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僕と姉の神話遭遇記  作者: 暁0101
第七章 変動と胎動
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第百七十四話 智将の一手

首都ウェスタ上空に鎮座する空中戦艦ヌークレオから爆炎が上がる。

それはごく小規模なものだが、確実に何かがあった証。

アズラが突入した瞬間だ。


一瞬だけ空を見上げその変化を確認したルスティヒは、左腕を斬り落としたアルコ2型と対峙していく。

荒い息を吐きながらも、キザったらしい振る舞いは忘れずに髪をひと撫で。

まだ癖が出てしまうぐらいには余裕はある。

だが、目の前の敵の後ろに展開されていく新たなアルコ2型たちの相手には役不足だ。

ルスティヒは汗を垂らしながら、こう判断する。


ここを死守すると。


敵が自分に集まってきているのはここの防御が手薄だからだ。

護衛はディレクトア騎士団の騎士団長と共に第一城壁に向かった。

それはこの窮地を打開するための一手だが、こうなるリスクがあるのは分かっていた。

だから、倒れる訳にはいかない。


「まだ・・・、踊り足りませんが・・・どうしますか? アーデリ王国の方々!」


鼓舞するように叫びアルコ2型たちに剣を向ける。

自分が倒れない限り、敵はこの先に向かうことは出来ない。

フローラの所へはたどり着かせない。

行きたいのなら自分を倒していけと、アルコ2型たちに突きつける。


そこへ崩れた家の瓦礫の上に立ち。

ルスティヒの挑発を堂々と受けて立つ声が一人。


「いいぜ。踊ってやろうじゃないかキザ野郎」


姿を現したのは、黒い夜に紛れてしまいそうな鎧を纏った一人の男。

アーデリ王国騎士。


「騎士!? 先ほどの援軍の生き残りか」


敵騎士が剣ではない棒状のモノを振り上げ、赤、緑、青と光の三原色が明滅し何らかの信号を発した。

すると、それに反応するように後方のアルコ2型が一斉に最前線へと移動してくる。


「踊る相手は術導機だがなッ!!」


「術式使いッ! 厄介な組み合わせです。が!」


眼前を埋め尽くすアルコ2型たち。

普通ならその巨体に突っ込まれるだけでお陀仏だろう。

しかし、ルスティヒは冷静だった。

超至近距離からの砲撃をかわし、城下町の入り組んだ地形を生かして家の角を曲がりやり過ごしていく。

砲撃が家を吹き飛ばし、破片がルスティヒの顔を殴る。

頬から血が飛び散る。それを無視して、通信術式を展開し最小限の位置情報を送ってルスティヒはさらに走った。


「逃げ回っても無駄だ。ベスタ如き誇りを忘れた奴らが、俺たちに勝てるものか」


敵騎士の言葉が証明されるかのように、ルスティヒが路地裏に追い詰められた。

狭い路地裏にアルコ2型は入ってこれないが、砲撃は余裕で届く。

砲身の標準がルスティヒを捉え完全に包囲された。

それでも、追い詰められてもルスティヒはキザったらしく髪を撫で。


「おや? フラグですか?」


自身満々で敵騎士に向かって言い放った。

それを聞いた敵騎士の気配が変わる。

誇りを侮辱する輩を看過するほど、この敵騎士は人が出来てはいない。

ルスティヒを殺そうと躊躇なく通信制御棒よりアルコ2型に指示を送った。


そんな、短絡的な行動をルスティヒは待っていた。

自分に食いつき、誘い込まれ。

そして、この狙いに気付かなかった相手を一網打尽にするために。


敵騎士が通信制御棒より指示を送ると同時に第一城壁に変化が起きる。

岩盤をくり抜いて城壁とした第一城壁の表面に、術式による白いコードが張り巡らされていく。


「な、なんだ!?」


城壁の変化に戸惑いの声を上げる敵騎士。

追い詰められたのはルスティヒではない。彼は誘っていたのだ。

この路地裏へ。

術導機同士が密集する地形に。


「貴方たちとのダンス楽しかったですよ。では、これにて」


ダンスを終えた相手に礼をして背を向ける。

それを好機と捉えた敵騎士が通信制御棒を構えるが、指示信号を発した途端に火花が散る。


「ぎゃッ!?」


連鎖反応を起こすように、アルコ2型たちの中枢システムを司る術式が次々と誤作動を起こした。

狭い路地裏を塞ぐようにいたため、腕や胴体を地面や家に激突させて、近くにいたアルコ2型同士がぶつかり合い絡まるように倒れていく。

敵騎士の通信制御棒に送られてくるのはデタラメな信号ばかり。まったく制御を受け付けていない。

こちらの術式に介入したと敵騎士は即座に判断し、その原因が大規模な術式を展開した城壁だと予想した。

そこまで分かって、敵騎士は通信制御棒を捨て罠に嵌めたルスティヒに剣を向ける。


「やってくれたなキザ野郎!」


罠に嵌めてくれた敵を殺すと敵騎士がルスティヒに襲い掛かった。

それも予測していたルスティヒは振り返りもせずに。


「アズラ様の騎士たちですね? よろしくお願いします」


と、自分に襲い掛かろうとした敵騎士を一撃で倒しているエリウたちに告げる。

言われたエリウはもちろん。


「誰ニャお前?」


こんな奴は知らないと怪訝な顔した。

知らないのは当然。まだ、騎士団は発足前だ。

安全を確認したディアが後ろから警戒しながら顔を出し。

ルスティヒに確認を取る。


「俺たちの使っている通信用信号を知っているってことは、アズラさんの?」


「そういうことです」


「了解だ。ランツェ、敵じゃねぇようだ」


路地裏の角で気配を消していたランツェが出て来てルスティヒは感心する。

自分の通信情報が罠の可能性も考慮していたと。


(この方々がアズラ様直属の部下。流石はアズラ様が認められている者たちだ)


感心しているルスティヒに、エリウたちが他の援護に向かうぞと声を掛ける。

少し早いが、銀戦姫ぎんせんき騎士団発足前の初陣だ。



----------




空中戦艦ヌークレオ内部。

アズラが侵入したここは、艦内で最も広い空間である格納庫だ。

そこに、100人以上ものアーデリ王国兵たちが弓状の術式で駆動する武器を一斉に構えアズラを取り囲む。

100人の殺意と武器の擦れる音が鳴る中、戦艦の内部全体から駆動音が響き渡り、何かを動かしていくのがアズラの耳にも聞こえた。

それが、主砲を首都ウェスタに向けている音だと判断するのに時間は要らなかった。

即座にアズラが構える。


「悪いけど相手にしている暇はないわ」


右拳を床に叩き付け、腰を低く構える。

半身が極限まで前にのめり出したそれは突撃体勢。

背中の火と風で構築した術式ブースターが青白い火を噴き。アズラの全身を魔力が包み込む。

そこへ、痺れを切らしたアーデリ王国兵が一斉にエネルギー弾を放った。

アズラの目の前が無数の小さな火球で埋め尽くされていき、それを押し返すようにアズラが突っ込んだ。


ドガガガガガッ!!!

鉄の内壁を削りながら面白いくらいにアーデリ王国兵の火球を弾き飛ばす。

圧倒的な力の塊と化したアズラがアーデリ王国兵たちの攻撃を気にも留めずに壁に激突し、そのまま直進。

敵兵をまとめて薙ぎ払う。


(音のする方向はこの先!)


音のする方向へ凄まじい勢いで突き進む。

壁をぶち抜き、配管などの戦艦の血管を引き裂いて、食い止めようとする敵をなぎ倒す。

空中戦艦ヌークレオの内部で小規模な爆発が断続的に、一方向に伸びるように発生していく。

その拡大を誰も止めることが出来ない。


さらに、アズラが主砲の発射を食い止めようと右手に魔力を集め出した。

魔力に覆われた内側で、アズラが魔力を収束させ術式とかけ合わせていく。

純粋な魔力に純粋な観測術式。

そこから再現されるのは。


揺蕩う無の静寂。

世界がまだ空も大地もなく漂うそれだった時の可能性。


虚無を打ち放つ。

主砲目掛けて打ち放たれた虚無は射線上にある全てをかき消しながら、全く速度を落とさずに直進した。

そして。


艦全体を揺らす衝撃に爆発音。

確認しなくても十分なほどに伝わる手ごたえ。

アズラは見事に主砲と加えて機関部をも貫いていた。

空中戦艦ヌークレオが傾いていく。

機関部を破壊されたことで、航行能力はおろか艦の制御すら利かない。

けたたましい警報が鳴り渡り、一気に高度が下がり重力を失ったアズラは宙に浮く。


「これだけやれば十分かしら?」


空中戦艦ヌークレオの破壊を達成したアズラは、脱出の準備に入っていく。

脱出は簡単だ。壁に穴を空ければいい。

壁を蹴り外に続く方に移動しようと手を伸ばす。

慣れない無重力。器用に術式ブースターで方向転換をしながら反対側の壁に手を付いた時。


異様な音を壁の反対側から聞いた。

荒れ狂う魔力にも似た音。

それが一直線にこちらへ向かってくる。


「ッ!!?」


壁をぶち抜き戦艦を貫通する極太の赤黒い破壊の光。

間一髪で避けたアズラは、その破壊の威力に吹き飛ばされる。

通路の端にまで吹き飛ばされ、急いで体勢を立て直す。


そこには表情の変わったアズラがいた。

憎い相手を見たアズラの顔が。


風穴の空いた壁から一人の男と思しき人物が戦艦の中に入って来る。

その姿は、顔に深紅の仮面を着けて灰色ののっぺりとした凹凸のない鎧を身に着けている。

鎧の胸の辺りには魔晶石を埋め込んでいるが、何かおかしい。

まるでその男に取り込まれるかのように赤い血管が張り付いていた。


「お前はッ!!!」


アズラが相手の正体を確認するまでもなく攻撃を仕掛けた。

狭い通路に大量の水を生み出し激流をぶつける。

大量の水が全てを押し流していくが、仮面の男が土の術式を発動して軽々と塞き止める。

さらには、水を凍らせてアズラに襲い掛かった。

即座に水の術式を捨て壁を破壊して外に出る。


壁の先は戦艦の一番外側の通路。空が映る窓がある。その窓には徐々に迫る地面が映っている。

アズラを追い、仮面の男も外側の通路に出て来た。

手を前に掲げ魔力を凝縮していき、魔装を構築する。

手にしたのは、魔装・銃剣ザイテンゲヴェール


「ファルシュ・・・!!」


憎き仇の名を口にする。

まだ生きていたのかと、両手の魔装に力を籠める。

だが。


「それは違いますね。目の前のそれは術導師ファルシュではない」


けたたましい警報が突然途切れ、男の声が響き渡る。

知性を感じさせる男の声。

アズラの返事を待たずに男はその正体を答える。


「それは、癒呪暴走体兵アンデットゾルダート。貴様達が殺した術導師ファルシュの研究成果の一つです。今回は、貴方への挨拶も兼ねて持ってきたのですよアズラ・アプフェル」


「あんたは!」


「そうそう、名乗りがまだでしたね。非才の名は、ジュゼッペ・パレルナ・ピアッツィ。そうですともアーデリ王国の宰相、元エウノミア公国の公爵と言えばわかりますか?」


アーデリ王国の絶対権力者の一人。

ジュゼッペ・パレルナ・ピアッツィ。その彼が通信術式にてアズラに接触してきた。

名乗りを聞いてアズラが警戒心を最高値にまで引き上げる。

だが、それも見透かしたように。


「そんなに警戒なさらなくてもよいですよ。貴方には癒呪暴走体兵アンデットゾルダートの運用試験の対象となってもらうだけですので」


「ふざけたことを!」


「ふざけるなど・・・。至って真面目ですよ。ああ、そうそう」


アズラの全てを見透かしたように。

ジュゼッペが大げさに思い出したかのように振る舞い。


「二体ほど癒呪暴走体兵アンデットゾルダートを首都に向かわせました。急がれた方がよろしいかと」


「ッ!? キサマ!!」


アズラの守るべき人たちがいる場所に敵が向かっている。

攻め込まれ防備が崩れている所にだ。

アズラに焦りが生まれ。

それを刺激するように。


「二体にはある者たちを殺すように命令しています。そうです。アプフェル商会の者たちですとも」


ジュゼッペは冷徹に一手を進めていく。

アズラ・アプフェル。

彼女は強くなり過ぎた。だから、ここで殺す。

それが、アーデリ王国の下した結論だ。

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