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僕と姉の神話遭遇記  作者: 暁0101
第六章 顕現せし五血衆
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第百四十七話 拒絶の母天使

数十という亜人の集団を双振りの槍が薙ぎ払っていく。

人より身体能力が遥かに高い亜人たちを軽く捻り潰す一体の術導機。

その存在に、怒りで我を忘れている亜人たちの動きが止まった。

怒りに支配された理性を無視してしまうほど、生存本能が警告を鳴らし彼らの脚を止める。


「君たちの相手は、あたしとクリ天ちゃんだよ!」


魔装で強化された術導機のクリ天とその上に乗るハンサが亜人たちを挑発する。

彼女の役目は亜人を引き付け、逃げる人々の道を開くこと。

自分たちが逃げ込んだ塔より下層に出るためハンサは全力を持って亜人たちを相手取る。

ハンサが魔装・天装翼フリューゲルデロールで一つの達成すべき現象を思い浮かべた。

それは、数十という相手を吹き飛ばせる轟風。


クリ天に指示を送り巨大な槍で亜人たちをまとめて薙ぎ払った

魔装が轟風へと至る可能性を槍から生まれた風に設定する。槍を振るった時に生まれた風が集まり、束ねられ、全てを吹き飛ばす轟風と化す。

巨大な槍を振るうだけで目の前に道ができていく。

迫りくる亜人たちを槍の圧で殴り塔の外へと吹き飛ばす。


「魔装がちゃんと機能しているね。これなら行ける!」


塔の中に入り込んだ亜人たちを気絶させ、クリ天に乗ったハンサが外に。

下層へと出た。


目に飛び込んできたのは、自分を出迎える数百、数千の亜人たち。

そして、未だに戦闘が続く王都の姿だった。

パッと見ただけでも、数体の術導機が砲弾を打ち亜人を焼き払っている。

即死しなかった亜人たちがその痛みで正気に戻り、泣き叫んでいるのがハンサの耳に聞こえていた。

その声を振り払う様に、そっと目を閉じ。


「行くよクリ天ちゃん」


亜人たちの向こう。目指すべき先を。王都の外見る。

もう、そこしか安全な場所はない。

ハンサが王都の外に意識を向けていると自分に対して殺意が。

無数の殺意が集まっているのが分かった。ハンサはその全てを受け止めて、クリ天に攻撃指示を送る。

耳に聞こえる悲鳴も怒号もハンサは振り払う。


土の術式を展開し亜人たちのいる地面をひっぺ反した。

ハンサを中心に広範囲に発生させ亜人たちの足元を崩してその動きを止めてさせていく。


「今の内に・・・!」


ハンサが道を確保しようとした時、術式に呼応するようにクリ天の出力が増大した。

地鳴りと共に地面が割れ、地形が変貌する。

一本の道を残して亜人たちが地面の裂け目へと次々と落下していってしまった。

術導機とリンクした魔装が術式による現象を地割れクラスまで引き上げていたのだ。


「・・・、じ、自分でもびっくり」


今の魔装・天装翼フリューゲルデロールは術導機とリンクし扱える魔力量が桁違いに跳ね上がっている。また、魔装の効果は術導機の性能を強化し相乗効果を発揮していた。

魔装が達成しようとする現象がより強く世界に出力される。

術導機という術式の増幅装置はハンサの想像以上の効果をもたらしていた。


塔から人々が出て来きた。陥没した地面を見て一瞬怯むもハンサがいるのを確認してからは一直線に前へと進んでいく。

合流した騎士が地割れによる陥没の跡を覗き込む。


「ハンサ殿の実力がこれ程とは。術導機で増幅したとしても凄まじい威力だ」


「え、えへへ・・・」


自分でも予想外だったため笑って誤魔化すハンサ。

だが、これは幸運だ。

魔獣クリファたちが来るかなり前に突破口を開くことができたのだ。


「このまま王都の外に出よう。王都全体が戦場になってる。もう安全な場所はないよ」


「他のトゥルムは? 構造的に籠城するのに適している。魔獣のいる外に行くよりマシなのでは」


「その一番適している所がもう壊されちゃったからね・・・」


ハンサはそう言って、崩壊しているツェントルム・トゥルムを見た。

王都の上層区画を支える柱。その無残な姿を。

真っ先にツェントルム・トゥルムが狙われたということは、他のトゥルムも同様に襲撃されていると考えるべきだろう。

ハンサたちが立てこもっていたトゥルムは通路としての機能だけだったため、無事だったと考えた方がいいだろう。


「カラグヴァナをこうも容易く・・・、敵は一体何者なんだ」


「今は生き残ることだけを考えるよ。全員外に出た?」


自分の国が壊されていく。

その現実に騎士が心を乱すが、ハンサは冷静に状況を見ている。

塔からフローラたちも出てきて、後は後続を待つだけだが。

遅い。

出てこない。


「みんなあたしたちの後ろに」


人々を術導機の後ろに下がらせ、騎士たちと共に壁となる。

待つという時間が焦りとなり音が遠くなる感覚が襲ってくる。まだ、塔から出てこない。


「ハンサ殿は先に。ここは我々が引き受けます」


「分かったわ。でも、無理はしないで」


騎士たちが二手に分かれる。

剣の騎士団を残し、盾の騎士団を護衛として連れて行くことにする。

後続の人たちが出てこないという事は、それはもう原因は一つしかない。

騎士の一人が後ろを振り返る。彼の目に映るのは背を向け走っていく人々だ。

それを目に焼き付け。

ペタ・・・と気味の悪い足音がした塔へと振り返る。


「やはりか・・・。ここで食い止める! 一匹も通すな!!」


塔の中から、人の顔が浮かび上がる。

無数の手に掴まれた顔。助けを求めるようにその表情は歪んでいた。

だが、その人の顔が、もう人でないことを騎士たちは理解していた。

無数の腕が長い首となって顔を支え、無数の体がその胴体を構成している。

人の血肉で形作られる魔獣。

魔獣クリファたちが殿の騎士を食らい。逃げ遅れた人々を食らい。

騎士の前に現れる。


「舐めるなよ! 私とて剣の騎士団の一人。人間の出来損ないのような魔獣などに後れは取らん!」


騎士たちが鮮麗された陣形で迎え撃つ。

これから、上層にいる何百というクリファの群れが降りてくることも知らずに、逃がした人々が無事に生き残ることを信じて。

ただ、ひたすらに剣を振るう。



----------



宮廷のある最上層から下の層に飛び降り、猛スピードでハンサたちの後を追う者たちが二人。

森羅とバティルだ。

100m以上はある下への階層に生身のまま飛び降り、二人を追ってくる騎士たちの追跡を振り切っていく。

宮廷が陥落しそこから出て来たら敵と判断されても仕方ないが、今は誤解を解いている暇はない。

森羅たちの全身を強烈な空圧が包んでいく。

こんな高層からのダイブなど生まれて初めてだが、二人は意外と冷静だった。

今までの命のやり取りに比べれば、落ちることなど大したことではない。


森羅が風の術式で空気の流れを操って滑空していき、バティルは大剣を振った剣圧で無理矢理に方向転換して空を飛んでいく。

二人がわざわざ下に飛び降りたのは、ハンサの魔装から発せられた魔力の光が見えたからだ。

居場所が分かったなら、道なりに行くよりも直線で行った方が速い。

一気に飛び降りていくが、そんな二人を驚愕させ進行方向を変更させるのに十分な存在が一体。

二人の目の前に突如姿を現す。


「なんだ!? こいつは!」


「死角にいたのですか! ッ来ます!」


下へと飛び降り、最上層の壁を抜けた瞬間に上からでは見えなかった死角にそいつはいた。

飛び降りているはずの森羅たちと立ち並んでいる

無数の骸骨が眼球を動かし、それが巨大な瞳となって二人を捉える。

50mは優に超える巨体。

全身を骨で覆われた体。

拒絶のシェリダーが襲い掛かる。


巨腕を振り上げた。それだけで上層の街並みが抉れ、巨大すぎて地面にすら見える腕が森羅たちに迫る。

空間自体が圧縮されるような圧迫感。

腕が二人を飲み込み。

勢いよく振り上げたことで最上層の基礎に穴をあけ停止した。


巨腕がゆっくりと元の位置に戻っていく。基礎の部分から瓦礫が零れ落ちて、その中から無事だった二人が腕を駆け下りた。

拒絶のシェリダーは巨大すぎて小さい二人を仕留めるには不向き。

だがそれは、拒絶のシェリダーに対して小さすぎる二人にも言えることだ。

それを承知で森羅は術式を展開する。


「こいつを王都の外へ押し出します」


「無茶言うじゃねぇか。いいぜついでだ」


「ありがとうございます」


バティルの返事に微笑んで感謝を述べた。

一人では無理かもしれないが、彼とならこの巨大な化物と戦える。


「礼はこのデカブツを叩きのめしてからだな」


拒絶のシェリダーの顔目掛けて腕を駆け降りる。

その腕は骨で出来ている。人の骨が何万と寄り集まりこの巨躯を形作っていた。

人の体で出来ている魔獣。バティルには心当たりがある。

記憶にある魔獣と比べたら桁違いな大きさだが間違いなく同じ種類の魔獣だ

そして、嫌な予感をバティルは覚える。


「まさか、セトたちの身に何かあったのか?」


「どうしました?」


「いや、なんでもねぇ。それより来るぞ」


巨大な骨の腕から無数の腕が生えてくる。

まるで白い骨の殻を破り新たに生まれてくる生命のように、無数のクリファが二人に牙を剥く。

拒絶のシェリダーと同じく骨の体に人の骸骨の顔。人と異なるのは、肉がなく骨の配置が間違っていることか。


「邪魔だ骨共!!」


バティルの大剣がその骨の体をたたっ斬る。

血肉のクリファより動きが鈍い。骨の体の所為で柔軟な動きが出来ないのだろう。

だが、その分。


ドガガガガガッ!! 骨の細長い爪がバティルを弾き返す。

骨である分、攻撃力が高い。

バティルの攻撃を見て、クリファたちが体の一部を寄せ集め始めた。大きく膨らみ広がったそれは。

骨の盾だ。


「知性だと!? 盾を知ってるのかこの骨共」


「元になった人の癖でしょう。騎士が元なら攻撃を盾で防ぐ習慣が体に染みついているはずです」


「へっ、骨にまでか! それに王守、お前クリファを知ってるんだな。戦ったことはあるのか?」


「ええ、これほど巨大な個体は初めてですが弱点は同じはず!」


風の術式で骨のクリファたちをまとめて吹き飛ばす。クリファたちは次々と巨大な腕より生れ出てきている。

相手をしていたら切りがない。

二人は小物を無視して、一気に拒絶のシェリダーの顔を目指す。


腕の半分を超えた。

その時、森羅が周りの変化に気付く。

拒絶のシェリダーを取り囲むように術導機が集まって来ていたのだ。

この巨大な化物を止めようと砲身にエネルギーが充填されていく。


「カラグヴァナ軍か。来てくれるのは嬉しいがアイツら対処が遅すぎないか」


「首脳部が混乱している所為ですね。自分たちの派閥争いで殺してはならない人を殺したのですから!」


森羅のその声は怒りで満ちていた。主君を殺されたのだ。その怒りは当然と言えるだろう。

そして、森羅の言う通りタウラス第一王子に敵対する王族や貴族を皆殺しにした所為で、カラグヴァナ軍の指揮系統が乱れているのだ。

命令伝達の道がいきなりスッポリと無くなっている。それをタウラスが繋ぎ直すまで時間が掛かる。


充填されたエネルギーが砲身から発射された。

砲撃が拒絶のシェリダーの固い骨の体を撃ち抜き、確実にダメージを通していく。

無数の火球が拒絶のシェリダーの顔を覆いつくす。


「デカブツの動きが止まった。俺たちも続くぞ」


「カラグヴァナ軍の攻撃に合わせます」


肩にまでたどり着いた二人が攻撃を開始する。

森羅の術式が。バティルの大剣が拒絶のシェリダー顔面に叩き込まれた。カラグヴァナ軍も二人の存在に気付き、二人に合わせたフォーメーションへと変わっていく。

術導機部隊の隊長は柔軟な思考の持ち主のようだ。わざわざ味方だと説明する必要がない。


カラグヴァナ軍と二人の集中砲火を浴びて、完全に拒絶のシェリダーの動きが止まった。

ダメージが広がり、その顔を覆う人の皮の外装が裂ける。

血の洪水が上層の空に降り注ぎ、拒絶のシェリダーが不気味な唸り声を上げた。


「アアァァァァアアア・・・! 不ゥゥゥゥ純ン物ゥゥウウウガガガァアアアア、穢ァァァアアすゥゥゥウウウナナァァッァァアアア」


青白い光が拒絶のシェリダーの顔面から溢れ出て来る。それは、裂けた人の皮の隙間から溢れ。

そして、世界を焼き尽くす光と化す。


膨大なエネルギーが発生し二人は伏せて破壊の嵐を凌ぐ。

目の前で無数に生み出されていたクリファたちが一瞬にして蒸発していく。


「グッ!!?」


「これは!!」


拒絶のシェリダーの裂けた人の皮の隙間から直線に吐き出さられ続ける青白い光が、一撃でカラグヴァナ軍の術導機部隊を。それどころか、上層区画を焦土へと変えた。

青白い光の光線。

それは止まることを知らず城壁を貫き、上層の地面を切り裂いた。

上層を支える基幹が破壊された。上層区画全体が振動していく。


「王守飛ぶぞ!」


「はい!」


森羅とバティルが拒絶のシェリダーから飛び降りる。

直後、拒絶のシェリダーを中心に上層区画が崩落を開始した。町が丸ごと浮き上がり、ツェントルム・トゥルムの時と同規模の崩壊が王都を襲う。

下層で逃げ惑う人々を瓦礫が押しつぶしながら、拒絶のシェリダーと大量のクリファたちが降り注ぐ。


下層へと落ちた拒絶のシェリダーが起き上がる。

落ちた所は王都の中央部分。

拒絶のシェリダーの足元では、近くの市場から逃げて来たであろう人々が恐怖と混乱でパニックへと陥っている。

そんな拒絶のシェリダーにとって小虫にも等しい人間など無視しながら、もう一度王宮を目指す。


突如現れた拒絶のシェリダーと、二度目の上層区画崩落に混乱する人々。

その中に、市場にいる商会のみんなを助けに来ていたルフタの姿があった。

アプフェル商会の者たちは先に避難させている。だが、他の市場の人がかなりの人数が逃げ遅れていた。

その避難誘導をしていた時に巻き込まれたのだ。この混乱ではルフタの声は人々に届かない。

上層から落ちて来たクリファたちが人を襲い始めている。


状況は混乱を極めていた。


それでも、ルフタは叫んだ。


「吾輩の声を聞くのだ!! 城門だ。城門に行けば助かるのである!!」


助かる保証も根拠も何もない。だけど、叫んだ。

ここで逃げ惑ういながらみんなに死んでほしくない。


そして。


その声に。


クリファたちが反応し動きを止めた。

不気味に訪れた静止した時間。


「「「る・・・フタ・・・ツぁぁぁあーヴぶぅぅぅぅぅ?」」」


クリファたちが一斉にルフタの名を呼んだ。

ルフタの声が止まる。

動きが止まる。


拒絶のシェリダーがルフタの顔を見た(・・・・・・・・)


「・・・ルゥゥゥゥウウフぅうぅぅタァァアアアアッッッッ!! ツぅゥゥァァアアアアアヴゥゥゥゥゥゥウウゥウウウウ!!!」


「ッッ!!?」


その拒絶は堕ちに堕ちても、なおもドス黒く世界にこべりついている悪意。

それを正義と信じて疑わない信仰心。

拒絶のシェリダーを生み出すのに十分な心。

主アイン・ソフが理解できない心。


それらは、ルフタを憎悪する。

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