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僕と姉の神話遭遇記  作者: 暁0101
第六章 顕現せし五血衆
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第百三十六話 人が抗えない領域

術導機の砲撃によって劫火に埋め尽くされる下層区画。

王国の敵を滅ぼすためだけに臣民ごと焼き払ったこの惨状に皆が声を失う。

だが、声が出ないのはそれだけが理由ではない。

暴走した亜人を焼き殺し、敵を殲滅せんとした術導機部隊。

それが、たった一人に翻弄されていた。


上層区画の崩落によってできた穴に、閃光が迸る。

何十と打ち出されている砲撃は、たった一人の亜人に向けられたもの。

その砲撃がことごとく外れていく。

狙いをつけ発射した時にはもう奴はいない。相手の動きが速すぎて何十と配備された術導機の一機として捉えることができない。


部隊を指揮する騎士が声を荒げる。


「5号機から10号機ッ! 対象の足を止めろ。王都への被害は考慮するな!」


騎士の指示に術導機が即座に対応し、両腕の砲台にエネルギーを収束しだす。

術式により圧縮されたエネルギーは臨界を迎え、崩壊していく現象を砲撃の弾として対象の進行方向へと叩き込んだ。

穴の周囲に爆発が巻き起こり、さらなる崩落を引き起こしていくがそれでも対象を。

ヌアダ・ドゥラコンを止めることは出来ない。


「遅い」


ヌアダがさらに速度を上げた。

直後、穴の周囲が複数の円状に広がる炎で埋め尽くされる。

ヌアダが僅かな力を行使しただけで、人が抗える領域を上回り、術導機が砕かれ爆炎に包まれながら下層へ次々と落ちていく。


「バカな・・・! なぜこれ程の敵が王都にいる!」


最高戦力がこうも容易く破られる。

その現実に騎士が驚愕を口にし抑えきれない恐怖に呑まれていく。

騎士が剣を抜いた。

それは命令を死守しようとしてではない。己の命を守るために抗おうとして剣を構える。

騎士の目の前に術導機部隊を壊滅させた化物がゆっくりと宙に浮かびながら降りてきた。

死刑宣告と感じるほどの絶望が騎士の目の前にいる。


「なぜ兜の騎士団ではない者が術導機を使役している?」


「・・・フゥ、・・・フゥッ!」


呼吸が荒くなり相手の言葉を理解することすらできない。

化物。

化物だ。

このままでは殺される。

確実に殺される!


「アアアアッ死ねぇ!!」


恐怖が。

蝕む恐怖が騎士から理性を奪い剣を振り下ろさせた。

ヌアダの首筋に振り下ろされた剣から剣圧による衝撃波をたたき出す。

術導機の砲撃と同等かそれ以上の威力。

放たれた衝撃波が穴に巨大な亀裂を追加するが。


「・・・醜い」


その程度の攻撃では届かない。

片手で剣圧を防ぎ、さらに剣を握り締めて粉々に握りつぶす。


「我らの敵であるなら、気高き者であるべきだ」


剣を砕いた片手から青白い光が集まりこぶし大の球体が現れる。

球体はヌアダの意志のままに動き、目の前の騎士に向けて手から解き放たれた。


ゾンッ!

球体が騎士の体を飲み込み。世界から切り取ったように胴体が消失した。

残った手足と頭が無造作に下層へと落ちていく。

敵を排除したヌアダは王都の最上層を見上げる。


最上層には王宮が。そして、その内部には標的となるシュピーゲル王がいる。

ヌアダが漆黒の翼を広げた。

周囲の空気を叩き付けるように風が吹き荒れ、ヌアダが急上昇を開始する。


上層区画の空域には既に大量の術導機が配備され、最上層に向かうための通路は全て剣の騎士団と術導機の混成部隊が置かれている。

ヌアダたちが強襲してくることを見越しての布陣。

しかし、無駄だったようだ。

上層の空域で直線状に円状の爆炎が発生し破壊の色で王都を覆っていく。

圧倒的戦闘力が王都の戦力を削ぎ落とす。



----------



たった一人の亜人になぎ倒されていくカラグヴァナ軍を背にし森羅たちは、上層に上がるためハンサの捜索を急いでいた。

敵はこちらには目もくれずに最上層へと向かっている。なら、今の内にハンサを見つけ自分たちの主君を救出する。

皆がそう判断し動いているはずなのだが、森羅だけが劫火に焼かれる王都を見ていた。


「私の判断ミスです・・・」


ついさっきだ。

ついさっきアズラを劫火に呑まれた所に向かわせた。

術導機の砲撃に飲み込まれる直前の彼女の行動からセトたちを見つけることが出来たのだろうが、これでは意味がない。

彼女を死なせに行かせたようなものだ。

後悔で体が動かない森羅にバティルが近寄る。


「王守って言ったか。なんでそんな簡単に諦めるんだ? まだアズラたちが死んだって決まった訳じゃないだろう」


「ですが、この状況では・・・」


「なんだ? お前はアズラを信用してないのか? これぐらいじゃ死なねぇって信じてやらないのか」 


バティルが森羅に喝を入れる。確かに目の前の光景は人が生存しているのは不可能な状況だ。

だが、それはここから見て判断したらの話。アズラたちの居た場所では違うかもしれない。

それに、なによりアズラは可能性に介入する力、魔装を持っているのだ。

諦めるには早すぎる。


「それに、今は後悔するより行動するべきだと俺は思うが。まだ、心は晴れねぇか?」


「・・・いえ。情けない所を見せてしまいました。もう大丈夫です」


バティルの言葉で森羅が後悔を振り払っていく。今、自分に出来る事はなんだ。

ウィリアムとフローラを救出する。そして、その後セトたちと合流する。

自分の役割を果たす。


森羅が劫火に背を向け作業に加わる。

術式で瓦礫をまとめて撤去し下敷きになっていないか確認していく。

奥の方でツィーレンの声が聞こえた。


「対象発見。ハンサで間違いないな」


「ええ、見つけてくれてありがと・・・。えっと、なんで名前知ってるの?」


そこには、瓦礫に埋もれながらも多数の人々を土の術式で守っていたハンサの姿があった。

自分が動けば瓦礫も動いてしまうため動くに動けない状態だったのだ。


「無事かハンサ」


「うん大丈夫だけど。もう正体バラしていいのかな?」


「ああ、そんなこと言っている場合じゃないからな」


森羅たちに瓦礫を退けてもらい立ち上がるハンサ。幸い怪我はないようだ。

バティルがすぐに要件を伝える。


「ハンサいきなりで悪いが宮廷に行きたい。力を貸してくれ」


「宮廷に行くの? それってお姫様を助けるんだよね。OKだよ。魔装を構築するからちょっと離れてて」


ハンサは全てを聞かずとも理解し魔力を解放して魔装を身に纏った。

鮮やかな緑の鎧。

空を駆けるための3対の翼の形をした外装。なぜか魔装で構築した鎧が小さくちょっと際どい格好だがハンサはそんなことは気にしない。


「準備できたよ。3人までなら運べるからこの翼みたいなヤツにつかまって」


バティルが慣れたように翼の形をした外装を掴んで準備を終える。


「よし、お前らも準備しろ」


「いや、待って下さい。この音は」


森羅とツィーレンが掴もうとした時、音が聞こえて来た。

だんだんと近づいてくる。まるでこちらに引き寄せられるように音が迫って来る。

それが足音だと森羅たちはすぐに気付く。

崩れた瓦礫の隙間から亜人が飛び出してきた。

そして、こちらを見るなり問答無用で飛び掛かってくる。


「ガァァアッ!!」


ハンサが助けた人々から悲鳴が上がる。

亜人たちは術導機の砲撃を受けた後もゼヴの下に集まり続け、森羅たちのいる所まで来ていた。

森羅が亜人をあしらい、首筋を手刀で一閃。意識を奪う。

だが、すぐに別の亜人が姿を現し襲い掛かって来た。


「これでは切りがない」


ここから離脱するのは簡単だ。しかし、ただの一般人を見捨ててなど森羅には出来ない。

かといって、このままではジリ貧だ。


「グォォォォォォォォッッオオン!!!」


咆哮が響き渡る。

亜人たちを怒り狂わせる咆哮。

もう闘技場跡内部まで来ている。


「・・・行け」


ツィーレンが森羅たちから離れ、装着型術導機メヒャーニク・ツァオバークンストを構えた。

迫る亜人たちに銃弾の雨を浴びせ、みんなが逃げるための突破口を作る。


「ここは私に任せて、行け!」


「ツィーレン!」


森羅が叫ぶ。

敵が迫る中、自分が残るという判断。それは大勢いる人々を逃がすため囮になるという事。

自分の主君とただの大勢の臣民の命を比べ、ツィーレンは大勢の臣民を選択した。

その選択をしたツィーレンは何を思っているのか森羅には分からない。

だが、何と対峙することになるかは分かる。


「敵が上位亜人なら足止めに徹してください! 無理をしてはいけませんよ!」


「誰に向かって言っている私は騎士ツィーレン。そのために残る選択をした」


既にハンサの魔装で森羅たちは宙に浮かんでいっている。

それを見送りながらツィーレンは森羅たちに呟いた。


「・・・ガスパリス様を頼む」


「ああ任せろ」


バティルが答えると同時に一気に音速に迫る勢いで上層へと飛び立って行った。

森羅たちが行ったのを確認したツィーレンはうずくまる人々に叫ぶ。


「行動開始。・・・。立て! そして走れ! 生きている限りは騎士ツィーレンが守る」


力を持たない人々の最後の盾となったツィーレンは叫びながら次々と飛び出してくる亜人を装着型術導機メヒャーニク・ツァオバークンストで迎撃する。

しかし、臣民たちは襲い来る亜人たちに恐怖し足が動かない。

ツィーレンはさらに声を荒げて叫ぶ。


「立てと言っている!! ここで死ぬか、逃げて生き延びるか自分で選べ!!」


死という言葉に人々が恐怖にすくんでいた足を動かした。

外に向かって走り出していく。

逃げる人々に飛び掛かる亜人の頭を吹き飛ばしながら、ツィーレンは足止めに徹していく。

敵の注意をこちらに引き付ける。


そして、お目当ての怪物がツィーレンの目の前に現れた。


「情報修正。報告よりも大きいな」


3、4mはある凶悪な狼の顔を持った青い毛の亜人。

報告書を読むのと、実際に見るのとではこうも印象が異なるか。

ツィーレンが装着型術導機メヒャーニク・ツァオバークンストに魔力を籠める。

目の前の怪物を仕留めれるだけの威力を弾に込めていく。


だが、敵意を向けるツィーレンをゼヴは見もしていなかった。彼が見ているのは頭を打ちぬかれた亜人の死体。

胴体に無数の穴を空け血を垂れ流している亜人たちの骸を見ていた。

その目に悲しみの色が出て、一瞬で怒りの色に変わる。


「このゼヴの子らを・・・。このゼヴの子をッ! 許さんッ!! 八つ裂きにしてくれるぞ!! 人間ッ!!」


怒りの咆哮が迸る。

咆哮だけで吹き飛ばされそうなほどの圧がツィーレンに襲い掛かる。

ゼヴに呼応するように亜人たちがツィーレンを標的と定めて周囲を取り囲んできた。

接近戦の上に集団戦。

ツィーレンの優位性が全く生かせない条件。

だが、それでもツィーレンは戦う。

そうすると決めたのだ。


標的捕捉ターゲット。攻撃を開始する」


装着型術導機メヒャーニク・ツァオバークンストの細長い砲身を切り離さずに魔力を充填しつつ、一斉に飛び掛かって来た亜人たちを小型の銃で蹴散らしていく。

狙撃に用いるこの装着型術導機メヒャーニク・ツァオバークンストは、遠距離から対象を攻撃するため攻撃の精度、威力、貫通力を大幅に高めている。

威力と貫通力を求めるなら砲身は付けたままがいい。

亜人を蹴散らしながらツィーレンはゼヴの隙を窺う。


「下がれェッ!! こいつの相手はこのゼヴがしてくれる!」


ゼヴの命令に亜人たちが一斉に下がる。ツィーレンの逃げ道を塞ぐようにゼヴのいる場所のみ道を開けた。

それをツィーレンはチャンスと捉える。

砲身の後方部分を展開し円状に広がった鏡のような板を覗き込んでゼヴの弱点を探す。

だが、板に表示されるのはゼヴのデタラメな防御力の数値のみ。

外からいくら攻撃しても意味を成さない。

ならば。


「接近戦開始。敵内部に直接叩き込む!」


銃弾の雨を叩き込みながらツィーレンがゼヴの懐に向かって走る。

獲物が自分から来たとゼヴが両手を広げて、爪を振り下ろした。

地面が割れ、崩壊した闘技場がさらに崩れていく。


「ッ!」


それを冷静にかわすツィーレン。

デタラメな威力の攻撃だが魔獣と大差ない行動パターン。

これなら勝機がある。

瓦礫の上に飛び移りゼヴの目に銃弾を叩き込む。


「ガァッ!!」


やはり目や内臓といった部分の防御力は低い。

目を攻撃されたゼヴが手で顔を守りながら、やみくもに爪を振り回す。

狩りでもするかのようにツィーレンは後方に下がりながら対処しゼヴの足元を術式で爆破した。

轟音とともにゼヴの足が崩れた瓦礫にとられて膝を付く。


「ぐぅ! 小賢しい!!」


視覚を奪い、足を止めた。

今だ。

ツィーレンが迷わずゼヴの顔へと飛び込む。

その音を聞いたゼヴは、口を大きく開けて息を吸い込んだ。

砲身を突き付け、弱点の口の中へとツィーレンが右腕ごと装着型術導機メヒャーニク・ツァオバークンストをねじ込もうとした時。


「グォォォォォォォォッッオオン!!!」


音の壁がツィーレンの右腕と装着型術導機メヒャーニク・ツァオバークンストを粉砕した。

極限まで高まった咆哮が音を物理的な兵器と化してツィーレンに襲い掛かったのだ。

腕が分解されるように消し飛び、装着型術導機メヒャーニク・ツァオバークンストも原型を留めないほどに破壊される。

数十mも吹き飛ばされ瓦礫に叩き付けられる。


「これで終わりだ。人間!」


ゼヴが迫って来る。

全身の骨が砕ける音を聞きながら、ツィーレンは最後の力を振り絞る。


「ゴホッ! ざ、座標、固定。制御システムを術式にて代用、転位誤差修正」


ツィーレンの周りに赤いコードが浮かび上がっていく。一つ一つのコードがこの状況を覆すための一手として機能するために光り輝く。


転位型砲撃ヤクト・ベシースング発射ッ!」


起動コードの発動と同時に膨大なエネルギーがゼヴの口の中で放たれ、それはゼヴの体内で爆発する。


「ゴッ!!? ガッ!!? カハッ・・・」


口から煙を吐きながら、その巨体が倒れ伏す。

白目を剥きピクリとも動かない。


「撃破確認。・・・後は時間稼ぎに徹すればッ!?」


ツィーレンの言葉が途切れる。

目の前で倒れ伏していた。ゼヴがむくりと起き上がったのだ。

口から血を流しているが、なるで堪えていないのかそのまま立ち上がってみせる。


「グォォォォォォォォッ!!!」


雄叫びを上げ、闘気を漲らせている。今の一撃では決定打にならなかったのか。


「化物め・・・」


ギロリとゼヴの目がツィーレンを捉える。

右腕が消し飛び、武器も破壊されている相手を。

もう虫の息の相手を睨み付ける。


「ヌハハハハ!! 敵ながらやってくれる! いいだろう。このゼヴも全力の一撃をくれてやる」


そう言って、腕を振り上げ筋肉を異常なまでに膨張させた。

強化の術式を用いないでの筋肉の巨大化。ゼヴだからこそできる。

人が抗える領域を超えた暴力が腕に、爪に溜めこまれ。


「・・・慣れないことはするものではないな」


振り下ろされた。

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