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僕と姉の神話遭遇記  作者: 暁0101
第五章 四公国騎士団統一戦
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第百二十三話 無秩序の剣と剣

第一試合が終わりしばらくの休憩が入り、参加者や観客たちは思い思いに時間を潰している。

そんな中、闘技場の奥、ヒギエア公国騎士団代表のための部屋から怒号が聞こえた。


「なぜ、試合を放棄したのです。小生の納得のいく説明をして欲しいですな!」


ヒギエア公国騎士団代表で勝ち上がったのは二人だけ。それも団長たちではなく部下たちの方が残っている。

ガスパリス公爵にとってこの状況は完全に予想外であり、なにより信じられないのは騎士団長であるカクトゥスが試合を放棄したことである。

必ず勝てと命じたにもかかわらず自ら敗北を選択したことに温厚なガスパリスは怒りを覚えていた。


「お言葉ですがガスパリス様、装着型術導機メヒャーニク・ツァオバークンストを今失う訳には参りません。我らに訪れた好機を失っては意味が・・・」


「カクトゥス! お前がベスタに後れを取ったのが原因ではないか! ヒギエアの好機を潰すなど・・・、騎士団長の名が泣いておりますな!」


明らかにガスパリスは焦っている。

公爵家の中で勝ち上がれたのが半数なのはヒギエアだけだ。ケレスは3名、ベスタは全員が勝ち残っている。

完全に出遅れてしまったのだ。

感情が高ぶり荒々しい言葉がガスパリスから飛び出すが、怒ることに慣れていないのかくたびれたように椅子に座り込む。


「・・・ふぅ。アスト、ツィーレン。もう優勝しろとは言いません。できるだけ装着型術導機メヒャーニク・ツァオバークンストを披露して任務に戻るように」


「「ハッ」」


「カクトゥスとシュトゥンプフは装着型術導機メヒャーニク・ツァオバークンストの修復を」


もう騎士団統一戦は諦めた方がいいだろうと判断しガスパリスは次の準備に意識を向けていく。

王都に集まった四大公爵家の誰もが騎士団統一戦だけを目的に来たわけではない。

騎士団統一戦を目的に来たものなどいないだろう。

その裏側の目的で出遅れる訳にはいかないのだ。勝ち残ったアストとツィーレンには試合の継続を、カクトゥスたちには装備の修復を指示していく。


ガスパリスたちが準備を進めていると部屋に設置された術導機が起動し映像を映し出した。

羅列される参加者の名前。第二試合の開始だ。

一番手は、アスト・ゲレンルナ・アルムとベスタ公国のセト。


「時間ですな。頼みますよ」


「お任せをガスパリス様」


アストが敬礼をし部屋を後にする。部屋から動こうとしないガスパリスはもう試合を見るつもりはないようだ。

自分たちの主が試合に興味を持っていなくても騎士たちは役割を果たすためにリングに向かう。

それが騎士の務めだから。



----------



闘技場内に設置された食堂でセトたちが楽しそうに食事を取っていた。

壁や天井に魔晶石の特徴である白い筋が走り、淡く光った部分が文字のように浮かんでいるが、それ以外はいたって普通の食堂だ。

騎士団統一戦の参加者や観客も入れるようにデタラメに広いのを覗けば。


セトたちが嬉しそうにしているのは理由がある。

試合に勝てたことも嬉しいが、ライブラ王子の計らいでリーベたちが応援に来てくれたのだ。それがとても嬉しかった。

セトとアズラはリーベと姉弟揃って仲良くご飯を食べている。今、誰かにあそこの姉弟が試合に出ていると言っても信じてくれないかもしれない。

そう思うほど仲睦まじい姿を見せていた。


「こぉれぇ、おふしいよ」


「どれどれ・・・。うん! おいしい!」


料理をこれでもかと口に頬張ったリーベが本日のオススメをセトに渡し、セトはそれをヒョイと口に放り込む。

お兄ちゃんは妹からのオススメは全て平らげるのです。


「セト、次試合なんだからほどほどにね」


「大丈夫。まだまだ入るよ」


「満腹になったらダメなんだけど・・・」


アズラの話を聞いているのかいないのか。セトはパクパクと食べている。リーベも食べてくれるのが嬉しくて渡すのが止まらない。

そんなセトたちをライブラ王子とウィリアム公爵たちが、やれやれと見守っていた。

ライブラとベスタ家の者たちは一緒に食事を取りながらいろいろと小難し話をしている。

ちょっと離れた所にはルフタとエリウの姿も見えた。森羅とランツェは席を外しているようだ。


ライブラがベスタ家、つまりはウィリアムと食事をしているのは、彼がベスタ家を支持すると伝えたからだ。

この騎士団統一戦の裏で行われている派閥争いで王族の支持を貰えるのは大きな力になる。


「それにしても、我がベスタを支持してくださるのは光栄であります殿下。理由はあの者たちですかな?」


「ウィリアム卿にはお見通しですね。その通りです。私情ではあるけど、僕と兄上のために命を懸けてくれた。命令でも、忠誠でもなく。想いでその選択をしてくれたのが嬉しかった」


ライブラはセトたちへの気持ちを述べる。彼は王族だ。一般人を特別扱いできない立場。

それは感謝を伝えるのにも、威厳や派閥、その人自身への影響を考慮しなければいけない。


「アズラとセトには感謝しています」


でも、ライブラは感謝述べる。立場という前提を無視できるほどライブラは彼らに感謝している。


「ならば、ベスタ家としても彼らを支援いたしましょう。殿下が上を目指されるのなら二人の存在は必ず不可欠になるはず」


「それは、ウィリアム卿の、・・・勘、なのですか?」


ウィリアムの期待の根拠をライブラは聞いてみる。

四大公爵の一人である彼にそこまで言わせるのは何なのか。


「ええ、二人は必ずカラグヴァナの歴史を動かすと、わしの勘がそう告げているのです」


根拠はない。

ただそう感じるとウィリアムは答える。その答えにライブラはそれほどの大物になるのだろうかとセトたちを見てみる。


自分と同じ子供だ。

立場や持っている力は異なるが子供に見える。

きっと、ウィリアムは今ではなく将来、そう遠くない未来のことを話しているのだろう。


ライブラたちが話をしていると、食堂の中心にある大きな柱に術導機から映像が映し出された。

もうすぐ第二試合が始まる合図だ。しばらくすれば笛が鳴るだろう。


「父上、時間のようですの」


「そのようだ。タウラス王子主催のパーティーの件ですが話を通しておきましょう。ではライブラ王子殿下、わしらはこれで失礼する」


「助かります」


ライブラがウィリアムに頼んだこととは、カラグヴァナの上位権力者たちが集う騎士団統一戦優勝者を招いたパーティーへの参加だ。

ライブラはまだ王位継承権第30位であり参加資格を持っていない。そこで、ウィリアムの推薦を貰って参加をしようと考えていたのだ。

そして、それは成功する。


ウィリアムたちが観客席に向かった後、セトが立ち上がり試合が行われるリングへと向かう。

自然と皆がセトの周りに集まり勝利を願って鼓舞していく。


「セト、相手は第一試合よりも手強いのである。油断しないようにな」


「セトニャら絶対勝てる! あちしが保証するニャ」


「うん! ありがとう。勝ってくるよ」


みんなの応援を背にセトが第二試合へと向かっていった。

闘技場の中心、リングのある場所に走るセトへ向かってリーベが叫ぶ。


「セトー! がんばれー!」


笛の音が鳴る。

グッとガッツポーズを返したセトはそのままリングへと駆け上がって行く。

石のリングの上にはまだ対戦相手は来ていない。セトはゆっくりと目を閉じ深呼吸して気持ちを落ち着ける。

第一試合と同じだ。

同じ状態で試合に臨む。

気持ちが落ち着き、目を開けたら。


対戦相手であるヒギエアの騎士。

アスト・ゲレンルナ・アルムが正面に立っていた。


二本の剣を構えセトが戦闘態勢に入る。アストも応じるように剣を二本構えた。


(二刀流・・・。大丈夫だ。団体戦の時に見たじゃないか。相手の剣術は僕と異なるタイプだった。だから勝機がある!)


片手剣を体の中央付近に構え、ダガーを腰の辺り下ろす。中段と下段の構え。セトの基本スタイルだ。

アストも剣を交差させて自身の得意とする構えを取る。


甲高い笛の音が鳴った。


第二試合開始と同時に観客たちの声が膨れ上がる。

その声に合わせるようにセトが突っ込んだ。ただ突撃するだけでなく相手に狙いを絞らせない挙動を織り交ぜていく。

目で追っているはずなのに視界に収まらないその挙動。

だが、それを見てもアストは焦りも警戒もしない。ただ静かに剣を振るった。


ガキンッ! といきなり剣と剣がぶつかり合う。

セトが背後に回り込もうとした先に剣が刺し込まれ道を塞がれたのだ。いきなり現れた剣という名の壁に堪らずセトは剣で応戦する。

その対処を確認したアストは静かに呟く。


「実戦経験が乏しい・・・、評価を下げようか・・・」


「弱いと判断するのは早いと思うけど!」


ぶつかり合う剣を弾き飛ばし、体をアストの懐にねじ込ませる。

同じ二刀流だとしても、持つ剣の種類が違う。アストは普通の片手剣だが、セトは小回りの利くダガーだ。この密着状態で有利に戦える。


「そこッ!」


ピンポイントで腕の関節を狙う。しかし、セトが振りぬいた瞬間に真横から剣による突きが飛んで来た。

上半身のみでの剣の突き。完全に静止していたと思わせるほどの完璧な不意打ちが来る。

セトは咄嗟に身を真横に振り剣を回避するが、ダガーに直撃してしまう。

ダガーが手から吹き飛ばされリングを転がっていく。


「くっ」


二刀流が剣を片方でも失うことは戦力の半減を意味する。

セトはすぐにアストから離れダガーを拾うチャンスを窺った。ダガーを拾えなければ勝機はないからだ。

アストが交差していた剣を展開した。

左右に広げ、構えを大きく変えていく。

セトが思わず後ろに下がってしまった。聞かなくても分かる。あれは攻撃的な構えだ。


そして、すぐにアストは仕掛けた。まるで答え合わせでもするかのようにセトに二本の剣による連撃を叩き込んでいく。

まるで、踊っているかのような攻撃。

右足を主軸に体を回転させ、セトに張り付く様に円状に移動しながら斬撃が襲い掛かる。

セトは片手剣で応戦しながら後ろへと下がるが、逆にダガーから遠ざかっていく。


「くそ! 拾わせない気か!」


「当然・・・、お前は二つで十分か」


蛇のように纏わりつくアストの攻撃にセトは追い詰められていく。

いくら剣で弾こうがすぐに斬撃が叩き込まれるのだ。二刀流による間をあけない連続攻撃。

二本の剣で一人前になったのがここで裏目に出た。セトは剣一本では対処しきれない。剣を片方失うのは戦力の半減、それを身をもって味わってしまう。

だが、それが彼の敗北にはならない。

セトが片手剣を肩の上へ顔の隣へと上げる。上段に構えたのだ。

そして、アストの繰り出す攻撃を防ぐのではなく、その流れに乗るように彼の動きに合わせて斬撃を叩き込んだ。


「!? おもしろい・・・」


セトが円状に斬り掛かっていたアストの軌道に沿って動き出す。攻撃される中心軸から外側へとその身を投げ出した。

円状に規則正しく回っていた攻撃が、セトの反撃で歪に不規則に崩れていく。

それは、もう次の手を予測できない剣術の絡み合った斬撃の顎だ。


ダガーを失ったため、一手足りないセトの体に無数の斬り傷が付け足されるが、セトはそれを無視して食らいついていく。


「ぐぅッ! ウォォォッ!!」


目の前を覆いつくすように迫る斬撃に一本の剣で挑み続ける。

どれだけ、傷が増えようとセトは反撃をやめない。

その特攻にも似た行動にアストは違和感を感じた。


(なぜ反撃する・・・? ダメージを無視するメリットはなんだ・・・?)


無秩序に動き回る戦いの所為でもう自分の進んだ道筋が見えなくなっている。

これだけ、動き回る意味はなんだ?

違和感が疑問に変わった瞬間、リングの中央が見えた。

自分たちが戦っていた最初の位置。あそこでアストは敵の武器を叩き落とし・・・。


「ない!?」


「シッ!」


ギンッ!

二対一だった剣の戦いにもう一本が現れる。セトの左手に握られたダガーがアストの兜を斬り裂いた。

セトの完璧な不意打ちをアストは剣をねじ込んでギリギリ防ぐが、それは剣の戦いから戦力を削ぐ行為だ。

連撃が止まったアストにセトの片手剣が叩き込まれた。


「ッ!!?」


二本の剣を両方とも防御に回しセトの攻撃を防ぎ切る。

剣の威力に押されたアストが後ろへと押しのけられ、大きな斬撃の跡がついた兜を被ったままセトを睨む。


「油断した・・・。そうだな。お前は器用さが武器だったか・・・」


あの無秩序な軌道だと思われた戦いはセトが仕掛けたダガーを拾うまでの囮。

不利と分かっていてそれを実行したのだ。そのことにアストは警戒感を露わにする。

もう、セトを弱い存在とは見做さない。


「来い・・・。近衛騎士の実力を見せてやる・・・」


アストは静かに告げる。

誰にも悟られないように、魔力を高めながら装着型術導機メヒャーニク・ツァオバークンストを起動させた。

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