第十三話 殲滅神官
町の郊外に広がる平原に黒ずくめの二人組が姿を現す。
真っ黒に染まった神官服を身にまとって世界の色に黒という色の無い色を無理やりに付け足す。
主アイン・ソフ以外の光り輝く存在を抹消するために、ツァラトゥストラ教以外の教えをもたらす存在を殺すために、彼ら殲滅神官は存在する。
彼らの役割は、正しい教え以外を信じる邪教徒を探し出し尋問する異端審問官とはまた少し異なる。
彼らの狙いは邪教徒を探すことではなく、邪教の神そのものを殺すことが目的だ。
人が神を殺すことは不可能か、否。人の手の届かない存在でも、住む世界が異なろうと物理的に精神的に破壊する。そのための力を与えられた者たちが殲滅神官 ウォフ・マナフだ。
殲滅神官は、今回も主アイン・ソフ以外の超越存在となり得るものを殺すためにここに来た。
二人組の内、体格が普通の方が口を開く。
「巨人はまだ見えないか。あれが神話に登場するものと同一の存在ならば、主の眷属たちと同等の力を有していることになるが」
「・・・、・・・」
「案ずるな。我らはこの時のために研磨を重ねてきたのだ。後れは取らんさ」
もう一人の巨体の方が強敵であることに注意を促した。
喋っていないように見えたが彼らは通じているようだ。
そんな彼らは、平原を歩きながら、ふと、空を見る。日が傾き、夕暮れ時に差し掛かろうとしていた。
日が完全に落ちるまでに決着を付けたいところだ。
そう思っていると、空を見る視界の端に白い筋のようなものを捉える。
殲滅神官たちは立ち止まり注意深く空を凝視していく。
空に隠れる異物を逃さないと違和感のある所を潰していくと、白い筋の先で黒い蠢くものを見つけた。
「見つけたぞ。黒き巨人!」
「・、・、・・・」
「ああ、この世に我らが主と並び立つ存在は一つとして必要ない。ただの骸に変えてくれる」
そう言い放つと、殲滅神官たちは恐るべき速さで巨人のいる場所へと向かっていく。
それはもう飛んでいると言っても過言ではないほどの速度だ。平原を一直線に突き進んでいく。
もうすぐ異端の神殺しが始まろうとしていた。
その頃、風の団団長バティル、今は自警隊隊長のバティルとして城門前で陣を張っていた。
殲滅神官たちが城門を出てから半時ほど経つか。もうすぐ夕暮れになろうとしている。
報告で伝えられた出現地点にそろそろ到着する頃だろう。
バティルは、彼らの戦いを見届けるために自ら城門前の防衛についた。
本当は自分も戦いに参加し彼らの実力を確かめられればいいのだが立場上それはできなかった。
今は彼らを信じて待つしかできないが、まだ信じ切ることができないバティルは、偵察を出させて戦闘状況を常に確認できるようにしている。殲滅神官たちが敗れるようなら自警隊がすぐに迎え撃つ。
バティルが、各隊に防備を固めるよう指示を出す。
前衛である城門前には黒い巨人と戦闘経験のあるカイムとジズを連れてきている。ヴィドフニルには城門で巨人の足止めの準備をハンサとガルダはそれぞれ通用門の防衛を任せている。
町をどこから襲撃しても必ずどこかの隊と接触するはずだ。足止めをしている間に部隊が合流し包囲網を構築できる陣形。古典的な使い古された陣形だが、即席の組織でも問題なくこなせる陣形だ。
指示を出し終えると同時に偵察に出た隊から術式による合図が送られてきた。
魔力に反応する魔晶石と呼ばれる石を特定の術式で発光させる連絡方法だが、開けた平原でなら問題なく使用できる。合図の内容は対象と接触。いよいよ勝負の時が来た。
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ラガシュの中央、町にそびえ立つジグラットの一室でセトとリーベは保護されていた。
殲滅神官に保護されてからすぐにここに連れてこられたため、外がどのような状況になっているか分からない。それでも、セトたちはただ勝利を信じて待つだけだった。
不安や恐れがない訳ではない。黒い巨人があんな化物がここまで襲って来たらセトはリーベを守り切れるだろうか、いや、生き残れるのだろうか。
そんな考えがセトの頭をよぎっていく。
黒い巨人に狙われているリーベは、きっとセトが思う以上の恐怖を感じているのだろう。
今もセトの前で両ひざを抱えてうずくまっている。
目をギュッと閉じ両手を握るその姿は恐怖から逃れようと神に祈っているようだった。
これではダメだと、頭を振り思考を切り替えようとする。セトにできることはなんだと、自分の立場を再確認する。リーベと一緒に脅えることがセトの役割か、違う。
リーベを励まし今まさに戦っているみんなを信じるのがセトの役目だ。
セトはこの恐怖に飲まれそうな雰囲気を打ち消そうと声を出す。
アズラのように上手くできないかもしれないが、恐怖を和らげる効果はあるはずだと。
「リーちゃん大丈夫だよ。バティルさんやアズ姉たちが頑張ってくれているから」
「・・・」
「ほ、ほら、あの真っ黒な神官様も助けに来てくれたし何も心配することないよ」
「・・・」
「あ、えっと・・・」
しばらく、無言の状態が続く。
励まそうとしたが、口から出せたのはみんなが頑張っているから大丈夫という言葉だけ。
アズラのように相手が取り除いてほしい不安がセトには分からなかった。
アズラのように自分から温かい心を分けてあげることができない。不安を消してあげたいのに、温かい心を勇気を分けてあげたいのにやり方が分からなかった。
「・・・セトは、怖くないの?」
「僕は・・・」
セトは少し考える。自分はどうなのか、恐怖を抱えているのかを。一時的な恐怖ではない、自身を縛る根源的な恐怖はあるのかを。
「僕も怖いよ・・・。あんなでっかくて恐ろしい巨人に追いかけられたんだ。誰だって怖いよ。リーちゃんはそんな怖いヤツにずっと追いかけられて、僕が考えるよりもずっと怖いものを見てきたんだと思う」
「うん」
「でもね、リーちゃんはそんな怖いことなんかに、巨人なんかに負けないことを僕は知ってる」
「わたしが?」
「うん、だってリーちゃんは巨人から逃げ切って今ここにいるんだから。リーちゃんは怖いことになんか負けなかったんだ」
「でも、あいつ諦めてないよ」
「今は、一人じゃない。バティルさんにハンサさん、ヴィド爺にカイムさん、ガルダさん、ジズさんもいる。それに、アズ姉やセレネも、僕だって君の傍にいる。一人じゃ怖くて苦しくてどうしようもなくても、みんなでなら絶対何とかなるよ」
「・・・。そ・・・うかもしれない。みんなでなら・・・。なんかセト、アズ姉さんみたい」
「え? そうかな。僕も落ち込んだり、怖いときはこんな感じにアズ姉に励ましてもらってたから、知らないうちに励まし方が移ったのかも」
「アズ姉さんに励ましてもらった方がもっと元気になるかも」
「う・・・、アズ姉に励まされたい」
少しづつ、少しづつ不安が恐怖が薄らいでいく、リーベの顔から普段の表情が戻ってくる。
セトはそのまま話続けた。そのほうが、自分の恐怖も和らぐから。
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赤い光が平原に広がっていた。日が沈み始め夕日が空を覆う。
その夕日に照らされながら、黒き巨人が佇んでいる。
巨人の前には、同じく漆黒に染めた神官服を纏ったものが二人いた。
対象を確認した二人は戦闘態勢に移行する。杖を構え、殲滅神官として授けられた力を開放していく。
杖の周りを青白い光が浮かび包みこむ。その光景はジグラットでセトたちが行った洗礼の儀と似ている。あの時の青白い光が殲滅神官たちに力を与えていく。
「主アイン・ソフに仇名す存在よ、我ら殲滅神官の名のもとに滅びを与えてくれよう」
二人が杖に手をかざし青白い光をさらに輝かせていく。
杖の先に集まっていた光は膨張を続け生きているように脈動を開始した。
その脈動する光を見た瞬間、黒い巨人の様子が明らかに静観から怒りへと変化した。
漆黒の体に浮かぶ赤いラインを輝かせ、ブゥゥッゥウゥンと背中の突起を赤く発光させる。巨人の胸部に何か得体のしれないエネルギーが集まっていく。
世界が裂ける痛みを可視化したような感覚、人の手足を引きちぎる激痛と音を世界に与えているような錯覚。世界を引き裂いて溢れ出た血を凝縮していくように赤いエネルギーを束ねていた。
殲滅神官たちは、迎え撃とうとさらに杖の光を輝かせ脈動させる。もはやそれは、青白く光る肉塊のように蠢く。
世界の死を連想させる赤い球体が巨人の胸部より放たれた。
赤い球体は音速を超え、もはや抗えない速度で殲滅神官たちに直撃する。
音ではなく衝撃波が響き渡り破壊の限りを尽す。10mは超える土煙を上げ巨大なクレータを作り、圧倒的なエネルギーより発生する熱で地面が消滅していった。
土煙が舞い上がり、辺りの視界が塞がれる。
しばらくして、土煙から地面が見えるが、ただの地面だったそこは溶解し赤黒い溶岩へと変わり果てていた。ただの一撃で平原を吹き飛ばす威力。そう東の森の樹海を消滅させたものと同じ攻撃。
これだけの破壊を行っても、まだ、黒い巨人は次の攻撃に移ろうとしていた。
遠く離れたバティルたちもこの破壊を目撃する。遂に始まったとみなが唾を飲んだ。
「この威力・・・、間違いない。貴様、使途だな。たかだか遺跡固有種がこれほどの脅威になるとは思えぬからな」
乾いた声が変わり果てた平原に響き渡る。徐々に視界を覆っていた土煙が晴れていく、そこには、平然と立つ二人の姿が見えるが、二人だけではなかった。
全身が青白く、生皮を一枚剥いだような見た目をしているそれは、大きく翼を広げ異様に長い腕で殲滅神官たちを守っている。
全長5mほどの生々しい天使に見えなくもないそれは、見れば見るほど異様だった。
人の形をベースとして上半身はすべて複数の顔で構成されており、異様に長い腕だけが正しく腕の形をしている。下半身はなくさらに大きな翼がその変わりを果たしていた。
翼からは羽の間から小さな腕が見え隠れしている。
異形の天使と言えるべき存在。
「紹介しよう。主アイン・ソフの眷属セフィラが一体、サンダルフォン。我らが主の大いなる力とくと見せてくれる!!」
「・!! ・・・!」
巨体の方が杖に力を送った。
すると、さらに、青白い肉塊が生まれ蠢きだす。それはすぐさま形となり二体目の異形の天使へと変わった。より確実に敵を仕留めるために戦力を増強していく。
殲滅神官たちは力の出し惜しみはしない。
今すぐにでも目の前の敵を葬るために確実に勝てる戦力を準備していく。
先に、黒い巨人が仕掛けた。東の森での行動パターンとまるで異なる。
様子を見るのではなく攻撃を自身から仕掛けていった。
黒いドロドロとしたモヤを広げ、激流のように二体のサンダルフォンにぶつける。
こちらも今すぐ目の前の敵を葬ろうとしている。
二体を飲み込み押し流そうとするが、サンダルフォンは翼で黒いモヤを受け流した。
黒いモヤによる浸食がまるで効いていない。構わず黒い巨人は黒いモヤで剣を形作る。
バティルたちより奪ったマグヌス流剣術で一気に勝負を決めようと距離を詰めた。
その姿からは、もはや知性は感じられない。ただ憎い敵を殺すと告げている。
サンダルフォンの首を狙い、ブンッ! と黒い剣を振った。しかし、黒い剣は首に届かず青白く輝く翼に防がれる。だが、巨人はギチギチと剣に力を込め、無理やり引き裂こうとサンダルフォンの翼を抉りにかかる。
瞬時に、もう一体のサンダルフォンが巨人を突き飛ばし狂気の攻撃から解放した。
両者とも一旦距離を取る。
サンダルフォンは黒い巨人に対抗するように腕より剣を生成する。
ビキビキッと己の肉を変質させ剣の形へと変えていく。
神聖さとグロテスクを合わせた光景。
異形の天使たちも攻撃準備が整った。
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「セト、わたしねちょっとだけ覚えていることがあるんだ」
リーベは自分の失った記憶について語りだす。あの日、森で目覚めた以前の記憶について。
セトもリーベの記憶については気にかかっていた。
記憶。自分のこれまでの人生を構成する大事な記録。
出会った時は何も覚えていなかった。この名前もアズラが預けたものだ。
だが、僅かであるが覚えていることがあるという。
「夢の記憶なんだけどね。何もない広い荒野と黒い大きな島が浮かぶ湖の夢。」
「楽しい夢だったのかな?」
「ううん、怖い夢。途中まで不思議な夢だったけどだんだん怖くなって、最後は・・・」
「む、無理に言わなくていいよ」
「うん、でも、聞いてほしい。わたしの記憶だから」
リーベは自分のことを打ち明けるように夢の内容を説明していく。
「夢の中でね、黒い大きな島を冒険するの。そこには黒い虫さんがいっぱいいて、あ! あの遺跡の中にいた大きな虫さんだよ」
「大きなって、もしかしてメアのこと? 遺跡の出口にいた?」
「うん! その大きな虫さんが赤い光をいっぱい出してるの。その中を歩いて行って、わたしと同じ赤い髪の女の人と会うの」
(同じ赤い髪の人・・・)
セトは思わず考えた。リーベの家族ではないかと。まだ分からないが可能性は高いと思う。
リーベの話の続きを聞いていく。
「それでね、その女の人は4匹の少し怖い動物さんと話をしていて。そこからだんだん怖くなるの・・・。動物さんたちは島を壊すっていってて、女の人はイヤだって訴えてて。だけど、動物さんたちは島を壊してしまうの。そのときに、あいつが夢に出てきたんだ。真っ黒な巨人が。女の人は助けに来た男の人と一緒に炎に包まれていって、わたしは途中で島から落ちてしまってそこで終わってしまうの」
「二人はどうなったの?」
「この後は、夢もなんだか滅茶苦茶でよく分からない。・・・わたしの夢から何か分かりそう?」
「うーん・・・、そうだな。4匹の獣か、ツァラトゥストラ教神話の中に4匹の聖なる獣の話があるけど何か特徴とかあったかな?」
「あったよ。動物さんたちはね顔がいっぱいあるの、真っ黒なのと真っ白なのカラフルなのもいたよ」
「! 真っ黒なのは女の人みたいな感じだった? 羽も生えているみたいな」
「そうだよ! 鳥さんみたいだった」
「うん、リーちゃんの記憶が少し分かったかも。たぶん、ツァラトゥストラ教神話の話を元にした夢を見たんだ。神官様か家族からか話を聞いたんだよ」
少し、ほんの僅かではあるが、リーベの記憶を取り戻す希望が見えてきた。
この情報を元に辿っていけばリーベの記憶に関係する場所や人物に出会える可能性がある。
リーベのことを知っている人に会えるかもしれない。彼女の不安を完全に取り除くことができる。
残る要素は、リーベと黒い巨人の関係か。
リーベの夢にも登場してくるが、ツァラトゥストラ教神話にあんな巨人は登場しない。
いや、巨人と明記されていないだけで実は登場しているのかもしれないが。
ツァラトゥストラ教神話。
様々な神話があるが、代表的なのは創世記とツァラトゥストラ戦記だ。
創世記は、主アイン・ソフが異界の神と出会い世界の美しさを知り、他者との違いを知る物語だ。
ツァラトゥストラ教は唯一神として主アイン・ソフを信仰しているが、神話の中に唯一、一柱だけ例外として登場する神がいる。
名は異神。異界の神。
異神はこの世に争いと悪を誕生させた邪悪な存在で神ではないともいわれているが、主アイン・ソフに世界の美しさを説いた存在でもある。主アイン・ソフと異神が互いに相手の異端さに気付いて、争い別れるまではとてもいい物語だ。
そして、ツァラトゥストラ戦記。
これは、神話というよりはツァラトゥストラ教の誕生とその後を語った歴史といった方が正しい。
ツァラトゥストラ戦記には、今から4000年ほど前にツァラトゥストラ教が誕生したと記されている。
この年代に、主アイン・ソフを信仰する者たちと異神を信仰する者たちで戦争が起き、勝利したのが主アイン・ソフを信仰する者であったとされている。
異神を信仰する者たちのことを黒き異端者と戦記では記されているが、もしかしたらこれが黒い巨人のことだろうか。
ツァラトゥストラ教誕生後は、神話から人の歴史へと移り帝国の誕生と王国との争いの歴史が記されている。その歴史の中でも時折、黒き異端者が登場するがすぐに滅ぼされるか、主アイン・ソフに逆らった者たちへの罰の象徴としても登場している。
黒い巨人は神話とは関係がないのだろうか。セトの知る知識だけでは答えが分からない。
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かつて平原だった場所で、三体の化物が殺し合っている。
ガギンッ! ギンッ! と黒い巨人とサンダルフォンが剣と剣を交差させ、互いににらみ合う。黒い巨人の動きが止まった所をもう一体のサンダルフォンが強襲するも、両腕より出した黒い剣で2体同時に相手取る。
一体づつ片手で相手をし、荒々しく舞うようにサンダルフォンたちに手傷を負わせていく。
サンダルフォンたちは、黒い巨人と完全に拮抗した状態に攻めあぐねている。
いや、黒い巨人の方が徐々に優位になりつつある。
殲滅神官たちも、2対1の有利な条件で攻めきれないことに危機感を抱いていた。
だが彼らは、冷静さを失わない。2体で足りないならさらに戦力を投入するだけだ。
「サンダルフォンへの同調を任せる。私がヤツの動きを止める隙に止めを刺せ」
「・・・!」
巨体の殲滅神官にサンダルフォンへの指示を任せ、黒い巨人の足止めを行う。
杖に力を注ぎ、青白い肉塊をさらに生み出す。
青白い肉塊は巨大な腕となり黒い巨人を捉えようと伸びる。
四方八方より迫り巨人の動きを奪うが、巨人は迫りくる複数の青白い腕を次々と切り伏せた。
サンダルフォンと連携させないよう黒いモヤで牽制しつつ黒い剣にエネルギーを集中させていく。
巨人の素早い対応に殲滅神官の援護も役目を果たせない。とても巨人とは思えない身軽な動きを殲滅神官の前で披露する。
攻撃を崩された殲滅神官たちが態勢を立て直そうと距離を取った瞬間、巨人が背中を丸め、左右対称に生えている突起の間より、黒い膜の羽を展開した。
ギュッン! とサンダルフォンとの間の空間が圧縮され音が響き、自身の全体重を乗せた速度でサンダルフォンに一閃を刻む。
ザンッ! と肉が断たれ赤い血が噴き出す。剣が折られ上半身から下の感覚が消失する
胴体が寸断された。異形の天使の一体が血の海に沈む。
「!!??、・・・!? ・・ッ・ッ??」
巨体の殲滅神官が仮面の内側から血反吐を吐き、激痛に体を震わせた。
もう一体のサンダルフォンの動きが鈍る。その隙を巨人は見逃しはしない。
「それでいい!! サンダルフォンよ血肉が腐り落ちるまで主の敵を縛り付けよ!」
血の海に沈んだサンダルフォンがモゾモゾと蠢き、切断面より大量の腕を生やした。
体内に巣くっていた虫が宿主が死んだと同時に腹を食い破って溢れてきたように。
寸断された胴体を飲み込む速度で腕を生やしていく。
殺したと思った相手からの奇襲をまともに受け、巨人がその自由を奪われ腕や足を捕まれ拘束された。
もう一体のサンダルフォンが剣を突き立て、巨人に向けて突進する。
巨人の黒いモヤも殲滅神官が伸ばした青白い腕でかき消す。
ズンッ! と黒い巨人の胸に剣を突き刺した。
「__ッッ! ___ッ___ッッ!!」
声にならない悲鳴が人の言葉ではない悲鳴が響きわたる。
突き刺された胸より、ドス黒い液体を噴き出し膝から崩れ落ちていく。
殲滅神官たちは油断せずに状況を確認する。
念には念を入れサンダルフォンに黒い巨人の首を刎ねさせる。
終わった。主アイン・ソフに仇名す存在は今骸と変わった。
黒い巨人は自身のドス黒い血に沈んでいる。
殲滅神官たちは自警隊へ連絡をしようとこの場を離れていく。
傷の手当が必要だ。サンダルフォンを一体失ったのは大きな損失だが、教義の礎はこれで盤石なものとなった。そう思えればこの傷と損失も十分に埋め合わせることが出来る。
ギギ・・・。
不快な音が響く。
すぐさま振り返り、巨人を確認するがドス黒い血に沈んでいる。何の音だと周囲を警戒する。
ギギ・・・とまた響き渡る。巨人はドス黒い血に沈んでいっている。
「!? まだ生きていたか!!」
ドス黒い血に沈み見えなくなった巨人に剣を突き刺すが手ごたえがない。
ドス黒い血はどこまでも飲み込んでしまう深い穴のように見えた。
剣を突き刺したサンダルフォンが唐突にピクンッと硬直した。
もう一人の殲滅神官も血反吐を吐く。
ドス黒い血の中心より長い黒い剣が伸び胸を刺していた。
サンダルフォンが倒れドス黒い血の海に沈んでいく。そう文字通りに地面の底へ深い穴の中へ。
ドス黒い血の中心より黒い巨人が再び姿を現す。
負わせたはずの傷は完全になくなり、背中の左右対称に生えている突起より大きな黒い翼を展開していた。今までの黒い膜の羽ではない。殲滅神官たちの視界を完全に塞ぐほどの大きな黒い翼。
背中には赤いリング状の発光体がすぐ後ろに浮かび上がっている。
最大の攻撃手段であるサンダルフォンを失い殲滅神官たちは玉砕覚悟の攻撃に移ろうとする。
この戦い結果は自警隊の偵察隊がどこかで見ているだろう。
使命が果たせないのは悔やまれるが、せめて彼らとの約束は果たさなければと巨人を道ずれにしようと杖に力を籠める。
だが、黒い巨人は、町の方をジグラットを見てドス黒い血へと沈んでいき姿が見えなくなった。
「・・・! 居場所がバレたか!」
急がなければ、ジグラットには巨人に対抗できる戦力は配置されていない。
5000文字ぐらいの予定のはずが、なぜか8000文字になってしまった。
もう少しプロットとかをしっかりした方がいいのかもしれない。