・」


ヌアダの命令を聞いたジュゼッペはその目的を尋ねる。


「ヌアダ様、真意を伝えこちらへの協力を仰ぐおつもりですか? 聖女エハヴァはともかく、アズラ・アプフェルは無理かと」


「協力を取り付ける必要はない。伝えるだけでいい。それが奴らへの楔になる」


協力してもらう必要はないと。重要なのは情報を伝える事。

正しい判断ができる情報を。

そして、情報を。真実と虚実を操る者たちの名がジュゼッペの頭に浮かぶ。


「奴ら・・・、ッ! ジグラットですか」


「ああ、教皇がどう動くか。それは帝国の動きに他ならない」


「ですが、帝国の中枢は七星に掌握され教皇の力が及ばないのでは・・・」


「いや、教皇はカラグヴァナ王国を手中に収めた。ならば、帝国はその動きに対応せざるを得ないだろう。動きたくなくても動かされるのだよ」


「・・・! まさか帝国とカラグヴァナが連合を組むと!」


ジュゼッペの頭にヌアダの考えていることがハッキリと浮かんだ。

あり得る。教皇の狙いが帝国での復権だとしたら、自分たちという存在は利用するのに持って来いなのだから。

自分たちを利用し、カラグヴァナが帝国へ助けを求める。そうなれば帝国は動かざるを得なくなる。

カラグヴァナには教皇がいるのだ。

ツァラトゥストラ教の総本山である帝国の指導者が、教皇を死なせてしまっては権力は失われる。

教皇は、この戦争を利用して七星を表舞台に引きずり出すつもりだ。


「だとしても、そうなったとしても、例の条約に基づき彼らが力を貸してくれるでしょう。彼らの力を見た時、教皇もどちらに付くか判断を変えざるを得ない!」


「そうならないための、楔だ。教皇の目的のためには聖女の存在は不可欠。彼らが、聖女エハヴァの家族であると言うのなら守り抜いてもらおう」


会議室の中央に映像を映しだされる。

移っているのは、今も眠り続けるセト。そして、護衛任務中のアズラ。

二人に告げるように。


「命を懸けてな」

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