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僕と姉の神話遭遇記  作者: 暁0101
第六章 顕現せし五血衆
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プロローグ 仮初の平和が滅びるまで

「アプフェル商会本店、完成です!!」


それはまだ平和だった時。

僕たちは各々の夢を見て、それに向かって明日を見ていた。


「異神って今どこにいるの? あなたたちの所?」


「よし、じゃあ、改めてヒギエア公国に出発!」


それはまだ彼女が自分のことを知らなかった時。

知らない、覚えていないけど、彼女は幸せそうだった。

僕も彼女といられて楽しかった。


「御紹介に預かりました。王護 森羅と申します。よろしくお願いしますね」


「ふふ、簡単に言いますわね。四公国から選りすぐりの騎士が王都に集まり、最強の騎士を決める大会ですのよ?」


それはまだ平和だと思っていた時。

僕たちはカラグヴァナ王国でも有数の大会。四公国騎士団統一戦に参加することになった。


「戦・・・争があったの?」


「やだ・・・、ヤダッ、ヤーッ!!」


それは平和が仮初だと気付いた時。

彼女との楽しい旅は、薄暗い戦火の影に包まれた。


「オオオオォォォォォォッッ!! 怪・力・招・来ッ!!」


「そこぉぉおおお!!」


それは決意した時。

旅が終わり統一戦へ参加するための修行が始まる。

もちろん、簡単にとはいかない。姉に置いていかれないための、いや、みんなを守れるようになるため死に物狂いでついていった。


「あーれー? 聖女様どうしてここにいるのー?」


「エハヴァ・・・、わたしの本当の名前・・・」


「リーベは聖女で間違いない。吾輩らで彼女を守るぞ!」


それは彼女が自分のことを知った時。

とても、とてもうれしい出来事。

そして、彼女を守り抜くと再度誓う。


「安心しろ・・・、これで痛みは取れる。・・・負けた身で言うのはなんだが、騎士団統一戦に出すのは早かったのではないか? これでは次の試合は持たない・・・」


「強いヤツは好きだゾ! だから感謝の気持ちッ!!」


それは勝負の時。

これまで積み重ねてきた全てを試合にぶつけた。


「強くなったなセト・・・。だが、まだだ。姉ちゃんを助けたいんだろ? ならここで満足するな」


けれど、僕は負けてしまう。

でも、それは意味のある敗北だった。


仮初の平和の中で、僕はこれだけのモノを得た。

でも、それは仮初の中で得たものだ。


「ああ、向かうとしよう」


「今ここに契約は成された。主アイン・ソフの加護に感謝を」


それは僕の知らない時。

僕が、みんなが知らない時に、仮初の平和はいとも容易く終わった。



----------



轟音が鳴り響く。

闘技場を覆いつくすように見渡せる全ての景色が崩壊していく。王都の基幹を支える柱、ツェントルム・トゥルムが崩壊している光景だ。

空から町が落ちてくるかのように、上層区画が柱の内部に陥没しセトたちのいる闘技場へと降り注ぐ。


「吾輩の近くにッ!!」


降り注いで来る瓦礫をかわしながらルフタが叫ぶ。セトたちを一か所に集め、障壁の神術を最大出力で展開した。

半透明な青白い壁が瓦礫を弾きこの地獄に僅かなセーフゾーンを創り出す。


「他の人が!」


「お前さんたちを守るので限界である!」


セトが瓦礫に押しつぶされていく人々を見て悲痛な声を上げるが、助けることは出来ない。


「アズ姉ッ!!」


「ッッッ!!?」


事態を飲み込む前に、異変にセトたちが飲み込まれていく。

一気に光を失う王都。人々から光が奪われ暗闇に包まれる。そして、それを証明するかのように崩落した上層区画が闘技場を押しつぶしていく。

セトたちが認識している世界が押しつぶされ、音も光も、感覚さえ消える。


(・・・)


王都の基幹を支えるツェントルム・トゥルムが崩壊したことにより、その上層にあった区画が下層へと崩落した。

町が、町を押しつぶす。こんなことがあってはならない。

その光景を見た者はそう叫ぶだろう。見ることが出来れば。


(・・・・・・)


(・・・・・・・・・ッ)


暗闇に包まれた王都の中で、ガチャリと瓦礫が動く。

瓦礫に埋もれたルフタが自力で這い出してきた。


「ッー・・・、セト! リーベ! エリウ! 無事か!! 無事なら返事をしてくれッ!!」


障壁の神術のおかげで瓦礫に押しつぶされずに済んだようだ。

ルフタはすぐにセトたちを探す。


「ランツェ! アズラ! 吾輩の声が聞こえるか!」


自分の側にいたなら無事なはずだと、みんなの名前を先びながら近くの瓦礫をかき分ける。

大丈夫だ。セトたちなら大丈夫だと必死に暗闇の中を探し続ける。


ボンッ! と何かが破裂するような爆発するような音が遠くから聞こえた。

ボンッ! ボンッ! ボンッ! とそれは連続で何かを追い回すように鳴り続ける。

ルフタが目を凝らす。音と連動して光が見えた。丁度、リングがあった場所辺りか。

音を警戒し身を屈める様子を窺おうとすると、真横の瓦礫が崩れた。


「ゲホ、ゲホ!」


「セト! 無事か!? リーベは!?」


「大・・丈夫、リーちゃんもいるよ」


「・・・う、・・・」


音に気を取られている間にセトとリーベが瓦礫を押しのけて出て来た。

二人の無事が確認できた。後は。


「エリウとランツェを探すのである。セトも手伝うのだ」


「う、うん!」


だけど近くにいない。崩落に巻き込まれた時に、遠くに投げ出されてしまったのか。

ルフタとセトが懸命に瓦礫をかき分けていく。

周囲から崩落に巻き込まれた人たちの声が聞こえ始めて来た。

かなりの生存者がいる。


「エリウ、どこにいる。エリウ!」


「は、離れてゴメンニャ・・・」


エリウが怪我をした人を抱えて戻って来た。どうやら彼女だけ離れた所に吹き飛ばされたらしい。

一足早く気が付きそのまま救護活動をしていたようだ。

すぐに治癒の神術で手当てをするルフタだが、彼一人では限界がある。

まずは避難が最優先だ。まだ、崩落が収まった訳ではない。


「お前さんたちここから避難するのである。塔の外まで移動するぞ」


「待って! アズ姉とランツェさんが」


ルフタたちが避難をしようとした瞬間、セトが引き留めた。

二人がまだ見つかっていない。


「僕探してくる!」


「待つのだセト! 一人で動いてはダメである」


「でも!」


セトが焦り抑えられずに飛び出して行こうとする。ランツェはセトたちと少し離れた所にいた。そのせいでルフタの障壁の神術の中に入れずに崩落に巻き込まれた。

アズラは試合中だったため、今どうなっているかすら分からない。

ルフタの神術で守られていなかった。だから、すぐにでも助けなければとセトがルフタの声を無視しようとする。


「まずは自分の安全を確保するのである! それに、リーベを置いて行ってどうするのであるか!」


「・・・ッ! ・・・それは」


なんとかセトが踏みとどまる。

踏みとどまったのを確認したるルフタはすぐに行動を開始した。


「セト、二人は術式を使える。それにアズラには森羅殿も一緒にいたのだ。大丈夫だ。すぐに会える」


「・・・うん」


「分かった。まずは、ランツェを探すのである。近くにいるはずだ」


セトの気持ちも分かる。だから、近くにいるであろうランツェを探すことにする。

とは言ったものの、王都内の明かりが落ちているのだ。自分の手すらまともに見えない。

確かこの辺りにいたはずと手探りでランツェのいた所を探すが。


「無い・・・」


ルフタが信じられないと声を出す。

無いのだ。

ランツェのいたはずの所が、ゴッソリと抉られ崩れ落ちている。

上層から落ちて来た瓦礫が直撃したのだろう。闘技場がその部分から無くなっていた。


「ルフタさん・・・」


「・・・ランツェは先に避難したのかも知れん。吾輩たちも避難しよう」


絞り出すように声を出し、その場を離れる。

すぐに避難したのは正解だった。建物の半分が失われた所に長時間いれば、今度こそ建物の倒壊に巻き込まれて死ぬことになる。


「エリウ、怪我人の具合は?」


「ルフタのおかげで、だいぶマシにニャったニャ」


怪我人の様子を見ながらゆっくりと進んでいく。徐々にではあるが暗闇に目が慣れてきた。

進むスピードも上がっていく。

辛うじて観客席だと分かる道をたどりながら闘技場の出口へと進む。

建物の内部は崩落に押しつぶされてダメだろう。

瓦礫の上に上がり崩れた外壁をつたって降りるのが無難か。


避難ルートを模索していたルフタが顔を上げた瞬間、王都に明かりが戻った。

暗闇から一気に真昼間の明るさになる。

眩しさに思わず手で顔を覆った。

そして。


「なんということだ・・・」


彼らの目の前を覆っていたのは、世界を分かつ壁だった。

崩壊し崩れ落ちて来た上層区画がそのまま壁となって出口を塞いでいる。

町が縦に地面に突き刺さっている。

異様な光景。見慣れた景色の角度を変えるだけでこうも終焉を感じさせるものとなるのか。


町の壁の下に赤黒い何かが見える。

セトはリーベの目を手で覆った。

人だ。

町から投げ出された人が、地面に叩き付けられた跡。

何十、何百と無防備な人々が固い岩に叩き付けられたそれが、白い瓦礫の中で赤を強調していた。


「あれだけ大きいなら隙間もあるはずである。行こう」


「はい」


「セト・・・? 見ちゃダメなの・・・?」


「うん。ダメ・・・なんだ」


リーベを守るように目を覆いながらセトは進む。

瓦礫を上り、崩れて地面までの道となった闘技場跡を歩いていく。

なんとか地面までは降りることが出来た。

血だらけの人が倒れているが、自力で動ける人のだれも助けようとはしない。

助けている余力がない。例外なくセトたちも。


今すぐ助ければ命が助かるかもしれない。そう思いながらセトは横を通り過ぎていく。

だんだんと町の壁が近づいてきた。

王都の上層一区画が丸ごと地面に突き刺さっている。近くで見ればその分厚い壁の圧迫感がこちらに迫ってくるようだ。

セトたちが身を寄せ合い呑み込もうとしてくる圧迫感に耐えようとする。


「・・・?」


少し、揺れた気がした。まさか、また崩落が起こるのかとセトたちが身構える。

ズドドドドッ!! と大きな音とともに地面が揺れ始めた。

町の壁が斜めに傾いていく。


「わ、わっ!」


「あちしの手を取るニャ!」


こけそうになるセトとリーベをエリウが支える。

揺れはさらに激しくなる。

縦になった町が崩れながらさらに地面に沈み込み。

いきなり跳ね上がった。


そして。

真横へと滑るように何かに押しのけられる。


揺れが収まったが、砂煙が舞っている町の壁が動いたことで出来た隙間に動く影が見える。

セトたちは武器を構えて警戒していく。

その影はゆっくりと動きながら徐々に大きくなり、姿を現した。


3、4mは在ろうかという大きな肉体にツヤのある綺麗な毛並みをした体。

そして、獲物を食い殺す凶悪な狼の顔を持った者。簡単に言い表すなら二足歩行をする狼。

青い毛の亜人。

その姿はもう亜人とは思えない規格外の姿だ。


その巨大な口から蒸気のように白く熱い息が溢れ出し、全ての命を食らい尽す声が。


「グォォォォォォォォッッオオン!!!」


鳴り響く。

その声だけで敵意を抱いた者の全てが砕かれる。

戦う意思も、逃げる意思も全て。


「このゼヴに連なる子らよッ! 時は来たァ!! 人間と神の呪縛から解き放たれる時がッ!!」


声に。

この声に王都全ての亜人が顔を上げていく。

耳を傾け、自分たちの父の言葉を脳に刻み込む。


「その時をこのゼヴが始めよう。そして、滅ぼすのだッ!! カラグヴァナをッ!!! 人間の世をッ!!! 亜人の始祖たるこのゼヴが、子らの未来を勝ち取ってくれる!!!」


この声が始まりだ。

仮初の平和など平和と呼べるような代物ではなかったということ。

それを知らしめていく。


この世界に平和など一度も訪れたことが無いという事を。

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