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僕と姉の神話遭遇記  作者: 暁0101
第六章 顕現せし五血衆
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第百四十八話 天使たちの骨と皮

魔獣クリファたちに刻み込まれているのは悪意。

それは拒絶。


区別。軽蔑。差別。


なぜそんな境界が必要なのか。拒絶する者たちですらその真意を持っていないだろう。

だが、拒絶するための悪意は確実に存在し、人を食らう魔獣として受肉する。


誰を拒絶しているのか。

誰が拒絶しているのか。


名を呼ばれたルフタになら分かるだろう。

魔獣クリファたちは人だった。神に理解されないモノになるまでは、理解されている人だった。

理解されないモノになったクリファたちは悪意を心として只々全ての始まり。一なる所に帰ろうとする。


亜人を拒絶して。

ルフタを拒絶して。


拒絶のシェリダーはその存在意義を満たすために、ルフタに。そして、亜人に襲い掛かる。


「アアァァァァアアア・・・! 穢ァァァレェェェガァァァァァァァァァ」


巨体を支える肉の腕をルフタ目掛けて振り下ろした。それだけで、地面が抉れ王都が破壊されていく。その破壊は亜人を殺すためだけのものだ。

拒絶のシェリダーの巨体は人の亜人に対する悪意の大きさそのもの。

人の手には負えないほどの悪意が目の前にいる事実。

一撃で土砂が数十mも山のように舞い上がり人々を飲み込んでいくその光景は。


まさに災厄。


これを災厄と呼ばずに何を災厄と定義する。人々の目の前に絶望の光景が広がっていく。心から希望を奪い去っていく。

王都を破壊する拒絶のシェリダーの姿に王都にいる全ての人が。

セトたちが、ハンサたちが。

災厄の出現に声を失うしかなかった。


拒絶のシェリダーがさらに巨大な腕を振り上げた。まだ、亜人が生き残っている。だから叩き潰す。

王都のど真ん中で数十mの土砂が連続で壁のように立ち上がる。


皆が金縛りにあったように動けない中、その災厄を前にアズラが走り出した。

拒絶のシェリダーがいる王都中央には市場がある。そこには、ルフタが商会のみんながいる。

助けなければ。

あの災厄からみんなを助け出さなければならない。


拒絶のシェリダーに向かって走り出すアズラ。

それを見てセトが叫ぶ。


「待って! アズ姉行かないで!」


叫んだのは、小さい子供が親に叫ぶ言葉だ。自分ではあの災厄に近づけないと。心と本能を鷲掴みにする恐怖が勝手に判断する。

セトの脚が震えている。また置いて行かれる。

そう思ってしまった所為か、セトはアズラを追いかけることができなかった。

エリウもランツェも。誰もアズラに続いて走り出せなかった。

一人で行ってしまったアズラをただ眺める事しかできない。


そんなセトにランツェが声を掛ける。


「セト、俺たちに出来る事を。やる」


まだ、完全に回復した訳ではないのに立ち上がって槍を構えて見せる。

ランツェの目にはセトたちの周りにいる怯えた人々の姿が映っていた。


「・・・そうだね。僕たちに出来る事をやろう」


セトの脚の震えが収まる。

アズラはセトを置いて一人で行ってしまったのではない。セトたちにここを任せてルフタたちの救出に向かったのだ。

セトがダガーと片手剣を構える。エリウが爪を出した。

自然と周りの人々がセトたちの下に集まり出し、災厄に抗おうと意思を一つにしていく。


「みんニャ敵だニャ!」


エリウが指さす方に白い骨のような魔獣が見えた。魔獣クリファだ。

拒絶のシェリダーから無限に湧き出てセトたちの所に迫って来ている。

魔獣が近づいて来ていることを知り人々がどよめき出すが、セトたちは平気だった。

なぜなら、クリファたちが進む場所にはアズラが向かったのだ。

彼女が向かった先が魔獣程度では障害にもならない。


そして、セトたちの期待に応えるようにクリファたちが数十体まとめて吹き飛ばされた。

クリファの群れを強烈な一撃で止めてしまい、直撃を食らったクリファたちが宙を舞う。

遠くからでもハッキリと見える。骨のクリファたちの前に立つアズラの後姿が。


セトたちから拒絶のシェリダーへの恐怖が和らいでいく。アズラの存在がセトたちに勇気を与えてくれている。

そのアズラがクリファを蹴散らしながら強引に前へと押し進む。


「この魔獣はクリファ? あのバカでかい奴もそうなのかしら? ・・・だとすると、ジグラットで何かあったと考えるのが妥当ね」


次々と押し寄せるクリファを殴り倒しながら、冷静に状況を分析する。

魔獣クリファがいるということは、ジグラットに主アイン・ソフからの祝福が一定量以上満たされてそれに耐えられなかった人々がクリファへと変貌している。

帝国領ラガシュではそれが発生原因だった。

ならば、今回はどうなのか。

祝福を異常に与えてしまう存在がジグラットにいるのか。それはリーベのことなのか。それとも。別の原因か。


アズラが魔力を全開にしながら火の術式で光球を生み出した。純粋な熱エネルギーの塊。それをうじゃうじゃと群がるクリファのど真ん中に叩き込んだ。

群れを一掃する。

一面が燃え上がりその威力を見せつけるが。


「ッ・・・こんな所で足止めを食らってられないのよ!」


モゾリと熱に焼かれたクリファたちが立ち上がって来た。

骨の体が焼け焦げているが、まるで問題ないかのようにアズラを取り囲んでくる。


「ふぅ・・・いいわ。砕かないと倒せないなら徹底的に砕く!」


息を吐き出し、そして魔装を握り締める。

こんな所で時間を無駄にする訳には行かない。

ルフタたちを。そして、リーベを助けなければ。



----------



パラパラと土が顔に落ちてくる感触を感じる。

その不快感でルフタは目を覚ました。

全身が痛む。ジワリと血がにじみ出ているのが分かる。

脚と手に力を入れ体を起き上がらせてみると、手の平に伝わる砂と石の感触で土砂と瓦礫の上に倒れていたことに気付く。


「うぐ・・・」


脇腹に走る痛みに耐えられず手で押さえる。思っていたよりも傷が深い。

手に血がねっとりと付くのが感じ取れる。

傷は深いがすぐに移動しなければならない。近くには拒絶のシェリダーがいるはずだ。

怪我をした亜人など格好の得物でしかない。


治癒の神術を施しながらすぐに逃げようとルフタが顔を上げた。

目に飛び込んできたのは人の顔。

人の顔の皮が浮かびながらルフタを眺めていた。


「吾輩を食う気か!」


障壁の神術を即座に展開する。拒絶のシェリダー相手には気休めにしかならないのかも知れない。

だが、むざむざとルフタが食われる訳がなかった。

腰に提げていたメイスを取り出しなんとか応戦しようとするが、そこでルフタはある違和感に気付いた。


(気を失っている間に何故食われていない?)


ルフタが人の顔の皮が繋がっている先を見る。皮の先は拒絶のシェリダーの顔へと繋がっていた。

拒絶のシェリダーが顔から皮を伸ばして瓦礫の中に倒れている人々を眺めているのだ。

なぜ眺めるという行動をしているのか分からない。

宙に浮かびルフタを眺め続ける人の顔から不気味さを感じていく。

不気味なままに皮が揺らめき、音を発した。


「ぅ・・・ぅ・・・」


その音は徐々に理解できる言葉へと変わる。


「ぅ・・・ルぅ・・・フ・・・たァ・・・」


ルフタの名を呼んだ。

近くに倒れている人すべてに呼びかける。


拒絶のシェリダーはルフタの声を聞いた時も名を叫んでいた。

彼を探すように名を呼んでいる。

その呼びかけにルフタが答えてしまう。


「吾輩の名をなぜ呼ぶ! 吾輩の知っている者がクリファになってしまったのであるか!」


返事をしたルフタを見て顔の皮が笑う。

顔の皮が全てルフタの方を見て、笑っているかのように肉の皮を動かす。

そして、ルフタに見せつけるように人々に襲い掛かり始めた。


人の顔を目掛けて皮が張り付き、肉を食らう音が鳴る。

クチャっ・・・と生々しい音を立てながら顔の肉をはぎ取り、代わりに拒絶のシェリダーの皮が張り付いてく


「やめろ!」


メイスを振り回し攻撃しようとするが、怪我で体の自由がきかない。

ユラユラと漂う顔の皮に軽々避けられ転倒してしまう。

こんな短時間では傷が塞がらない。

それを理解しているのか拒絶のシェリダーがルフタを煽るように人々を襲い続ける。


「くそ! 狙いは吾輩なのであろう? なら関係ない者を襲うな!」


ルフタの叫び声に拒絶のシェリダーが喜びでも感じるかのように巨体を僅かに揺らした。

嘲笑うかのように。

ルフタの心を嬲る。

顔の肉を貪り、骨の中へと皮が侵入し不快音を立て続け。

そして、見せつけるように脳を侵食し身体を乗っ取った。人々がゆらりと起き上がり別の人の顔を貼りつけながらルフタに襲い掛かろうとする。


拒絶のシェリダーが巨体を上下に揺らす。笑った時の体の動き。

確実に拒絶のシェリダーはルフタを甚振っている。

身体を乗っ取られた人々が障壁を殴り始めた。武器も持たずに素手で殴り続けその手が血まみれになっていく。

全ての行為がルフタを煽り、挑発する。


だが、ルフタは顔色を変えない。挑発に乗らなかった。

ゼヴの咆哮による強制的な怒りの感情を抑えるため幻惑の神術で思考を誘導していたことにより、今のルフタは例えどんな事をされても怒りを覚えない。

それがプラスに働いた。この状況で冷静に判断をすることができる。


拒絶のシェリダーに背を向け逃げに徹する。崩壊した町の瓦礫の隙間に飛び込み拒絶のシェリダーの目から逃れていく。

ルフタを見失った拒絶のシェリダーが動きを止めるが、依然身体を乗っ取られた人々がルフタを追ってきていた。


「くっ・・・この怪我では逃げきれんのである」


脇腹から血が足れ落ちた。どこかで手当てを施さないとそれもできなくなる。

隠れる場所を探していると。


「たすけて!」


助けを求める声がすぐ側から聞こえた。まだ幼い子供の声。

ルフタが声のした方向へ迷わず走る。瓦礫の隙間に隠れる小さな女の子がいた。


「大丈夫か? こっちに来るのだ」


女の子の手を取り側に引き寄せる。女の子は泣きじゃくり怯えていた。

この怪我でこの子を守り切れるか?

不安が過る。

だけど、ルフタは女の子を守り切る選択を取った。

手を引き背を向けて辺りを警戒する。


ドス・・・。


鈍い感触。異物が突き刺さる感覚がルフタの背中を襲う。

それが激痛になりルフタの自由を奪い取る。


「うがぁぁあぁぁッ!! あ、あぁぁ・・・」


絶叫が止まる。

ルフタは怒りを覚えない。代わりに悲しみと恐怖を覚える。

助けた女の子が瓦礫から拾ったであろう血のこべりついた金属の残骸を手に握り締めていた。

女の子の顔が不気味に蠢く。


「罠・・・か」


ルフタの意識が遠のいていく。背中からあふれ出す血が止まらない。

身体を乗っ取られた人々に囲まれていく。

もう逃げられない。

ルフタが死を覚悟した。


・・・。

・・・・・・。

・・・・・・・・・。


「・・・?」


止めが来ない。

身体を乗っ取られた人々は棒立ちのまま突っ立ってる。

何かに苦しむように拒絶のシェリダーの呻き声が鳴り渡った。

拒絶のシェリダーの肉片が飛び散っているのが見える。


小さな影が拒絶のシェリダーの周りを飛び回り、あの巨体を揺らしていた。

拒絶のシェリダーを苦しめる正体。

ルフタの目に力が戻る。

影がハッキリと見えていく。


「あれは・・・森羅であるか!」


拒絶のシェリダーに森羅とバティルが猛攻を仕掛けていた。

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