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僕と姉の神話遭遇記  作者: 暁0101
第五章 四公国騎士団統一戦
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第百三十一話 動き出す運命

森羅が部屋に戻って来ると、セトたちがアズラの勝利を祝福していた。

相手であった空のヴェーダの実力は本物だった。それに打ち勝ったアズラはこの勝利を誇っていいだろう。

少し遅れて森羅も勝利を祝福する。

アズラは試合を見ていなかったことなど気にもせずに喜んでくれた。

だけど、やっぱり見守っていなかったことは事実。

森羅は詫びを入れる。


「すみませんアズラ。ちゃんと試合を見てあげられず。お詫びに第三試合終了後はみんなで美味しいものでも食べに行きましょう!」


「師範、誤魔化そうとしてるでしょ?」


「うっ・・・」


アズラが、スパッと言葉の裏を突いてきた。

勘のいい人というのは嘘などを見抜きやすいと言われるが、些細な表情の変化などに気付くのかもしれない。

そんなことを思った森羅は観念したように自身の疑問を説明した。


「・・・少々気になることがありましてね。この騎士団統一戦が開かれた本当の理由です」


「騎士団統一戦が開かれた理由?」


「はい。先ほども、それを調べるため王都の主要施設を見て回っていたのですが、警備体制というよりも襲撃に備えた防衛体制が引かれていました。恐らく、外敵の排除を専門にする剣の騎士団と術導機の混合部隊。王都内に配置するのは不自然な組み合わせです」


森羅の説明にセトたちも疑問を浮かべる。なぜ治安維持のための鎧の騎士団に警護させずに、魔獣や敵国の兵を排除する剣の騎士団を配置しているのか。

確かに気になる。指示しているのは剣の騎士団の団長だろうか。

それとも。


「師範、騎士団に命令を下せるのって王族だけですよね?」


「騎士団全体を動かせるのは王族の中でも王位継承権十位までの者ですね。そして、騎士団統一戦開催中のこの時期は、主催者であるタウラス第一王子が指示したはず。他の王族が手を出せば即座に派閥争いに発展しかねないですから・・・」


森羅は難しい顔をしながら、自分の中に浮かんだ疑問を考えている。

なぜ、タウラス第一王子はこんなことをしているのだろう。

どんな理由があってしているのか、本人に聞かなければ分からないかも知れない。

考え込む森羅にセトが質問する。


「師範、この事って騎士団統一戦に影響しますか?」


セトは少し心配している。今まで頑張って来た修行に、試合での勝利。

それが無意味になってしまう可能性があるのかと。


「そうですね・・・。今のところは影響は無いと思っていいでしょう。ただ、ウィリアム様とフローラ様には何かしてくるかも知れません」


「フローラに・・・ですか?」


フローラが狙われているかもしれないと聞きアズラが静かに怒りを滲ませる。

彼女にとってフローラは親友だ。その親友に手を出すなど許しはしない。

アズラの怒りを感じて、脱線してしまった話を森羅がすぐに軌道修正し話を畳みに行く。


「どんな理由があるにせよ警戒はしておいて損はないでしょうね。まぁ、まずは統一戦の優勝を目指しましょう。私は第三試合に勝てば、風のスィームグルと対戦することになります。アズラは、シャホルという一般枠の者か唯一勝ち残っているヒギエアの騎士になりますね」


「はい」


今は騎士団統一戦の最中だ。アズラと森羅は次の試合に向けて準備を進めていく。

その間、セトとランツェは情報収集を行う。試合に負けたとしてもやれることはある。



----------



もうすぐ第三試合の三回戦が始まる。

この試合に出てくるのは、謎の少女シャホル。

セトたちに会いたいなぁっと思っていたリーベが彼女を応援するため観客席から一番よく見える席に移動していく。

彼女の相方であるラバンは負けてしまったが、アズ姉さんが相手だったのだ、ラバンに勝ち目は無いとリーベは思っていた。

さて、勝ち残ったシャホルはどうなるか。

リーベとしては勝って欲しいのだが。


「あ! シャホルだ。おーい!」


リングに上がって来たシャホルに手を振る。

一枚の薄いピンク色のブカブカな服を纏い、羽衣のような布を手首につけてヒラヒラとひらめかせている。

肌は黒く、髪は白。そして、額には特徴的な一本の角が付いた当てをしているのがシャホルだ。

出会った時はローブを羽織っていたが、統一戦の規格により武器を隠してしまう服装はダメとのことで、試合中はローブを脱いでいる。


リーベが声を出して呼びかけた。

すると、シャホルはやっぱりすぐに気付いてくれる。こんなに大勢の声の中からすぐにリーベの声に気付くのは凄いと言えだろう。

もしかしたら、エール族の特徴なのかもしれない。


「もうすぐ試合であるな。しっかり応援するんだぞ」


「うん! セトとランツェの分も応援する!」


「その分はアズラたちに取っとくのである」


ルフタがリーベと一緒に応援をしてくれるようだ。

第三試合にはセトたちが全四試合中、三試合も出ているので、ルフタはこのまま全部の試合を見てしまってもいいだろうと予定のやりくりをしている。

ルフタもなんだかんだ統一戦の試合を楽しんでいるのだ。


「エリウは?」


「あそこで寝てるのである。そのうち起きるからほっといていいだろう」


リーベが顔を向けると、お腹をポヨンと膨らませたエリウが大の字で倒れていた。

食べ過ぎの満腹で爆睡中だ。


「ZZZZZZZ・・・、ムニャ」


幸せそうな顔をして寝ているので起こさなくてもいいやと、リーベは試合に集中していく。

リングにシャホルの対戦相手がやって来た。

石のような白い鎧に、背中に背負った細長い筒のような装備。

ヒギエア騎士団代表のツィーレンだ。ガスパリス公爵の近衛騎士団長カクトゥスと副団長のシュトゥンプフが敗退した今、彼だけがヒギエアで唯一勝ち残っている騎士。

そのツィーレンがリングの中央に立つ。


リングに立った二人を見た者は皆こう思うだろう。大人と子供だと。

それだけの体格差がある。だが、それをものともせず勝ち上がってきたのがシャホルだ。

また、シャホルが大人たちを打ち負かすのかと観客たちの視線が集まっていく。


甲高い笛の音が鳴った。試合開始だ。

開始したがシャホルは動かない。

対してツィーレンは即座にリングの端へと飛翔した。これが彼の必勝パターンだ。

風の術式で直径100mはあるリングの端に移動し、遠距離から坦々と術式による狙撃を繰り返す戦術。

相手の行動に合わせて狙撃に用いる弾の種類を使い分け完封するのだ。


その最初の一手をツィーレンが完了する。背中に背負われていた細長い筒に魔力が走り、その輪郭が白く明滅する。


標的(ターゲット)捕捉。座標修正開始。攻撃を開始する」


まるで機械のように決まった順序、台詞を吐いていく。

自分の意志を削ぎ落し、感情を殺し。ツィーレンは騎士という名の兵器になる。

攻撃態勢に入ったツィーレンを見ていたシャホルは、それは見飽きたと言いたげにあくびを一つしながら。


「それー、前の試合でも見たよー。そればっかりじゃーつまらなーィ!?」


いきなりシャホルの顔から爆発が起こる。

愚痴が言い終わる前に、彼女の顔面に弾が直撃したのだ。

ツィーレンが筒状の装着型術導機メヒャーニク・ツァオバークンストに魔力を込め直していく。

坦々とその繰り返し。

見ている側からすれば全く面白くない戦いだろう。遠距離から嬲るだけの見世物なのだから。

だが、それでいい。彼が見て欲しいのは、何も知らない愚民たちではない。

この装着型術導機メヒャーニク・ツァオバークンストを必要とする権力者たち。そして、これを使わせるであろう者に見せているのだ。


ボンッ! ボンッ!


破裂するような爆発音が坦々と鳴り続ける。初撃で動きを完全に止めたシャホルに連続で打ち続けている。

感情もなく坦々と。


ボンッ! ボンッ! ガッ! ボンッ・・・!


「? 異変を確認。攻撃中止」


坦々と同じタイミングで攻撃していたのに爆発音が途中で途切れ、遅れて聞こえて来た。

ツィーレンが装着型術導機メヒャーニク・ツァオバークンストへとさらに魔力を通していく。すると、筒状の装備、砲身の後方部分が開放され鏡のような板が円状に展開された。

展開された円状の板には攻撃対象の情報を収集する機能が備わっており、必要な情報が可視化されて使用者に伝えられる。

その中心を覗き込んだツィーレンが見た情報は。

顔から血を流しながらも、砲身より発射された弾を素手で殴り飛ばすシャホルの姿だった。それが、数刻前。

そして、今は。


「お前ー、最低!」


狙撃をかわし目の前まで迫っているシャホルの姿がツィーレンの肉眼に映り込む。

およそ50mはあるだろう距離を5秒以下で接近してきた。だが、人間離れした動きに対しツィーレンは冷静に判断を下す。


「近接戦開始する」


細長い砲身が中ほどで分離しパージした。接近戦には長すぎる砲身を短くしたのだ。

短くなった砲身の銃口がシャホルに向けられ術式により発射命令が下る。


ガガガガガガガガガッッ!! と狙撃していた弾と異なって弾が連続で吐き出された。

砲身の正面にいたシャホルを穴だらけに。


「対象喪失!?」


なっていなかった。それどころか見失っている。ツィーレンに焦りが出てきた。

この装着型術導機メヒャーニク・ツァオバークンストは本来かわすことが不可能な攻撃手段を有する武器として開発されている。

四大系の術式などに代わる革命的な遠距離攻撃の確立。

のはずなのだ。


「そーの武器、メアたちに似ているねー。マネしたのかなー? 無駄だけど」


ガガガガガッッ! と声のした方に弾を撒き散らす。

ツィーレンはもう敵を捕捉するのを放棄している。


「予測位置にて対処する」


シャホルを捉えるのは今の装備では困難だと判断し、隙を窺いながら弾をばら撒いていく。

その光景に観客たちが熱狂する中、リーベは。

リーベは既視感を感じて二人の戦いを見ていた。


ばら撒かれる火の飛礫とそれを圧倒する存在。

確かにどこかで見た気がする。

どこかで。


「・・・夢だ」


ポツリとリーベ呟いた。

試合とはまったく関係のない言葉をルフタが疑問に感じる。


「どうしたのだ? 何か気になることでもあったのであるか」


「うん。夢で見たことがあるの」


「夢で? 何をだ?」


リーベに言っていることがいまいち掴めない。

理解できない間にリーベの顔色が悪くなってきた。だんだんと青ざめていっている。


「大丈夫であるかリーベ。一旦、部屋に戻ろう」


「・・・うん」


「ほら、エリウ起きんか! 部屋に戻るのである」


「ZZZ、ッ! ニャ! も、戻るのかニャ?」


気分が悪いのだろうか、足元がふらつくリーベを抱きかかえてルフタが部屋へと戻っていく。

ほっぺに手を当ててみるも熱が出ている訳ではない。

安静にした方がいいだろうと判断しルフタたちが部屋へと急ぎ、観客席を後にしようとすると。


「どうしたのですか? 具合が良くないのですか?」


部屋に戻ろうとしたルフタたちにライブラが気付いて声を掛けて来た。

顔色の悪いリーベを見て心配そうにしている。


「うむ。リーベの体調が優れないようでな」


「なら、僕の部屋に。医師もいますから」


「ありがたいである。王子殿下案内を頼めるだろうか?」


「もちろんです」


医師が待機しているライブラの使用している部屋に行先を変更し、観客席を出ていった。


ルフタたちがいなくなった後。

唐突に試合の決着が付く。


ツィーレンが撒き散らす弾をシャホルが軽々とかわし翻弄していく。ツィーレンが砲身をこちらに向ける頃にはシャホルは既に居らず、彼女を捕捉せずに攻撃しているツィーレンは無意味に弾を吐き出している。

その流れを一瞬で行うことが出来る。それがシャホル。いや、エール族だ。

彼女たちの前では、ただ速いだけの攻撃は当たらない。打ち出すまでの挙動、腕や筋肉の微細な動きから分かる予備動作でどこにかわせばいいのか分かるのだ。

だから当たらない。

かわすことが不可能な攻撃とは人がかわせないだけで、彼女たちには関係ない。


「そーれ」


「グゥッ!」


無手に振るわれた爪がツィーレンの腕を切り刻む。

鎧越しに大きな四本の爪跡が肉を抉っていた。

傷を負ったツィーレンはすぐに防御態勢を取り対処していくが。


「半端に強い奴ってムカつくー。つまらない殺し合いが長くなるんだもーん」


無動作に右腕を広げ、力を籠めていく。指先にまで血管が浮き出ていきデタラメな攻撃を繰り出そうとしている。

それは分かるのだが対処しきれない。自分よりも確実に格上。

そのことをツィーレンは自覚しつつ、それでも勝利のための道を探っていく。

砲身を構え直し、立ち止まっているシャホルを捕捉する。

次、彼女が動いた時が勝負だ。ツィーレンの意識が研ぎ澄まされていく。


「お前はー、失格かなー。もっと強い奴じゃないと」


そう言いながらシャホルが動いた。

ツィーレンはすぐさま、円状の板でシャホルの情報を徹底的に、些細なことも集めて狙いを付けようとしていくが。

速すぎて、狙いを付けれない。


シャホルの動きに翻弄され、かき回されて。

敗北を予感したその時。


「あッ!! 導師様ッ!?」


「!!」


ツィーレンは迷わなかった。もはや冷静な判断でもなく。ただの反射神経で砲身に発射命令を送る。

それは勝負を決定付ける一撃。


ガガガガガガガガッッ!! と観客席の方を向いているシャホルに火の飛礫が大量に撃ち込まれた。

シャホルの胴体に無数の穴が空く。黒い穴が華奢な彼女の体に致命的なダメージを与えていき、そこから血が噴き出してきた。


「あ・・・、やっちゃったー・・・」


力なくシャホルが倒れ、試合終了の笛が鳴り、赤いコードが二人を包む。

赤いコードが消えた後にはシャホルの姿は無かった。


(戦闘終了。・・・奴は何に気を取られたんだ?)


ツィーレンはこの勝利を勝利だとは思っていない。自分との試合を放棄するほどの何かが彼女にあったということだ。

自分を無視するほどの何かが。



----------



試合が終了した瞬間、二人は全速力で闘技場を後にする。

シャホルを肩に抱えてラバンが王都に立ち並ぶ家の屋根を飛び回り、飛んだ先に浮かんでいた術導機を蹴り飛ばす。


ヤバい。

非常にヤバい。

見つかってはいけない人に見つかった。


ラバンは冷や汗を流しながら屋根から屋根へと飛び回るが、逃げても無駄だろう。

もう彼女たちは、彼の領域に囚われているのだから。

一際大きく飛び跳ね、着地した屋根の上でラバンが固まった。

相方の様子に気付いたシャホルが肩から降りて前を向きラバンを止めた存在を確認する。


「ッッ!」


シャホルの喉が干上がった。体が硬直し目の前にいる存在に逆らう意思など微塵も浮かんでこない。

僅かに動く顔を動かしラバンに助けを求めたが、助けを求めようとしたラバンはもう涙を浮かべている。


深々とローブを身に纏って顔を完全に隠している大男が彼女たちの前に立っていた。

漆黒のローブには、彼女たちの知らない文字が刻まれており、折りたたんだアレの所為で背中が大きく膨らんでいる。

ヒクつく喉と口を無理矢理動かし、シャホルが声を出す。


「あ、兄者。ど、どーうしてここに?」


シャホルが兄者と呼んだそのローブ姿の大男は静かに命令する。


「時間だ。所定の位置に就け」


「た、確か、明日ーなのでは?」


予定より一日早い計画の進行にシャホルが慌てて聞き返すと。


「奴らの動きが早まった。我らも早めるとしよう。・・・どうした? 何を怯えるエールの姫たち」


「お、脅えてないよー。ね、ラバン?」


「おびえでないゾ。あにじゃ」


ラバンはもう泣いてしまって感情を隠し切れない。

怯える彼女たちにローブ姿の大男は静かに手を伸ばす。


「ッ!」


シャホルが思わず目を瞑り、身を縮こまらせてしまう。

隣からはラバンの嗚咽が聞こえてくる。

背中に彼の手が触れた。


「!? 兄者?」


やさしく、彼女たちを抱き寄せる。

その大きな胸元に二人の体はスッポリと収まってしまった。

少し戸惑っている二人に男は囁く。


「別に咎めはしない。二人は敵情視察を進んで行ってくれた。導師様にはそう報告しよう」


その一言に二人の顔がパーっと明るくなる。

ラバンが思わず抱き着いてしまうが、そんな彼女をやさしく撫でてやる。それを見たシャホルも男に甘えるように体を寄せる。

二人をあやしながら男は、顔を上げる。

そこには、新たに二人。


一人は神官服を着た赤い髪の少女。

もう一人は。


「ああ、向かうとしよう」


男の返事にもう一人がコクリと頷く。

ここに集うは、アーデリ王国の最高戦力。

もう一人も間もなく到着する。

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